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ロシア映画の他、日本では主流ではない、非公式的な映画作品や映画批評等の紹介。

絶対に成功しない「クールジャパン」戦略その2

2013年01月17日 | Weblog
1月に入ってからはいろいろと忙しくなったので、書いておきたいことをためてしまった。それでまず、年末にヤフーのニュースのトップにまた変な記事が現れたので、これを紹介して、始末することから始めたい。

http://biz-journal.jp/i/2012/12/post_1241.html

↑(有象無象にいる)この手の連中は、日本のコンテンツが売れるという先入観に囚われ過ぎて、それを前提としてしまっており、その理念には「日本文化はすごい」という下衆な愛国的自惚れが透けてみえてしまっている。また、「作品を観賞する」という価値観がなく、「コンテンツを消費する」という価値観を持っており、受け手のことが全く理解できていない。海外での、各国文化に根ざした好みの違いはマーケティングによって乗り越えられるというのも、文化産業を頭から完全に舐めきった考えであり、絶対に世界では通用しない。

そもそもこの手の経済ジャーナリストがコンテンツ産業について知っているのは、ハリウッドの世界制覇と日本における韓流ブームという、どちらかといえば例外的現象であり、普遍的なケースではない。文化産業に対するイメージが根本的におかしいのであり、この分野における世界的視野を全く感じさせない。それに「クールジャパン」戦略というのは、厳しい財政のなか少ない予算で多く儲けるために、ハッタリを効かすという言語道断のものなのであり、これに迎合しようとすること自体がモラルに反している。



実は、「クールジャパン×メディア芸術」路線に完全に合致し、尚且つ完全な失敗に終わった作品がある。それは日露合作アニメ『ファー○ト・スク○ッド』である。これは作品的にもビジネス的にも失敗しただけでなく、これ以降、ロシアで同様の企画が現れないことでもケッ作な作品だった。つまり、ロシアの映像関係者の間で「この路線はもう駄目だな」という認識を与えてしまい、事実上とどめを刺してしまったのである。 いや、一作品だけで終わって本当に良かった。

あべ政権のクールジャパン戦略大臣には、強硬な保守派の某女性議員がなっているようだが、正直映像産業に詳しいとは思えず、韓流に嫉妬して歯ぎしりするのが関の山だと思う。誇ってもよいのは、大日本な自惚れではなく実力だけなのだから、如何にして、世界に通用するような実力をつけていくかを謙虚に考えなさい。


「米国はコンテンツ産業の売上高(50~60兆円)のうち、約17%(9~10兆円)を海外市場で稼ぎ出している。それに対して、日本は売上高(約14兆円)の4.3%程度(約0.6兆円)しか海外市場で稼いでいない。そのうち、95.5%はゲ-ム分野(ソフト・ハ-ドも含む)が占め、アニメ、音楽、映画などは数%を占めるにすぎない。」「アニメの国内市場規模は2006年をピ-クに減少に転じつつあり、ゲ-ムのそれも08年を境に縮小傾向にある。」
http://biz-journal.jp/2012/10/post_780_2.html
これが巨大ガラパゴス市場の実態でしょう。

「韓流ブーム、映画だけが不振のワケ」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/01/05/2013010500466.html
日本よりも “うまくやっている”韓国でさえ、映画の輸出ビジネスなんてこんなものです。



●2012年の映画興行市場
2012年の北米市場は、観客数が13億6千万人(1.36 billions)と持ち直しており、一人当たりの鑑賞回数も4.1回ぐらいに回復しているものと思われる。もっとも、それが楽観視できる数値かどうかは人によるだろうが。↓ 


指摘しておきたいのは、ハリウッド・メジャーが以前にも増してハイリスク・ハイリターン構造に陥っており、投資額が大きすぎるため興行収入が多くても比較的儲けが少ないことである。また、独立系映画の方は売り上げが落ちているという噂も聞くので、産業内部の格差が広がっているようである。

