チェコ・フィル ファンの日記

クラシック音楽の演奏会やCDを聴いた感想をアップしています。 クラシックファンが1人でも増えることを願いながら。

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本公演(2023)

2023-11-11 16:00:00 | Czech Philharmonic Reviews
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本公演 (2023)



指揮:セミヨン・ビシュコフ
ピアノ:藤田真央
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
曲目
ドヴォルザーク:
序曲「謝肉祭」Op.92 B.169
ピアノ協奏曲 ト短調 Op. 33 B. 63
交響曲第7番 ニ短調 Op. 70 B. 141

 ソリストアンコール曲
  プーランク 15の即興曲 第12番
 オーケストラアンコール曲
  ブラームス ハンガリー舞曲 第5番

待ちに待った4年ぶりの来日。指揮はもちろん首席指揮者のセミヨン・ビシュコフさん。ビシュコフさんは前回に続き2度目のチェコ・フィルとの日本公演です。
前回はチャイコフスキー中心のプログラムでしたが今回は満を持してオールドヴォジャーク(ドヴォルザーク)プログラム。
ビシュコフさんは2018年に首席指揮者に就任してからチャイコフスキーの交響曲全集を一気に完成させ、今はマーラーの交響曲全集に取り掛かっていて、
まもなくドヴォジャークの後期交響曲やスメタナの『わが祖国』をレコーディング予定だそうです。
首席指揮者の任期も2028年まで延長予定と、チェコ・フィルとの良好な関係が続いているようで、否が応でも期待が高まります。

今回の来日は全7公演で、ドヴォジャークの交響曲第7番はこの日のみ。
チェコ・フィルといえばドヴォジャークですが、来日公演ではやはり第9番『新世界より』と第8番ばかりで、第7番の演奏は2004年のマカルさんの指揮以来、その前だと1991年のノイマンさん指揮なので、とても貴重な演奏会言えます。

会場は人気ピアニスト藤田真央さんのファンと、ドヴォジャークそしてチェコ・フィルが本当に好きな人が集まりほぼ満席でした。

19時定時に楽団員さんたちが次々と登場。
女性や若いメンバーが増えて華やかな雰囲気に包まれる中、往年の名奏者・・・いずれも30年くらい前からコンサーマスターをされていたヴァイオリンのボフミル・コトゥメルさんやチェロのフランティシェク・ホストさんが後方に座っていらっしゃるのが嬉しい
そして頼もしく、これだけで胸にジーンと来るものがありました。
(チェコ・フィルは私の知る限りずっと、ヴァイオリンとチェロにコンサートマスターが置かれています。
お2人とも演奏中はものすごいオーラを放っておられました。

『謝肉祭』
さすらいの旅人がふと巡り合った謝肉祭の様子を描いたとされる人気曲です。
おおらかで少しだけゆっくり目の演奏は完全にチェコ・フィルの音、語り口でした。
合奏部分はうるさ過ぎず、ちょうど良く混じり合う音がしみじみ心に響く。フルート奏者は日本人の佐藤さんで、中間部の叙情的な部分のソロが紛れもなくチェコ・フィルの音で感動的でした。

『ピアノ協奏曲』
いい曲なのですが演奏機会が極めて少ない曲。日本のオーケストラを全部集めてでもこの曲が演奏されるには年に1度あるかないかくらいでしょう。
それを本場チェコフィルの演奏で聴けるという喜び。
世界的人気奏者 藤田真央さんの演奏は驚くほど音が透明で、曲の素朴さと相まってこれ以上なく爽やかでした。
藤田さんとピアノが一体化しているというか、藤田さんがピアノの一部になっているような印象でした。

『交響曲第7番』
この曲をチェコ・フィルの生演奏で聴くのは32年ぶり。前回はヴァーツラフ・ノイマンさんとの最後の来日時でした。これは私の音楽人生で最高の演奏として鮮明に記憶に残っています。
素朴で端整な美しさと、どことなく漂うくすみと暗さに満ちたチェコ・フィルの音色そのものを現すような名曲です。

