チェコ・フィル ファンの日記

クラシック音楽の演奏会やCDを聴いた感想をアップしています。 クラシックファンが1人でも増えることを願いながら。

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本公演(2019)

2019-11-04 07:00:00 | Czech Philharmonic Reviews
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団日本公演(2019)

[指揮]セミヨン・ビシュコフ
[ヴァイオリン]樫本大進

スメタナ:交響詩「わが祖国」より「ヴルタヴァ(モルダウ)」
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35
 ソリスト アンコール曲
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 「悲愴」 op.74

日本人の心に響くしみじみとした音色を備えているチェコ・フィルが、日本人が大好きなドヴォルザーク、スメタナに加え、チャイコフスキーの名曲を携えて来日しました。指揮者は2018年のシーズンから首席指揮者に就任したロシア出身のセミヨン・ビシュコフさん。
1990年代はパリ管弦楽団、2000年代はケルン放送交響楽団の首席を務めた世界的指揮者です。2015年から「チャイコフスキープロジェクト」と銘打って、交響曲とピアノ協奏曲全曲と管弦楽曲数曲を演奏、録音していて今年完成したところです。

今回の来日は全8公演で、プログラムはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ソリスト:樫本大進)、交響曲第5、6番、マンフレッド交響曲(NHK音楽祭)、スメタナの「わが祖国」(10/28 チェコ建国記念日に東京、翌日大分)、ドヴォルザークの「新世界より」。
ここ数回の来日公演と同じく名曲コンサートの装いですがその中心がチャイコフスキーなのがいつもと違うところです。
この日会場は縦横に補助席が用意される超満員でした。

ビシュコフさんは数年前から首席客演指揮者に就任していたので、オーケストラとの息はぴったりのようで、ステージ上で見せる楽団員とのやり取りも、自然な穏やかさに包まれていて、関係がとても良いことが分かりました。

ヴルタヴァとピアノ協奏曲でのオーケストラの配置は、チェロが右手前、コントラバス8人はステージ後ろで、打楽器はその右。
第一ヴァイオリン16人の後方にはかつての名コンサートマスターのコトゥメルさんが、チェロの後方には同じくホストさんが凄い存在感を発して大きな音で演奏されていて(チェコ・フィルではチェロ奏者もコンサートマスターを務めることがよくある)、懐かしくも頼もしい雰囲気に、演奏前から嬉しい気分になりました。

「ヴルタヴァ」
ロシア出身のビシュコフさん指揮によるチェコの名曲はチェコ・フィルのいつもの響きとテンポで非常に安定感があり、いつも以上にオーケストラが歌っているように聴こえました。

「ヴァイオリン協奏曲」
ベルリン・フィルのコンサートマスターを務める樫本さんの演奏は本当に上品でありながら、地にがっしりと足をつけた安定感があって、瞬間的に心を引き込まれる。会場全体もこの日でいちばん集中力が高くなっていて、ソロ演奏の音がホールに響き渡り消えていく様子は、息を飲むというか、息をするのも忘れかける程、神々しさを感じました。
ビシュコフさんとチェコ・フィルの演奏はヴルタヴァと同じく安定感と同時に歌を感じさせました。


「悲愴」
第1ヴァイオリンが左、第2ヴァイオリンが右の対向配置になり、この日なんとなく感じていた歌が、よりしっかりと立体的に伝わって来ました。演奏は極めてオーソドックスだったと思うのですが、ビシュコフさんの発するロシア風の歌わせ方が、チェコ・フィル伝統の瑞々しくもしみじみ響く弦楽器の奏者に細やかに伝わり、音となり、大音量の合奏部でもうるさくならず、新たな発見を与えてくれるようでした。
大迫力で凄い完成度だった第3楽章終了後残念ながら拍手が少々起こってしまいましたが緊張感が緩むことはなく、ビシュコフさんが「死への抵抗」と説明する第4楽章は左右別れたヴァイオリンから最後部コントラバスまで、歌が響き、うねり、感動的なクライマックスを作り上げました。チェロ、コントラバスの音が静かにホールの空気に消えた後、ビシュコフさんが姿勢を元に戻すまでの約10秒、本当に心地よい静粛、無音の時間が続き、この日の感動をより深くしたと思います。
この雰囲気の中ではアンコール曲は不要。楽団員さんたちのスマートな身のこなしも印象に残るコンサートでした。

