近郊に落ちた巨大な隕石は不思議な色彩を放っていた。光り輝くその色は300色もあり、無名の画家ゴードンはそれを使って制作した。スランプに陥っていた彼は、見事な作品を描けるようになっていったが…。絵の中に何か別のモノが棲んでいる気がしてならない…。傑作を仕上げるたびにゴードンはやつれていき…。
地球征服を企む、テロリスト集団が月の雫という兵器を探しているという情報が入った。
”地球上に蔓延る罪を、聖なる水により洗い流す”という声明を発表している。人殺しや拷問を平気で行う、スキュラと言う名の凶悪な集団。古代兵器を渡すわけにはいかない。レイトン教授とルークは、スキュラより先に月の雫を手に入れるため、洞窟に向かった。
「先生、何と書かれているのですか?」
「これは…!月の雫は、大昔に一度発動したみたいだ」
「それで、世界はどうなったのですか?」
「ノアの方舟…知ってるかい?あれは、月から大量の水が落ちてきて、地球が大洪水になった…」
「まさか、月の雫とは…」
「月にある大量の水を、地球に落とすための古代兵器だ」
「…でも、変な話じゃありませんか?それじゃ、地球全体が洪水になれば何のメリットも…」
「そこなんだよ、ルーク。地球を水浸しにしていったい誰が得するんだろう…」
「とにかく、スキュラより先に、月の雫をさがしましょう」
”月の雫は、その名のごとく月の光の下に侍る雫の中にある”
古代兵器のヒントが記された古びた羊皮紙にはそう記されている。場所は、洞窟の上に穴が開き、光がさしこんでいるこのあたりのはずだ。巨大な月のモニュメントのしたに、大きな川が流れている。
「だいたいの場所は、合っているみたいですが、水の中を覗いてもなにもありません」
「そうか…!分かったぞ!月は、空の月の事だよ!そして、光が当たっている部分…」
月明かりに照らされた、水の中に手を入れるレイトン教授。何かつかんだようで、取り出した。水の中に入っていた時、それは透明だった。
「よかった。スキュラよりも早く手に入れる事ができまし…」
と言いかけたルークの背後から、人が現れた。スキュラの犯行声明の時、一番真ん中に写っていたリーダーだ。仮面をつけていて顔は見えない。
「大人しく、月の雫を渡してもらおうか」
「嫌です!絶対に渡せません!」
月の雫を握りしめるルーク。
「それに、洪水を起こして誰が喜ぶんですか?」
「私達だよ…スキュラのメンバーは全員、ノアの方舟の時、地球へ落ちてきた月の民だ…!」
「…!だからって、なぜ?」
「銀髪で赤目の我々は、地球人の中で肩身の狭い思いを強いられてきた…!だから、月の雫で憎い地球人を洗い流して…!」
レイトン教授とルークは、仮面を付けた月の民たちに囲まれてしまった。
その時、ピカッと昼間よりも明るい光に包まれた。太陽を直視してしまった時のように、まぶしくて頭がくらくらする。
「しまった!後をつけられてた!」
「宇宙警察だ!逃げるぞ!」
まばゆい光に立ち向かう、スキュラ達が次々とのびていく。
銃のような音や、叫び声が止んで静かになった。相変わらず、車のライトに照らされたみたいに明るく、目がしょぼしょぼする。スキュラ達は、何者かにとらわれたようだ。
「地球人のみなさん、我々の力不足でご迷惑をおかけしてすみませんでした。今はまだ、お顔を見せる事はできませんが、もうすぐ…」
と言って、目を閉じてもまぶしいくらいの光が強く照らしつけたと思うと、一瞬で消えた。月の雫も、スキュラ達の姿もなかった。
”地球上に蔓延る罪を、聖なる水により洗い流す”という声明を発表している。人殺しや拷問を平気で行う、スキュラと言う名の凶悪な集団。古代兵器を渡すわけにはいかない。レイトン教授とルークは、スキュラより先に月の雫を手に入れるため、洞窟に向かった。
「先生、何と書かれているのですか?」
「これは…!月の雫は、大昔に一度発動したみたいだ」
「それで、世界はどうなったのですか?」
