気まぐれの語り部

童話やアニメを自己流リメイクしてます。
オリジナルもあります。お暇な時に見てやってください。

捜査官の呪難

2013-11-20 14:22:53 | 日記
 月夜が照らす廃屋を一人歩き回る男。彼が任されたのは、紙やメモ用紙の回収。一家全員が死亡し、殺人事件の可能性が疑われた。近所の人が一家の姿を見かけなくなって、半年ほどたつらしい。

 ダイニングルームでは、写真立てが勝手に落ちて割れた。捜査官が落ちていた複数の紙切れを袋に入れる。
 ”ママは、貴方たちを置いて行ったりしない。愛してるわ。”
 ”そばに居てくれないのは、さびしいよ。元気になったら、遊園地へ行こうね”

 子供の描いた絵。ママが来てくれてうれしいけど、なんだか怖いよ…と赤いクレヨンで文字が書いてある(絵は、ベッドの上に子供の姿。その下には、もやもやしたものが黒いクレヨンでつぶされている)

 風呂場に進む捜査官。ひび割れた鏡にはメモが張られている。
 ”あなた達の最高の家族と出会えたことに感謝します。そしてごめんなさい。”
 転がって捜査官の靴にあたったビンを、拾い上げると、”劇薬”とラベルが。ひとりでに、たまっていたお湯が流れて湯船の底が現れた。
 姿を現したメモには、”マリア、排水溝にまた髪の毛がたまっていたぞ。きちんと掃除しなさい”
 と記されていた。

 子供部屋へと入る捜査官。子供が書いたであろう日記を見つけた。
 ”お風呂は使った後、きちんと掃除してるのよ。あの髪の毛は私のじゃないもん”
 ”時々ママが覗きに来てくれる。けど、どうして私の首を絞めるの?”

 キッチンへたどり着いた捜査官。カレンダーには、がん治療とマークが付けられている。シンクの上にあった手紙を拾う。
 ”ダイアン様へ ポストや排水溝につまっていたカラスやネズミの死骸はきちんと掃除いたしました。
 まだ新しい家にしては不自然です。もしまだ続くようでしたら、警察に連絡される事をお勧めします”

 地下室へ降りる捜査官。書きかけの手紙を拾う。
 ”あの女は愛する家族を、道連れにしようとしている。子供たちに手をだすなんて…”
 カサッ…。足で紙を踏んでいたらしい。彼はメモを拾い上げた。
 ”キッチンの冷蔵庫を開けないで正解だったな。もし、生きてここを出たければ、言うことを聞け”

 ハッ!息を飲む捜査官。頭の上にメモが落ちてきた。
 ”あの女はまだ君に気付いていない。早く上の階にのぼれ”
 捜査官は、紙切れにライトを当ててしげしげと眺めた。
 ”君がもたついているせいで、あの女に見つかった。廊下の奥にアイツがいるから、振り返るな”

 捜査官は音を立てずにでも急いで、階段を上る。
 カサッ…今度は、ポケットのなかにメモが落ちて入った。
 ”貴方がいる所は息子を殺した場所。私は右の後ろにいるわ”
 
 ペースを上げて、逃げる捜査官。いつの間にか、手の甲にメモが張り付いていた。
 ”あなたの後ろにいるわ。許してあげるから、振り返ってね”

廃病院

2013-11-18 19:27:59 | 日記
マーフィーはロッカーの中に身を隠していた。巨体のサイコ野郎は、素手で患者や先生を引き裂いた後、まだしつこく獲物を探し回る。普通体系のマーフィーがかなう相手ではない。巨体のアイツはターゲットを見つけたのか重い足音は遠ざかっていく。

 ”第2病棟の患者が逃げ出しました。看護師の方は薬を注射するか、強硬策を取ってください”
 スピーカーから女性の声の院内アナウンスが廊下に響く。マーフィは音を立てないように、ロッカーの扉をゆっくり開く。デイルームのソファには、うつ伏せになった男の死体が血を流している。倒れた車いすの車輪がまだひとりでに回っていた。

 マーフィーは自販機に倒れこんだ死体を避けつつ、カフェコーナーを目指す。サンドイッチやコーラがテーブルの上に置き去りにされて、ハエを呼び寄せた。引きずられたような跡の血の模様が、壁を伝い天井のダクトへ続いている。

