文公社的考察

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『三十路過ぎてのトラベラー』【続編・ファンタジー】

2011年02月15日 01時37分06秒 | 日常考察
 小鳥がさえずるのが聞こえた。まぶたを開けると、そこは草原だった。
 手には土の感触があり、鼻腔に青葉の匂いと、ほのかに花の香りがして、吸い込まれた空気は確かに山や草原と同じように新鮮な空気だった。
 生えている草は朝露を僅かに蓄えていた。
 少しパジャマは朝露に濡れて冷たい。
「夢?」
 だが直感が告げている『コレは夢ではない』と、しかし夢でなければ、起きている現象の説明がつかないのだ。
 よく聞くところの夢の中で頬つねるという事を試してみた。
「痛っ!!」
 つねり上げた肉は激しく痛みを伴い、起きていると認識させた。
「何がどうなっているの?」
 状況が飲み込めずにいた。少なくとも私はパジャマに着替えてベッドで眠ったはずなのに、起きてみたらまったく見知らぬ場所で目が覚めた。
 考えられるのは眠っている間に何者かが部屋に侵入して、私をここに放置した。2つ目は余り考えたくないが、私自身の足でこの場所まで来て、ここで眠りについた。
 どちらも恐ろしい考えだから頭を振り、恐ろしい考えを振り払った。
 とにかく辺りを散策して見ることにした。少し歩いてから気付く、裸足の足に朝露のしずくに足やパジャマの裾が濡れ、小石や小枝が足の裏に刺さり、普通に歩くのも辛い。
 ふと足の裏を見ると、濡れた足に色々な草木の細片や小石と土がついている。 これを見る限りだと、夢遊病のように眠りながら歩いた訳ではないと判断できた。つまりは何者かが侵入して、ここに放置した。
そこまで考えてから、あまりのナンセンスさに私は笑った。
 むしろ夢である方がよほど納得がいく。さして容姿もスタイルも良くない三十路過ぎた女の部屋に侵入して山に放置……理由以上に動機が考えられない。
 つまりこれは夢なのだ。現実味溢れた夢なのだ。遥か彼方には天にも届きそうな、地平線から斜めに空へと突き刺さる、白い塔は間違いなく夢だと告げている。
 とにかく白い塔へ向かって歩き初める。時々小石が足の裏に突き刺さる。痛みや質感はやはり現実そのものだった。

 後に知るのだが、それが『バベルの塔』と呼ばれる、神域に至る道である事と、やはり夢ではないことを……。
「すいませーん!」
 私は誰かが辺りにいないか大声で呼び掛けてみる。 実に高く生い茂った草原に恐ろしい魔物が潜んでいるとも知らずに、ここが別の世界ともまだ知らずにいた……。

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