<FanFicNovel : Krauser’s Choice on Separate Ways : RE4>
※original character ※original setting ※if he had won
初仕事の時は思い付く訳も無かった。クラウザーがどんな人物なのか、あの糞婆がどんな人物でどんな関係をクソバカプ□ンが押し付けてきたのかなど知る由も無かった。
パラレルワールドを行き来して情報や資料や標本や装置を転送している戦乙女クーラは、再び2004年秋のロス・イルミナドス事件に介入する任務が来た時に、前々から思っていた事を実行に移す決心をした。
今回は先に政府のオペレーターに連絡し、ヴァルキリーは遅れて行くと伝えてもらった。スペインの警察の車の中でレオンはあの二名に負けないくらい態度が雑で、鼻をほじったりすかしっ屁をしたりと全くカッコつけていなかった。(”now I see you are called a ladies man.”)
ロード・サドラーにつかまって注射されるレオンを確認、巨大魚戦の後、彼が(六時間も)気を失っている隙に小屋から飛び立った。
孤島の基地にて。
教団の布教活動の為にブリトニー・スピアーズを誘拐して来いという命令を受けたが無理ぽかったので、似たようなものでいいだろうと大統領の娘を誘拐したものの(ちょろかった)、今一信用されていないのは自分がアメリカ人だからだと思ったクラウザーは、そうだ、中国人ならいけるかもしれないと思い、ウェスカーにヤツを派遣してくれるよう連絡したが、後悔し始めていた。ヤツが手柄を独り占めにするのは目に見えている。プラーガを埋め込むまでした自分の尽力が水泡に帰すではないか。
「クラウザー、私と取引する気はある?」
突然声が聞こえて、机を挟んだ向こう側に神話めいた美少女が現れた。強く冷たい眼差し、有無を言わせない雰囲気。クラウザーは驚きやすい方ではない。当然訝しがった。
「誰だ貴様は」
「クーラ。ヴァルキリー。他に何かある?」
随分ぶっきらぼうな言い草だ。急いでいるのか、余裕なさげな様子で髪を手串で梳き、直している。
「ヴァルキリーか。高額兵器様がなぜここへいらっしゃった? レオンに付いてるんじゃないのか」
「そうだけど、緊急事態。単刀直入に言うね。あなた、邪魔なスパイを消したいんじゃない?」
クラウザーの目がいつもに増して鋭くなった。
「何故それを知っている? アカデミー様は何でも御見通しだってのか」
「そう」
明らかに適当な返事にクーラは自分で微笑をこぼした。
「決めるなら早くして。レオンが起きる前に」
クラウザーはナイフを上に投げてはキャッチしつつ、焦れるクーラを眺めて束の間の優越感を愉しんだ。この様子からするとレオンは何も知らないのか。そしてヴァルキリーはレオンに知られたくない……。
「貴様はどうしてあいつを消したいんだ?」
「聞かないで。まあ、共通の敵って事よ」
「フン、共通の敵か。俺があいつを始末したら、どうしてくれるんだ?」
「というか、力を貸してあげる。始末する為に。はっきり言って、あなたじゃ勝てないから」
あなたは初出で、プレイヤーやスタッフの御加護が無いからね。
「で、その後レオンに協力してほしいの」
またか。やっぱりあいつなのか。最優先されるのは。政府の特務機関のエージェント様様だな。負傷して除隊した元軍人の顔付がより一層険しくなった。
「ちょっと待て。それじゃ釣り合わん」
「協力してくれたら、後でその寄生虫取り除いてあげる。アカデミーならできると思うの」
「何……?」
クラウザーはプラーガの危険性を承知しつつ、強化効果(攻撃力↑・敏捷性↑・変身)をそれなりに堪能していたので、除去を望んではいなかった。
「心臓にがっつり食い込まれたりしたら、あんた死ぬよ。食い破られるっていうのかな。寄生虫入りでずっと生きていけると思うの?」
会心の一撃……とはならなかった。クラウザーの顔には何の感情も浮かんでいない。魅力的なキャラクターがいないと言われているシリーズなだけに。所詮、壊れて使えなくなって捨てられた道具だ。クラウザーがそう思っているかはともかく、クーラはこの沈黙によって彼の人生が既に終了している事を思い知らされたような気がした。
クラウザーにも思う所があった。あのスパイを殺害したとして、サドラーに献上して点数稼ぎに利用できるか、それともウェスカーにお悔やみの手紙を付けて宅配するか。レオンはこの地に滞在する間に都合よく事故死するだろうか、それともヴァルキリーが見ている前で自分が殺害するか(できるのか?)、それとも共闘するふりをしてサドラーの野望を打ち砕いた後で……?
