兵藤庄左衛門、批評

芸術、芸能批評

舞台芸能、批評、日本の伝統舞台芸能

2015-02-01 18:43:07 | 舞台芸能批評
批評、日本の伝統舞台芸能

☆ 能

・DVD『NHK能楽名演集 能 鉢木』宝生流 近藤乾三、松本謙三 1970
 近藤乾三は実直、愚直、剛直な雰囲気がよく出ている。松本謙三は奥ゆかしい上品さと誠実さが内に込められていてよい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 隅田川』観世流 梅若六郎、宝生弥一 1977
 神秘的、静謐、わびしさ、母と子の情、しんみりさせる梅若六郎の存在感はすばらしい。ただ声の衰えは感じる。

・DVD『NHK能楽名演集 能 頼政 能 弱法師』喜多流 喜多六平太、森茂好、喜多流友枝喜久夫、松本謙三 1957
 喜多六平太の『頼政』前半の翁の朴訥さ、後半の頼政霊の凄み恨みの対比はすばらしい。『弱法師』のはかなさ、わびしさ、しみじみした情愛の場面がよい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 井筒』観世流 観世寿夫、宝生閑 1977
 しっとりした出だしが、奥ゆかしくも上品で夢幻な感じを醸し出し良い。後半、有常娘の霊が登場してきて、霊そのもののような浮遊感をもってスローモーションのように、ゆっくり大きな動作でたおやかに舞う姿は、あの世の天女のように上品かつ夢幻的ですばらしい。シテ観世寿夫の真骨頂。舞台での動きに前がかりつつも重心のとれた姿勢がりりしい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 黒塚 能 葵上』金春流 櫻間道雄、本田秀男、豊嶋十郎1957、 金剛流 豊嶋弥左衛門、江崎金治郎 1975
 本田秀男のひなびた女人と櫻間道雄の背筋の伸びたりりしくかっこいい鬼婆はよい。
 六条御休息所の悩める姿、生霊、救われた姿の違いを微妙に演じ舞うが、ど素人の私には分かりにくい。

・DVD『NHK能楽名演集 仕舞 独吟一調 舞囃子集 全十一曲』仕舞「船弁慶、江口、雨月、三山、実盛」独吟「天鼓、實方(蘭曲)」一調「葛城、三井寺」舞囃子「清経、松風」喜多六平太、櫻間道雄、高橋進、田中幾之助、武田太加志、梅若万三郎、宝生弥一、木原康次、友枝喜久夫、後藤得三、1979,81,82
 喜多六平太は無骨でおおらかなところがある。櫻間道雄はからくり人形のようなロボットみたいな動きをする。それが今のロック(鍵)ダンスを超スローテンポにしたかのようだ。高橋進は抑制しきった控えめな動きである。田中幾之助の動きは大きく、能だから抑制されているのは当たり前にせよ、その抑制感よりもっと前へ前へと出て行こうとするエネルギーを感じるのでなお大きく感じる。武田太加志は大きなゆったりした動きに特徴を感じる。独吟は梅若万三郎、宝生弥一である。木原康次の謡に柿元豊次の太鼓で、太鼓の音がすばらしい。友枝喜久夫の謡に大倉長十郎の小鼓で、この編成だと小鼓の緩急強弱が分かりやすい。後藤得三はふんわりゆったりした動きを感じる。先代梅若万三郎の「松風」におおらかさを感じる。

・DVD『NHK能楽名演集 能 葵上 能 実盛』金春流 櫻間金太郎(弓川)、宝生新1936、 金春流 櫻間道雄、森茂好 1967
 「葵上」、きわめて古い映像記録とされる。英語の解説と英字字幕がつく。原作は「源氏物語」で、光源氏の正妻・葵上に嫉妬し生霊となってとりついた愛人・六条御息所を描く。前シテの生霊が女の嫉妬心をねちっこい陰険さと幾分の色気で舞う。後半鬼女となり心狂う憤怒の形相で舞い見ごたえがある。最後は浄化され去っていく。
 「実盛」、老武者斎藤実盛が老人だからとえこひいきされず正々堂々と戦うため、若武者に変装し最後の戦いに臨み、討ち取られた無念と名誉を幽霊となって舞う。実盛は史実の人物で敵として戦った木曽義仲の恩人であったため、歴史に名を残す。伝説では上人の前に現れたとも言う。実盛の名誉を凛々しく典雅にかっこよく舞い、次いで無念を抑制させつつ典雅に情熱的に舞う。幽霊の凄みより風趣をにじませ去って行き、無常が漂う。

・DVD『NHK能楽名演集 能 鞍馬天狗・白頭 能 恋重荷』観世流 梅若実、1958、観世流 観世銕之丞(雅雪) 森茂好 1969
鞍馬天狗が剣術を教えるため薙刀による舞を舞うのはほんの少しだが、そこがクライマックス。遮那王(牛若丸)が引きとめた後余韻をもたせるがすぐ引っ込む。幼いながらも子方:梅若景英に存在感がある。
 片恋の荘司には哀愁が漂う。亡霊は凄みより恨みつらみを言う恋に殉じた女々しさをすら感じる。女御はいやみな女としては描かれていず、恋の理不尽を淡々と述べるのがよい。恋を通してこの世のどうにもならぬ理不尽・不条理を描く。

