兵藤庄左衛門、批評

芸術、芸能批評

芸能批評、オペラ

2014-03-22 13:51:38 | 舞台芸能批評
☆オペラ
・ビデオ『オペラ大全集』ポリグラム全33巻より
1.「フィガロの結婚」全曲1、モーツァルト、カール・ベーム:指揮、演出:ジャン・ピエール・ポネル、ウィーン・フィル、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ、キリ・テ・カナウ、ミレッラ・フレーニ、ヘルマン・プライ、102分、音声75年12月、映像76年6月
序曲の演奏やいかにかすばらしきかなである。プライとディースカウの二大ドイツ歌手共演はよい。モーツァルトの皮肉の効いた快活なコメディオペラをウィーンフィルとベームの音が引き締める。演出と歌手も快活さと手堅さを両立させじっくり聴ける作品に仕立て上げている。
 音を前もって録音し、スタジオで映画録画して、より自然なドラマになっている。
2.「フィガロの結婚」全曲2、モーツァルト、カール・ベーム:指揮、演出:ジャン・ピエール・ポネル、ウィーン・フィル、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ、キリ・テ・カナウ、ミレッラ・フレーニ、ヘルマン・プライ、80分、音声75年12月、映像76年6月
 後半のドラマに一気にのめりこませる。
3.「魔笛」全曲、モーツァルト、サヴァリッシュ:指揮、演出:アウグスト・エファーディング、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、クルト・モル、フランシスコ・アライサ、エディタ・グルベローヴァ、ルチア・ポップ、160分、93年、ミュンヘン・バイエルン・ライヴ、
 けっこう地味な演出で目新しさはないが、堅実できっちり聴ける。スタンダードを知るのによい。
4.『後宮からの誘拐』全曲、モーツァルト、
 *視聴不能。
5.「椿姫」全曲、ヴェルディ、サー・ゲオルグ・ショルティ:指揮、演出:、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団、アンジェラ・ゲオルギュー、フランク・ロパード、レオ・ヌッチ、リー・マリアン・ジョーンズ、ロビン・レガーテ、ジリアン・ナイト、134分、94年12月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス・ライヴ、
 ゲオルギューがよい。甘くドラマティックな音楽がうまく最後までもっていかせる。ショルティの質実剛健な演奏もマッチするのだろう。
6.「アイーダ」全曲、ヴェルディ、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、演出:、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ディミトリ・カヴラコス、ドローラ・ツァーイック、アプリーレ・ミッロ、プラシド・ドミンゴ、パータ・プルチュラーゼ、シェリル・ミルンズ、157分、89年10月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ドミンゴがやはりよいです。
7.「オテロ」全曲、ヴェルディ、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮・演出、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ジョン・ヴィッカーズ、ミレッラ・フレーニ、ピーター・グロソップ、ステファニア・マラグー、アルド・ボッティオン、ミシェル・セネシャル、マリオ・マッチ、ホセ・ヴァン・ダム、142分、72年12月音声ザルツブルグ、73年8月映像ミュンヘン、
 この性格的というか残忍というか不合理不条理の暗い熱情をうまいこと盛り上げていくものだ。ミレッラ・フレーニのはかなさがよい。
8.「リゴレット」全曲、ヴェルディ、リッカルド・シャイー:指揮、ジャン・ピエール・ボネル:演出、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ルチアーノ・パヴァロッティ、イングヴァール・ヴィクセル、エディタ・グルベローヴァ、ヴィクトリア・ヴェルガーラ、フェルッチョ・フルラネット、118分、81年12月音声ウィーン、82年4,5月映像マントヴァ、
 プロットとストーリーが近代的というか皮肉っぽい。そこにヴェルディも惹かれたのか。その内容にヴェルディの音楽が合っている。パヴァロッティが色男振りを唄でうまく表現する。
9.「トゥーランドット」全曲、プッチーニ、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、プラシド・ドミンゴ、エヴァ・マルトン、ユグ・キュエノー、ポール・プリシュカ、レオーナ・ミッチェル、134分、87年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 残酷さと華やかさ、可憐さがマッチングしている。ドミンゴの歌いっぷりがよい。
 *現在、視聴不能。
10.「蝶々夫人」全曲、プッチーニ、ミラッレ・フレーニ(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、クリスタ・ルートヴィヒMS)、ロバート・カーンズ(B)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィル、演出ジャン・ピエール・ポネル、’74.11.12月
出ずっぱりの蝶々夫人の音楽が切なくも節度があり、メロドラマでセンチなのにどこか抑制されていてよい。フレーニの歌唱、容姿申し分なし。それにしても蝶々夫人のワンマンショーね。
 *現在、視聴不能。
11.「ラ・ボエーム」全曲、プッチーニ、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 メロドラマにプッチーニの音楽が合う。ミレッラ・フレーニがまたよい。