(2019.10.27 大阪 ザ・シンフォニーホール)



群馬交響楽団 第550回定期演奏会

2019-07-21 07:00:00 | Concert Reviews
群馬交響楽団 第550回定期演奏会

指揮:小林研一郎
ヴァイオリン:木嶋真優

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
(ソリスト アンコール曲 岡野貞一:ふるさと)
チャイコフスキー:交響曲第4番 へ短調
(アンコール曲 同曲より4楽章最終部分)

日本の老舗オーケストラのひとつ、群響の550回目の節目の定期演奏会は、今年4月にミュージック・アドバイザーに就任した「炎のコバケン」こと小林研一郎さんと、若手の人気ヴァイオリニスト木嶋真優さんによるチャイコフスキープログラム。

小林さんの名曲中心の熱い演奏と、終演後のちょっとした楽しいトークがお客を惹き付けているのでしょう。ここのところ群響定期は大人気で、この日のチケットは約2週間前には売り切れ。当日は立ち見席も用意される程でした。2日前の同一内容の東京オペラシティ公演もチケットは完売だったそうです。

群響の定期演奏会は今年10月から、高崎駅東口にまもなく完成する高崎芸術劇場に移るため、ここ群響音楽センターで開催されるのはこの日と9月1日のみ。
築60年位になるこの古いホールを懐かしんで足を運んだお客も多かったことと思います。




群響音楽センターはチェコの建築家アントニン・レイモンドの設計の建物で、とても独特な外観、内装を備えています。
群馬県の小中高校生は誰もが何度かは群響の音楽教室で訪れており、全県民の思い出の場所と言えます。今後もホールは残るそうなので、地元密着の、地元に愛される使い方をして、長く、広く県民に愛される場所であり続けてほしいと思います。

群響定演のプレトークは毎回、音楽評論家の渡辺和彦さんがされています。毎回思うのですが客観的で的確な聴かせ所の説明と、作曲者と作品の歴史背景や、最新の情報の紹介がとても分かりやすく、コンサートの楽しみのひとつになっています。

《ヴァイオリン協奏曲》
小林さんらしい、少しゆっくり目の落ち着いたテンポ。木嶋さんの演奏は美しくも素朴でとても好印象でした。木嶋さんの美しいソロの音が、ホールの空調の音の中に消えていく。
このホールでは慣れた出来事ですが、ずっと後になると懐かしい思い出になるのだと思います。
アンコール曲は木嶋さん自身で編曲した変奏曲風の「ふるさと」で、息を飲むような美しい響きと曲の展開に、皆が引き込まれました。

《交響曲第4番》
こちらも小林さんらしい、熱くて歌心に溢れる演奏でした。
群響の弦楽器の暖かい響きと、木管楽器の素朴な響きはこのチャイコフスキーの名曲にぴったりでした。金管楽器、特にホルンはハッとする程巧く、まさに大活躍でした。
休憩時間後、運転音に配慮したのか恐らくホールの空調は切られていたと思います。楽団員さんもお客も汗を拭う中での熱演でした。

終演後はお馴染みの、小林さんのマイクなしのミニトークで、
「お客のオーラと群響に対する心が、この素晴らしいオーケストラを作り上げた。
今年から一緒に仕事できることを光栄に思う。今日もとてもいい演奏だった。このまま終わるのは寂しい。交響曲の最終部分をアンコール曲として演奏する」とお話され、4楽章最後の約1分半の部分を再演されました。そのまま楽団員全員を立たせ、手を振らせてお開き。
奏者もお客も皆笑顔でほのぼのとした雰囲気で終わる、本当にいい演奏会だったと思います。








