毎朝、米ん家に寄って2人で学校に行く。メインストリートを通ってバス停まで、特別何もない通りだけど、駅前の商店街、この町のメインストリートには違いない。思案顔の米が🤔口を開いた。
「学校行ったら女子のブレザー派の動向探ってみるよ。今回の選挙、ここが一番の焦点になりそうだから。」米は女の子といつも普通に喋ってる。女の子の輪に自然に入れるって感じ、妹がいるからだろうか?俺の場合は兄貴がいるだけ、女の子の輪には入れない。女の子も滅多なことでは話しかけて来ない。
「おう頼むよ。それで俺は何をすればいいの?」
「今度校内放送で、立候補者はマニフェスト発表しないといけないから、原稿考えといて。」
「原稿なんていらないよ。しゃべりで誰にも負ける気しない。原稿読んでちゃウケないって。」
「一応書いといて。デメギョの話は面白いけど穴だらけ、林田陣営から揚げ足取られちゃうよ。最終チェックするから。それに今回の校内放送はウケなくていいから。その次の、体育館の全校生徒に演説する時にうけまくっていいから。」
「ガハハ🤣演説ではウケまくって良いの?楽しみだなぁ。燃えてきたぜ。」
米は思案顔に戻り、何やら考えてる模様。細かい事は米に任せて、赤い糸で結ばれているであろうまだ見ぬ新入生の女の子に想いを馳せた。
午前中の授業を終え、デッカいドクターバックから弁当を出す。他に何も入ってない。教科書は置きっ放しだ。ちなみに学生カバンじゃなくお医者さんの往診用カバン。サッカー部の太郎から貰った物で、粗大ゴミ置き場に置いてあったらしい。
米が弁当持ってやって来た。
「ブレザー派調べてみたけどなかなか手強そう。嵯峨野舞子の親父はPTA会長で、コンフォートって衣料品店もやってるんだ。新制服のブレザーを一手に引き受けて、一儲け企んでるらしい。噂だけど一部の先生も仲間らしいんだ。」
「あちゃー。黒いなぁ〜。しかし凄いな米の調査力。」
「いや俺の力じゃ無いよ。女子のうわさ話の凄さ、多分事実だと思うよ。」
「でも、嵯峨野舞子って人気あるの、票集められんの?」
「そこ!そこなんだ。本人は特に動いてるわけでは無いんだけど、取り巻きのやつらが精力的に動いてる。」
「女子の一部だけだろ。」
「ところがそうじゃないんだ。嵯峨野舞子は、見た目美人だしスタイルも抜群だろ。しかも不思議なオーラがあってカリスマ性があるんだ。だから、男子にもファンがいて、林田なんかも入れ上げてるらしい。」
「林田と嵯峨野舞子が組んでるとしたらすんごい強敵やん。」
「うん。思ったより強敵ということが判明した。立候補やめとく?」
「バカ。強敵と戦って勝つことが面白いんじゃないの。それに無理なことを実現させるのが選挙参謀の腕の見せ所じゃないの?」
「聞いてみただけだよ。いろいろ考えてみるよ。」
弁当に集中する事にした。
弁当食い終わってハルんとこ行くと、Owensのバントメンバーが集まっていた。
「おっ!デメギョ生徒会長に立候補するんだって?」ハルは3年生の団長に代わって新応援部の団長。Owensのベーシストだ。
「張本先生からの要請だよ。面白いんじゃないかと思ってね。」
「うん。良いんじゃない。なんかあれば協力するよ。あっ、今度のコンサートのセットリスト決めてんだけど、デメギョは新しい曲の中で何がいい?」
「米は川崎ナオンブルース練習してたけど、それでいいんじゃない。」ハルはイマイチ乗らない顔で「そうかぁ〜。あの曲暗いんだよね。みんなに伝わるかなあ〜。」
「何曲か練習してみてからでいいんじゃないの決めるのは。そう言えば須藤ちゃん、嵯峨野舞子って彼氏いるの?」うちのボーカルで応援団副団長の須藤ちゃんは、市内でも指折りのワルで、その道の情報通。
「🤔よう分からんけど、売りやってんじゃないの。大人の男と歩いてるの見たことあるし、夜、遊び歩いてるらしいぜ。関わらない方がいいと思うけど。」サイドギターの大吉が割って入ってきた。「うちの母ちゃんのスナックにも来たらしいよ、大人の男と嵯峨野舞子。俺と同級生って知ってたけど、けっこう金使って行ったんで黙って飲ませたらしい。」いつも昼間に大吉の母ちゃんの店に行って、カラオケ無料でバンバン歌ってるけど文句言われた事は無い。太っ腹の母ちゃん。今度タダで飲ませてもらおうっと。