ビシュコフさんの演奏は、細かなフレーズから曲全体までどこを取ってもとにかくバランスがいい。個性的とも思えるちょっとした揺れや間があるのですが、あざとさや不自然さは一切なく、すべてをチェコ・フィルが受け入れ、チェコフィル伝統のドヴォジャーク演奏になっていました。音、休符に至るまで全てに意味がある。今後もビシュコフさんとチェコ・フィルの演奏で色々な曲を聴きたいと思いました。28年までの首席指揮者の任期中、毎年来日して欲しいです。

(2023.10.31 赤坂 サントリーホール)

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ちょうど1年前、泉岳寺に「ピルニーピヤーク」というチェコビールとチェコ料理のお店ができました。
ピルスナーウルケルやコゼルといったチェコビールは直輸入、チェコ料理は大使館関係の方から教わったというすごいお店です。演奏会後はここで美味しいビールとお料理と一緒にチェコ談議をしてきました。心身がさらに活性化しました。




ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2020

2020-11-17 22:00:00 | Concert Reviews
ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2020







指揮/ワレリー・ゲルギエフ
チェロ/堤 剛
ピアノ/デニス・マツーエフ

曲目/
チャイコフスキー:ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33(チェロ/堤 剛)
ソリストアンコール曲
シューベルト:「ロザムンデ」よりマーチ

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品16(ピアノ/デニス・マツーエフ)
ソリストアンコール曲
シベリウス:エチュード Op.76-2

チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」
アンコール曲
チャイコフスキー:「眠れる森の美女」よりパノラマ

新型コロナウイルス感染拡大のためヨーロッパ各国が次々と再度のロックダウンとなる中、オーストリア、日本両政府の特別許可を受け、今回の来日が実現しました。
飛行機を借りきって来日し、日本国内ではホテルをフロアごと、新幹線を車両ごとチャーターする程の対応をする一方、奏者の人数は減らさず、ステージ上で変にスペースをとったりせず、演奏中は全員マスクを外しての演奏でした。最高の音楽を届けようとする強い意思の現れを嬉しく頼もしく感じました。
会場は1階から3階まで満席で、客の期待、歓び、熱気、緊張感が溢れていました。

ステージ上はきょうもゲルギエフ様式。指揮台はなく、爪楊枝とも言われる小さな指揮棒を持っての指揮でした。

「ロココ風の主題による変奏曲」
日本のチェロ奏者界の大巨匠、堤さんは、ウィーン・フィルの名手達に全く怯まず、横綱土俵入りのような堂々たる演奏でした。本当にすごい安定感でした。

「ピアノ協奏曲第2番」
マツーエフさんは身体も音量も演奏スケールも巨大で、この日も元気いっぱいでした。ゲルギエフ/マツーエフのピアノ協奏曲第2番はお互いの深い信頼感で何度も共演している特別な曲のようです。
グロテスクで先行き不透明な曲にも思えるのですが、ゲルギエフさんとマツーエフさんの共同作業でできた完成度の高い世界があり、ウィーン・フィルの踊るような演奏が曲全体に彩りを加え、感動をさらに深めていたと思います。

「交響曲第6番『悲愴』」
ゲルギエフさんとウィーン・フィルという、現在世界最高の組合せによる悲愴の演奏。
ゲルギエフさんはこの曲が体の一部になっているとも言えるでしょう。ちょっとしたテンポの揺らし方が超絶的に巧くて、ゲルギエフさんの「フーッ」とも「コォー」とも聴こえる息づかい(盛り上がる場面で思わず唸っているのではなく、せーのっとタイミングを合わせるのでもなく、、、なんと言えばいいのか)に奏者がもれなく呼応しいていて、全体として極めて自然体に聴こえる演奏でした。
第一楽章
冒頭のコントラバス、ファゴットの巧さにいきなり息を飲みました。数々の有名な主題は、これ以上ないほど理想的な演奏で、最後の部分、溜めのある極めてゆっくりとした染々とした歌わせ方に、早くも涙が溢れました。
第二楽章
弦がこの上なく美しい。そして木管楽器が少しひなびた音がするのにびっくり。5拍子のワルツ?を100人の奏者と3000人近い客が皆で心地良く踊っているようでした。
第三楽章
ゲルギエフさんの細やかで自由自在なテンポの揺らせ方にウィーン・フィルが完璧に対応しているというか、新しい世界観を共に創っているとも思える、すごい演奏でした。
第四楽章
テンポは少し速めだったと思います。悲しさを煽るような粘着質の演奏ではないのに、次々に展開するモチーフがどれも鮮烈で、鳥肌が立って止まなくなりました。涙を流している客も多かったと思います。最後の盛り上がりもその後の消え入るような部分も、ある意味テンポ良く進むのですが、とにかく濃厚な音色でした。
最後の音が消えて約1分くらい、客は誰も音を出しませんでした。