(2019.7.13 高崎 群馬音楽センター)






大阪交響楽団 第228回定期演奏会

2019-05-01 20:00:00 | Concert Reviews
大阪交響楽団 第228回定期演奏会

指揮/オーラ・ルードナー

◆ハイドン: 交響曲 第60番 ハ長調 Hob.Ⅰ-60「 うかつ者」
◆コダーイ:ガランタ舞曲
◆ドヴォルザーク:交響曲 第7番 ニ短調 作品70

シンフォニカー(大阪交響楽団)の2019年間シーズンは、世界的なヴァイオリニストであり、ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団の指揮者として毎年のように来日しているオーラ・ルードナーさんの指揮でスタートしました。シンフォニカーには2度目の登場で、前回共演時のチャイコフスキー作曲交響曲第1番の、のびのびとしたおおらかな演奏をよく覚えています。

「うかつ者」
6楽章形式のユーモアに満ちた曲。ルードナーさんはフラフラと登場して楽譜を落として見せたり、突然のファンファーレや、弦楽器ののチューニングのような音色の部分で奏者を立たせ、驚いた様子を見せたり、プレスト楽章をアダージョのような振り方で始めてコンサートマスターに指揮を止めさせたり、4楽章終了後に曲が終わったように振り返ったりと、楽しい仕掛けが満載でした。ルードナーさんはもちろん、コンサートマスターの森下さんを始めよした団員さんの対応が本当に上手で、わざとらしさやぎこちなさがなく、しつこすぎず、お客の心をつかんでいたと思います。

「ガタンタ舞曲」
ガランタはコダーイが幼少期に過ごした現スロヴァキアの町名だそうですが、コダーイならではとも言える、渋い、ノスタルジーに満ちた曲で、前の曲と売って変わったルードナーさんの叙情的な指揮演奏が心に染みました。

「交響曲第7番」
ドヴォルザークの名曲ですが、第8番や第9番「新世界より」に比べると極めて演奏される機会が少ない曲です。シンフォニカーではさすがというか、数年前の定期で当時の常任指揮者、寺岡清高さんが演奏していて、明晰な解釈の演奏をされたのをよく覚えています。
ルードナーさんの演奏は期待通りのおおらかさと歌心に満ちていて、この名旋律の詰まった名曲をダイナミックかつ素朴に表現していて、聴いていて心が温まりました。

次の共演ではどんな曲を演奏してくれるのか、今から期待が高まります。

(2019.4.25 大阪 ザ・シンフォニーホール)



大阪フィルハーモニー交響楽団 第527回定期演奏会

2019-04-30 23:00:00 | Concert Reviews
大阪フィルハーモニー交響楽団 第527回定期演奏会

指揮:尾高忠明
藤倉 大/レア・グラヴィティ
マーラー/交響曲 第9番 ニ長調


一昨年からミュージックアドヴァイザーに、昨年から音楽監督就任した尾高さんの、
今年度のスタートは、マーラー最後の交響曲で、人の生まれてから亡くなるまでの人生そのものを描いたと言われる交響曲第9番をメインに置いたプログラム。
音楽監督初年度昨年は、大フィルの代名詞とも言えるブルックナーの交響曲第8番からスタートし、定期以外でベートーヴェンの交響曲全曲演奏会を開催するなど、まさに直球勝負のプログラムで大阪の音楽ファンの心を掴んでいます。
演奏会直前に5月末から2ヶ月間、癌の治療に専念すると発表されていましたが、
この日もいつも通り、穏やかな表情でステージに登場されました。

「レア・グラヴィティ」
プログラム冊子に作曲者自身の解説もありましたが、人が生まれる前、胎内にいるときを描いた曲だそうです。木管を中心とした、水のなかに浮いているような音色が印象的で、耳に残る曲でした。