・DVD『NHK能楽名演集 能 羽衣 能 綾鼓』宝生流 野口兼資、松本謙三、52年、宝生流 高橋進、森茂好、78年
 「羽衣」、シテ野口は抑制しきった動きで、あっさりした動きに見える。姿勢はすっくとして美しいが、歩むと何やらたどたどしく見えて天女の舞うかのような軽やかさを感じられない。私の浅学さが分かる。
 「綾鼓」、シテ高橋の老人は前半あっさりした動きをし、さばさばと入水する。後半怨霊となっても凶暴さより恨み辛みを述べ、人の業の侘しさ悲しさを感じる。怨霊が女御に触れ綾鼓を無理に打たそうとする場面は、能には珍しく直接触るので、インパクトが強く官能的ですらある。

・DVD『NHK能楽名演集 能 通小町 能 鶴』喜多流 後藤得三、松本謙三、73年、喜多流 喜多実、81年
 「通小町」のツレ粟谷は、凛として強さと謎めいたものを醸し出す。僧への恨み言も強くきっぱりと見える。シテ後藤は小町へ恨みを述べるが、淡々としあきらめがあるかのように静謐謙虚でしおれていて哀れが出る。扇を開き舞うと急に凛とした雰囲気が出る。
 「鶴」は新作能で戦後昭和の作。シテ喜多実の鶴は最初女として登場し、赤衣で椅子に腰掛けるなど動かず背も低く見せるが、鶴の姿として白衣になると急にきらびやかになり背を伸ばし両腕の袖を大きく広げ、鶴が舞い上がる動きを躍動感すら感じるように舞う。新作能だからできる新しい振り付けといえようか。

・DVD『NHK能楽名演集 仕舞 一調 舞囃子集 全九曲』仕舞「実盛、頼政、笹之段、融、松風、羅生門」一調「橋弁慶」舞囃子「船弁慶・白浪之伝、清経、」梅若六郎、梅若恭行、大西信久、大坪十喜雄、櫻間金太郎、友枝喜久夫、宝生弥一、金剛巌、喜多六平太、1977,93、82、81、79、62
実盛、上記「鞍馬天狗」で子方だった景英が地謡で登場し成長しているのが分かる。六郎の声が朗々としていてよい。戦のハードアクション、老兵のわびしさ、無常観をあらわす。
 頼政、宇治川の合戦を描写し、勇ましさを訴える。はじめ腰掛け舞を抑制し謡を主とする。悲壮感よりすがすがしい型を感じる。最後は自害し果てるはかなさを描く。
 橋弁慶、謡と小鼓のコラボレーションの競演に熱が入る。
 笹之段、静かな舞だがきりっと締まっていてわびしさもある。
 融、厳しい抑制感がある。
松風、わびしい静けさ、静謐感がある。
羅生門、しみじみ風流に舞う。
 船弁慶・白浪之伝、平家の亡霊が長刀を持ち躍動感のある舞いでピカレスクのおもしろみを出す。歌舞伎風の子方がいる。他流派でも若者が演じるが子方なのは歌舞伎からの逆影響か。「白浪之伝」は金剛流独自の演出である。義経主従は船から動かず狂言師の漕ぎ手の漕ぐ動きが目立つ。そこへ縦横無尽に亡霊が舞い動と静の違いが明確化する。跡で白波だけが残るというのも動と静の違いで、始まりも静であることに気付く。
清経、動かぬ六平太14世、一種独特の緊張感、荘重さ、威風堂々たる雰囲気、腰が据わっている証拠だ。しかし謡いは今ひとつと感じた。声の衰えだろう。

・ビデオ『能のすべて 日本伝統芸能-鑑賞と指導』全6巻 斉藤耕一監督これも各要素を手際よく視覚的に説明していてよい。1巻30分。監督は斉藤耕一である。『津軽じょんがら節』『約束』で知られた名監督は以後このような仕事をしていたことを知った。名監督の一端としてフランスのフィルム・ノワールを思わせるシャープでクールな映像美を感じる。

・TV、「春日龍神、金春流」金春安明、宝生閑、大藏吉次郎、60分、’13 1/1

・TV、「新春能狂言 観世流 竹生島 女体」、梅若玄祥、角当直孝、野村四郎、三島元太郎、60分、’15 1/1 NHK-Eテレ、ダイジェスト
 初めに登場するあでやかな衣装でしとやかに佇み舟に乗る女性。変わり身をしての弁財天でのこの世ならぬ高貴にして浮遊するかのようなゆったりした舞。最後を飾る竜神の激しさ。季節は春爛漫花満開のうららかな陽春。ひたすら舞やしぐさを堪能できる作品。



☆狂言
・DVD『NHK能楽名演集 狂言 木六駄、武悪、見物左衛門』大蔵流 茂山弥五郎、茂山千五郎1959、和泉流 野村万蔵 1966、和泉流 野村万蔵 74
 木六駄、雪道を牛追う姿が滑稽。そそのかされ酒を飲むほどに止まらなくなり勢いが増し上機嫌になる様が予想通り愉快で、酔って舞う姿が見事でおもしろい。
武悪、太郎冠者が武悪を討たねばならぬが、討てずに泣き合うところが淋しくも滑稽だ。幽霊の振りをした武悪と主人が話し合う場面は愉快かつスリリングだ。武悪はうらみつらみを述べ責め立てられた主人が最後に逃げ回るのは滑稽かつ何か淋しい。
見物左衛門、一人芝居独演で、役者の技量が見もので、落語のように役者のせりふで周囲の光景が見えるかが課題、どこまで客を引き込ませられるかは、客にいかに話し掛け、わずかな動きに引き込むかの手練手管である。狂言独特の動きが確認しやすい。後半メインの相撲の取り組みが愉快だ。