「ノアの方舟…知ってるかい?あれは、月から大量の水が落ちてきて、地球が大洪水になった…」
「まさか、月の雫とは…」
「月にある大量の水を、地球に落とすための古代兵器だ」
「…でも、変な話じゃありませんか?それじゃ、地球全体が洪水になれば何のメリットも…」
「そこなんだよ、ルーク。地球を水浸しにしていったい誰が得するんだろう…」
「とにかく、スキュラより先に、月の雫をさがしましょう」
”月の雫は、その名のごとく月の光の下に侍る雫の中にある”
古代兵器のヒントが記された古びた羊皮紙にはそう記されている。場所は、洞窟の上に穴が開き、光がさしこんでいるこのあたりのはずだ。巨大な月のモニュメントのしたに、大きな川が流れている。
「だいたいの場所は、合っているみたいですが、水の中を覗いてもなにもありません」
「そうか…!分かったぞ!月は、空の月の事だよ!そして、光が当たっている部分…」
月明かりに照らされた、水の中に手を入れるレイトン教授。何かつかんだようで、取り出した。水の中に入っていた時、それは透明だった。
「よかった。スキュラよりも早く手に入れる事ができまし…」
と言いかけたルークの背後から、人が現れた。スキュラの犯行声明の時、一番真ん中に写っていたリーダーだ。仮面をつけていて顔は見えない。
「大人しく、月の雫を渡してもらおうか」
「嫌です!絶対に渡せません!」
月の雫を握りしめるルーク。
「それに、洪水を起こして誰が喜ぶんですか?」
「私達だよ…スキュラのメンバーは全員、ノアの方舟の時、地球へ落ちてきた月の民だ…!」
「…!だからって、なぜ?」
「銀髪で赤目の我々は、地球人の中で肩身の狭い思いを強いられてきた…!だから、月の雫で憎い地球人を洗い流して…!」
レイトン教授とルークは、仮面を付けた月の民たちに囲まれてしまった。
その時、ピカッと昼間よりも明るい光に包まれた。太陽を直視してしまった時のように、まぶしくて頭がくらくらする。
「しまった!後をつけられてた!」
「宇宙警察だ!逃げるぞ!」
まばゆい光に立ち向かう、スキュラ達が次々とのびていく。
銃のような音や、叫び声が止んで静かになった。相変わらず、車のライトに照らされたみたいに明るく、目がしょぼしょぼする。スキュラ達は、何者かにとらわれたようだ。
「地球人のみなさん、我々の力不足でご迷惑をおかけしてすみませんでした。今はまだ、お顔を見せる事はできませんが、もうすぐ…」
と言って、目を閉じてもまぶしいくらいの光が強く照らしつけたと思うと、一瞬で消えた。月の雫も、スキュラ達の姿もなかった。
月夜が照らす廃屋を一人歩き回る男。彼が任されたのは、紙やメモ用紙の回収。一家全員が死亡し、殺人事件の可能性が疑われた。近所の人が一家の姿を見かけなくなって、半年ほどたつらしい。
ダイニングルームでは、写真立てが勝手に落ちて割れた。捜査官が落ちていた複数の紙切れを袋に入れる。
”ママは、貴方たちを置いて行ったりしない。愛してるわ。”
”そばに居てくれないのは、さびしいよ。元気になったら、遊園地へ行こうね”
子供の描いた絵。ママが来てくれてうれしいけど、なんだか怖いよ…と赤いクレヨンで文字が書いてある(絵は、ベッドの上に子供の姿。その下には、もやもやしたものが黒いクレヨンでつぶされている)
風呂場に進む捜査官。ひび割れた鏡にはメモが張られている。
”あなた達の最高の家族と出会えたことに感謝します。そしてごめんなさい。”
転がって捜査官の靴にあたったビンを、拾い上げると、”劇薬”とラベルが。ひとりでに、たまっていたお湯が流れて湯船の底が現れた。
姿を現したメモには、”マリア、排水溝にまた髪の毛がたまっていたぞ。きちんと掃除しなさい”
と記されていた。
子供部屋へと入る捜査官。子供が書いたであろう日記を見つけた。
”お風呂は使った後、きちんと掃除してるのよ。あの髪の毛は私のじゃないもん”
”時々ママが覗きに来てくれる。けど、どうして私の首を絞めるの?”