今世界中の人々が異常な日常生活を強いられている中、超一流の音楽が人の心を解放し、喜怒哀楽を爆発させ、癒す。このことを実証していました。

アンコール曲が終わり、楽団員が引き上げてもほとんどの客は帰ろうとせずそのまま拍手を続けました。
ゲルギエフさんは1人舞台に戻り、この日いちばんの拍手を浴びました。

周りの客は口々に、「来て良かった」、「幸せな気分になった」、「ものすごい演奏だった」と、穏やかな表情で静かに言い合っていました。





(2020.11.6 大阪 フェスティバルホール)

大阪フィルハーモニー交響楽団 チャイコフスキーツィクルス

2020-11-05 21:13:36 | Concert Reviews
「大阪フィルハーモニー交響楽団 チャイコフスキー チクルス Ⅰ

指揮:尾高忠明
チャイコフスキー/交響曲 第1番 ト短調 作品13「冬の日の幻想」
チャイコフスキー/交響曲 第4番 ヘ短調 作品36





尾高さんは、大フィル音楽監督就任初年度はベートーヴェンの交響曲全曲、2年目はブラームスの交響曲全曲と歌曲、そして今年はチャイコフスキーの交響曲全曲演奏に臨まれました。
コロナ禍と重なり、5/24予定だった第1回がきょう10/20に振り替えられての演奏となりました。
当初の第2回は演奏会は交響曲第2、5番で、予定の8月23日に入場者を半数に絞って実施済みで、期待どおりの尾高さんの演奏・・・安定感が抜群で音に深みがあって暖かい演奏・・・でした。
順番の入れ替わった今回のプログラムは、素朴な中にチャイコフスキーらしい染々した叙情たっぷりの2曲です。

尾高さんの演奏を聴くといつも音に暖かさを感じ、幸せな気分になります。「冬の日の幻想」はその名の通りロシアの凍りつくような冷たい空気を感じさせる曲でそれが大きな魅力なのですが、尾高さんの演奏だと、初春の温かな光と空気を感じるようでした。この曲は親しみ易いメロディが多く大好きなのですが、演奏される機会は非常に少ない幻の名曲とも言えると思います。
尾高さんの演奏はこの曲が名曲でることをはっきり示す名演でした。
交響曲第4番は豪華絢爛な心沸き立つ曲で、大フィルの演奏でも何度か聴いて来ました。こちらも暖かい音、走りすぎず揺らしすぎない店舗が絶妙で、素朴な旋律に作曲家、指揮者、演奏者の思いがぎっしり詰まっていることが伝わるようでした。

終演後の尾高さんのメッセージ、「(オーケストラ公演の入場制限が解けて)お客が市松模様に座るのではなくたくさん集まって、拍手からもパワーを感じる。全然違う。私の年齢でチャイコフスキーの第一と第四という(大曲2曲の)プログラムは普通はあり得ない。まだ第三と第六のプログラムが残っている。ぜひ大勢でいらして欲しい」
本当に是非行きたいと思わせる、温かく幸せな演奏会でした。



(2020.10.20 大阪 フェスティバルホール)

大阪フィルハーモニー交響楽団 第542回定期演奏会

2020-10-18 02:01:15 | Concert Reviews
大阪フィルハーモニー交響楽団 第542回定期演奏会

ベートーヴェン/交響曲 第2番 ニ長調 作品36
チャイコフスキー/交響曲「マンフレッド」作品58
指揮:小林 研一郎

指揮者は当初予定だったロバート・トレヴィーノから、"炎のコバケン"こと小林研一郎に変更。
プログラムも1曲目が、アダムズ/ハーモニウムからベートーヴェンの「第二」に変更になりました。

