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by ares19

◆「記憶」の不思議…「前向性(順行)健忘」という記憶障害について

2007年10月01日 21時34分06秒 | science
◎テレビドラマなどでおなじみの記憶喪失のほうが、現実には滅多にない症例で
新しい体験や知識を記憶できない「前向性(順行)健忘」のほうが多い。


また、記憶喪失になった人の記憶が戻るなんてことは、まずないとか。
(池谷裕二・東京大学准教授、大脳生理学)

『50回目のファースト・キス』という2年前のアメリカのコメディー映画。
ドリュー・バリモア演ずる主人公ルーシーは「前向性(順行)健忘」。
交通事故の後遺症で一日の出来事を翌日まで覚えていられない。
事故が起きた日で記憶が止まっている状態。
それを知らずに意気投合した男性ヘンリーは、事情を知った後、
毎日、初対面の男として彼女を口説く。⇒結末は、お決まりのハッピーエンドなのか?

小川洋子の小説、『博士の愛した数式』:あるドキュメンタリー番組がヒント。
ビタミンB1の欠乏で起きる記憶障害の男性と妻の日常を描いたもの。
男性は障害が起きる前に生まれた2人の息子のことは覚えているが、
病気になった後に生まれた娘のことは覚えられない。
毎朝起きると妻に自分はそういう病気だと教えられ、布団にあぐらをかいて
座って泣いている男性の後姿のイメージが強烈で、『博士の愛した数式』の執筆へ。


◎認知症のお年寄りが日に何度も食事を取ろうとするのも「前向性(順行)健忘」。

⇔「逆行性健忘」:認知症やアルツハイマー病で家族の顔が分らなくなるなど、
一度覚えた過去の出来事を忘れるもの。


◎なぜ、「前向性(順行)健忘」か?
「短期記憶」を「長期記憶」として記録する脳の機能に障害。
脳の海馬に関係しているらしい。
海馬摘出で重い「前向性(順行)健忘」になった人もいる。
が、脳と記憶の関係については、未知のことが多い。


◎「エピソード記憶」と「感情の記憶」と「手続き記憶」とがあって、
それぞれ脳内の担当箇所が異なる。


海馬:記憶作りのはじめに関係するが、記憶の保管と再生は脳の別の場所が担当。
同じことを繰り返し覚えたり、思い出すことで海馬を介さない
ネットワークが脳内に出来上がって、大脳の色々な場所に記憶が保管され、
長期記憶化することも。

感情の記憶は海馬とは別の場所=篇桃体で作られる。
→どうせ覚えていないからといって、「前向性(順行)健忘」の人に嫌なことをすると、
翌日、再会したときに、「前向性(順行)健忘」の人にとっては初対面のはずなのに、
なんとなく悪印象を持たれるとか。


自転車に乗ることや水泳などは「手続き記憶」=強力な記憶で簡単には忘れない。
→小脳や大脳基底核などが担当。

「前向性(順行)健忘」の患者に水泳などを教えた場合、
教わった練習の記憶=「エピソード記憶」=体験的出来事の記憶は覚えられなくても、
泳ぎ方=「手続き記憶」は覚えている。





【記事】2007年9/30(日)朝日新聞 日曜版(be on Sunday) 1・2面
「日曜 ナントカ学  記憶。この不思議な仕組み」