キッチンへたどり着いた捜査官。カレンダーには、がん治療とマークが付けられている。シンクの上にあった手紙を拾う。
”ダイアン様へ ポストや排水溝につまっていたカラスやネズミの死骸はきちんと掃除いたしました。
まだ新しい家にしては不自然です。もしまだ続くようでしたら、警察に連絡される事をお勧めします”
地下室へ降りる捜査官。書きかけの手紙を拾う。
”あの女は愛する家族を、道連れにしようとしている。子供たちに手をだすなんて…”
カサッ…。足で紙を踏んでいたらしい。彼はメモを拾い上げた。
”キッチンの冷蔵庫を開けないで正解だったな。もし、生きてここを出たければ、言うことを聞け”
ハッ!息を飲む捜査官。頭の上にメモが落ちてきた。
”あの女はまだ君に気付いていない。早く上の階にのぼれ”
捜査官は、紙切れにライトを当ててしげしげと眺めた。
”君がもたついているせいで、あの女に見つかった。廊下の奥にアイツがいるから、振り返るな”
捜査官は音を立てずにでも急いで、階段を上る。
カサッ…今度は、ポケットのなかにメモが落ちて入った。
”貴方がいる所は息子を殺した場所。私は右の後ろにいるわ”
ペースを上げて、逃げる捜査官。いつの間にか、手の甲にメモが張り付いていた。
”あなたの後ろにいるわ。許してあげるから、振り返ってね”
ダイニングルームでは、写真立てが勝手に落ちて割れた。捜査官が落ちていた複数の紙切れを袋に入れる。
”ママは、貴方たちを置いて行ったりしない。愛してるわ。”
”そばに居てくれないのは、さびしいよ。元気になったら、遊園地へ行こうね”
子供の描いた絵。ママが来てくれてうれしいけど、なんだか怖いよ…と赤いクレヨンで文字が書いてある(絵は、ベッドの上に子供の姿。その下には、もやもやしたものが黒いクレヨンでつぶされている)
風呂場に進む捜査官。ひび割れた鏡にはメモが張られている。
”あなた達の最高の家族と出会えたことに感謝します。そしてごめんなさい。”
転がって捜査官の靴にあたったビンを、拾い上げると、”劇薬”とラベルが。ひとりでに、たまっていたお湯が流れて湯船の底が現れた。
姿を現したメモには、”マリア、排水溝にまた髪の毛がたまっていたぞ。きちんと掃除しなさい”
と記されていた。
子供部屋へと入る捜査官。子供が書いたであろう日記を見つけた。
”お風呂は使った後、きちんと掃除してるのよ。あの髪の毛は私のじゃないもん”
”時々ママが覗きに来てくれる。けど、どうして私の首を絞めるの?”
キッチンへたどり着いた捜査官。カレンダーには、がん治療とマークが付けられている。シンクの上にあった手紙を拾う。
”ダイアン様へ ポストや排水溝につまっていたカラスやネズミの死骸はきちんと掃除いたしました。
まだ新しい家にしては不自然です。もしまだ続くようでしたら、警察に連絡される事をお勧めします”
地下室へ降りる捜査官。書きかけの手紙を拾う。
”あの女は愛する家族を、道連れにしようとしている。子供たちに手をだすなんて…”
カサッ…。足で紙を踏んでいたらしい。彼はメモを拾い上げた。
”キッチンの冷蔵庫を開けないで正解だったな。もし、生きてここを出たければ、言うことを聞け”
ハッ!息を飲む捜査官。頭の上にメモが落ちてきた。
”あの女はまだ君に気付いていない。早く上の階にのぼれ”
捜査官は、紙切れにライトを当ててしげしげと眺めた。
”君がもたついているせいで、あの女に見つかった。廊下の奥にアイツがいるから、振り返るな”
捜査官は音を立てずにでも急いで、階段を上る。
カサッ…今度は、ポケットのなかにメモが落ちて入った。
”貴方がいる所は息子を殺した場所。私は右の後ろにいるわ”
ペースを上げて、逃げる捜査官。いつの間にか、手の甲にメモが張り付いていた。
”あなたの後ろにいるわ。許してあげるから、振り返ってね”
マーフィーはロッカーの中に身を隠していた。巨体のサイコ野郎は、素手で患者や先生を引き裂いた後、まだしつこく獲物を探し回る。普通体系のマーフィーがかなう相手ではない。巨体のアイツはターゲットを見つけたのか重い足音は遠ざかっていく。
