ユーロマイダンという言葉を知っているだろうか。マイダンは、ウクライナ語で「広場」を意味する。ユーロマイダン(欧州広場)は、かつては「独立広場」と呼ばれていた、キエフの中央部にある広場の名前である。
この広場を舞台に、2013年11月、ウクライナのEU加盟やヤヌコーヴィチ大統領の辞任を求める反政府デモが始まった。当初は平和的だったデモは、2014年に入ると治安部隊が鎮圧に乗り出してデモ隊と衝突するようになり、2月には大規模な衝突に発展した。非公式な数では780人を超える死者が出たという。ユーロマイダンは、この反政府運動を象徴する言葉となっている。
ユーロマイダンを描いたオペラを見に行った。オペラといっても普通想像するようなものではない、その名もゲリラ・フォーク・オペラ。会場はここ、元は小さな教会だった建物。
祭壇があったであろう位置に布を張って3面のスクリーンとし、デモのニュース映像などを映し出している。最初は、会場中央の大きなテーブル(食卓)のまわりと、会場両脇に階段状に、客席が設けられていたが、ダンスに誘い出されるうちにテーブルと長椅子がなくなり、気が付けばそれらはスクリーンに映し出された治安部隊との間を隔てるバリケードとして積み上げられている。バリケードのこちら側にいる役者と観客はみな反政府デモ参加者となり、なんと炊き出しまであって本物の食べ物がふるまわれる(チケット代にincludes foodとあったのはこのことだった!)。治安部隊との対立は激しさを増し、我々も一緒になってレンガ(っぽいもの)を投げたり、武装した一部のデモ隊(役者)が治安部隊の暴力から守ってくれたりする。ユーロマイダンで実際に起こったことをなぞるように、最後は衝突によって死者が出る。100人以上いるであろう観客が、もう座るところもなく役者の誘導で動かされるので、見せ物として高い集中と緊張を保つのは難しい。だが、観客にデモに参加させ、体感させるためのシミュレーション装置としては、大掛かりで、手が込んでいる。役者も大変なことだろう。
同時代のウクライナの事件がカナダで芝居になるのには恐らく訳がある。19世紀末に始まったウクライナからカナダへの移民(奇しくも今年は移民125周年)は、農業ができる広大な土地を求めて多くは中西部に向かったが、第1次大戦後、第2次大戦後、ソ連崩壊後と大きく3つの波を経て増えていった。現在カナダには、ウクライナ本国とロシアに次いで第3位、約125万人のウクライナ系住民がいる。カナダの中のエスニック・コミュニティとしても9番目の規模である。
実際にユーロマイダンに立ち会い、デモ参加者に様々な支援を行った Marczyk夫妻(MarkとMarichka)がこの作品を書き、トロントでLemon Bucket Orkestraと共にこの作品を作り上げた。ちなみにLemon Bucket Orkestraのほうは、「カナダで唯一のバルカン・クレズマー(東欧系ユダヤ)・ジプシー・パーティ・パンク・スーパー・バンド」という自称。バンドメンバーがデモ隊と化していたので、音楽の魅力は十分に発揮されておらず残念だったが、映画『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツア監督)好きの私としては愛する世界だ。しかもなんと、そのファンファーレ・チョカリーアとのジョイントライブがトロントであるではないか!
A Guerrilla Folk Opera Counting Sheep
(5/28/2016, Broadview Place)
この広場を舞台に、2013年11月、ウクライナのEU加盟やヤヌコーヴィチ大統領の辞任を求める反政府デモが始まった。当初は平和的だったデモは、2014年に入ると治安部隊が鎮圧に乗り出してデモ隊と衝突するようになり、2月には大規模な衝突に発展した。非公式な数では780人を超える死者が出たという。ユーロマイダンは、この反政府運動を象徴する言葉となっている。
ユーロマイダンを描いたオペラを見に行った。オペラといっても普通想像するようなものではない、その名もゲリラ・フォーク・オペラ。会場はここ、元は小さな教会だった建物。
祭壇があったであろう位置に布を張って3面のスクリーンとし、デモのニュース映像などを映し出している。最初は、会場中央の大きなテーブル(食卓)のまわりと、会場両脇に階段状に、客席が設けられていたが、ダンスに誘い出されるうちにテーブルと長椅子がなくなり、気が付けばそれらはスクリーンに映し出された治安部隊との間を隔てるバリケードとして積み上げられている。バリケードのこちら側にいる役者と観客はみな反政府デモ参加者となり、なんと炊き出しまであって本物の食べ物がふるまわれる(チケット代にincludes foodとあったのはこのことだった!)。治安部隊との対立は激しさを増し、我々も一緒になってレンガ(っぽいもの)を投げたり、武装した一部のデモ隊(役者)が治安部隊の暴力から守ってくれたりする。ユーロマイダンで実際に起こったことをなぞるように、最後は衝突によって死者が出る。100人以上いるであろう観客が、もう座るところもなく役者の誘導で動かされるので、見せ物として高い集中と緊張を保つのは難しい。だが、観客にデモに参加させ、体感させるためのシミュレーション装置としては、大掛かりで、手が込んでいる。役者も大変なことだろう。
同時代のウクライナの事件がカナダで芝居になるのには恐らく訳がある。19世紀末に始まったウクライナからカナダへの移民(奇しくも今年は移民125周年)は、農業ができる広大な土地を求めて多くは中西部に向かったが、第1次大戦後、第2次大戦後、ソ連崩壊後と大きく3つの波を経て増えていった。現在カナダには、ウクライナ本国とロシアに次いで第3位、約125万人のウクライナ系住民がいる。カナダの中のエスニック・コミュニティとしても9番目の規模である。
実際にユーロマイダンに立ち会い、デモ参加者に様々な支援を行った Marczyk夫妻(MarkとMarichka)がこの作品を書き、トロントでLemon Bucket Orkestraと共にこの作品を作り上げた。ちなみにLemon Bucket Orkestraのほうは、「カナダで唯一のバルカン・クレズマー(東欧系ユダヤ)・ジプシー・パーティ・パンク・スーパー・バンド」という自称。バンドメンバーがデモ隊と化していたので、音楽の魅力は十分に発揮されておらず残念だったが、映画『アンダーグラウンド』(エミール・クストリッツア監督)好きの私としては愛する世界だ。しかもなんと、そのファンファーレ・チョカリーアとのジョイントライブがトロントであるではないか!
A Guerrilla Folk Opera Counting Sheep
(5/28/2016, Broadview Place)