・DVD『NHK 小さな狂言師誕生~野村萬斎・親子三代の初舞台~ 狂言「靭猿」』03年、110分
かの万蔵の息子が万作、万作の息子が萬斎、その息子が祐規三歳、万作、萬斎、祐規が魅せる。万作妻が言う、こうして狂言役者は作られる。そこには誇りと少しの哀しみがあると。猿に始まり狐に終わる狂言役者の出発点を記録する。稽古や公演を重ねて四歳になった祐規の舞台公演を鑑賞できる。稽古場面の緊迫した様子が貴重だ。

・DVD『NHK 万作・萬斎 狂言の世界』04年、151分  
3本のVHS作品を収録。「狂言師 野村萬斎 初舞台から襲名まで」’95 、「狂言師 野村萬斎 エイスケそしてニューヨーク」’98 、「野村万作『最後の狐に挑む』」’95 、
 萬斎の成長を100分掛けて見ることができる。他分野との緊迫したコラボも見られ狂言の可能性を感じさせる。父:万作の釣狐にかける情熱は凄みがある。万作による狂言演出の工夫も見られる。今もって演出は変化していることが分かる。

・三宅藤九郎
狂言役者、故人、特別重要無形文化財(人間国宝)。彼をはじめてみたのは、JR五反田駅南の喜多八能楽堂であった。登場してきたとき、なんやしょぼくれたじいさんやなあ、と思っていたら、突然生き生き演じ始め他の若い役者たちより、よっぽど若々しい演技で舞台をリードしていったのだ。それこそ人生にしょぼくれていた僕は、少し明るさをもらったのかもしれない。彼の頬が演技で上気して紅く染まっていき、響き渡る張りのある声を忘れられない。あとで彼が狂言界の重鎮であることを知った。

・ビデオ『狂言 鑑賞入門』全1巻
 30分の中でてきぱきと解説されているが、もう少し詳細で見たくなるような解説とはないものだろうか。


☆文楽   
・ビデオ『文楽 日本の伝統芸能 鑑賞入門』全5巻
なかなか親しみやすく各要素を紹介している。軽妙な司会で明るく展開していく。1巻30分。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.1』
初段:
・「大序 大内の段」(72年5月、22分、モノクロ)豊竹松香太夫、豊竹英太夫、鶴澤叶太郎、吉田栄三、吉田辰五郎

 モノクロで古びていても出演者はきびきびしている。
・「加茂堤の段」(96年9月、22分、カラー) 竹本三輪太夫、竹本貴太夫、鶴澤八介、桐竹紋寿、吉田文吾、吉田玉幸、桐竹一暢
 恋のデートのしっぽりさと桜丸と三善のつばぜりあいがよいです。ここから物語が動き出すという感じです。
・「筆法伝授の段」(96年9月、62分、カラー) 竹本綱太、鶴澤清二郎、吉田玉男、吉田文雀、吉田文昇
 源蔵が登場し寺子屋の布石です。源蔵と丞相の抑えた感じがよい。
・「築地の段」(96年9月、20分、カラー)豊竹呂勢太夫、野澤喜一朗、吉田玉男、吉田文雀、吉田玉幸
 救出劇のサスペンス。義太夫の太棹、太い声と人形の演技がなんともいえない余情をかもし出す。なお録画内容は年代が違うものがあり、統一されていないはずだが、内容や人形の統一性があるため、違和感はさしてない。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.2』
二段目:
・「道行詞甘替」(72年5月、24分、モノクロ)竹本南部太夫、豊竹嶋太夫、野澤松之輔、竹澤団六(現・鶴澤寛治)、吉田玉男、吉田文雀、桐竹一暢

 しっぽり踊り恋の余情の見せ所。
・「安井汐待の段」(72年5月、22分、モノクロ) 豊竹呂太夫、鶴澤清治、吉田玉男、四代豊松清十郎、 
 淋しさを漂わせる大人の場面。
・「杖折檻の段」(02年4月、30分、カラー) 豊竹咲太夫、豊澤富助、吉田文雀
 親子の情愛と切なさを見せ付けつつ抑制された演出が最高。
・「東天紅の段」(83年1月、16分、カラー) 豊竹呂太夫、鶴澤清友、二代桐竹勘十郎、四代豊松清十郎、吉田玉幸
 残酷なサスペンスドラマの見せ所。
・「丞相名残の段」(83年1月、71分、カラー) 竹本越路太夫、鶴澤清治、吉田玉男、二代桐竹勘十郎、吉田文雀
 奇跡と荒事の伝奇サスペンスははらはらどきどきでやがて溜飲が下がる。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.3』
三段目:
・「車曳の段」(59年、24分、モノクロ) 豊竹山城少掾、八代竹本綱太夫、豊竹つばめ太夫(竹本越路太夫)、竹本津太夫、鶴澤藤蔵、吉田難波掾、吉田玉助、吉田栄三、吉田玉市

