きりはりへりをり

あまねそうの短歌ブログ。歌人集団「かばん」所属(16年度副編集人)。歌集『2月31日の空』kindleストアにて販売中

かばん09年4月号5首選

2009年04月22日 | 『かばん』5首選

かばん4月号が届きました。新体制になり、がらっと雰囲気も変わりました。かばんの今後がとても楽しみです。それでは、5首選を。


●春すこしたとえば墓前に桜もち供えつつ笑むひとのこころに 藤原響

やさしさもあり情緒もあり、歌全体から春の暖かさが感じられる一首です。「桜もち」に触感があり、よりリアルに感じました。同じ墓参の歌として、俵万智さんの「妻という安易ねたまし春の日のたとえば墓参に連れ添うことの」という歌がありますが、藤原さんの一首とちょうど対照的な捉え方になっていますよね。人によってはこの「安易」こそ大切にしていきたいのではないかと、藤原さんの歌を読んで思いました。


●スマイルの口のようだよ今日の月誰かに教えたいことばかり 香子

共感してくれる人がいない寂しさを追体験しました。身近な人がいなくなった時の喪失感は、こういう時に強く心を揺さぶってくるように思います。作者の見ているものが「スマイルの口」であるから余計にせつなく感じます。


●ねむたさがなぎ倒すさあなぎ倒すわたしを死んだひとを悲しみを 柳谷あゆみ

「なぎ倒すさあなぎ倒す」がまさに柳谷節! 下の句のたたみかけ方も倒されてゆく感じが出ていて心地よく響いてきます。ねむたさに勝てるものはない……たしかに。


●自殺する前提があり生きていたオチンチンイレテと平気で言えた 水野羊

青春映画のような一首。自暴自棄になった時ほど強くなれるのかもしれません。死と性の対照も効果的です。

4月号は性的開放感を感じられる歌が多かったように思います。

萩はるかさんの
かぎりなく裸身に近く過ごす部屋だれの視線も拒絶できない

尾中麻由果さんの
「一度でいい、やらせて」そんな直截なコトバでもいい 苛んで むしろ

など。どれもドキリとします。


●多摩ZOOの駱駝はかなしその瘤のひとつひとつに理由のあれば 山下一路

駱駝は、時に優しく時に悲しい目をします。感受性が強いらしく涙を流すこともあるそうです。人は様々なものを背中に負い(背負い)ますが、駱駝は瘤に背負っているのかもしれません。動物園の駱駝は砂漠にいる駱駝とは全く事情が異なってくるのでしょうが、どんな気持ちで人を見ているのでしょうか。作者の駱駝をみる視線に温かさを感じました。「多摩ZOO」の表記も駱駝の眠気のような感じに読めてユニークです。