入場者数の制限が無くなり、市松模様に客が座る「目新しい非日常」から解放された初の大フィル定期演奏会。
御歳80歳の小林さんはいつも通り元気一杯、小走りで登場しい、マイク無しで客席に話しかけました。
「このような状況下にも関わらず来場頂きありがとうございます。ベートーヴェンもいいがマンフレッド交響曲も演奏するので心が沸き立ちます。大フィルとお客のオーラを感じます。どうぞお聴きください」

ベートーヴェンは少しゆっくり目の安定したテンポで、重心が低く、オーケストラの音は濃厚。コバケンさんらしい熱い演奏なのに、堅固な交響曲が優しい歌のように聴こえたのが意外で、コバケンさんの唸り声もほとんど無しでした。

8月末、音楽監督の尾高さんが指揮したチャイコフスキー作曲交響曲第2番と5番は、究極に正統派で内容の濃い演奏でしたが、きょうのマンフレッド交響曲も濃かった。
チャイコフスキーらしい、しみじみ懐かしい雰囲気の旋律がぎっしり詰まった隠れた名曲が、一気に知れ渡った記念日になるのではないか。そう思える堂々とした演奏でした。
大フィルの個性的な豪華絢爛な音、フェスティバルホールのますます奥深くなる音響、曲と聴き方をよく知っている大フィルのお客、皆が「いまやるべきこと」を(不作為の責任転嫁の如くわざわざ言われるまでもなく)、自ら進んで参画して作り上げた名演だと思います。

終演後小林さんはそれぞれの楽器の前まで行って腕タッチをして挨拶をさせ、「奏者が命を削りながら演奏しているように思える凄まじい演奏。指揮しながら、代役を引き受けなければよかったと思える程だった。明日も是非ご来場いただきたい」と話し、全奏者を立たせて締めくくりました。



大フィルはいまチャイコフスキー強化期間。20日(火)は尾高さん指揮のツィクルス第二弾(本来第一弾の振替公演)、交響曲第1番と第4番です!

(2020.10.16 大阪 フェスティバルホール)





マリインスキー歌劇場管弦楽団日本公演(2019)

2019-12-15 14:00:00 | Concert Reviews
マリインスキー歌劇場管弦楽団日本公演(2019)



指揮:ワレリー・ゲルギエフ
チェロ:アレクサンドル・ブズロフ
マリインスキー歌劇場管弦楽団
曲目
チャイコフスキー:
 交響曲第1番ト短調Op.13「冬の日の幻想」
 ロココの主題による変奏曲イ長調Op.33
 (ソリストアンコール曲 J. S. バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番より”サラバンド”)
 交響曲第6番ロ短調Op.74「悲愴」

ゲルギエフさんはおそらく今世界でいちばん忙しく、ヘビーなプログラムを組む指揮者だと思います。
今回来日の東京公演では「チャイコフスキーフェスティバル」と銘打って、オペラ3公演(「スペードの女王」を2公演、コンサート形式で「マゼッパ」を1公演)を行った後、3日間4公演で交響曲全6曲、ピアノ協奏曲全3曲と、ロココ風の主題による変奏曲演奏しています。楽団員さんの体力にも本当に感心します。

この日はシンフォニーコンサートでは唯一のサントリーホール公演で、日本で人気急上昇中の「交響曲第1番」と、「ロココヴァリエーション」と「悲愴」のプログラム。ゲルギエフファン、チャイコフスキーファン集結の熱気に包まれた客席はもちろん満席でした。
第1番が人気急上昇中と言ったはこの後、
・12/11、12 パブロ・エラス・カサドさん指揮 N響定期
・来年2/21、22 秋山和慶さん指揮 大フィル定期
・4/7 小林研一郎さん80歳記念のチャイコフスキー全曲ツィクルス初日
・5/24に尾高忠明さんと大フィルの全曲ツィクルスの初日
以上、私が確認しているだけでも短期間でこれだけの演奏機会があるからです。
本当にこの曲は「冬の日の幻想」を絵に描いたような空気感を感じる部分や、チャイコフスキーならではの一瞬で心を引き込まれる優しい旋律に溢れた名曲です。ゲルギエフ指揮マリインスキーオーケストラというチャイコフスキー作品の最高の演奏家ということで、今までにない程緊張してホールに入りました。



