Art & Life in Toronto

カナダ・トロントに住んで出会ったアートを紹介します

ゲリラ・フォーク・オペラ「羊を数える」

2016年06月13日 10時51分04秒 | カナダの芸術
ユーロマイダンという言葉を知っているだろうか。マイダンは、ウクライナ語で「広場」を意味する。ユーロマイダン(欧州広場)は、かつては「独立広場」と呼ばれていた、キエフの中央部にある広場の名前である。

この広場を舞台に、2013年11月、ウクライナのEU加盟やヤヌコーヴィチ大統領の辞任を求める反政府デモが始まった。当初は平和的だったデモは、2014年に入ると治安部隊が鎮圧に乗り出してデモ隊と衝突するようになり、2月には大規模な衝突に発展した。非公式な数では780人を超える死者が出たという。ユーロマイダンは、この反政府運動を象徴する言葉となっている。

ユーロマイダンを描いたオペラを見に行った。オペラといっても普通想像するようなものではない、その名もゲリラ・フォーク・オペラ。会場はここ、元は小さな教会だった建物。



祭壇があったであろう位置に布を張って3面のスクリーンとし、デモのニュース映像などを映し出している。最初は、会場中央の大きなテーブル(食卓)のまわりと、会場両脇に階段状に、客席が設けられていたが、ダンスに誘い出されるうちにテーブルと長椅子がなくなり、気が付けばそれらはスクリーンに映し出された治安部隊との間を隔てるバリケードとして積み上げられている。バリケードのこちら側にいる役者と観客はみな反政府デモ参加者となり、なんと炊き出しまであって本物の食べ物がふるまわれる(チケット代にincludes foodとあったのはこのことだった!)。治安部隊との対立は激しさを増し、我々も一緒になってレンガ(っぽいもの)を投げたり、武装した一部のデモ隊(役者)が治安部隊の暴力から守ってくれたりする。ユーロマイダンで実際に起こったことをなぞるように、最後は衝突によって死者が出る。100人以上いるであろう観客が、もう座るところもなく役者の誘導で動かされるので、見せ物として高い集中と緊張を保つのは難しい。だが、観客にデモに参加させ、体感させるためのシミュレーション装置としては、大掛かりで、手が込んでいる。役者も大変なことだろう。

同時代のウクライナの事件がカナダで芝居になるのには恐らく訳がある。19世紀末に始まったウクライナからカナダへの移民(奇しくも今年は移民125周年)は、農業ができる広大な土地を求めて多くは中西部に向かったが、第1次大戦後、第2次大戦後、ソ連崩壊後と大きく3つの波を経て増えていった。現在カナダには、ウクライナ本国とロシアに次いで第3位、約125万人のウクライナ系住民がいる。カナダの中のエスニック・コミュニティとしても9番目の規模である。

実際にユーロマイダンに立ち会い、デモ参加者に様々な支援を行った Marczyk夫妻(MarkとMarichka)がこの作品を書き、トロントでLemon Bucket Orkestraと共にこの作品を作り上げた。ちなみにLemon Bucket Orkestraのほうは、「カナダで唯一のバルカン・クレズマー(東欧系ユダヤ)・ジプシー・パーティ・パンク・スーパー・バンド」という自称。バンドメンバーがデモ隊と化していたので、音楽の魅力は十分に発揮されておらず残念だったが、映画『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツア監督)好きの私としては愛する世界だ。しかもなんと、そのファンファーレ・チョカリーアとのジョイントライブがトロントであるではないか!

A Guerrilla Folk Opera Counting Sheep
(5/28/2016, Broadview Place

クロノス・カルテット with ターニャ・タガック

2016年06月12日 13時15分06秒 | カナダの芸術
クロノス・カルテットは、サンフランシスコを拠点に40年にわたって活動している、現代音楽を専門とする弦楽四重奏団だ。結果的にはクロノス・カルテットもとても面白かったのだが、私が王立音楽院の美しい音楽ホール、ケルナー・ホールで開催されたこのコンサートに行ったのは、実は特別ゲスト、ターニャ・タガックの歌を生で聞いてみたいと思っていたからだった。

ターニャ・タガックはイヌイットの自治準州であるヌナブト準州のケンブリッジベイ出身の歌手で、イヌイット伝統の喉歌(Inuit throat singing)をベースに、エレクトロニカ、インダストリアル、メタルなどの要素も取り込んだ、独特の音楽を作っている。クロノス・カルテット以外にもビョークなどとのコラボレーションもある。