 三兄弟の荒事、時平のすごみがよい。悪はやっぱこうでなくちゃ。
・「茶筅酒の段」(88年4月、33分、カラー) 竹本伊達太夫、竹澤団七、吉田玉男
 白太夫と三兄弟妻のちょっとコミカルな演出がとても好き。サスペンスの緩叙楽章。
・「喧嘩の段」(88年4月、15分、カラー) 豊竹呂太夫、鶴澤燕二郎(現・鶴澤燕三)、吉田文昇、桐竹紋寿、吉田文吾、吉田玉幸
 相撲場面が秀逸。
・「桜丸切腹の段」(88年4月、49分、カラー) 竹本越路太夫、鶴澤清治、吉田玉男、吉田簑助、桐竹一暢
 桜丸の武士の意地、白太夫、八重の悲しみ、泣かせるね。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.4』
四段目:
・「天拝山の段」(02年4月、39分、カラー)竹本伊達太夫、鶴澤寛治、吉田玉男、桐竹一暢

 のどかな田園風景の梅見、その後のすさまじさは見栄えする。
・「北嵯峨の段」(72年5月、15分、モノクロ) 豊竹嶋太夫、竹澤団二郎(現・竹澤団七)、桐竹亀松、吉田簑助、吉田文雀、吉田文昇
 八重の大立ち回り、殺陣と悲しい最期。
・「寺入りの段」(88年4月、12分、カラー)竹本緑太夫、竹澤団治(現・竹澤宗助)、吉田簑助、吉田文昇
 一見寺子屋入門のように見えて母子今生の別れをそっと見せる。
・「寺子屋の段」(88年4月、69分、カラー) 竹本織太夫(現・竹本綱太夫)、五代鶴澤燕三、吉田簑助、吉田文雀、吉田文昇、吉田文悟
 やっぱここです。ぎりぎり引き絞った手綱から滴る涙の場面、笑顔で坊やが首を差し出したというところで武士の子の忠義と義理、切なさが溢れる。
五段目:
・「大内天変の段」(72年5月、21分、モノクロ)豊竹英太夫、野澤勝之輔、吉田玉男、吉田辰五郎、吉田文昇

 幽霊、敵討ち、悪の滅び、大団円で溜飲を下げさせきる。ところで、もっと敵討ちを派手にかっこよく決めてほしかったのだけれど。


・ビデオ『文楽 日本の伝統芸能 鑑賞入門』全5巻
なかなか親しみやすく各要素を紹介している。軽妙な司会で明るく展開していく。1巻30分。



☆舞楽
 
・舞楽「陪臚」宮内庁式部職楽部、NHK-Eテレ ’15 1/1  20分
 2段構成:陪臚破、新羅陵王急。数十年前の宮内庁式部職楽部による雅楽の舞のビデオのイメージが残っていて、結構バランスを崩しそうだったり、動きが鈍かったりすることが素人目にも分かる内容で、あまり練習していないのではないかというものだった。しかしさすが近年はよく訓練された整った舞を見せるようだ。4人の舞がシンクロされきちんと同調された動きでバランスもきっちりとれ美しい舞になっていた。









歌舞伎

2015-02-01 18:36:15 | 舞台芸能批評
☆歌舞伎
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 一本刀土俵入』中村歌右衛門、中村勘三郎
歌右衛門(人間国宝)のお蔦のすれっからしな退廃的雰囲気と圧倒的存在感はよいが、年の頃24~5という設定では無理を感じる。ずうずうしい存在感の情をうちにもった生活に疲れたおばさんだ。男のお人よしの善人さは残しつつも前半と後半での設定代わりはよい。最後のせりふは泣かせる。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 本朝二十四孝 平家物語健礼門院』中村歌右衛門
 恋心抱く若い八重垣姫を歌右衛門が芸達者に見せる。艶っぽい濡衣を中村芝翫が好演。
 健礼門院の枯れた味わいに歌右衛門の至芸を感じろということだろうが、苦手。

