お椅子さま

余りに嬉しくってサンバを踊り出しそうなくらい、
パソコンに座ってる今、アタシは超ハッピーな気分なのだ。
なぜって、念願のお椅子さまが到着したから。
ただの椅子に”様”がつくくらい、感激中だ。

コトの起こりは先々週末。
「秋葉原に行かない？いい加減に椅子を買おうよ」
こんなせぷパパの申し出から始まった。
実はもう何年も前から、せぷパパから同じことを
言われているんだけど良い椅子を求めれば当然、
お値段も土下座してまで値引きしてくらいたいホドで
毎度のこと聞かないフリをしていたのだ。
使っていた椅子も実は普通のデスクチェアレベルでは
けっこう良い椅子だったから良いじゃん。
って言い訳しながら。

前任者（もはやこの扱いに・笑）の椅子を
買ったのは10年ほど前になる。
買いに行こうと決意したのは最初に入った会社が
３か月で潰れて、ナンモナイ新社会人だったアタシは
途方に暮れたんだけどアリガタイことに
ほんの僅かな期間、上司だった人たちが
フリーとしての仕事を（経験値ゼロだってのに）
紹介してくれたから家で仕事をすることになったから。
当時の我が家、１人暮らし直後で机らしきモノは
実はちゃぶ台すらなかったのだ(苦笑)。
あったのはキッチン用の背が高くててっぺんの台の下は
全部収納（開閉式扉もついています）なヤツで
長いのはいいけど幅が20cmくらいの
テーブル？みたいな代物のみ。
その椅子は座る部分が小さな丸で
足が長い異様に座りにくい、イマドキなら雑貨屋で
１脚1000円くらいでカラフルに揃うパイプ椅子。

ナニゴトも形から入るダメ人間のアタシとしては、
この状態で何か書くなんてコトは出来なくて
明日のゴハンは高円寺純情商店街で一番安い
ブタコマ100ｇと、っていうか、それは３食の
オカズになるから４個100円のタマネギで
カサを増やして。なんて前に食べなきゃいいのか！
そんな新発見も青春の証かもしれないけど
とにかく、金がなかったクセに机と椅子を買いに行った。
向かった新宿でアタシは学生時代に文章関係の
オベンキョーさせてもらった師匠的な存在の
Ｓ氏と偶然に再会した。
今や二大文学賞のＮの方を受賞して
超人気っていうかハイペースで新刊を刊行中で
いつ寝てるんだよ……てのもあるけど
当時も激務ライターで寝てる時間が不明だったＳ氏は
椅子を買うと言ったアタシにアドバイスをくれた。
「椅子だけは良いものを買え」
体重がヘビーで運動不足が主原因だろうけど
座りっぱなしになりがちな仕事を続けた上、
ヘルニアになったＳ氏の経験からの言葉は大変、重い。
だから、学習机付属レベルとはいえ
当時のアタシにしちゃ本気の出血大サービスで
２万円ちょい欠けの椅子を買ったのだ。

それもあって、けっこう前任の椅子にはご満悦していた。
なんと言っても、この椅子には汗と涙の結晶がギッシリだし。
買い替え？ノンノン。まだまだ!!
そんな思い出もあったから買い替えを拒否してたんだけど
この、お椅子さまに座って今、思うのは
『もっと早く買い換えておけば良かったー』だ。

それでもアタシは実際にお椅子さまに出会うまで
「えー。壊れてないし、古い方を置く場所ないし」
「お願いだから椅子、買おうよ。大事だよ？腰に悪いよ」
と、せぷパパに懇願されながらも
椅子を買い換えるなんて微塵も思っていなかったのだ。
だから、行ってみればアキハバラへ行こうという
せぷパパのお誘いに頷いたことが不思議。
いや、その前にせぷパパが明確にブランド名を指摘したことも不思議だ。

「秋葉原行かない？　ヤマギワでいい椅子が売ってるんだよ。
アーロンチェア。リリー・フランキーが使ってるんだけど、すごく良いみたいだよ」
リリー？　イキナリ、何を言い始めたのだろう……あ？
「ｍｎｓのトップページ見た？」
「え、何で分かるの!?」
それはアタシもｍｎｓトップページに載ってたリリー氏の
仕事部屋訪問記事のコンテンツをクリックしていたからだ。
で、アタシはブランドは分からないけど
リリー氏がアタッシュケース、それも中身な妙にスッキリした
カバンを彼が持ち歩いていることにビックリしただけで
（確か『まむしのａｎａｎ』でカバンを持ち歩かないと書いていたから）
ぜーんぜん、椅子がナニなんて読まず仕事部屋、机の上は
お、ゴチャってしてるケド、オシャレっぽい。
そのくらいの印象しかなかったんだけど
なんでそんなに椅子の印象が残ってたんだろう？
でも、なんか具体的に椅子の名前が
挙がってることだから「いいよ」ってエラそうに返事を返した。

「ヤマギワってあっちじゃなかったけ？」
「あっちは本店とソフト館。椅子売ってるのって家具のトコでしょ」
「そう、前にデスクライト(バイオライト。良い)を買ったところ」
オンナは地図を読めないというけれど、多分、ウチの場合は
少なくともアタシの方がせぷパパより50倍くらいは
地図も見れるし勘で進めば合ってるし、行ったことある場所は
覚えている。車の場合、ナビが出来ないの車を運転しないから
規則を知らないだけで……そういえばせぷパパは
車にナビがついてても間違える。なぜ？
ま、道はアタシの任せろってコトになっているから
アタシは自信満々でヤマギワの家具の店までずんずん進んだ。
しかし、ここで問題があった。

