(op.20250227 / Studio31, TOKYO)
古い話だ。
その五つか六つ年上の女の人の愛車は、葉山に住む彼女の叔父さんからのお下がりという古いアルファ・ロメオのジュリエット・スパイダー —— どこか昔の日野コンテッサに似ている。
車が車だけにメンテナンスに費用がかさむらしく、普段の彼女からは、結構な節約のオーラが出ていた。最早、日本では手に入らない部品は、知り合いの鋳物工場に頼んで一点ものとして作ってもらっているらしい —— 小さな部品でもひとつ十万円は下らないと噂で聞いた。
ところが、お金がないという割りには、車のダッシュボードにコクトーの『ポトマック』の原書なんかが雑に放り出してあったりするから、ぼくらとはお金の使い道が違うのは明らかだった。
あの頃、週末に森戸のドライブインシアターへ行けば、彼女の車は必ず見つけられたし、そのあと、ユージさんのアフタービーチクラブでハーヴェイ・ウォールバンガーなどを飲むときは、車は駐車場に置いたままで、帰りは、電話で呼んだ知り合いのボーイフレンドの車で家まで送ってもらっていたようだった —— アルファ・ロメオは、翌日の昼過ぎまでそのままで...。
さて、その夜の映画は、配給会社の上映期限が切れるというゴダールの『軽蔑』。ぼくは、彼女の車の後ろに、家から持ち出した父親のクラウン・2ドア・ハードトップを駐めていた。
オープンリールテープのモノラル音源のような、単調な音がチープなスピーカーから聞こえていたっけ。
【"Le Mépris(1963)" de Jean - Luc Godard】