・ DVD『NHK歌舞伎名作撰 恋飛脚大和往来 封印切』中村鴈治郎、中村扇雀
 どうも今ひとつ気に入らないが、上方歌舞伎の名優による定番である。鴈治郎の当たり役、忠兵衛。梅川は扇雀。八衛門は定番の我當。おえんに片岡秀太郎。NHKによる07年初春舞台中継では梅川が秀太郎であった。柔らかな味わいの中に芯の強さ、情の機微を感じろということだろうが、どうも苦手。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 伊勢音頭恋寝刃』片岡孝夫 中村雀右衛門
「野原地蔵前の場」は狂言風追い駆けがコメディ風で良い。だんまりと万野の意地悪も味があって良い。片岡孝夫演ずる貢の頼りなくニヒルな役、勘三郎のかっこよさがよく出ている。殺陣シーンのスローモーション風なところがおどろおどろしい不気味な迫力があってよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 勧進帳』弁慶:市川團十郎 富樫:中村富十郎 義経:尾上菊五郎97年2月 歌舞伎座
ビデオ「歌舞伎鑑賞入門」と同じ配役の同一映像であるが、これは全編ノーカットで堪能できる。主演三人の個性の出し方がよい。またコミカルさ、けれんみ、展開の妙、どれをとってもよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 一の谷嫩軍記 熊谷陣屋』直実:松本幸四郎 相模:中村雀右衛門弥陀六: 市川左團次 義経:市川染五郎 藤の方:中村松江(魁春) 03年1月 歌舞伎座
幸四郎が清新でいやみがなくてよい。最後の泣かせもよい。染五郎の義経は動きのない中に品格と抑制された思いがにじみ出ている。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 菅原伝授手習鑑 寺子屋』松王丸:八世松本幸四郎(白鴎) 千代:二世中村鴈治郎 戸浪:中村芝翫 武部源蔵:十三世片岡仁左衛門 75年1月 歌舞伎座
幸四郎と鴈治郎がよい。「せまじきものは宮仕え」をしていかねばならぬ仁左衛門の苦味がよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 野田版 研辰の討たれ』守山辰次:中村勘九郎 平井市郎右衛門:板東三津五郎 萩の江:中村福助 01年8月 歌舞伎座
抱腹絶倒。歌舞伎というより歌舞伎役者による現代風時代劇。勘九郎の台詞回しや所作がよい。抑制された歌舞伎美とは違い、過剰なまでに動き回りながらも、歌舞伎同様抑制された思いを出す演出、演技がよい。多分年に一度の歌舞伎座の余興フェスティバルで企画されたのではなかろうかと思うが、このような新名作までもが生まれでようとはたいしたものだ。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 天衣紛上野初花 河内山』宗俊: 中村吉右衛門 松江公:中村梅玉 市川左團次 板東弥十郎 99年1月 歌舞伎座
タイトルは「くもにまごう…」と読む。吉右衛門のけれんみ、今風で言うとちょいわるおやじが絶妙。これこそ歌舞伎のワルの醍醐味。獅童がせりふもない役で出ている。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 義経千本桜 川連法眼館の場、奥庭の場、蔵王堂花矢倉の場』忠信:市川猿之助 静御前:坂東玉三郎 92年12月 歌舞伎座
かつてスーパーカブキと呼ばれた猿之助お得意の芸だ。かつて私の大学の担当教授は猿之助は歌舞伎にあらずとまで断じたし、玉三郎にしても歌舞伎の芸に至っていないと手厳しかったが、今や立派な歌舞伎の一つのようです。二十数年も前、歌舞伎座で猿之助スーパーカブキ「義経千本桜」史上初の全編通し上演を見に行ったことを思い出す。宙吊りやぶっ返り、七変化に胸躍らせたものだ。
そのスピード感、そのど派手な演出、アクションに次ぐアクション、それは保守的には歌舞伎にあるまじきものだが、それこそが江戸の三悪所のひとつと云われた芝居、歌舞伎の醍醐味、エンターテインメントを掛け値なく知らしめてくれる。そして20数年前に見たものより、さらにスピード感、集団アクション(殺陣)が増している。玉三郎が妖艶だ。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 藤娘、保名、鷺娘』藤の精:七世尾上梅幸 安倍保名: 中村芝翫 鷺の精: 坂東玉三郎 87年5月、03年1月 歌舞伎座 02年5月 南座
梅幸の動きはしなやかで、娘らしく上品でよいが、でもちょっと、…。芝翫の崩れたようなデカダンな雰囲気はよい。玉三郎最高、ぞくぞくする。計算されつくした舞いだ。ただ後姿の色気は歌右衛門にはかなわない。玉三郎は十年後には人間国宝だろう。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 英執着獅子、隅田川』獅子の精: 中村雀右衛門 斑女の前: 中村歌右衛門 舟人:十七世中村勘三郎 01年5月 歌舞伎座
「英執着獅子」は能の「石橋」に材をとり、傾城の色気も加味して、ゴージャスな舞台にしたものだ。雀右衛門の色気と勇壮な動きが絶品。
「隅田川」は歌右衛門と勘三郎が見事、歌右衛門の演ずる悲しみと物狂いは、これこそ最高の演技、それを見つめる勘三郎が派手な演技をするわけではなく、かといって引きすぎることもなく、一見飄々としているが、たまらなく胸かきむしる、せつなさを訴える。二人の息がぴったりで最高の舞台だ。ベスト・オブ・カブキである。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 勧進帳』弁慶:七世松本幸四郎 富樫:十五世市村羽左衛門 義経:六世尾上菊五郎43年11月 歌舞伎座
富樫は威厳と凄みもあってよい。今の役者にとってはこれがスタンダードなのだろう。そのため凄みはあまり感じられない。長唄との息、弁慶の舞などさすが。ただ古い記録なので白黒で音響は今ひとつであるが、半世紀前の舞台映像を見られること自体が素晴らしい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 スーパー歌舞伎 ヤマトタケル』市川猿之助 中村歌六 市川段四郎 95年4月 新橋演舞場
猿之助スーパー歌舞伎の確立作。現代的エンターテインメント、歌舞伎の様式美、感動といった諸要素を並立させた一大叙事詩。歌舞伎の歴史、いや日本演劇史に名を残したといってよい。古典歌舞伎の様式からはだいぶずれているが、あらたなる歌舞伎の可能性を示した。

