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きみの靴の中の砂

蕎麦粉のガレットとモーゼルワイン





 安曇野産の新蕎麦粉が手に入ったから一緒に食べないかと教授から誘いの電話あった。ガレットを焼くと言う。新蕎麦を蕎麦切りや蕎麦がきじゃなく、ガレットにしようというのに意表をつかれた。
 今は退官したが、教授は公立の大学でフランス文学を教えていたから、その因縁でガレットなのだとすぐに納得できた。

 そう言えば、蕎麦粉のガレットって昔読んだヘミングウェイの『海流の中の島々』に出てきたのを覚えているけど、あの頃は見たことも食べたこともなく頭に実態の描けない食べ物だった。

 水に溶いた蕎麦粉をフライパンで薄焼きにして、チーズと生ハムをトッピングして卵の黄身を落とし、半熟にしてある。付け合わせに夏野菜のラタトゥユとマッシュポテトが添えてあった。

「ウイークデイですが、二人ともこの時間にここにいるということは、急ぎの仕事日もないようなので、ひとつ白ワインでも飲みますか」と教授。

                    

 辛口の美味しいワイン ------ カラフェに移してあってエチケットはない。
 銘柄を尋ねても「どこにでもある安ワインですよ」と笑うだけで答えない。ぼくと教授では安ワインの定義が異なるのだろう。
「モーゼル川の中流辺り、フランスとの国境近くの畑でしょうか...」とぼくは独り言のように言った。

                    

「ところで先生、今、なにを読んでるんですか」とぼく。
「若いとき以来だけど、ラブレーの最初の方のやつを暇をみて少しずつ...。きみはなにか書いてるの?」
「今は『マイナス4℃の恋』という、自分でも先がよく見えてないんですが、タイミングとエクリチュールについてのコントのようなものを書いています」
「いずれネットで読めるのかな?」
「ええ、書き上がればいつものようにアップしておきます」
「次に会うときの話題にできそうだね」と教授は言うと、輪切りのズッキーニを注意深くフォークで刺して口に運んだ。




【Los Escarabajos - This Boy】

 

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