クーラはまるで汚い物を慎重に摘まむようにポケットから折り畳んだ紙を取り出し、クラウザーに見せた。
『You seem to be injected the Plaga♥ After grown up, it will become out of hand but for now it stays safe♥ I hope that you can dispose of it early, Mr. handsome♥ (gross♥kissmark)』
クラウザーの中で何かがキレた。アレとアレは関係してたのか! つるんで厄介な事になる前に潰しておくべきではないか。ヴァルキリーが協力を申し出ているこの時が千載一遇なのではないか! レオンは間違い無く強敵だ、自分の進退を考え直さなければならない……!
しかし表向きは勿体つけて見せた。カッコつけたかったのだ。
「さっき俺はあいつに勝てないと言っていたが、貴様が協力すればできるんだな」
「そりゃあね」
輝くような悪魔の微笑。はて、戦乙女とは神の使いだったか死神だったか、クラウザーには分からなくなった。
寄生虫と戦乙女の力を借りて自分史上最強のクラウザーとなったクラウザーはあっさり栄田婆をぶっ殺し、ガナードどもに屠らせ、到着したか否かの確認の為のウェスカー通信には「まだ会ってない」とすっとぼけ、通信機を潰し、湖の畔の小屋でやっと目覚めたレオンに加担した。様子を見ていると、レオン(+戦乙女)はチートクラスの強さ、アシュリーもルイスも犬もマーイクも安全な所に逃がし、ついにサドラーまで辿り着いた。ルイスが持って来たサドラー特攻のロケランをレオンに投げて寄越す時には少し躊躇ったが、受け取ったレオンはサドラーを倒し、なぜか出てきたPの優占種みたいな物は戦乙女が回収および転送した。
アシュリー、レオンと一緒に一旦合衆国に帰ったクーラは、首都のアカデミー本部への報告のついでに、平素は静かなものだったマドリード支部が色々大変な物を転送されたせいで天手古舞だと聞かされた。マドリード支部にはクラウザー、ルイス、犬、武器商人が取っ捕まっている。今回の計らいは自分の責任も勿論あるのでクーラはもう一度スペインに飛んだ。
スペイン到着後すぐの通信で、一人脱走したと聞いた。クラウザーがP除去を拒んでかと思っていたら、武器商人だった。クーラは、武器商人はレオンのGAMEOVER後の姿ではないかと確証も無く思っていたが、謎が残されたままになった。マドリード支部は責任を持って捜索すると言っていたが……。
マドリード支部のエントランスに入るとあの犬が出迎えてくれた。左後足にサポーターを付けている。受付の人が言うには犬は早速ここに就職したということだった。「軟禁部屋」(彼曰く)から出て来たルイスは、教団や寄生虫について詳しく知っている故に拘束期間が長引きそうだと、情報提供料が欲しいとぼやいていた。
「ええ、健康状態は問題ないですよ。怪我は大した事ないですし、プラーガはまだ入ってますが休眠させました。彼と話しますか?」
担当看護師に機敏に問われた時、クーラは意を決して「yes」と答えた。正直怖い。彼はPを除去しても他の何かに手を出しそうな不安要素だ。それに、資料に『日常的生活に居心地の悪さ』なんて書かれている根っからの戦闘民族が大人しくフヌケになっているなんて考えられない。
暫く待った後、面会室まで案内された。ドアの前で看護師が思い付いたように振り返り、クリップボードを盾にして小声で囁いた。
「あの人、顔が怖いだけじゃなく内から溢れてくるオーラ的なものまで全体的に怖いんで、ちょっとほぐしてあげてくれたら嬉しいです。できたらでいいので、お願いします」
返事に困っていると看護師はドアを機敏にノックして開けた。「クーラさんがお見えになりました」
少し古びた印象のアンティークの家具類や繊細な模様のカーテン、それに壁に掛かった絵画に全くそぐわないタイトフィットT-shirtの元軍人の巨体が嫌でも目に入った。クラ・ウザ、確実にめんどくさい性格してるからイヤなんだよなぁ……クーラは心の声が漏れていない事を願った。
「ハイ。プラーガの調子はどう?」
「いい子でお寝んね中だ」
クーラは敵対的でない視線を感じながら席に着いた。意外と普通の服を着てきたとか思ってる? 視線を彼に向けると目が合った。やりにくい。
「除去に同意したって聞いたけど、本当にいいの?」
「ああ。まだ死ぬ決心はついてない」
「あなたは戦い続けたいのかと思った。ロス・イルミナドスに入ってプラーガを入れるまでしたのは、治療と強化の両得だからでしょ? 戦い続けられる場所にいられればよかったの?」
「俺にはそれしか出来んからな」
クーラは言葉に詰まった。なんて荒廃した世界に生きてるんだろう。レオンは彼の事をサイコと言っていたが、確かに常人とはかけ離れている。そんなの、先が無いよ?