・DVD「NHK歌舞伎名作選、達陀・二人椀久」70年4月NHKスタジオ、二世尾上松緑、尾上菊之助(現・菊五郎)、初世尾上辰之助(三世尾上松緑)、中村富十郎、中村雀右衛門
 「達陀」は、いかにも僧の踊りが現代的シャープかつすっきりしている。女人と僧の踊りもおどろおどろしさがなく、すがすがしささえ味わえてシャープ&ドライで好感がもてる。
 「二人椀久」は、富十郎と雀右衛門により、熟しきって腐る寸前のような怠惰な色気が漂う。
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 白浪五人男 浜松屋の場から滑川土橋の場まで』弁天小僧菊之助: 尾上菊五郎 南郷力丸:初世尾上辰之助 日本駄右衛門:市川左團次 忠信利平:坂東彦三郎 赤星十三郎:中村時蔵 86年12月 歌舞伎座
 歌舞伎の醍醐味に尽きる。菊五郎、辰之助コンビはまだ今ひとつといった印象だが、若々しくよい。菊五郎にはもっと娘っぽい色気があるとよいが、そこも今ひとつ。極楽寺屋根上の殺陣は見事。辰之助の力丸と名将の演じ分けはすがすがしい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ) 伊達の十役 稲村ヶ崎の場~問注所白州の場』十役:市川猿之助 86年 歌舞伎座、177分
 「伽羅先代萩」の構図を借り、伊達騒動による勧善懲悪劇を見せる。芝居の魅力はなんといっても猿之助の十役早替り計四十数回というものだ。鶴屋南北のサスペンス・ミステリー・スペクタクル・エンターティンメントでスケールの大きな脚本がいい。無論猿之助の演出がいい。彼のスーパーカブキのよさが全開している。彼のワンマンショーといえるが、九世澤村宗十郎、三世實川延若が脇をしっかり固めている。一回早替りが早すぎて分からないところがある。猿之助のどすの効いた立役男役もいいが、女形もなかなかである。得意の宙乗りもあり、サービス満点だ。昔主任教授に猿之助のものは歌舞伎ではないとあっさり否定されたが、今となっては現代歌舞伎の改革路線の一つだったといえよう。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 義経千本桜 渡海屋の場、大物浦の場』渡海屋銀平・実は新中納言知盛: 片岡仁左衛門 源九郎判官義経:中村福助 相模五郎:中村勘九郎(現・勘三郎) 入江丹蔵:坂東三津五郎 04年 歌舞伎座、108分
今を盛りの役者多数出演で粋のいい演技を堪能できる。芝翫が長老格だ。おかしみ、殺陣、しんみりなどを中堅どころが生き生きした舞台で見せる。今の仁左衛門がダーティなよさを見せ付ける。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 伊賀越道中双六 沼津 沼津棒鼻の場、平作住居の場、千本松原の場』呉服屋十兵衛:先代:二世中村鴈治郎 平作娘:中村扇雀(現・坂田藤十郎) 雲助平作:十三世片岡仁左衛門 80年 歌舞伎座、109分
 鴈治郎、仁左衛門による最初のコミカルなやり取りはつかみとしてよく、上品な味わいを出す。扇雀のたおやかさ、しおらしさ、色気はほどよい。非業の最期をじわじわと醸し出していく手綱さばきは見事。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 新皿屋鋪月雨暈 魚屋宗五郎・茨木 魚屋宗五郎内の場、磯部邸玄関先の場』魚屋宗五郎:2世尾上松緑 女房おはま:7世尾上梅幸  68年、82年 NHKにて収録、104分
酔っていく様と啖呵の切り方が見所。
渡辺綱と茨木童子の優雅、哀れ、雄々しさ、怒りの渡り合いは見所満載。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 祇園祭礼信仰記 金閣寺』将監息女雪姫:中村雀右衛門 松永大膳:松本幸四郎 慶寿院尼:澤村田之助 此下東吉・真柴筑前守久吉:尾上菊五郎 03年 歌舞伎座、96分
 いかにも歌舞伎らしいけばけばしさと何でもいいとこ取りのご都合主義さがよい。けばい夢に酔える舞台。幸四郎の悪党は豪傑振りとシニカルなニヒルさ誠実さも併せ持った二枚目悪党振りでいい。雀右衛門の哀れさ清々しさ色気がいい。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 大序・鶴ヶ岡社頭兜改めの場 三段目・足利館門前進物の場/足利館松の間刃傷の場 四段目・扇ヶ谷塩冶判官切腹の場/扇ヶ谷表門城明渡しの場』高師直:2世尾上松緑 塩冶判官:7世尾上梅幸 桃井若狭之助・石堂右馬之丞:17世市村羽左衛門 顔世御前: 中村芝翫 足利直義:中村福助 大星由良之助:8世 松本幸四郎 薬師寺次郎左衛門:3世河原崎権十郎 大星力弥: 中村勘九郎(現・勘三郎)  77年11月 歌舞伎座、190分
 豪華絢爛なる大序、歯がゆさと滑稽の三段、四段の荘厳と悲哀、憤怒。疾風怒濤のドラマ展開。切腹の作法も分かる。色と欲がドラマの始まり、さまざまなる人間模様が綾を成していく。演技、演出がまたドラマを盛り上げよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 道行・道行旅路の花聟 五段目・山崎街道鉄砲渡しの場/山崎街道二つ玉の場 六段目・与一兵衛内勘平腹切の場』早野勘平:17世中村勘三郎 腰元おかる:7世尾上梅幸/6世中村歌右衛門 鷺坂伴内:中村又五郎 不破数右衛門:17世市村羽左衛門 斧定九郎:市川海老蔵(現・團十郎) 千葉政五郎:3世河原崎権十郎 3世片岡我童  77年11月 歌舞伎座、154分
 道行きのあでやかさ色気華やかさあやうさが、後の生活感、非業さに対比する。おかるの色気、尽くす思いの女房ぶり。勘平の誠実さ悲しみ執念をいかに表すかである。ドラマティックなつくりがやっぱり水際立った演技を引き立たせる。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 七段目・祇園一力茶屋の場』大星由良之助: 2世尾上松緑 遊女おかる:6世中村歌右衛門 寺岡平右衛門: 8世 松本幸四郎 大星力弥: 中村福助(現・梅玉) 77年11月 歌舞伎座、106分
 遊び浮かれるさまと後半の手紙を見られてからの深刻さの対比がドラマティック。松緑、歌右衛門がひきしまる。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 九段目・山科閑居の場 十一段目・高家討入りの場(高家討入りの場/同 大広間の場/同 奥庭 泉水の場/同 炭部屋本懐の場)』戸無瀬: 6世中村歌右衛門 加古川本蔵: 8世 松本幸四郎 大星由良之助:13世片岡仁左衛門・2世尾上松緑 お石: 中村芝翫 大星力弥:3世實川延若・中村福助(現・梅玉)  小浪: 中村雀右衛門 小林平八郎:中村富十郎 高師泰:市川男女蔵(現・左團次) 竹森喜多八:中村勘九郎(現・勘三郎) 78年1月、77年11月 歌舞伎座、123分
 「山科閑居」の雀右衛門は可愛い。歌右衛門は深い思いがあってあのように刀を振るうのだろうが、やけに軽々と流麗に振るようで、切りたくないのにという思いや、いかに武家の妻とはいえ普段主人の剣を持ち振ることはなかろうから、もっと重そうに不器用に嫌々持ってほしいなどと、歌右衛門の思慮が分からぬ浅学な私は思った。幸四郎、仁左衛門の絡みが良い。特に誠実さと落ち着きが出る仁左衛門最高。
 討入りは近代の改作で近代風だ。テンポ速く、殺陣シーンのオンパレード。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 雷神不動北山桜 毛抜・鳴神』粂寺弾正: 市川團十郎 腰元巻絹:中村時蔵、鳴神上人:9世市川海老蔵 雲の絶間姫: 7世尾上梅幸 粂寺弾正:17世市村羽左衛門  05年、歌舞伎座、56年、明治座 157分
 「毛抜」、團十郎のおおらかさひょうきんさ豪快さが親近感をもたせる。家老玄蕃の憎々しさはこれでもいいが、もっと憎たらしいといいのだが。 若菜の右之助がきれい。勅使の抑えた上品さと人情味がよい。
 「鳴神」、梅幸はこれでいいが、個人的好みとしてはもっと色っぽい女形の方がいい。上人が色香に迷い堕落し、女の尻に敷かれるさまは笑え肯定的でおもしろい。上人が姫の体を触る場面はこの演出ではあっさりしていたが、もっと細かく扇情的な演出もある。どちらを好むかは人次第か。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 助六由縁江戸桜』花川戸助六・実は曽我五郎: 市川團十郎 白酒売新兵衛・実は曽我十郎:尾上菊五郎 曽我満江:澤村田之助 髭の意休・実は伊賀平内左衛門: 市川左團次 くわんぺら門兵衛:市川段四郎 三浦屋揚巻: 中村雀右衛門 03年1月 歌舞伎座、119分
 それぞれのキャラクターが明確で分かりやすい。だからといって単純平板な人物ではなく、腹に逸物もちつつ実は何とかだが、身をやつしているといった設定で、歌舞伎にはよくある設定である。そのことが人物を膨らめ人物造形をはっきりさせ魅力的にする手立てになっているようだ。途中のおちゃらけも楽しい。團十郎はすっきり二枚目かっこいい。歌舞伎はやっぱりエンターテインメント。豪華絢爛な舞台。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 梶原平三誉石切』梶原平三景時:中村吉右衛門 青貝師六郎太夫: 市川左團次 娘・梢: 中村時蔵 大庭三郎景親: 中村富十郎 99年 歌舞伎座、85分
 吉右衛門が抑えつつもすっきりした二枚目でいい。泣き、情け、見得などがほどよく配合されているが、大庭方の富十郎と橋之助がもっと嫌みたらしいといい。奴や囚人にもっとおかしみがあるとメリハリがつくかも。景時を善玉に描くものはこれくらいか。さわやかな後見心地の作。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 曽我綉侠御所染 御所五郎蔵 序幕 五条坂仲之町甲屋の場 二幕 第一場 甲屋奥座敷の場 第二場 廓内夜更の場』御所五郎蔵: 尾上菊五郎 傾城皐月: 中村芝翫 星影土右衛門: 市川左團次 甲屋与五郎:坂東三津五郎 01年 歌舞伎座、73分
 前半は七五調美文調のせりふ劇の楽しさ、立て板に水のような次から次への颯爽としたせりふのやり取りは心地いい。終盤の殺陣シーンは相手によって趣向が変わり見せ場たっぷり。傾城逢州の尾上菊ノ助は凛として若々しく色気もあってよい。人への隠された思い、激変する感情などの見せ場も多い。割り台詞のテンポがいい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 黒塚』老女岩手・実は安達原の鬼女: 市川猿之助 阿闍梨祐慶: 9世澤村宗十郎 強力太郎吾: 市川段四郎 山伏太郎坊:市川門之助 山伏讃岐坊:市川右近 95年7月 歌舞伎座、78分
 猿之助の老女、鬼女がよい。激しい舞はたいしたもの。阿闍梨との対決シーンは娯楽スペクタクル。老女の糸車シーンも風情があってよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 棒しばり・年増・供奴』奴菊平: 中村富十郎 お柳: 中村芝翫  次郎冠者: 中村勘九郎(現・勘三郎) 曽根松兵衛:坂東弥十郎 太郎冠者:坂東三津五郎 04年,02年、84年 歌舞伎座、76分
 棒しばり、狂言の演出をほぼそのまま持ち込んだ「松羽目物」。より娯楽色を強め、滑稽で舞の魅力もたっぷり楽しめるようになっている。勘九郎と三津五郎の舞が見事。せりふも狂言のものを踏襲している。
年増、芝翫の舞は若々しくすがすがしく凛としつつほんのり色気が漂う。いかにも24~5歳の年増を魅せる。
供奴、富十郎の舞は、少し滑稽かつ軽妙で若々しい男舞。元気な和製古式タップ。

