大西好祐

大西好祐

書評:「目の保養」

2024-05-14 08:38:19 | 大西好祐
「目の保養」は、見た目の美しさが人生に及ぼす影響を静かながらも深い洞察で描いた作品です。村上春樹風の独特な語り口が随所に光る中、主人公は自身の容姿が家族や社会にどのように受け止められるかを語る。この物語では、美しさが必ずしも恩恵とはならないこと、またその美しさが人との関係や自己認識にどのように作用するかが巧妙に織り交ぜられています。
主人公が抱える「美の孤独」は、特に母親との複雑な関係を通じて掘り下げられます。母は、外見を褒められることが息子の未来に悪影響を及ぼすと考え、美しいことを隠すよう努める。これは愛情の裏返しであり、その心情に読者は共感を覚えることでしょう。また、主人公が法律の道を歩むことになった背景には、内面的な価値を追求するという彼の決意が感じられます。
作品全体を通じて、村上春樹特有のリアリズムとファンタジーが織り交ざった雰囲気が漂います。それでいて、主人公の内省的な視点は、見た目に対する社会的な偏見や期待を疑問視する現代の読者にとっても重要なメッセージを投げかけています。全体として、「目の保養」は美しさとは何か、そしてそれが個人の運命にどのように影響するのかを考えさせる、感慨深い作品です。

「目の保養」

2024-05-14 08:37:33 | 大西好祐
小さい頃から、僕は人目を引くほどの美しさを持っていた。あまりのことに、時々、本当の両親が僕を取りに来るのではないかと思うほどだ。僕は家族の誰にも似ていない。弟も妹も、母も父も、僕の顔立ちとは全く異なるものだった。
母は、その特異な状況をどう感じていたのだろう。我が家では「ハンサム」という言葉がタブーだった。ある時、妹の誕生日パーティーで訪れたある女の子の親が僕を見て、「目の保養になるほどハンサム」と評した。しかし、母はすぐさま、「勉強がおろそかになるからそんなことを言わないでください」とたしなめた。おかげで僕は学業に専念でき、最終的にはハーバードを卒業し、弁護士にもなった。見た目を褒められることは稀だったが、その分、他の能力で認められようと努力した。
母は49歳で亡くなった。もし今も生きていたら、僕たちはどんな会話をしていただろうか。母は僕の顔をどう思っていたのだろう?美しすぎる子供を持つことの苦労を、彼女なりにどう処理していたのか。そんな母の深い内面に触れることができたら、どんなにか心強かっただろう。母との時間は、いつも僕の心の中で、色褪せることのない深い青として残っている。