”第2病棟の患者が逃げ出しました。看護師の方は薬を注射するか、強硬策を取ってください”
スピーカーから女性の声の院内アナウンスが廊下に響く。マーフィは音を立てないように、ロッカーの扉をゆっくり開く。デイルームのソファには、うつ伏せになった男の死体が血を流している。倒れた車いすの車輪がまだひとりでに回っていた。
マーフィーは自販機に倒れこんだ死体を避けつつ、カフェコーナーを目指す。サンドイッチやコーラがテーブルの上に置き去りにされて、ハエを呼び寄せた。引きずられたような跡の血の模様が、壁を伝い天井のダクトへ続いている。
”15時間拘束しても暴れる患者は、地下の焼却炉に運んでください。”
院内アナウンスの内容に耳を疑うマーフィー。この病院は、患者をなんだと思っているのか。カフェコーナーを通り過ぎた先の扉には、カギがかけられていた。息絶えた監視員のポケットにはカギが光っている。マーフィーは手を伸ばしたが、届かない。ひっかける棒を探す必要があるようだ。
”第2病棟の患者がまだうろついてます。自分の部屋で大人しくしていなさい。マーフィー、あなたの事を言ってるのよ?”
しつこいアナウンスがまた流れる。
マーフィーは階段を下りて、売店へ向かう。売店へは1本道で、もし巨体のアイツに見つかれば逃げる場所がない。息を殺し慎重に進む。幸い、死体が転がっている以外は何もいないようだ。文房具の棚で、棒のようなものを探す。しかし、精神病棟には武器になりえるものは置いていない。
吊り下げられた消しゴムの袋がユラユラとうごめいた。悪寒がする重い足音が、近づいてきたのだ。巨体なアイツが、袋小路に入ってきた証拠だ。見つかればそこらの死体の仲間入り。奥歯をかみしめて、マーフィーは何とかレジの後ろに回り込む。上からのぞきこまれたら一巻の終わりだ。信心深くないマーフィーも祈らずにはいられない。アイツの血走った目が獲物の痕跡を探す。
ガシャーン!苛立ったアイツは、インスタントコーナーの棚を床に叩きつけた。金属製の柵が、紙切れみたいにねじ曲がってしまった。
”お客様番号068のマーフィー様、快適な院内生活をお送りになられましたか?”
院内アナウンスはマーフィーの姿を監視しているのか?と考えかけた彼だったが、巨体男の足音がせまっている。歯がカチカチ音をたてて、言うことをきかない。足がしびれだす。
カラン…。感覚がなくなった足が転がっていたビンを蹴り飛ばしてしまった。重々しい足音が、一瞬ピタリと病む。遠ざかっていた足音は、どすどすと音を立てカウンターの方へ押し寄せてくる。立ち去ろうとした、巨体のアイツが戻ってきたようだ。まっすぐと、マーフィーの隠れている場所へ向かってくる。巨大なアイツがカウンターを上から覗き込んで、小刻みに体を震わせているマーフィーの姿を捉えた。
”マーフィー様、当院をご利用いただきありがとうございました”
”第2病棟の患者が逃げ出しました。看護師の方は薬を注射するか、強硬策を取ってください”
スピーカーから女性の声の院内アナウンスが廊下に響く。マーフィは音を立てないように、ロッカーの扉をゆっくり開く。デイルームのソファには、うつ伏せになった男の死体が血を流している。倒れた車いすの車輪がまだひとりでに回っていた。
マーフィーは自販機に倒れこんだ死体を避けつつ、カフェコーナーを目指す。サンドイッチやコーラがテーブルの上に置き去りにされて、ハエを呼び寄せた。引きずられたような跡の血の模様が、壁を伝い天井のダクトへ続いている。
”15時間拘束しても暴れる患者は、地下の焼却炉に運んでください。”
院内アナウンスの内容に耳を疑うマーフィー。この病院は、患者をなんだと思っているのか。カフェコーナーを通り過ぎた先の扉には、カギがかけられていた。息絶えた監視員のポケットにはカギが光っている。マーフィーは手を伸ばしたが、届かない。ひっかける棒を探す必要があるようだ。
”第2病棟の患者がまだうろついてます。自分の部屋で大人しくしていなさい。マーフィー、あなたの事を言ってるのよ?”