日本の市場では、興行収入は震災前の水準にまでほぼ回復しているようだが、邦高洋低の傾向も一段と進行しているようである。なぜ邦画が売れるのかというと、日本の大手メディアがメディアミックスで「映画」以外の需要をかき集めているからであり、「映画」への需要それ自体は減っていると私はみている。それに邦画バブルの時と違い、100億円以上のヒット作はないのが特徴で、これは映像コンテンツ需要がネットや映像ソフト、多チャンネル化したテレビに分散しているので、映画館へ向かう流れが減っているからだと思われる。
それに邦画が好調だ(?)と言われていても、ビジネス的に成功している邦画というのは毎年作られる数百本の日本映画の内せいぜい30本程度であるから、邦画の内部でも格差が広がっていることは認識しておかなければいけない。表に出ないから気づかれないが、200本ぐらいはお蔵入りの不良債権映画になっているのである。この有様で、クールジャパンだとか「我が国の強み」だとかを主張するのは、正気ではない。


洋画・邦画共に、シリーズものとファミリー層向けアニメに映画産業が支配されている状況は、はっきり言って情けない。これがマーケティング至上主義による画一化の成果であろう。文化産業としては末期症状である。特にハリウッドは『ジョン・カーター』、『バトルシップ』といった非続編もの大作がコケ、さらに前者は会社幹部が左遷されたこともあって、より一層リスク回避の保守化をみせている。SPEの社長などはわざわざ映画業界に「シリーズもの大作とファミリー層向けアニメの重要性を強調」しているらしいが、自分で自分の首を絞めているだけである。



●衰退する映像ソフト市場
私がなぜ、映像ソフト市場を重視するのかというと、これの規模がとても大きいからである。北米の映画興行市場(映画館でのチケット売り上げ)は108億ドル程度だが、映像ソフト市場は一時期210億ドルもあった。後者の衰退がいかに危険なものか分かると思う。
それで、2012年の北米ホームエンターテイメント市場だが、セル市場が前年から-5.5%、レンタル市場は-12%、ネット配信が+28%となっている。総売り上げでみた場合は、ネット配信の大幅な伸びがDVDの落ち込み分をカバーできるところまで来ており、前年と同じ180億ドル市場となっている。しかしながら、光メディアと比べてネット配信は利益率がよくないので、これは統計上の誤魔化しにすぎず、映画会社の“儲け”は減っている。

また、BD市場の方は2011年に前年比120%だったが、12年は前年比110%未満と一桁成長になっているようである。面白いことにカタログ・タイトル、つまり旧作映画BDの売り上げが前年比125%と、市場をけん引しており、これは逆を言えば新譜の売れ行き鈍化を意味している。映画会社にとって旧作映画需要(=コレクション需要)は貯金の切り崩しみたいなもので、いずれ消費者の欲しいタイトルがなくなり先細る。よって、ここに頼るのはあまり良い傾向ではない。


↑この表で見た場合、だいたいのイメージとして、2012年はDVDが10未満、BDが3、ネット配信が5強で計18 billionsである。(11年分は速報値を基にしており、やや実際と異なる。)

次に日本の映像ソフト市場について見ていく。 出典:JVA


2011年は震災の影響で、2週間分の売り上げが丸ごと吹っ飛んだのだが、2012年はその11年と比べてもマイナス成長と、非常に厳しい状態になっている。成長分野のBDもセル市場は前年同期比113%と、あと2~3年で頭打ちである。それもこちらは新作タイトル数の増加に売り上げが追いついておらず、売れていない作品がかなりの数あると思う。
レンタル市場は、近所のツ●ヤなどを見るとそれほど酷くないような気がするが、100円レンタルや、「新作含め5本で1000円」などの薄利多売レンタルによって、売り上げや回転率は落ち込んでいるのだと思われる。

日本映像ソフト協会の会報を読むと、レンタル市場で薄利多売がおきていることをはっきり認識しているようだったが、「薄利多売=映画の単価の下落=いくら作っても出しても儲からない」という構造であることを理解しておく必要がある。そして薄利多売はコンテンツの供給過剰をもたらし、さらなる単価の下落につながってしまうのである。これはもう、そういう産業構造になってしまったのだから、どうしようもない。私はもう、さじ投げた。


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