高知・コスタリカ友好交流を創って行く会

この会の趣旨目的は、平和学の調査研究。特に、国連平和大学のカリキュラム「ジェンダー&ピースビルディング」です

アメリカ社会の足跡と動向

2009年10月06日 18時45分15秒 | 胎児の公民権運動

徒然憲法草子 ~生かす法の精神~
~まだ産まれていない子供達のための普遍立法の構築を目指して~

Ⅰ アメリカ社会の足跡と動向
 アメリカ社会の中絶に関する法体系は、胎児が子宮から頭ひとつ出るまでいつでも中絶が許されるという信じられない状態だった。日本では、早くから子宮外での自己呼吸ができる生存可能な時期以降の中絶は、法律で全面的に禁じるという考えが支配的だった。日本には、数え年の考えが古くからあり、母親の胎内にいる間を一歳とカウントする思想を持っていたからだろう。

米社会は、この遅れた法体系の改革に取り組み始めた。クリントン大統領当時、6ヶ月以降の中絶を全面的に禁止する後期中絶規制法案が議会を通った。ところが、プロチョイス派* のクリントン氏は大統領の拒否権を発動し、その法案を2度も破棄したのである。その結果失われた命がどれだけいるのか、想像力を働かせていただきたい。危機感を抱いたプロライフ派* は、組織的に大統領を交代させる動きを起こした。その結果、誕生したのがブッシュ大統領だった。現在アメリカでは「胎児の公民権運動」が活発に展開している。まだ産まれていない子ども達にも、すでに出生した子ども達同様の人間としての権利があるとの考えが拡がり、ブッシュ前大統領は、「妊婦さんへの殺害行為は、母親と胎児二人分の殺人に相当する」との内容に刑法を改正した。そして、現在、37州で妊娠後期の中絶規制法が導入されている。ブッシュ大統領が就任して最初にしたことは、女性の中絶権の政策実現を目指す国際的な組織、国際家族計画連盟(IPPF)などへの公費支出を全面的に廃止することだった。これを、グローバル・ギャグ・ルールという。グローバル・ギャグ・ルールとは、米政府がIPPFなど人工中絶を支援していると見なすNGOへの資金援助を停止する政策のこと。保守派の強い要請で85年以降、共和党政権が採用。ブッシュ前政権もこれを踏襲し、さらに徹底した。公的資金から中絶の費用を支出することの是非は、以前から議論があり、メディケイド(低所得者医療保険制度)から緊急性のない中絶の費用を出すことを禁じたハイド修正条項が76年に成立した。そして、「アブスティネンス・プロブレム」の導入。性倫理、人格教育に取り組み始めた。時間はかかっても人間関係に責任のとれる人格を養うことが、長期的に中絶防止につながるとの考えで地道な政策構築をしていった。このように、米社会は世界の中絶問題の解決のためのイニシアティブをとろうとしていた。

 ところがAP通信が報じる米社会の動向によると、オバマ米大統領は、2009年1月、人工妊娠中絶の権利を初めて認めた1973年の連邦最高裁判決から36年を迎えたのを機に「私は女性の選択の権利を引き続き守る」との声明を発表した。政府は最も私的な家族の問題に立ち入るべきではないと述べ、政府が中絶反対を唱えることに反対の立場を打ち出した。「変革」を掲げ、人工妊娠中絶を基本的に容認するオバマ政権が誕生し、グローバル・ギャク・ルールを廃止したことで保守的な反対派は過敏に反応。今年5月末、米国の中西部カンザス州ウィチタで妊娠後期の中絶手術を行っていたジョージ・ティラー医師が射殺された事件が、米社会に波紋を残している。スコット・ローダー容疑者はティラー医師が後期中絶で州の規制違反に問われた裁判の傍聴もしていたようだ。訴追されたローダー容疑者は、毎日新聞のインタビューに「医師こそ殺人者だ」と糾弾した。そして「何者かが教室で子ども達を射殺すれば、警備員は力ずくでそいつを止めるだろう」と語った。事件発生から数時間後、オバマ大統領は「いかに意見の相違が深くとも凶悪な暴力行為では解決できない」と怒りを込めた声明を発表した。オバマ大統領は、その政治判断によって、同じ暴力行為を「胎児」に向けていることには気づいてはいないようだ。「殺してはならない」との憲法の要請を実現する政治的責任と、この問題の本質的解決のためには、後期中絶規制違反に問われた裁判で正義が守られていたかどうかの検証が必要ではないだろうか。また、スコット・ローダー容疑者は、考えのない軽はずみな歪んだ正義感で、自身が愛する多くの胎児の命を危機に晒した。現在アメリカ全土の37州がプロライフの立場を取り、数州だけがプロチョイスの立場にある。ところが、1973年、連邦最高裁判決が妊娠中絶の権利を初めて認めてから36年間連邦全土の判例規範は、プロチョイスの立場を取っている。これを改革できるのは、ジョージ・ティラー医師が後期中絶手術で州の規制違反に問われた裁判であった可能性があるのだ。連邦最高裁判所まで争い、36年間の暗闇に終止符を打つべきこの裁判の行方を、医師である被告を殺害することによって断ち切ってしまった。ローダー容疑者は悪魔の唆しに墜ちたのである。

 米ミシガン州の高校前で9月11日朝、妊娠中絶に反対する活動をしていたジェームズ・プイヨンさんが走行中の車から撃たれ死亡した。警察は、背景に中絶問題がある可能性もあるとみて、動機を調べている。オバマ大統領は13日「政治的意見が何であろうとも、暴力は正しい解決策ではない」と遺憾の意を表明。オバマ政権の「殺してもかまわない」との社会的メッセージは暴力の連鎖を生み出している。これらの事件から学ぶべきことは、法と政治の不作為こそ、問題とするべき課題であると受け止め、胎児の生存権を政府が保護していく積極的救済措置を展開することではないか。この構造的暴力の連鎖を平和の構築関係へと転換するためには、胎児の人権を無効としている憲法違反の状況を修復する正義が不可欠だと思う。筆者は、胎児の公民権については、人間の安全保障のテーマとして国際社会全体で考えていくべき課題なのだと訴えたい。これらの問題意識は、国連平和大学では「ジェンダー&ピースビルディング」の名目で、カリキュラム化されている。

高知・コスタリカ友好交流を創って行く会

mail:costarica0012@mail.goo.ne.jp、costarica0012@softbank.ne.jp

★平和はあるものではなく創って行くもの、また生きるもの


最新の画像もっと見る