「感染拡大を食い止めようとする動きが当然あるよね。ちょうどレオンみたいな。あなたはそういう鎮圧部隊と戦って……」
(教団の)志半ばで死にそうだと思った。
「もし、全世界がロス・イルミナドスになったらどうするの? みんなガナードに……寄生虫の宿主になって。プラーガの生存繁殖に有利な環境になってもさぁ……、それが理想の世界?」
クラウザーの表情からは例によって何も読み取れないが、おそらくそこまで思い描いていなかった。もしかして馬鹿にしてる? これは私じゃなくてあのお爺ちゃんの思想の話だよ。
「サドラーは権力に取り憑かれたただの老いぼれさ。偶々運良く生物兵器が手に入ったから使ってみたというだけの話だ」
「じゃあ、うまくいくとは思ってなかったの?」
「さあな」
ずるい。はぐらかした。まあどうせ頭の治療が必要な軍人崩れのことだ、深く考えていなかったのだろう。クーラは壁に掛かった絵に視線を逸らした。よく見るとそれは北欧神話の女神エイル(Eir)を描いたものだと気付いた。野原か庭で薬草摘みをしている絵だ。アカデミーの理念は彼女の意志を継ぐものであるとされている。
そう、神話のヴァルキリーは彼のような戦士の魂を戦死者の館に集める役割を持つ。とはいえど、クーラは個人的には軍人という人種とは何もかも合わないという思いを強くするのだった。
「ルイスがメールを送った事からあなたたちの関与が始まったことは聞いた。そしてあなたが派遣されて、アシュリーを誘拐して……合衆国を巻き込もうとしたのはなぜ?」
「誘拐は爺が望んだ事でもある。勢力拡大と資金調達の為だ。俺は信用を得る為に」
「個人的な理由もあったんじゃない?」
「当たりがあるのか?」
表情を変えずに出たこれ。図星か。顔が怖い。クーラは目を伏せて笑った。
「忠誠心は無いよね。サドラーにもウェスカーにも合衆国にも。じゃあなぜそこまでしたの? 信用がどうとか言ってたけど、あなたの経歴は割れてたんだし完全に人選ミスじゃない」
遠くで何かが壊れる音がした……気がした。サイコロック解除……? どこでも使い捨てにされる運命のクラウザーさんの痛い所を容赦なく突いてくる。クラウザーの顔に浮かんだ笑みがクーラを怖がらせた。クラウザーは腕を組んで背もたれにもたれ掛かかった。
「そんなに知りたきゃ貴様のビジネスパートナーに訊いてみるんだな」
「レオンにも訊くけど、こういう事は双方から証言を取らないと。一粒で二度おいしい」
「何だそりゃ」
「2002年のオペレーション・ハヴィエの事でしょ。あなたからも聞きたい。今日無理ならまた後日でも」
コインの裏表事件。なかなか察しが良い。クラウザーは目の前のヴァルキリーをあらためて観賞した。裏と表はどの観点から見るかで変わる。彼に対して彼女は表、彼女は彼の裏、そして彼は政府の裏。
「いつでもいいぞ」
「じゃ、今日話してくれる?」
ここの職員にも言われてるしね。