・ DVD『NHK歌舞伎名作撰 極付幡随長兵衛 禰宜町 村山座舞台の場 花川戸 長兵衛内
の場 麹町 水野邸座敷の場 水野邸湯殿の場』幡随長兵衛: 松本幸四郎 水野十郎左衛門: 尾上菊五郎 長兵衛女房 お時:中村芝翫 唐犬権兵衛: 中村勘九郎(現・勘三郎) 坂田兵庫之助公平: 市川左團次 88年 歌舞伎座、92分
 舞台上での劇中劇の左團次がよい。見得を切ってばしっと決めていながら、トラブルで進行が止まり再度やり直すところは狂言回しとしてユーモアをうまく出す。その場面で登場してくる幸四郎が優しく威風堂々としていてよい。人情味と男っ気をうまく引き出す。ストーリー展開の持っていき方、特に最期への展開が何か腑に落ちない。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 壇浦兜軍記 阿古屋』遊君阿古屋: 坂東玉三郎  岩永左衛門致連: 中村勘九郎(現・勘三郎) 秩父庄司重忠: 中村梅玉 ‘02 歌舞伎座、76分
 玉三郎の琴、三味線、胡弓は絶品。そして色っぽい。梅玉のさわやかさ雄々しさもよい。勘九郎の人形振りが悪さと滑稽さと何か人のよさが出る。