「交響曲第9番」
前の曲に引き続くかのように、1楽章は産声を現していると言われる音で始まります。
ゆっくり、しっかり歩くようなテンポで、尾高さんらしい内声部を丁寧に優しく、うるさ過ぎることなく聴かせる演奏で、何度も聴いてきた曲ですが新たに発見させられる部分も多く、80分近くの大曲の正統派の演奏を聴けるという安心感と、まだ何か発見できるという期待感を抱かされました。
2楽章は人が天真爛漫に、順調に成長して行くような曲。1楽章に引き続きゆっくり目のテンポで安定感がありました。
3楽章は人生の葛藤を描いたような曲。ともすればちぐはぐでバラバラな曲になってしまう難しい曲だと思うのですが、尾高さんの抜群の安定感を持った曲作りで、この楽章だけでも堂々とした大曲に仕上がっていました。
曲の最後に作曲者自身により「死ぬように」との書き込みがある4楽章、ここまで来ると奏者はもちろんお客の集中力も最高に高まり、会場の皆の気持ちの籠った感動的な演奏でした。
尾高さんの指揮は、全楽器の合奏になるこの交響曲の頂点でも爆発させ過ぎないため、これによりお客の集中力を解放せず、惹き付け続けるので、感動をより深めたと思います。
最後、弦楽器の音が静かに消えていって、会場は20秒位の静寂に包まれました。
この曲では指揮者の演出でよくあることなのですが、これを引っ張り過ぎないのも好印象でした。
終演後は巨大なフェスティバルホールの空間にまさに地鳴りのような大きな拍手が続きました。
尾高さんは客席へ向け「まさか自分が癌になるなんて思わなかった。きょうは奏者、曲、お客が一体となり素晴らしい演奏になった。医者は100%治ると言っている。信じて頑張る。5月(11日)のブラームス演奏会も振るのでよろしくお願いします」とおっしゃっていました。
この強い意思が本当に奏者とお客にしっかり伝わったことで、感動的な時間を作り出したのだと思います。
ステージ設置されていたマイクの本数から、おそらくレコーディングがされているのだと思います。尾高さんの元気な復帰とCDの発売が、今から楽しみで仕方ありません。

(2019.4.13 大阪 フェスティバルホール)


日本センチュリー交響楽団 第234回定期演奏会

2019-04-11 22:00:00 | Concert Reviews
日本センチュリー交響楽団 第234回定期演奏会

指揮
飯森 範親

ワーグナー
交響曲 ホ長調
ブルックナー
交響曲第9番 ニ短調 WAB 109(コールス校訂版)

2019年度最初の定期はの指揮は、就任6年目を迎える首席指揮者の飯森範親さん。
ハイドンの交響曲全曲の演奏会とレコーディングを始めたり、定期演奏会を同一プログラム2日公演に挑戦したり(今年度は1日公演)、豊中文化芸術センターやびわ湖ホールで定期的に演奏会を開催したりと、今のセンチュリーには勢い、元気さを感じます。

ワーグナー 交響曲ホ長調
作曲家の草稿が1楽章と2楽章少々のみ残る作品だそうです。この日は1楽章のみの演奏。
ワーグナーのオペラのような重厚な感じではなく、明るく明快な雰囲気の曲でした。

ブルックナー 交響曲第9番
センチュリーの個々の奏者のレベルの高さと、飯森さんのまっすぐ真面目な指揮が最高の成果を出した演奏でした。
出だしの弱音部分から、とにかく巧い。そして重厚な響きの部分はとにかく美しい。
木管のソロや弦楽器のピッツィカートもぐっと引き込まれるような旨さがありました。
センチュリーでは終演後多くの楽団員さんがホール出口でお客の見送りをしていて、そこで何人かの奏者さんが言っていましたが、曲の最後の部分は本当に昇天するような気分になりました。
聴く人皆がそう思っていたはずで、チューバの最後の音が消えたあと数十秒、沈黙、無音の時間が続き、その後、自然発生的なブラヴォー声と本当に大きな拍手に現れていました。

(2019.4.11 大阪 ザ・シンフォニーホール)