091：命（霰）

旋律が鼓膜にふれて運命が色を与えて舞い降りてくる

090：質問（霰）

行き場所を失くしたままにこの胸に棲みついている質問のこと

089：こころ（霰）

逆さまに針を進めてみた夢はこころの底にあわく滲んで

088：暗（霰）

暗がりのなかで響いて重なって色を降らせて沁みてゆく音

087：テープ（霰）

傷口を覆いかくしたガーゼの隅で白いテープが何かを喋る

086：石（霰）

ゆるやかに来る運命を待ちながら石巻貝は水槽の底

085：きざし（霰）

風景が色づくときを待っている淡いきざしを心に綴じて

084：退屈（霰）

目を閉じてきみを見つけて退屈が赤いかけらになってこわれた

083：筒（霰）

筒の奥覗き見ているやわらかで淡い香りの滲んだ世界

082：サイレン（霰）

耳の奥予感のように鳴り響く壊れる前のサイレンの音