イヌイットの喉歌は、元々、二人の女性が向き合い顔を近づけて歌い合うもので、どちらが長く歌い続けられるかを競う、ゲームの要素も持つものだそうだが(例えばこのように)、それをタガックは一人で歌う形式にした。
ちなみに興味深いことに、二人の女性による喉歌の風習はアイヌの人たちも持っていた(レクッカラと呼ばれる)ということだ。

全11曲のプログラムのうち、タガックが共演したのは「Snow Angel」「Sivunittinni」「Nunavut」という3曲。私が知っている「歌」ではない。ある種、野蛮な「音」の連なり。喉、口、鼻がいったいどうなって、この奇妙な音を作り出しているのか。怖いもの見たさのような感じで目が離せないが、自分が何を見ているのかよくわからない。演奏後、ケルナー・ホールの満員の聴衆は熱狂的に拍手で称える。望んで見に来ている人たちだとは分かっているが、コンサートを楽しむ普通の紳士淑女のように見える人たちが、これをどんなものとして楽しんでいるのだろうかという疑問も湧いてくる。

(現代)音楽には疎い私だが、クロノス・カルテットが見せてくれた現代音楽の多様さは楽しいものだった。例えば、Mark Applebaumという作曲家が2015年に作った「Damstadt Kindergarten」という曲は、音とメロディを身体のジェスチャーで表わして、最終的には楽器による演奏は無くなり、無音の中で全てジェスチャーに置き換えられてしまう。音が鳴っていなくも、ジェスチャーを見ることで音楽が聞こえてくるような気がして、「音楽」の概念が広がる経験だった。

クロノス・カルテットは世界各地の作曲家に委嘱して新しい曲を生み出し続けているが、最も印象に残った「Bombs of Beirut」という曲も、若いアルメニア系アメリカ人作曲家Mary Kouyoumdjianによって2015年に作られたものだ。
アルメニア人虐殺から逃れてレバノンに移り住んだ一族だったが、両親と自分の代になってレバノン内戦により再び逃れざるを得なくなった経験を持つ作曲家は、家族や友人へのインタビュー録音音声をこの曲に織り込んでいる。人の声に楽器の演奏が重なって進むが、曲の半ばで声と楽器の演奏が止まると、激しい爆撃音が鳴り響く。これは実際にレバノンのアパートのバルコニーで1976年~78年に録音されたものとのことで、コンサートのホールにいながらも恐怖を感じるほどの激しさだった。

アンコールはなんと3曲、8時から始まったコンサートは、終わった時11時近くになっていた。生まれたばかりの新しい音楽たちが残した余韻は、5月の夜風より爽やかだった。
ターニャ・タガックについてはソロコンサートも見てみたいと思うが、機会があるか、どうか。

Kronos Quartet with special guest Tanya Tagaq
(5/25/2016, Koerner Hall, The Royal Conservatory

トロント動物園 写真集

2016年06月12日 05時29分26秒 | その他のおでかけ
5月の3連休の最終日、トロント動物園に出かけた。私の住まいからは地下鉄とバスを乗り継いで約1時間、トロント市の東の端のほうにある。トロント動物園は世界最大の動物園のひとつで、500種以上、5000頭以上の動物がいるのだという。確かに広くて、今年初めて夏の暑さになったこの日、よれよれになるまで歩いたが、全てを見ることはできなかった。

一番のお目当ては昨年10月に生まれたパンダの双子の赤ちゃん。これは大人気で、お母さんと双子がいる建物に入るために、まるで日本のディズニーランドのように列を作って1時間待ち。
1時間並んだが…



おひるね中。どうやら時間帯が悪かった。
お母さんと双子とは、離れて外にいるお父さんも…



爆睡中。顔はどうなってるんだ?

気を取り直して、他の赤ちゃんを見に行った。次はホッキョクグマの赤ちゃん。昨年11月生まれ。
こちらは元気に遊びまわっている。一人っ子は一人遊びが上手。さすがだね。



じゃーんぷ。



ぶるぶる。



親御さんは、水の中でおひるね中。全然動かない。



次はホワイトライオンの子ども。昨年9月生まれ。
愛らしい赤ちゃんという感じではなく、すでに小さい大人の風格?



フクロウ先生に見られている。



カナディアン・ドメインというカナダの動物がいるエリアは、入口から最も離れたところにある。動物園の中なのに、起伏のある林の中を歩いて行く。私はこのあたりでよれよれに。
グリズリーベア。仲良く草?を食べている。



パンダの赤ちゃんが諦めきれず、最後にもう一度、1時間並んでパンダ小屋に入った。
みんな起きてたー。 ひたすら笹を食べるお母さん。登る赤ちゃん。



やっぱりかわいいなあ。







Toronto Zoo (5/23/2016)