前回は店→駅へ向かったけど、今回は駅→店だ。
逆の道順はアタシの脳ミソに残っていない。
顔は自信満々なんだけど脇にはイヤ～な汗をかいている。
せぷパパは道に迷うと、不機嫌になるからだ。
さらに、ここは地図があっても住所が分かってても
一度迷うと目的地に辿り着けない人外魔境……秋葉原。
「次を左だよ」って言った後に店があったから心底ホッとした。

しかし、秋葉原の魔境はヤマギワ店内でも巣くっていた。
『どのフロアで売ってんだよ……？』。
正解の最上階で、でも一番奥にあった椅子売り場へ
辿り着く直前だったけれど
「店員に聞こうよ」
のＳＯＳの呪文を唱えた。
あと10ｍで到着だったのに、これは負けた気がして悔しい(笑)。

そして、その椅子売り場に鎮座されておられた、お椅子さま群。
すごい。みんなフツーに10万円超えだ。
椅子のセレブ・パーティー。
アタシ、このお椅子さまに座って何回原稿を書けばペイできるのかしら？
Ｓ社だったら2.5回もしくは１回かもしれないけど、
Ｏ社だったら12回は必要？Ｍ社だったら15回以上じゃないの……??
あ、この間のＫ社の単行本ギャラならお釣りが１万円でるかも。
何かお高いモノを買う直前、必ず脳内で弾かれる計算。
このおかげでアタシはいつもムダに買物をしなくて済むんだけど
この計算機の難点は”心労”も加算してくれること。
10万円を得るための心労を考えたら、アタシは即座に回れ右をしたくなった。
が、そこに勇気の呪文が唱えられた！

「俺がお金出すよ。買ってあげる」
わ～い、大好きだ！
「稼いだお金はね、全部さるの為に使うの」
……は？
「だからね、稼いだお金は全部、さるの為に使うの」
じゃあ、今度、実印と通帳プレゼントちょーだいね。
って、そうだったっけ!?
知らない人が聞いたら誤解するよーなコトを
サラリと言うのは本当、ヤメてもらい。

ということで本題の【アーロンチェア】。
①アームパットは左右・上下作動するから腕が疲れにくい。
②座面が前傾するから集中作業しやすい。
③背もたれがリクライニングする。
④ボスチャーフィット調節機能（骨盤をサポートできる）。
ココらへんの機能が。そして、現在は初号機、
継続機と２パターンある。２つはそう大差ないのと
（継続機は布張り部分の素材が違うのと色を選べる）
アタシには初号機の方が座り心地は良かったから購入は初号機。
足をアルミにしたり装備アップすることもできるけど、
もちろん、お値段アップ。しかも、アメリカから取り寄せやら
何やらでちょっとお時間もかかるらしい。
「コッチ(初号機)のスタンダードで」
誰かに見せるもんでもなし、こーゆー実務用品はスタンダードが一番。
だいたい、足をアルミにすると曇る。
あと、継続機は座り心地がアタシには微妙だったというのもある。
何でもスタンダードが一番良いのだな～と閉店しちゃったヤマギワで
13万8600円、お買い上げ（せぷパパが）。

そして届いた、お椅子さま。
赤い絨毯でも敷いてお出迎えすべきだったかしら？
なんてバカなこと考えながら玄関を開けたアタシは
未知との遭遇で呆然としてしまった。
「は……入らないと思います。この大きさは」
１Ｆのオートロック開錠してから部屋に来るまで
妙に時間がかかると思ったら。
これまで見たことないサイズのダンボールがやって来た。
70㌢×74㌢の立方体、高さは97㌢。
高さはとにかく、その幅は一体何なんだ!?
こんなダンボールがスムースに入る
玄関がある豪邸に住んでみたいものだ。
「ですよ……ね」
店員、途方に暮れる。アタシ以上に途方に暮れていたから
（他の人の場合はどうしているのだろう？それとも、この
大きさもスムースに入る豪邸の人しか買わないのだろうか…）
部屋からハサミを持ち出して廊下で梱包を解いたら
幸いにもダンボールはスポッと上に抜けた。
当たり前だけれど、お出まししたお椅子さまは
ラクちんに玄関を通れる大きさ。
コロコロコローと軽やかに背もたれを押して
部屋へ入られたお椅子さまは今、
アタシのお尻の下で頑張っている。

ちなみに届いた週末、『情熱大陸』を見ていたら
リリー・フランキー氏が登場していて
仕事場に入ったカメラが同じお椅子さまを映していた。
同じ椅子に座っているからと言って
『東京タワー』みたいな泣き小説が書けるワケでも
『女子の生きざま』みたいに笑える一文を入れられるワケでも
だから名文なんて書けないアタシは
ただただ座り心地の良さにニンマリしながら
「リクライニングー」
ってニンマリつぶやきながら、体重をかけると
倒れる背もたれの動きで遊んでいるだけの、この頃なのだ。
仕事しろって、アタシ。

【つぶやく】千葉７区補選当選の人は、もうずっと昔からオカンキャラなんだろうな……。人気blogランキングへ