すでにビアスは「サンフランシスコの極悪人」と呼ばれ始めていた.雑誌の発行部数も伸びはじめ,29歳で縁あって資産家の娘,メアリ・エレン・デイ(Mary Ellen Day)と結婚する.クリスマスの夜だった.ビアスはいやみったらしい風刺を書く一方,男らしい風貌とのギャップが女性に受けて,わりあい人気者だったらしい.「女性一般を賛美することと,女どもを中傷する精神は矛盾しない」などとふざけたことを言っている.子どもには恵まれたが,人間は本質的に信用できぬもの,人生とは,悪魔との対峙が避けられぬ苦痛のものと考えていた.それは,後年,結婚生活が破綻して一人身になってからは強く感じたであろうし,長男が女性関係のいさかいからわずか16歳で命を落としたときにも感じたことだろう.やはり人生とはこんなもの,苦悩と不条理にみちたものであると.