011：すきま（霰）

生活のすきまにあいたクレバスで忘れたひとが手招きをする

010：握（霰）

伏し目がちに差し出した手はいつだってその手に強く握らるるを待つ

009：週末（霰）

週末の午後 西寄りに傾いたひだまりのなかおはようと言う

008：種（霰）

やわらかな土に眠りし松の種 5月の空に目覚め出でたかな

007：スプーン（霰）

スプーンのおしりに住んでた三毛のネコ にんじんだけはすくわなかったね

006：使（霰）

二十年越す年月を使い込み わたしのかたちは未だ定まらず

005：しあわせ(霰)

しあわせにはなれないなんて言いながらまなざしはもう微笑んでいる

004：限（霰）

限りない意識の底に見えるのは 多分流れる血の赤い色

003：屋根（霰）

屋根裏の暗がりで飲む珈琲にショパンと秘密を溶かし飲み干す

002：晴（霰）

斜に見てた世界の隙間に晴れ間差す 瞼の裏がきいろく染まる