しつこいアナウンスがまた流れる。
マーフィーは階段を下りて、売店へ向かう。売店へは1本道で、もし巨体のアイツに見つかれば逃げる場所がない。息を殺し慎重に進む。幸い、死体が転がっている以外は何もいないようだ。文房具の棚で、棒のようなものを探す。しかし、精神病棟には武器になりえるものは置いていない。
吊り下げられた消しゴムの袋がユラユラとうごめいた。悪寒がする重い足音が、近づいてきたのだ。巨体なアイツが、袋小路に入ってきた証拠だ。見つかればそこらの死体の仲間入り。奥歯をかみしめて、マーフィーは何とかレジの後ろに回り込む。上からのぞきこまれたら一巻の終わりだ。信心深くないマーフィーも祈らずにはいられない。アイツの血走った目が獲物の痕跡を探す。
ガシャーン!苛立ったアイツは、インスタントコーナーの棚を床に叩きつけた。金属製の柵が、紙切れみたいにねじ曲がってしまった。
”お客様番号068のマーフィー様、快適な院内生活をお送りになられましたか?”
院内アナウンスはマーフィーの姿を監視しているのか?と考えかけた彼だったが、巨体男の足音がせまっている。歯がカチカチ音をたてて、言うことをきかない。足がしびれだす。
カラン…。感覚がなくなった足が転がっていたビンを蹴り飛ばしてしまった。重々しい足音が、一瞬ピタリと病む。遠ざかっていた足音は、どすどすと音を立てカウンターの方へ押し寄せてくる。立ち去ろうとした、巨体のアイツが戻ってきたようだ。まっすぐと、マーフィーの隠れている場所へ向かってくる。巨大なアイツがカウンターを上から覗き込んで、小刻みに体を震わせているマーフィーの姿を捉えた。
”マーフィー様、当院をご利用いただきありがとうございました”
”神は鉄や金属から、火と雷を使って世界を創造した。冷たい鋼に魂を宿らせ、我々を作った。”
”汝、神のように清く正しく美しくあるべし”
ルカは聖書を閉じると、再び歩き出した。
「相変わらず信心深いな。」
先輩のジェイクは、ルカより600歳年上だ。多少のことには取り乱さず、地球にも詳しい。二体のアンドロイドは遥か銀河の果てから、はるばる自分たちの故郷へやってきた。彼らの母星は滅亡の危機に瀕している。コンピューターウイルスが蔓延し、地球の100倍も大きい星は領土問題で戦争が何万年も続く。資源は枯渇し、母星の寿命も僅か。
この絶望的状況を覆すには、創造主たる人間に会わなければならない。自分たちを創ったとされる、神に逢えばこれからどうするべきか教えてくれるはずだ。精鋭のアンドロイドが選抜され、神が住むとされる楽園にむかって進んできた。還りの燃料分までつぎ込んで。
「とうとう、2人だけになってしまいましたね。」
「道のりは険しい。仕方のないことだ」
気合を入れてガッツポーズをとるルカの腕に、小鳥が飛んできて止まった。図鑑や資料映像で見かけた、フワフワして可愛らしい生き物。
「先輩!見てください!鳥ですよ。こんなに小さいのに生きてるんですね!」
ルカがジェイクがよく見えるよう、腕を前に突き出した時、黒い影がさっと小鳥を攫う。反射的に捕まえると、大きな鳥だった。
「こら!何てむごいことを!離しなさい!」
鋭い爪がふっくらした小鳥のお腹に食い込んでいるのを、ルカが引きはがす。大きい鳥はギャーッと叫び声をあげて不服そうに去っていく。
「大丈夫。修理してあげるから…。かわいそうに、オイルが流れ出てしまっているよ…」
「オイルではない、それは血だ。生き物だから修理はできない。死んでしまうんだ。」
「スクラップにはさせませんよ。」
ルカは小さな予備パーツを取り出して、小鳥の裂け目に当てがった。装置から電流を流してやる。
「できましたよ、ジェイクさん!小鳥が動いてます!」
