読み物レビュー@青い森

青森の大学生による読みものレビュー。

遠山美都夫『白村江――古代東アジア大戦の謎』

2007-02-07 14:11:42 | 新書
『白村江――古代東アジア大戦の謎』
遠山美都男 著
講談社、1997年
〔新書/237ページ〕

「白村江(はくすきのえ)の戦い」といえば、みなさん中学校の社会科で習ったことがあると思います。これは古代朝鮮で戦われた戦争で、日本が初めて海外の国と行った本格的な戦争として知られています。

著者は本書のほかに『大化改新』や『壬申の乱』といった本も書かれており、この2つに本書を加えた3作で「古代王権史・3部作」となっているそうです。

白村江の戦いは日本が百済救援のために唐・新羅連合軍と朝鮮半島の白村江(現在の韓国忠清南道・錦江河口付近と思われる)で戦い、大きな敗戦を喫したとともに、そこから大きな教訓を得、律令制度整備のきっかけとなったと言われています。

しかし著者は、本当にこの戦いは「未曾有の敗戦」であったのか、というテーマで本書を書いています。『日本書紀』のような日本の資料だけでなく、中国の『旧唐書』や『新唐書』そして朝鮮の『三国史記』といったものを土台に、謎の解明に努めています。

その結果、当時の倭国(日本)は唐と匹敵するほどの大量の水軍を擁していたものの、寄せ集めの軍勢であったため指揮系統が混乱し、白村江では敗退したのではないかという結論に至っています。

しかしその後の倭国は敗戦国として唐に朝貢する立場をとったというよりも、さらに軍備を強化して、唐と同じように周辺諸国を冊封する立場をとろうとしていたことが伺えます。つまり、彼らは「唐にはまだ敵わない」と思ったわけではなさそうなのです。

大国唐の物量作戦の前に大敗を喫したというこれまでの通説に疑問を呈したこの作品。かなり古い資料を基に書かれていますが、著者の現代語訳がわかりやすく、戦記物の歴史小説としても十分楽しめる内容となっています。
(2007年2月5日読了)


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