「今日学校終わったら練習するから、必ず来いよデメギョ。」ハルはどっちとも言わないんで「応援部の練習かバンドかどっち?」と聞くと👂
「バンドに決まってるだろ。」😤真顔で返して来た。新応援部になって一度も練習して無いけど大丈夫だろうか?😨
その場を離れ、廊下に出ようとするところに対抗馬の林田がぶつかって来た。
「ちょうど良かった。嵯峨野舞子さんが君に会いたいんだって。今からいいかい美術室?」ぶつかって来といて俺は良く無いわ。嵯峨野とも会いたく無いわい。でも会っておくか。
「おう。ションベンしてから行くからちょっと待っとけって言っとけ。」林田はパシリか?いそいそと戻って行った。
美術室に行く途中に音楽室に寄ってみると案の定、米がいた。
「今度はサックスの練習かよ。好きだなぁ〜。」サックスを🎷置くと、ツバをかける勢いで吠えた。
「こないだの夏祭り。一週間前になって、突然Owensでチェッカーズやるからサックス吹けよって言ったのは誰だよ。」
「熱心で凄いなあって思ったから言ったまでのことだよ。ごめんごめん。ところで今から嵯峨野舞子と会うんだけどなんか情報ある?」
「夜、遊び歩いて、悪い奴らとの付き合いもあるらしいよ。細かい情報は協力者からの連絡待ち。まっ、気楽な気持ちでご挨拶してくれば。」
「はーい。」と言ったものの、苦手なんだよな嵯峨野みたいなタイプ、縦横無尽の俺のトークを持ってしても、クスリとも笑わないだろうな。どこにあるんだろうあいつの笑いのツボ。気が重いなぁ〜。
「はーい、いらっしゃいました。デメギョでーす。」絵の具の匂いと、笑いを求めていない空気が流れてた。奥に嵯峨野舞子1人。座って花瓶の花を描いてたようだが、筆を置きこっちを見た。俺は少し距離をとって空いてる椅子に座る。
「林田はどうした。」
「居ないわ。あなたとは2人で話したかったの。」俺は居てくれた方が良かったのになぁ〜。空気重いわー。
「まだ話したことも無かったわね。私は嵯峨野舞子。よろしくデメギョさん。」
「ああ。うわさは聞いてるよ。」
「そう、もうすでに私のこと調べ上げてるみたいね。でもうわさは噂よ。今日は本当の私をわかってもらいたくて来ていただいたの。」
「長くなるようだったら、眠たくならない程度に面白い話も入れつつ頼むよ。」
「フフッ。自信ないから短めに話すね。私は美しくなりたいの、美しく生きたいの。あなたはどう、デメギョさん。」
「うーん。美しいってどう言うこと?嵯峨野が思う美しいって具体的に説明してもらおうか。」
「そうね。グラビアに出てる女の子なんか美しいと思わない?写真雑誌とか見るでしょう。」
「デラべっぴんとかよく見てる。いいね。美しい。」
「傷ひとつないスベスベの肌、均整のとれたプロポーション、整った顔。流行りのヘアーに流行りの服。」嵯峨野は勝ち誇ったように立ち上がると、「私はどう、美しくない?。」
「美しい‼️合格💮じゃあ美しく生きるってどう言うこと?」
「貧乏は嫌なの。面倒とか、苦労とか、不潔とか。何事もスマートに生活したいの。」
「おっしゃる通り。みんなそう思ってるんじゃないの。でも俺は出来ない、学ラン、帽子、ボンタン、ドクターバック全てダメージ有りのビンテージ。顔だって目がデカくてあだ名はデメギョ。」
「制服なんていいの買えば良いじゃない。私だって美しさを手に入れるために努力してるし、お金も💴使ってるわ。だから貧乏は嫌なの。お金があれば美しく生きれるわ。」
「そうだろうな、間違ってないよ正しい。俺は楽しく生きたい。笑顔が好きだから何とかして笑わせたい。笑ってくれると嬉しいし、楽しいんだ。笑顔も金で買えるかも知れないけど、そんなの要らない。俺独自のやり方で笑わせたい。だから笑顔が一番美しいと思ってる。」
「私も笑顔は美しいと思ってるわ、グラビアアイドルだって笑ってるわ、お金のために笑ってるの。」俺は立ち上がり背中を向けた。
「嵯峨野に笑顔があれば本物なんだけどな。」
「私の笑顔にはお金が要るわ。」俺は美術室の戸を開け、振り返り。
「今度デラべっぴんのグラビアに、嵯峨野が出たら10冊ぐらい買うよ。」
「ありがとう。」嵯峨野の顔に笑顔が浮かんだ様な気がした。
「デラべっぴんはエロ本だけどな。」ピシャリと戸を閉めた。