・ビデオ『歌舞伎の魅力』全5巻 監督:羽田澄子
説明付きで各場面のダイジェストを見るというのは人によってはうっとうしかろうが、各場面の各要素が分かりやすくてよい。ただ1巻30分は短い。第2巻は片岡仁左衛門特集の30分間である。私は見たことがないが、あの大長編文化映画『片岡仁左衛門』で知られた女性監督の作品である。第2巻はその一部ということなのだろう。

・TV、「平成中村座ニューヨーク公演 法界坊 ‘07」  ’12 12/30    
 勘三郎(当時先代勘九郎)のコミカルさと荒事っぽさを存分に発揮、橋之助、新之助等もよい。芝居のおもしろさ、生の舞台の臨場感、ライヴ感、スピード感、生きてあるという存在感、そこから湧き出す生き物のパフォーマンスを大事にしていたのか。
歌舞伎界戦後昭和の改革者はスーパーカブキ創始者先代猿之助、平成の改革者は勘三郎であった。まだこれからというときに日本演劇界、いやさ日本文化界は偉大な改革者を失った。
・TV、「京都南座顔見世大歌舞伎」、「仮名手本忠臣蔵」五・六段目、片岡仁左衛門、市川左團次、中村時蔵、片岡秀太郎、「寿曽我対面」中村勘九郎襲名披露、   ’12 12/31   

・TV、大坂松竹座、東京新橋演舞場から生中継、「義経千本桜・四の切」市川猿之助・秀太郎・扇雀、「仮名手本忠臣蔵・七段目」幸四郎、吉右衛門、芝雀、150分、’13 1/2  
 新猿之助の忠信狐はよかった。前猿之助の名跡をしっかり引き継いでいけるだろう。香川照之こと市川中車も歌舞伎役者として始動したようだ。

・TV、こいつぁ春から~初芝居生中継、「劇場のにぎわいと初芝居の模様を生中継、四代目中村雁治郎」、150分、’15 1/2 NHK-Eテレ 
 「封印切り」:雁治郎の封印切りは基本線、藤十郎路線を引き継いでいる。
「廓文章」:しっぽり濡れるならこれ。
「棒しばり」:この狂言演目の歌舞伎を初めて見た。エンターテインメント性十分で、面白く見られた。
「黒塚」:新猿之助と新之助の若々しさ堪能。
「四代目中村鴈治郎襲名披露口上」
「金閣寺」:中村七之助が若々しくすがすがしい色気が漂う。
「蜘蛛の拍子舞」:玉三郎が色気と毒気を出す。
「一本刀土俵入」:松本幸四郎が魅せる。
「番町皿屋敷」:
「女暫」:玉三郎が凛々しい。
「寿曽我対面」:
「河内山」:片岡仁左衛門
「将軍江戸を守る」:
「春調娘七種」:若手役者が浅草に集結
「一條大蔵潭」:
「独楽売」:
「仮名手本忠臣蔵五段目六段目」:
「猩々」:若手浅草歌舞伎七人衆
「俄獅子」:
「石川五右衛門」:漫画作者による新作、海老蔵。南禅寺山門からの絶景かなもある。新橋演舞場。