ステージ上にはゲルギエフさんの演奏会でのいつも通り、指揮台はありません。オーケストラの並びは前方左から第一ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第二ヴァイオリンの順。左後方にコントラバス、中央にティンパニ、その前に木管で、金管は右後方でした。
ゲルギエフさんはいつも通り、爪楊枝というか焼鳥の串のような指揮棒を持って登場し、あまり間を置かず演奏をスタートさせました。

「冬の日の幻想」
第1楽章:軽快かつクリアな音とテンポでスタート。ゲルギエフさんはロンドン交響楽団とこの曲のCDを出しており、それに似た印象でした。以前のこのオーケストラの演奏に比べて洗練された印象受けましたが、木管楽器で奏でる主題の響きや大合奏の部分は、私の思い込みですがロシア訛りが聴こえて、ロシアの冷たい広大な風景が広がるようでした。
第2楽章:この交響曲いちばんのしみじみとした郷愁に溢れた楽章。オーボエの物悲しい旋律には早くも涙腺を刺激されました。ホルンの大音量の演奏も、期待通り郷愁感たっぷりでした。
第3楽章:この日の演奏で特に記憶に残った木管楽器が大活躍する楽章。弦楽器との掛け合いが本当に巧い。ワルツのリズムも私の思うロシア風で、ゲルギエフさんの左の掌をヒラヒラさせながらの指揮にぴったりと合っていました。
第4楽章:陰から陽へ、正々堂々とした分かりやすいフィナーレ。合奏の響きがとにかくいい。
この曲を生で聴いたのは本当に数える程しかありませんが、私の中では間違いなく断トツNO.1の超名演でした。

「ロココの主題による変奏曲」
ソリスト用の台が通常の指揮台の位置に置かれ、ゲルギエフさんは少し右側から左斜め前を向いて指揮をしました。
冬の日の幻想に引き続き軽快なテンポで、洗練された演奏でした。ブズロフさんの演奏は初めて聴いたのですが、ゲルギエフさんとの共演機会が多いのでしょう、指揮者ともオーケストラとも一体感が強く感じられました。約15分の曲ですが「冬の日の幻想」のおまけでも「悲愴」の前座でも決してない、大曲の風格を感じさせました。

「悲愴」
ゲルギエフさんは暗譜で演奏。いくぶん速めテンポで始まったかなと思いきや、聴かせ所は思いっきりテンポを緩めたり、音の強弱が強めに付いていたりと、ゲルギエフさんの自由自在な演奏でした。
ゲルギエフさんの「悲愴」は、マリインスキーオーケストラの90年代のCDと2010年代のブルーレイ、ウィーン・フィルのCDで聴いていて、同じ指揮者の演奏なのかと思う程全て違う印象を受けていて、この日の演奏も、そのどれとも違う演奏でした。
このコンビで「悲愴」はおそらく100回は演奏しているのでしょう。アドリブも多々あるのではないかと思う程、面白くて、興味深くて、深く引き込まれる演奏でした。
ゲルギエフさんの指揮は手をひらひらさせることが多く、決して分かりやすくはないと思うのですが、オーケストラは一心同体、ゲルギエフさんの体そのものといった感じでした。
ここぞと言うときに出てくる「ふー」とも「こー」とも聴こえるゲルギエフさんの呼吸音も、全く煩くなく、音楽そのものになっていました。
誰にも真似のできない、きょうの詳細を振り返ることもできないと思えるような超個性的な演奏だったと思うのですが、聴いていて違和感は一切なし。聴きながらずっと鳥肌が立っていました。
第4楽章、コントラバスの最後の音が静かに消えた後、無音の時間がちょうど1分くらい続きました。客席もゲルギエフさんの体の一部になったような、祈りの時間のような、感動を深めてくれる時間でした。

交響曲の演奏ではいずれの楽章間も間は極めて少なめで、集中力を高める要因になったと思います。



(2019.12.5 赤坂 サントリーホール)