ノート

自分の為に書き留めた記録。主に芝居に関して

手紙

2012-10-24 17:58:10 | 日記
お母さん。私がお母さんに手紙を書くのは何年ぶりのことでしょうか。おそらく小学校以来ではないでしょうか。なぜ、今私があなたに手紙を書くのか。私は31年間生きてきて、あなたの娘として生きてきて言えなかったことがたくさんあるからです。私は寿命を全うするならば、あと30年は生きると思います。あなたはもうなくなっているでしょう。だからこそ、今私にある、こぶのようなものをとれないとしても見せつけたい、あなたに。そして私はこの手紙をあなたが読みやすいように書きなおしたりはしません。思いのままに書き連ねていきます。だって、私の頭の中はぐるぐると、いまから書くどうでもいいくだらないことがずっとめぐっていたのです。あなたはこのよみにくくとりとめもない文章を読む義務があるのです。あと、ひとついっておきたいのが、私はコミュニケーション能力が劣っているわけではありません。だからこの手紙を書いているわけではありません。私には親友と呼べる友人もいるし、今はいませんがお付き合いしていた男性も何人かいました。ただ、今まで声に出さなかった、出せなかったどうでもいいことをあなたに31年分書いて消えないものにして渡したいだけなのです。それをみて懺悔しろなどとも思っていません、喜んでくださいとも思っていません。書きます。私は最近、あなたのことが禍に思えて仕方がないのです。実の母を禍と思う娘はなんて親不孝な娘でしょうか。でも、禍は、逃げられるものではなくずっと寄り添っていきていく運命のものです。だからこそあなたが禍です。私はあなたから離れません。だから、あなたに言っておきたいことがあるのです。あなたの最大の罪は、私から父を奪ったことです。しかも最悪の形で。身に覚えがあるでしょう。だって、死んでもいない父を死んだと言って、私の意識の中で私によって殺させたのだから。父がいない理由、それはただ、性格の不一致による離婚でしょう。詳しくは知りませんけど。あなたの性格を考えると自分の都合のいい時は甘えて、悪い時はほったらかしにして、父が不倫をして相手の女性と一緒になったとかでしょう。祖母は全てをいいませんが、聞かなくてもグチのように私に話すのです。もう死も近いから、祖母にとって秘密などどうでもいいことなのでしょう。おそらく。祖母を責めないでください。わたしは祖母のおかげで救われたことがたくさんあるのです。あなたにお話しするにはためらいがあるのでここでは割愛します。離婚の理由なんて聞きたくはありませんが、私に素直に父と別れたと言ってくだされば済んだ話でしょう。あなたの安いプライドのおかげで私は父が生きていることを知った時、目の前が真っ暗になりました。私は死んでもいない人を死んだと思い、父にむけて思いをはせたり相談したりしていたのですから。本当に気持ち悪い。自分への嫌悪感が増すばかりです。無駄な時間。私は本当に無駄な時間を7年間過ごしていたのですから。あなたは、「いろいろあったの」と一言ですませ、私に追及させる隙を与えませんでした。追求すればただ、黙り、泣いて、謝るだけだったでしょう。間違っていますか?私がものわかりのいい、あまりしゃべらない静かな子供だと思っていたことでしょう。小学二年生の冬、私は父に手紙を書いた。なぜだかわかりますか?私はマンガを読んだ。そのマンガの主人公の女の子は、父がどうしようもないろくでなしで、働かないし博打を打つ。女の子はある日の宿題で、「わたしのおとうさん」というお題で作文を書かなくてはいけなくなった。彼女は、うそのお父さんを想像して、理想のお父さんを作文に書いて発表した。本当のお父さんを書かなかった。私はそれをみてすごく納得した。私だって、新しい父をつくったらいい。いなければ、いるものと思って手紙を書いたらいいのだと思った。我ながら幼稚な考えだとは思いますが、勝手にお父さんの誕生日をつくり、お父さんに誕生日おめでとうと手紙を書きました。中学2年生まで。