Augustrait






 1997年のイギリスは、労働党が400議席を獲得する圧勝を見せた。ブレア政権でのブレーンを務めたアンソニー・ギデンズ(Anthony Giddens)が唱えた「第三の道」は、政治経済のオーソリティとなることを期待された。「ブッシュのプードル」と揶揄されたトニー・ブレア(Anthony Charles Lynton Blair)が大敗を喫してから、その勢いは落ちた。だが、旧来の社民主義を再編しようとした意義は高く、本書は示唆に富む。

 過度の市場主義でなく、政府による積極的な再分配政策でもない。第三の道は、「効率性の追求」と「公正の確保」を政治路線とする新たな社会民主主義である。福祉と教育予算を確保したブレアは、とりわけ教育を重視して「政府の優先課題は教育、教育、教育である」と述べた。これは、機会の平等を実現する方策であった。

 教育投資は、結局のところ、国民の潜在能力のボトムアップと再分配を公正化する政策である。新自由主義とも旧来の左派とも異なる第三の道は、ニューレイバーの道を示す青写真を描くことには成功した。しかし、中道左派は右派からも左派からも批判されることは避けられない。「ベヴァリッジ報告」(1942)の掲げた「五巨悪」(窮乏、疾病、無知、不潔、怠惰)をポジティブ・ウェルフェアで積極的なものに置き換えようとする議論は、粗すぎて提言のための提言に留まる。

 さらに、本書を読む際に注意しなければならないのは、在来型の政治イデオロギーに与しない中道左派のパートナーは、フランスでもドイツでもない国が想定されていることである。すなわち、9.11もイラク侵攻も、世界恐慌も起きる前のアメリカである。左右の対立の間隙を縫う政治理念に「同盟」といえるほどの共感は寄せられていないが、現実に、欧州でも中道左派政党は2009年現在、20カ国を超える。ギデンズの放つ指針と綱領が、現代的「穏健左派」を議論の俎上に乗せたことの意味は、あまりに大きい。

社会学  近代とはいかなる時代か?―モダニティの帰結  暴走する世界―グローバリゼーションは何をどう変えるのか

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Title: THE THIRD WAY
Author: Anthony Giddens
▽『第三の道』アンソニー・ギデンズ ; 佐和隆光訳
-- 日本経済新聞社, 1999
(C) Anthony Giddens 1998