国内で新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は、「第3波」の昨年11月以降で7400人を超え、死者全体の8割を占める。高齢者施設での集団感染が「第2波」までの5倍に増え、医療機関では3倍に増えた。大都市では死者の過半数がこうした場所で感染していた。流行が抑えられないまま爆発的に感染が広がり、死者が急増した。
第4波の入り口との指摘もある現在は、2カ月半の緊急事態宣言で「自粛疲れ」が色濃く、感染力がより強いとされる変異株の脅威も迫っている。ワクチンが広く行き渡るまでにはまだ時間もかかり、感染再拡大(リバウンド)を食い止められるか、「正念場」(尾身茂・政府分科会長)を迎えている。
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新型コロナウイルスのワクチンは、国内でも複数のチームで開発が進められている。欧米で開発されて接種が進むのは、病原体に合わせて素早く設計できる新タイプの「RNAワクチン」。実は国内でもRNAワクチンの開発が治験直前まで進んでいたが、2018年に国の予算打ち切りで頓挫した。研究者は「日本は長年ワクチン研究を軽視してきた」と指摘し、欧米と差がついた現状を憂慮する。
(森耕一)
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「当時、治験に進みたいと何度も訴えたが、予算を出してもらえなかった」。東京大医科学研究所ワクチン科学分野の石井健教授は無念さを語る。
◆国「研究費は企業に出してもらって」
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石井さんは、RNAなど遺伝物質を使う「遺伝子ワクチン」研究の第一人者。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所でワクチン研究を統括していた16年、まさに今のような状況を想定し、未知の感染症に合わせてワクチンを緊急に作る計画を立案。RNAワクチンの研究を進め、中東で流行していたMERS(中東呼吸器症候群)のワクチン開発を目指した。
MERSウイルスもコロナウイルスの一種。18年にはサルに投与して有効な抗体を作るまでになった。次は人での治験という段階で、MERSの感染者が日本にいなかったこともあり、国側から「研究費は企業に出してもらってほしい」と告げられたという。
最初に新型コロナのRNAワクチンを開発した米モデルナや、製薬大手の米ファイザーと組む独ベンチャーのビオンテックと同様に、石井さんたちもコロナ禍の前からRNAワクチンを手掛けていた。だが「2社はがんワクチン研究で人での治験に入っており、すぐコロナに転用できた。そこで決定的な差がついた」と石井さんは言う。
◆副反応訴訟めぐり承認20年進まず
なぜ国は予算を付けなかったのか。一つは、ワクチンの副反応が国内で問題として広く報道され、世論がワクチンを受け入れにくいことがある。国の指導で自治体が奨励したさまざまな予防接種を巡っては、1992年のワクチンの副反応の集団訴訟で国が敗訴。それ以降の約20年間、国内では新しいワクチンがほとんど承認されなかった。
企業もワクチン開発に力を入れてこず、研究者も少なくなった。石井さんは「(コロナの第1波があった)昨春、すぐに対応できる企業はなかった」とみる。加えて、米国では治験と同時に製造施設の準備を始めるなどの「ワープスピード作戦」に大規模な予算が投じられたが、日本では財政の動きも鈍かった。
◆国内で大規模な治験実績なく不安
石井さんは第一三共と組み、2022年にも実用化することを目指し、国産RNAワクチンの開発を進めている。ただ、ワクチン開発を避けてきた日本では「数万人規模の治験の実績がない」状態で、先行きに不安が漂う。
後発の治験には別の難しさもある。「既に有効なワクチンがある中で、効果や安全性が確立していないワクチンの治験に参加者を集めるのは難しい。また、既にワクチンが広がっていると大勢の感染者がいる状況がなく、効果が測りづらい」と説く。こうしたことから、石井さんは「日本が世界トップレベルの開発力をつけるには10年かかるというのが本音だ」と話す。
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