ジェイクはルカの手から、小鳥をもぎ取った。
「筋肉というものが電気で動いているだけだ。やめなさい」
生い茂る草木をかき分けると、白い大きな建物が姿を現した。生き物がいる気配はなく、虫たちもその場所を裂けるように飛び去る。ルカは胸から一枚の黄ばんだ写真を取り出した。神の姿を捉えたとされる貴重な写真だ。男性の顔は黒ずんで見えないが、女性の姿ははっきりと映っている。
少し下品な印象を与える、豊かなバストや、形の整った肉感のある太もも。母星には美人ぞろいの女性型アンドロイドはいたが、生き物の柔らかな質感と曲線には敵わない。写真の裏には、クレアと記されていた。おそらく女性の名前だ。破棄寸前の古びたアーカイブまで探し回って、やっとこの女性の一族が過ごしたとされる場所を突き止める事ができた。もしかしたら…彼女の子孫と会えるかも知れない。淡い期待を抱いて。
「この建物には、赤黒いものがこびりついてますね。スキャンの結果、ウイルスが検出されました」
「うむ。残っている薬品の成分からして、ここは仮設の病院というものだったらしい」
「手掛かりがないか、探してみます」
ベッドやチューブが散乱し、骨が転がっている。ルカはキラリと光るものを目の端でとらえた。モノが散乱して埃だらけの机の上に、薄い円盤の形をした金属が透明のケースの中に入っている。
「古代の記録媒体らしきものを発見しました」
「よし、じゃあこれで映してみよう。まだ動くといいが…」
ノイズが入っているが、まぎれもなく神の姿が映っていた。血まみれの白衣を羽織った神は、注射器を持っていた。
”患者番号6870…。出血多量…多臓器不全…対処療法の手段なし…。パンデミックが収まる気配がない…。
ワクチンの製造はあきらめた…私も…頭痛がひどい…最後の楽園はもう…”
「ちょっと待ってください、今のところ巻き戻して…」
「手掛かりを見つけたのか?」
「白衣の男性の後ろの女性、写真に写っていたクレアにそっくりですよ!」
「だとしても、もう生きてはないだろうよ…。」
ため息をついて、ジェイクは建物の外に出た。丘の上は見渡す限り、墓で埋め尽くされている。クレアという名前と、生きていた年代を絞り込んでスキャンすると、墓は29あった。
「手分けして確認しよう。ルカは右の方を探してくれ」
ルカは一言も話さず、黙々と風化しつつある石を覗く。ジェイクが14個目の墓の確認した後、すすり泣きが聞こえた方を振り返った。ルカは座り込んで肩を震わせていた。
「おーい。見つかったのか?」
ルカは返事をせず、頭を小さく上下させているだけだ。ジェイクはルカが何を発見したのか理解した。急いで駆け寄り、そっと抱き寄せる。墓標は、雨風で擦り切れていたが何とか文字は読める。
”人類最後の女性、ここに眠る”と。
”汝、神のように清く正しく美しくあるべし”
ルカは聖書を閉じると、再び歩き出した。
「相変わらず信心深いな。」
先輩のジェイクは、ルカより600歳年上だ。多少のことには取り乱さず、地球にも詳しい。二体のアンドロイドは遥か銀河の果てから、はるばる自分たちの故郷へやってきた。彼らの母星は滅亡の危機に瀕している。コンピューターウイルスが蔓延し、地球の100倍も大きい星は領土問題で戦争が何万年も続く。資源は枯渇し、母星の寿命も僅か。
この絶望的状況を覆すには、創造主たる人間に会わなければならない。自分たちを創ったとされる、神に逢えばこれからどうするべきか教えてくれるはずだ。精鋭のアンドロイドが選抜され、神が住むとされる楽園にむかって進んできた。還りの燃料分までつぎ込んで。
「とうとう、2人だけになってしまいましたね。」
「道のりは険しい。仕方のないことだ」
