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日常雑記&BL創作、成人婦女子向。
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(2006.11.1~)

恋がしたいと彼は言った

2012-02-12 08:34:22 | 日常雑記
高校入試の真っ最中。今日は私立高校の合格発表があった。自分が勤める塾にも中学三年生の生徒達から合格の報告の電話が次々に入ってくる。
その報告が来るたびに「塾生○○▲▲君、××高校合格おめでとう」という掲示物をつくり、塾の入り口の一番目立つ所に張っていくだ。これが毎年の楽しい仕事である。
たいていの生徒は合格の電話を塾にするだけではなく、そのあとちゃんと塾に足を運んでくれるのだ。一人の時もあるし、保護者同伴の時もある。その時までにきちんと掲示をしていれば、生徒は「あっ!もう張ってくれたんだ!」と喜んでくれるし、その掲示と一緒に記念写真なども撮ったりもする。
塾で、毎年繰り返される喜びの瞬間。
このために、一年間頑張れると言っても過言ではない。
まあ、逆に、不合格、ということになると恐ろしいほどに大変なのだが。まあ、それはともかくとして。
中学校三年生は次々と合格をしていく。
自分はその合格を塾の壁に掲示していく。
その掲示を見て、中学校二年生の生徒が呟くのだ。
「うわー、もう来年かあ。あと一年で俺も受験だよ」
などと、いかにもしんどいと言わんばかりに。
今日も、とある男子生徒がこのようなことをぼそりと呟いた。
「ん?そーだなー。お前さんも来年の今頃は行く先決まってんだぞ。もう受験生だなー。気合い入れてベンキョウしろよー?」
などと自分はからかうように告げてみる。
すると「えー、行きたい学校すら決まって無いのにー?」
と、眉根を寄せる。そして、
「ねえ、先生。俺の成績でも行ける『良い学校』ってどこ?」
などと聞くのだ。
「何を持って『良い学校』っていうのかっていうのは人それぞれだろ?女子だと制服の可愛いところがいいとかさ、運動部系のやつらだとやりたい部活の強い学校とかがいいんだろうし。バイトしたいとか言うやつは校則緩いところ行くべきだし。大学入試考えてるんだったら偏差値高い学校とか。……お前さんは高校生になったら何やりたい?それによって『良い学校』ってのは違ってくる」
彼は「んー……」と前置きのように呟いてから、少し照れくさそうに目を伏せた。
「……恋が、したい、です」
おや、と思って彼の顔を凝視すれば頬が少しだけ染まっていた。うっすら浮かぶ笑みの表情が恋への憧れを示しているようで。
カノジョが欲しい、などと言われれば、何やら即物的なような気がする。
けれど、彼は、恋がしたいと言った。
何となく、ふんわりと甘酸っぱいような気分になって、
「そーか。それいいな」と自分も彼と同じように、久しぶりに心の底からの笑顔になった。



先日の実話。