衆院選は与党の自民、公明両党で過半数を確保し、連立政権は今後も継続されることになった。

 首相就任後初めて有権者の審判を受けた岸田文雄氏は、国民の信任をつないだ。

 ただ、自民は公示前勢力から議席を減らした。安倍晋三・菅義偉両政権から数の力におごってきた「1強」体制に、民意が警告を発した形だ。

 野党は政権交代を掲げたものの、与党を過半数割れに追い込めなかった。

 第1党の立憲民主党は、共産党などとの選挙協力で接戦に持ち込んだ小選挙区もあったが、勝ちきれなかった。政権を託せるとまでは認識されなかったようだ。

 自民と連立を組む公明党は堅調、立民と共闘した共産は伸び悩んだ。与野党の間で是々非々の主張を展開した日本維新の会の急伸ぶりが目を引いた。

 京都の6選挙区は、野党系が前回より二つ多い4議席を確保した。滋賀は、前回同様、4選挙区で自民が全勝した。

 政策の違い分かりにくく

 共同通信が選挙期間中に行った世論調査では「与野党伯仲」を求める声が最多だった。国会に緊張感を取り戻してほしいとの願いが底流にあったのは間違いない。

 安倍・菅前政権は新型コロナウイルスへの対応や国民への説明の稚拙さが批判を浴び、政治とカネを巡る不祥事も相次いだ。

 投票率は前回より上向いた。コロナ禍を踏まえ、政治への意思表示をしたいという有権者の行動の表れだろう。

 ただ、選挙戦では、政策課題に関して明確な争点が見えたとは言い難い。

 コロナ禍による生活苦にあえぐ人が増える中、与野党はこぞって「分配」政策を主張し合い、その違いは分かりにくかった。

 岸田氏は「新しい資本主義」を掲げ、分厚い中間層の復活を目指すとした。立民など野党も、国民の可処分所得を増やす政策への転換や、消費税率引き下げなどを訴えた。いずれも、経済格差の根深さへ問題意識を示していたといえる。

 コロナ対策では政府の対応力強化による病床確保策や影響を受けた人への給付金支給など、似通った主張が目立った。各党とも違いを際立たせる具体策に欠け、課題を浮き彫りにする論戦は深まらなかった。

 むしろ、選挙戦で語られなかったテーマが多かったことに注意が必要だ。

 岸田氏は自民総裁選で掲げた金融所得課税導入を党公約に盛り込まなかった。富裕層への負担を増やして「新しい資本主義」を実現する選択肢の一つだったはずだ。

 主要政党では唯一、選択的夫婦別姓に触れず、LGBTQなど性的少数者に関しては理解促進を目的とする議員立法の実現を図るとの内容にとどめた。

 森友問題を巡る公文書改ざんや参院広島選挙区の大規模買収事件など「負の遺産」の再調査を求める声にも応えなかった。

 謙虚で丁寧な振る舞いを

 党内の保守派や実力者らへの配慮を優先したようにも見える。国民への説明や真摯(しんし)な議論よりも、身内の論理を優先させた姿勢が有権者に見透かされたのではないか。そのことを岸田氏は心に留めるべきだ。

 国民の将来を左右しかねない政策課題については、野党も含めて具体性を欠いた。

 加速する少子化や、増加する社会保障費の在り方に関して、抜本的な方策が論じられたとは言えない。

 疲弊する地方を再生する展望や、分配政策の実現を裏打ちする財源論も語られなかった。持続可能な将来像への道筋が示されなかったことに、物足りなさを感じた有権者も少なくなかろう。

 首相就任から1カ月にも満たない岸田氏は、これから本格政権を目指したいところだろう。だが、今回の衆院選での苦戦は、求心力低下にもつながりかねない。

 安倍・菅路線の総括をはじめ、何が国民に受け入れられなかったかを検証し、謙虚で丁寧な政権運営に当たる必要がある。

 野党は政権の姿を明確に

 連立する公明も、政権批判を受けとめねばならない。敵基地攻撃能力保有への言及など憲法が定める「専守防衛」の原則を逸脱しかねない自民の姿勢に、「平和の党」として筋を通せるかが問われる。

 野党は、コロナ対策などで失点を重ねた自民に代わる政権担当能力を示すことができなかった。

 立民は定数の過半数の候補者を立て、野党共闘を進めて政権交代を訴えたが、有権者に響いたとは言えない。選択肢としての信頼を勝ち取るには、目指す政権の姿を明確にすることが不可欠だ。

 来夏には参院選が控える。与野党とも今衆院選で示された民意の意味を正面から受けとめ、国民の生命や生活に責任を負う緊張感を取り戻さねばならない。

                   (京都新聞より)