ヨーロッパの憂愁庭園★華麗なる美とロマン

魅せられし19世紀末の美や浪漫。文学・絵画・映画・モード等から導かれる心の放浪♪

コルチャック先生:1990年

2006-09-20 | 以前の映画ブログ
コルチャック先生/KORCZAK ポーランド/西ドイツ/フランス合作映画

監督:アンジェイ・ワイダ
製作:レギーナ・ツィグラー、ヤヌシュ・モルゲンスターン、ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ
脚本:アンジェイ・ワイダ
撮影:ロビー・ミューラー
音楽:ヴォイチェフ・キラール

出演:ヴォイチェフ・プショニャック、エヴァ・ダルコウスカ、ピョートル・コズロウスキー、マルツェナ・トリバラ、ヴォイチェク・クラタ、アダム・シィミオン、アンナ・ネフレベツカ


ポーランド伝説の人、ヤヌシュ・コルチャック(本名はヘンリク・ゴールドシュミット)の物語。アンジェイ・ワイダ監督は20余年もの構想の後に映画化を実現。この「コルチャック先生」を描くことはワイダ監督の生涯の課題の一つでもあったという。コルチャックを演じる、ワイダ作品ではお馴染みのヴォイチェフ・プショニャックは言葉に出来ない程素晴らしい!それに尽きると言える程。

コルチャックはユダヤ人一家の出身だったけれど、ポーランド人社会の中で多忙に過ごしていた。小児科医(世界初の)として、作家として、孤児院の院長として、子供達の川遊びを見守りながら楽しい日々を。しかし、ナチスの迫害は日増しに激化していた。コルチャックはユダヤ人をあらわす腕章を付けていなかったことから、咎められ拘留される(しかし、その後も腕章を付けることは決してしなかった)。子供達の食料を確保するために、ゲットー内の裕福な人達や慈善家の住まいを訪問しながらも、近づいて来る”死”というものを子供達に理解させるために、お芝居をさせた。タゴールの『郵便局』。コルチャックにとって自分の誇りや名誉はもはや不必要だったので、成金の男性や居酒屋に集う密輸業者達から献金してもらったり。すべて子供達の命のため。

この映画はお涙頂戴ものではない。表象的な博愛主義でもない。コルチャックの孤児達200人をナチスがトレブリンカ収容所へ連れて行く日がやってきた。子供達には用意しておいた一番良い洋服を着せ、ユダヤ人の印「ダビデの星」の旗を高く掲げ、コルチャックは先頭に立ち汽車に乗る。子供達がもっとも彼を必要とする時に傍にいてやること、彼等の尊厳を守ってやることが最後の願いだった。そして、彼は子供たちと共に死を迎えた。モノクロの美しい映像は悲劇を描きながらも、清澄で優しい情感に溢れている。故に、涙が止まらないけれど美しい心に酔う。そして、とても大切なことを教えて頂いたのだと嬉しくなる。そんな大好きな作品。