 ”15時間拘束しても暴れる患者は、地下の焼却炉に運んでください。”
 院内アナウンスの内容に耳を疑うマーフィー。この病院は、患者をなんだと思っているのか。カフェコーナーを通り過ぎた先の扉には、カギがかけられていた。息絶えた監視員のポケットにはカギが光っている。マーフィーは手を伸ばしたが、届かない。ひっかける棒を探す必要があるようだ。

 ”第2病棟の患者がまだうろついてます。自分の部屋で大人しくしていなさい。マーフィー、あなたの事を言ってるのよ?”
 しつこいアナウンスがまた流れる。

 マーフィーは階段を下りて、売店へ向かう。売店へは1本道で、もし巨体のアイツに見つかれば逃げる場所がない。息を殺し慎重に進む。幸い、死体が転がっている以外は何もいないようだ。文房具の棚で、棒のようなものを探す。しかし、精神病棟には武器になりえるものは置いていない。
 吊り下げられた消しゴムの袋がユラユラとうごめいた。悪寒がする重い足音が、近づいてきたのだ。巨体なアイツが、袋小路に入ってきた証拠だ。見つかればそこらの死体の仲間入り。奥歯をかみしめて、マーフィーは何とかレジの後ろに回り込む。上からのぞきこまれたら一巻の終わりだ。信心深くないマーフィーも祈らずにはいられない。アイツの血走った目が獲物の痕跡を探す。
 ガシャーン!苛立ったアイツは、インスタントコーナーの棚を床に叩きつけた。金属製の柵が、紙切れみたいにねじ曲がってしまった。

 ”お客様番号068のマーフィー様、快適な院内生活をお送りになられましたか?”
 院内アナウンスはマーフィーの姿を監視しているのか?と考えかけた彼だったが、巨体男の足音がせまっている。歯がカチカチ音をたてて、言うことをきかない。足がしびれだす。
 カラン…。感覚がなくなった足が転がっていたビンを蹴り飛ばしてしまった。重々しい足音が、一瞬ピタリと病む。遠ざかっていた足音は、どすどすと音を立てカウンターの方へ押し寄せてくる。立ち去ろうとした、巨体のアイツが戻ってきたようだ。まっすぐと、マーフィーの隠れている場所へ向かってくる。巨大なアイツがカウンターを上から覗き込んで、小刻みに体を震わせているマーフィーの姿を捉えた。

 ”マーフィー様、当院をご利用いただきありがとうございました”

最後の人類

2013-11-18 11:56:56 | 日記
”神は鉄や金属から、火と雷を使って世界を創造した。冷たい鋼に魂を宿らせ、我々を作った。”
 ”汝、神のように清く正しく美しくあるべし”
 ルカは聖書を閉じると、再び歩き出した。
 「相変わらず信心深いな。」
 先輩のジェイクは、ルカより600歳年上だ。多少のことには取り乱さず、地球にも詳しい。二体のアンドロイドは遥か銀河の果てから、はるばる自分たちの故郷へやってきた。彼らの母星は滅亡の危機に瀕している。コンピューターウイルスが蔓延し、地球の100倍も大きい星は領土問題で戦争が何万年も続く。資源は枯渇し、母星の寿命も僅か。
 この絶望的状況を覆すには、創造主たる人間に会わなければならない。自分たちを創ったとされる、神に逢えばこれからどうするべきか教えてくれるはずだ。精鋭のアンドロイドが選抜され、神が住むとされる楽園にむかって進んできた。還りの燃料分までつぎ込んで。

 「とうとう、2人だけになってしまいましたね。」
 「道のりは険しい。仕方のないことだ」
 気合を入れてガッツポーズをとるルカの腕に、小鳥が飛んできて止まった。図鑑や資料映像で見かけた、フワフワして可愛らしい生き物。
 「先輩!見てください!鳥ですよ。こんなに小さいのに生きてるんですね!」
 ルカがジェイクがよく見えるよう、腕を前に突き出した時、黒い影がさっと小鳥を攫う。反射的に捕まえると、大きな鳥だった。
 「こら!何てむごいことを!離しなさい!」
 鋭い爪がふっくらした小鳥のお腹に食い込んでいるのを、ルカが引きはがす。大きい鳥はギャーッと叫び声をあげて不服そうに去っていく。
 「大丈夫。修理してあげるから…。かわいそうに、オイルが流れ出てしまっているよ…」
 「オイルではない、それは血だ。生き物だから修理はできない。死んでしまうんだ。」
 「スクラップにはさせませんよ。」
 ルカは小さな予備パーツを取り出して、小鳥の裂け目に当てがった。装置から電流を流してやる。
 「できましたよ、ジェイクさん!小鳥が動いてます!」
 ジェイクはルカの手から、小鳥をもぎ取った。
 「筋肉というものが電気で動いているだけだ。やめなさい」

