新旧の書籍および映画の批評,作品解説.
Augustrait





[提供:ギャガ]
 大手建設会社に勤める野々宮良多は,都内の高層マンションで妻みどりと6歳の息子・慶多と3人で暮らしていた.ある日,慶多が生まれた病院から連絡がある.DNA鑑定の結果,慶多は他人の子だった.病院の仲介で会った相手方は,群馬で小さな電気店を営む斎木一家.粗野で境遇も違う斎木夫婦に嫌悪感を抱く良多だが,交流を深めるうちに実子である琉晴に自分とのつながりを見いだしていく.思い悩んだ良多の決断は….

 民法第820条に定める「子の監護と教育の権利及び義務」は,2011年改正で「子の利益のために」という部分を追加した.これにより,子どもの監護及び教育の目的が明確化されている.子どもの身上監護権を含む親権には,権利だけでなく当然義務も伴う.ただし,一般にその権利ほどには義務は問題とならない.親は,他人から干渉されずに子を養育し,自分の保護下で子を育てる権利を望むからである.2つの家庭の男児2人は,「取り違え事故」の被害児であることが発覚する.病院の調査で血の繋がりを根本的に否定され,それぞれの両親は衝撃を受ける.2人の子をあらためて「交換」し,血のつながりを尊重した家庭環境下に置くのか.それとも,これまでの養育環境を変えずにおくのか.小学校入学を控えた子の両親(2組)は,決断を迫られる.

 子どもの人格形成には「一貫性と連続性」が鍵概念というが,交換した場合,その断絶は避けられない.彼らの成長過程で,どんな影響が考えられるだろうか.沖縄で1971年に起きた取り違え事故を参考にした脚本と思われるが,本作では,露骨なまでに2つの当事者家庭の貧富の格差,文化資本の圧倒的な差を見せつける.野々宮家の父は,東京都心を開発する富裕なデベロッパー,斎木家の父は前橋市で零細電器屋を営む貧困家庭.「王子と乞食」を彷彿とさせる環境の激変に,子どもは戸惑うしかない.エリート然として嫌味な野々宮は,信じていた血のつながりがDNA鑑定で否定された途端,心の中でわが子を切り捨てる.それを証明するひとつの"言葉"を,妻は鋭く拾い上げ,長く記憶に留める.それが後の夫婦の禍根となる展開は,まさに予想通りだが,怒りと不信を爆発させる妻には誰もが共感するだろう.

 斎木は経済力も教養もない男だが,子だくさんで惜しみなく愛情を注ぐ.時間も有り余っている.2つの家庭の状況や雰囲気を,ディテールを積み上げていき過剰なまでに対比的に説明する手法である.このタイプの映画は,役者の佇まいに大きく依存することになるが,斎木を演じたリリー・フランキーがずば抜けた存在感をみせている.その妻役の真木よう子は色気が勝ちすぎな気もするが,アンニュイな感じが巧い.野々宮家夫婦の役者との演技力の差が,歴然としているので,2つの家庭の印象が好対照というより非対称となる.野々宮が「ミッションは終わり」と慶多――血縁上は斉木の子――を抱きしめ,父性に目覚めていく難しい演技を,福山雅治は十分に発揮できていない.

 能力のない子を蔑む役でありながら,役者としての才能の格差をここまでさらされるのは残酷だが,仕方のないことだ.本作は,第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され,審査委員長を務めたスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)をはじめ,ほとんどの審査員の感涙を誘った.スピルバーグは,特にフランキーの演技に惚れ込み,「彼は有名な俳優なのか」と関係者に尋ねていたという.ドリームワークスによるリメイク権の契約を交わし,製作が決定している.

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原題: そして父になる
監督: 是枝裕和

製作: 亀山千広 畠中達郎 依田巽
エグゼクティブプロデューサー: 小川泰 原田知明 小竹里美
プロデューサー: 松崎薫 田口聖
アソシエイトプロデューサー: 大澤恵
脚本: 是枝裕和
撮影: 瀧本幹也
美術: 三ツ松けいこ
衣裳: 黒澤和子
編集: 是枝裕和
キャスティング: 田端利江
スクリプター: 冨田美穂
照明: 藤井稔恭
録音: 弦巻裕
助監督: 兼重淳
出演: 福山雅治 尾野真千子 真木よう子 リリー・フランキー 二宮慶多
  • 120分/日本/2013年
    (C) 2013『そして父になる』製作委員会




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