世界の記述

いつか届くことはわかっているけれど、いつ届くかは知れない言葉たち

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2008-05-06 | 世界の記述
新しい歌は必ず失敗する。誰にも理解されず、歌い手の人生と同じ年月を生き長らえた末に朽ち果てる。失敗し朽ち果てた歌が何十世代か積み重ねられた末に、はじめてそれは歌になる。すでにその歌を新しく始めたのが誰かはわからなくなっているので、それは誰の歌でもないし、新しい歌でもない。しかしそれは確かに歌なので歌われる。
だから間違っても、誰の歌でもないその歌に対して領有を宣言してはならない。どころか、その前にすでに歌によって領有されていることに気づかねばならない。気づかないうちにその生は、たんに歌を載せて運ぶ函になっている。もっとも、ただ歌を運ぶ函である生もそんなに悪くはない。それに、函はよく鳴るのだ。