気合を入れてガッツポーズをとるルカの腕に、小鳥が飛んできて止まった。図鑑や資料映像で見かけた、フワフワして可愛らしい生き物。
「先輩!見てください!鳥ですよ。こんなに小さいのに生きてるんですね!」
ルカがジェイクがよく見えるよう、腕を前に突き出した時、黒い影がさっと小鳥を攫う。反射的に捕まえると、大きな鳥だった。
「こら!何てむごいことを!離しなさい!」
鋭い爪がふっくらした小鳥のお腹に食い込んでいるのを、ルカが引きはがす。大きい鳥はギャーッと叫び声をあげて不服そうに去っていく。
「大丈夫。修理してあげるから…。かわいそうに、オイルが流れ出てしまっているよ…」
「オイルではない、それは血だ。生き物だから修理はできない。死んでしまうんだ。」
「スクラップにはさせませんよ。」
ルカは小さな予備パーツを取り出して、小鳥の裂け目に当てがった。装置から電流を流してやる。
「できましたよ、ジェイクさん!小鳥が動いてます!」
ジェイクはルカの手から、小鳥をもぎ取った。
「筋肉というものが電気で動いているだけだ。やめなさい」
生い茂る草木をかき分けると、白い大きな建物が姿を現した。生き物がいる気配はなく、虫たちもその場所を裂けるように飛び去る。ルカは胸から一枚の黄ばんだ写真を取り出した。神の姿を捉えたとされる貴重な写真だ。男性の顔は黒ずんで見えないが、女性の姿ははっきりと映っている。
少し下品な印象を与える、豊かなバストや、形の整った肉感のある太もも。母星には美人ぞろいの女性型アンドロイドはいたが、生き物の柔らかな質感と曲線には敵わない。写真の裏には、クレアと記されていた。おそらく女性の名前だ。破棄寸前の古びたアーカイブまで探し回って、やっとこの女性の一族が過ごしたとされる場所を突き止める事ができた。もしかしたら…彼女の子孫と会えるかも知れない。淡い期待を抱いて。
「この建物には、赤黒いものがこびりついてますね。スキャンの結果、ウイルスが検出されました」
「うむ。残っている薬品の成分からして、ここは仮設の病院というものだったらしい」
「手掛かりがないか、探してみます」
ベッドやチューブが散乱し、骨が転がっている。ルカはキラリと光るものを目の端でとらえた。モノが散乱して埃だらけの机の上に、薄い円盤の形をした金属が透明のケースの中に入っている。
「古代の記録媒体らしきものを発見しました」
「よし、じゃあこれで映してみよう。まだ動くといいが…」
ノイズが入っているが、まぎれもなく神の姿が映っていた。血まみれの白衣を羽織った神は、注射器を持っていた。
”患者番号6870…。出血多量…多臓器不全…対処療法の手段なし…。パンデミックが収まる気配がない…。
ワクチンの製造はあきらめた…私も…頭痛がひどい…最後の楽園はもう…”
「ちょっと待ってください、今のところ巻き戻して…」
「手掛かりを見つけたのか?」
「白衣の男性の後ろの女性、写真に写っていたクレアにそっくりですよ!」
「だとしても、もう生きてはないだろうよ…。」
ため息をついて、ジェイクは建物の外に出た。丘の上は見渡す限り、墓で埋め尽くされている。クレアという名前と、生きていた年代を絞り込んでスキャンすると、墓は29あった。
「手分けして確認しよう。ルカは右の方を探してくれ」
ルカは一言も話さず、黙々と風化しつつある石を覗く。ジェイクが14個目の墓の確認した後、すすり泣きが聞こえた方を振り返った。ルカは座り込んで肩を震わせていた。
「おーい。見つかったのか?」
ルカは返事をせず、頭を小さく上下させているだけだ。ジェイクはルカが何を発見したのか理解した。急いで駆け寄り、そっと抱き寄せる。墓標は、雨風で擦り切れていたが何とか文字は読める。
”人類最後の女性、ここに眠る”と。