世界の記述

いつか届くことはわかっているけれど、いつ届くかは知れない言葉たち

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2006-03-05 | 世界の記述
(リアルタイム)

タッチタイピングを覚えてやっと言葉が逃げてくスピードに追いつけたと思ったのに、気がつけばいつも連れ歩いてるのは結局ケータイ。親指の速さじゃ全然太刀打ちできないから、空に少しでも隙があるとすかさず歌をうたう。手元には残らないけど、言葉が成仏したのがわかる。そして空からは返歌。体が1グラム軽くなる。魂の重さだという人もあるけどそれは嘘だ。

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2006-03-05 | 世界の記述
からっ風の季節が終わり、湿度と気温が上がってくると、東京にも天使が降りてくる季節がやってくる。
降りそうで降らない灰色の雲が、4階の少し上の高さまで迫っているように見えるなら、それはその高さまで天使が舞い降りてきている証拠だ。
天使は数多くいる。姿は見せない。ただ、皆で空の天井を押し下げて、神の領域に人間が手を伸ばさないようにしているのが、雲の重さでわかる。

その日ぼくは外の廊下で洗濯機を回しながら、天使が押し下げている薄灰色の天幕をぼんやり眺めていた。低い街並の向うに高圧鉄塔が並んでいる。あ、そうか。時々バチッと音を立てるのは、誰かがうっかり線に触れて飛ぶからなんだ。