ウイルスは生物と無生物の間をたゆたう何者かである.…中略…ウイルスが細胞に取りついてそのシステムを乗っ取り,自らを増やす様相は,さながら寄生虫とまったくかわるところがない.しかしウイルス粒子単体を眺めれば,それは無機的で,硬質の機械的オブジェにすぎず,そこには生命の律動はない
生きている生命は絶えずエントロピーを増大させつつある.つまり,死の状態を意味するエントロピー最大という危険な状態に近付いている傾向がある.生物がこのような状態に陥らないようにする,すなわち生き続けていくための唯一の方法は,周囲の環境から負のエントロピー=秩序を取り入れることである.実際,生物は常に負のエントロピーを“食べる”ことによって生きている
生命という名の動的な平衡は,それ自体,いずれの瞬間でも危ういまでのバランスを取りつつ,同時に時間軸の上を一方向にたどりながら折りたたまれている.それが動的な平衡の謂いである.それは決して逆戻りのできない営みであり,同時に,どの瞬間でもすでに完成された仕組みなのである