(承前)
原稿との引き合わせ校正が終わり、原稿を忠実に再現した(はずの)初校ゲラは編集委員の先生方にまわされる。
それまでカード単位で見ていたものが、アルファベット順に並べられると、当然その見え方も変わってくる。記述の訂正・修正の赤字だけでなく調整の赤字も入ることになり、ゲラはどんどん赤く青く、カラフルな彩りに染まっていく。また、執筆要項や組版要項も必要に応じて変更が加えられ、それに応じた赤字も入っていく。
そんなふうにして、編集委員の方々の赤字が出そろったところで、ゲラは印刷所に戻され、活字がまた一本一本拾われては差し替えられていく。
そして再校ゲラの出校となる。
再校の校正
今のようなコンピュータ組み版の場合は、原則として修正の赤字の箇所だけを引き合わせていけばよいが、活版組みの場合は、そう単純ではない。
赤字部分を原稿引き合わせのときと同じように一字一句見くらべていくのはもちろんだが、活版の場合は、活字の差し替えによって赤字のない部分でも移動が生じれば、それによる誤植が生まれる可能性があるのだ。この場合の誤植とは誤字ではなく、文字通り植字の誤り、つまり、文字が横を向いたりひっくり返ったり、隣の文字と入れ替わったり抜け落ちたりと、さまざまなことが起こりうるのである。
したがって校正者は、赤字のみならず、赤字のないところもすべての文字を眼で追っていくことになる。要は、これもまた初校のゲラに記されている情報が再校ゲラに忠実に再現されているかを確かめていくということである。
さて、そうした赤字の引き合わせ校正が終わったところで、再校時にはもう一つの作業がある。素読み校正である。
この素読み校正の基本は、引き合わせ校正で見落としたところがないかどうかを、文意を取りながら点検することである。それまで、一枚一枚の葉っぱしか見ていなかったものを、枝にまで視野を広げて見ようというわけだ。(樹木および森の全体像は編集委員の方々がご覧になっている)
しかし、「文意を取りながら」とは書いたものの、相手は辞書である。通常の書籍のような流れのある文章ではなく、まず見出し語があって、発音記号が来て、品詞や変化形の表示があって、以下に語義・語釈が並び、ドイツ語の例文が続きその訳例が添えられ、末尾に語源が控えている。これをすべて理解しながら読み進めるのは口で言うほど簡単ではない。また、辞書としての体裁を整えるための「組版要項」なるものもきっちりと頭にたたき込み、「組版要項」違反がないかどうかにも目を光らせなくてはならない。ただ漠然と「読みました、なんとなくわかりました」では済ませられないのである。
(以下、不定期に、つづく)