 生い茂る草木をかき分けると、白い大きな建物が姿を現した。生き物がいる気配はなく、虫たちもその場所を裂けるように飛び去る。ルカは胸から一枚の黄ばんだ写真を取り出した。神の姿を捉えたとされる貴重な写真だ。男性の顔は黒ずんで見えないが、女性の姿ははっきりと映っている。
 少し下品な印象を与える、豊かなバストや、形の整った肉感のある太もも。母星には美人ぞろいの女性型アンドロイドはいたが、生き物の柔らかな質感と曲線には敵わない。写真の裏には、クレアと記されていた。おそらく女性の名前だ。破棄寸前の古びたアーカイブまで探し回って、やっとこの女性の一族が過ごしたとされる場所を突き止める事ができた。もしかしたら…彼女の子孫と会えるかも知れない。淡い期待を抱いて。

 「この建物には、赤黒いものがこびりついてますね。スキャンの結果、ウイルスが検出されました」
 「うむ。残っている薬品の成分からして、ここは仮設の病院というものだったらしい」
 「手掛かりがないか、探してみます」
  ベッドやチューブが散乱し、骨が転がっている。ルカはキラリと光るものを目の端でとらえた。モノが散乱して埃だらけの机の上に、薄い円盤の形をした金属が透明のケースの中に入っている。
 「古代の記録媒体らしきものを発見しました」
 「よし、じゃあこれで映してみよう。まだ動くといいが…」 
 ノイズが入っているが、まぎれもなく神の姿が映っていた。血まみれの白衣を羽織った神は、注射器を持っていた。

 ”患者番号6870…。出血多量…多臓器不全…対処療法の手段なし…。パンデミックが収まる気配がない…。
 ワクチンの製造はあきらめた…私も…頭痛がひどい…最後の楽園はもう…”
 
 「ちょっと待ってください、今のところ巻き戻して…」
 「手掛かりを見つけたのか?」
 「白衣の男性の後ろの女性、写真に写っていたクレアにそっくりですよ!」
 「だとしても、もう生きてはないだろうよ…。」

 ため息をついて、ジェイクは建物の外に出た。丘の上は見渡す限り、墓で埋め尽くされている。クレアという名前と、生きていた年代を絞り込んでスキャンすると、墓は29あった。
 「手分けして確認しよう。ルカは右の方を探してくれ」
 ルカは一言も話さず、黙々と風化しつつある石を覗く。ジェイクが14個目の墓の確認した後、すすり泣きが聞こえた方を振り返った。ルカは座り込んで肩を震わせていた。
 「おーい。見つかったのか?」
 ルカは返事をせず、頭を小さく上下させているだけだ。ジェイクはルカが何を発見したのか理解した。急いで駆け寄り、そっと抱き寄せる。墓標は、雨風で擦り切れていたが何とか文字は読める。

 ”人類最後の女性、ここに眠る”と。

大人がいない

2013-11-17 22:30:17 | 日記
「もう、あきらめてお菓子食べたいよー」
 「文句あるなら、先に帰っててよ!」
 腹を空かした二人は少し険悪な雰囲気に。
 「大事な写真、無くしたのノアだよ。悪いのは君だ」
 「分かってるよ。だから探してるだろ?」
 ノアは頬を膨らませた。大人が映っている貴重な切れ端は、肩車をすれば手がとどく棚に引っかかっていた。ルッツはしぐさで催促する。仕方なく彼を上に乗せるノア。
 「もうちょい、右。いや、左かな?」
 「早くしてよ…。重いよー」
 ルッツの太めの指が触れる前に、さっと風がふいて切れ端がまた逃げた。

 「あとちょっとだったのに!走るぞ、ノア!」
 後を追うルッツ。ちょっと走るだけで立ち止まってしまった。ノアが付いてきてないからだ。ルッツの後を追うどころか、壁の落書きに顔を向けたまま動こうとしない。
 「なに、ぼーっとしてんだよ?切れ端に逃げられちゃうよ」
 「切れ端なんてどうでもいいよ。見ろ!本物のオトナだよ!すごく背が高い…!」
 ノアは爪先立ちで背伸びしている。首も伸ばして、上の方に視線を送っている。
 「ふざけないで!紙切れが、もうあんな所に!」
 そうか、ルッツには見えていないんだ。大きな帽子を被った、背の高い男の人が…!友達には見えない、あこがれの存在と視線を交えるノア。