あなたが私の受験にさしかかる時、どうでもいい告白をしてくれるまでは、私はお父さんは死んだと思っていたのです。生きているなんて、死んだと思ってたのに、ということは私が殺してたみたいじゃない。これはあなたの罪だ。あなたは今、困惑しているでしょう。この事実をどう思えばいいのか。(あれ、どうでもいいことじゃない、私はあなたのお父さんは生きてるのよってちゃんと事実を伝えてあげたのだし、それは悪くないし、罪ってどういうこと?離婚したこと?それは謝るけど、生きてた人間を死んだと思ってただけでしょ、なんでそれが、うめ美がお父さんを殺したことになるのかしら)ああ、自分本位。あなたの都合で私の人生は動いているわけではないのです。あの時すこしでも私に寄り添って嘘でも誠意をみせてくれればよかったのです。嘘でいいのです。別に。あなたにできることなんて嘘つくことです。完璧な嘘つけばいい。そしてあなたは自分の夢を私になすりつけた。女優になる夢。実際あなたは女優でした。でも、私を産んだことで仕事から離れて行った。私のせいにしているでしょう、女優を辞めたことを。違うでしょう、自分ができなくなっただけでしょう。自分が復帰すればいいものを私に演技をさせた。(え、確かにうめ美に女優になることを何度もすすめたけど、それを、女優を選んだのはうめ美でしょう?)とあなたは思っているはず。私だってわからない。なんで女優になんかなって、人前に出てしらじらしく演技をしているのか。わからない。でも、事あるごとにあなたは、自分が役者をしたい気持ちを無責任に私に投げつけた。私が何か女優として活動するたび、若いからねと口癖のようになんども言う。若いからできる、年をとればあなたなんて女優になりそこねたみすぼらしい女よといわんばかり。女優としての意識を捨てきれない醜いあなたの姿を見るたびに私は逃げたい気持ちでいっぱいだった。あなたは娘である私に嫉妬をしていた。かつて女優だったならなぜそれを隠してくれないのか、というよりもそもそもそんなことを娘に思うなんて悲しいことです。私は絶対そうはなりたくない。そしてなぜ私は女優なんてしているのか。もうやめようと思います。ギリシャ悲劇を上演しました。アンティゴネー。彼女の、禍とともに生きぬく姿勢に私はこころうたれました。私はあなたを母として認めている。これは仕方のない事実で消せないことです。彼女の禍からすれば私の禍などとるにたらないことです。私の名前、うめ美。なぜこんな年寄りのような名前なのか。あなたは藍という美しい名前なのになぜ私の名前はうめ美なのか。でも今は気に入っています。だってあなたと似ていない。私に兄弟がいたら、どんな名前だったのだろう。なぜ兄弟がいないのか。兄弟がいれば愚痴をいえたり励ましあえたりケンカもできた。私にはなぜ兄弟がいないのか。あなたが死ねば私は一人になってしまう。兄弟がいればよかった。私はあなたが美しいと思ったことが一度あります。祖父の葬式でした。幼い私は、通夜が終わって親戚がわいわいと酒を飲むのが理解できなかった。なぜ死んだ祖父を悲しまないのか。あなたも、お酒や食事を用意するのに大変そうで、時折親戚にみせる愛想笑いに怒りが湧きました。でも、次の日、出棺する前、あなたは声も出さず大粒の涙をぽろぽろと流しました。本当に大きな粒でびっくりしました。口をぐっと一文字にして、我慢していたせいなのでしょうか。そんなだから、顔は本当にきれいではなかったけど、でも、涙がきれいで美しいと思った。私はあなたの顔に全然似てない。みたこともない父に似ているのでしょうか?でも、声が似ている。あなたに。それが嫌で嫌でたまらない。顔は整形できても、声は変えられないでしょう。でも、私はもう諦めました。私にはあなたの影がずっとある。あなたが死んでもずっとある。しょうがない。だから、私はあなたが死ねば、あなたの骨をちゃんと先祖といっしょのお墓にいれてあげます。私はあなたの娘だし、他に兄弟はいないのだし。これだけはちゃんと約束します。雲雀うめ美

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