 「あの…はじめまして…。僕の名前はノアです。で、こっちが友達のルッツで…」
 男の人はルッツが見えないみたいで、眉を吊り上げてノアを見下ろしている。
 「君か、いまだにこの世をさまよっている魂は?」
 「はい?何ですって?」
 「親御さんが心配して、私に力を貸してほしいと頼んできた。それで、正解のようだね。」
  「難しい言葉、わからないです」
  「君のお父さんとお母さんが、死んだ後もうろつく君の魂を心配している」
 「僕は死んでません。普通にここで暮らしてるだけです」
 「この世界に大人が一人もいないのは何故か?そう考えた事はないかね?」
 「…友達みんなが不思議がってますけど…」
 「この間界は、この世とあの世のはざまだ。親より早く死んだ同い年くらいの子が、自分が死んでいると気が付けるまで過ごす場所だ」
 せっかく巡り会えたあこがれのオトナから、こんなにひどい言葉をかけられるとは思いもよらなかった。がっくりと肩を落とすノア。
 「信じないようなら、見せてあげよう」
 幻がノアの体を包んだ。白いもやもやの中に、懐かしいようなオトナの顔が浮かび上がる。自転車で道路を走るノアに、トラックが突っ込む映像が脳裏に浮かんで消えた。次に、棺に入れられたノアと泣きながら取り囲むオトナ達。夢を見ているような感覚。
 引き裂くような痛みが体を駆け巡る。頭や手足から血が流れている。頭痛もひどい。ぞの頭痛が忘れていた記憶を呼び出した。ノアは友達の家で遅くまであそんでいた。暗くなりすぎた。母親に怒られるのが怖くて、信号を無視して全速力で自転車を飛ばした。そして、トラックに正面からぶつかった事を。

大人がいない

2013-11-17 21:43:13 | 日記
 「おはよう、ノアくん」
 今朝も、日系の美少女の元気な声が。
 「おはよう、ミイちゃん」
 寝坊したノアは、眠たそうに瞼をこすった。ミイちゃんは擦り切れた雑誌を持っていた。

 「オトナの写真あるの?」
 「もちろん!」
 目を輝かせた子供たちが、ミイちゃんを取り囲む。オトナの姿が載っていたのは、ちぎれたページの切れ端にほんのちょびっと。どの子も目を輝かせ、頬を赤くそめる。熱気がたちこめて、額から汗が。
 皆、オトナを見るのは初めて。
 「すごーい、どこで拾ったの?」
 「顔つきが僕らと少しちがうねえ」
 口々に賞賛する。噂によると大人は背が高くて、なんでも知っているらしい。子供だけの生活は不便だ。食器棚の上にある、お菓子の箱を取るのに肩車をしないと届かない。重い荷物は運べないし、出来なければ諦めるしか道がない。もし、オトナがいてくれたら…そう考えずにはいられなかった。ノア達には大きすぎる靴下や、帽子が見つかることもあった。ひょっとすると、オトナは昔は同じ世界で暮らしていたのかもしれない。

 ”友達の友達が、本物のオトナを見たことあるらしいよ”子供たちはこの手の噂が大好物で、どの辺でオトナに会えるのか試す子も多い。オトナと遭遇できる子は、特別な才能が必要みたいで、100人に1人いればよい方だ。
 「大人って話しかけたら、何て言うかな?」と、お調子者のルッツ君が大の字に倒れこんだ。
 「さあ、難しい言葉で何て喋ってるか分かんないと思うよ」
 ノアはミイちゃんから借りた切れ端をポケットから取り出した。
 「おい、オトナの写真は貴重なんだから、なくすなよ」
 ルッツ君は、ノアの腕を乱暴につかんだ。驚いたノアの手にさっと風が吹いて、ひらひらと舞いあがる切れ端。あわてて後を追う。貴重な一枚は街角に吸い込まれていく。
 「待って!すぐに捕まえるからっ!…うわっ…ごめんなさい!」
 ノアの頭が、動く壁にぶっかってよろけた。
 「大丈夫ー?ノア?どうしたの?」
 「いや…今、人が居るのに飛び出しちゃって…」
 頭を手で覆い、痛がるノア。ぶつかった相手は、ノアの頭二つ分以上の背の高さだった。
 「人?誰もいないよ…?」
 ルッツがきょろきょろと見渡したが、誰も歩いてなかった。