12.「トスカ」全曲、プッチーニ、ブルーノ・バルトレッティ:指揮、ジャンフランコ・デ・ボシオ:演出、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、アンブロジアン・シンガーズ、ライナ・カバイヴァンスカ、プラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズ、アルフレード・マリオッティ、ジャンカルロ・ルッカルディ、マリオ・フェラーラ、ブルーノ・グレルラ、ドメニコ・メディーチ、プラシド・ドミンゴ・ジュニア、116分、映像:76年10月ローマ、音声:76年8月ロンドン、
 トスカの嫉妬、強さ、弱さ、愛情がよく出ていて誇り高さだ出ていた。スカルピア男爵が一見実直そうだが高尚っぽく実はすけべでイヤミたっぷりなのは個性的。ドミンゴの歌はいいね。

13.「カルメン」全曲1、ビゼー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、ブライアン・ラージ:映像監督、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、アグネス・バルツァ、ホセ・カレーラス、レオーナ・ミッチェル、サミュエル・レイミー、マイラ・メリット、ダイアン・ケスリング、アンソニー・ラチューラ、ブルーチュ・ハバード、バーノン・ハートマン、アラ・バーバリン、ニコ・カステル、シャルル・デュバル、111分、87年2月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 序曲から夢心地の娯楽パラダイスの世界を感じる。カレーラスの実直そうな感じもよいし、他のメンバーもよいが、カルメンがもっとわがままで奔放でうまいとよかった。

14.「カルメン」全曲2、ビゼー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、ブライアン・ラージ:映像監督、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、アグネス・バルツァ、ホセ・カレーラス、レオーナ・ミッチェル、サミュエル・レイミー、マイラ・メリット、ダイアン・ケスリング、アンソニー・ラチューラ、ブルーチュ・ハバード、バーノン・ハートマン、アラ・バーバリン、ニコ・カステル、シャルル・デュバル、60分、87年2月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ラストはホセがナイフを出しカルメンが刺されという伝統的な演出だが、これよりナイフを構えるホセに向かいカルメン自らがナイフめがけ飛び込み、ホセに抱きつき息絶えるという演出が好きだね。闘牛士とホセのバトルはいい。

15.「セビリャの理髪師」全曲、ロッシーニ、クラウディオ・アバド:指揮、ジャン・ピエール・ポネル:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、テレサ・ベルガンサ、ルイージ・アルヴァ、ヘルマン・プライ、エンツォ・ダーラ、パオロ・モンタルソロ、レナート・チェザーリ、ルイージ・ローニ、ハンス・クレイマー、カール・シャドラー、141分、映像:72年8月、ザルツブルグ、ミュンヘン、音声:71年9月ミラノ、
 ロッシーニの音楽が陽気で少しデモーニッシュ、今でならちょいと劇的でやっぱりよい。全編お気楽なコメディでうきうき。演出も気持ち良い。

16.喜歌劇「こうもり」全曲、ヨハン・シュトラウス2世、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、エーベルハルト・ヴェヒター、パメラ・コバーン、ベンノ・クッシェ、ブリギッテ・ファスベンダー、ヨーゼフ・ホプファーヴィーザー、ヴォルフガング・ブレンデル、フェリー・グルーバー、ジャネット・ペリー、イレーネ・スタンバイザー、フランツ・ムクセネーダー、イヴァン・ユンゲル、156分、86年12月、バイエルン国立歌劇場ライヴ、
軽く快活明るくうきうき浮気も酒もパーティーも楽しく騒げば人生すっきりか。音楽とせりふ、筋書きは観客を笑わせエンディングまで引っ張っていく。オペラ入門には最適。しかもこのカルロス・クライバー、バイエルン版は名演奏の誉れ高いようなのでなおさらです。クライバーはウィーンではこの指揮を決して行わなかったそうです。

17.楽劇「ばらの騎士」全曲1、リヒャルト・シュトラウス、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、フェリシティ・ロット、クルト・モル、アンネ・ソフィー・フォン・オッター、ゴットフリート・ホーニク、バーバラ・ボニー、オリヴェラ・ミリャコヴィッチ、ハインツ・ツェドニク、アンナ・ゴンダ、ペーター・ヴィンベルガー、75分、94年3月ウィーン国立歌劇場ライヴ、
 大掛かりな演奏で楽劇と称される。「サロメ」のような前衛性が薄らぎ聴きやすいし、それまでのウィーン後期ロマン派ぽい透明感のある洗練された音は健在で、ちょっとした官能性をくすぐる。シックな男装の麗人と麗しい女性の絡みはどきっとするし、スケベ男爵の下品エロの炸裂と対極化しつつも官能性を高める。官能と笑いと近代的な音楽の組み合わせがよい。

18.楽劇「ばらの騎士」全曲2、リヒャルト・シュトラウス、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、フェリシティ・ロット、クルト・モル、アンネ・ソフィー・フォン・オッター、ゴットフリート・ホーニク、バーバラ・ボニー、オリヴェラ・ミリャコヴィッチ、ハインツ・ツェドニク、アンナ・ゴンダ、ペーター・ヴィンベルガー、117分、94年3月ウィーン国立歌劇場ライヴ、
 クルト・モルのスケベ男爵全開。可愛い小姓の使い方が洒落ている。ロットの候爵夫人の哀しみとあきらめ上品な威厳は存在感があった。ロット、オッター、ボニーの歌の絡みは見事。だからこの配役なのね。吉田秀和はモーツァルト以外ではこれが最高に好きなオペラだそうだがむべなるかなです。私もこのオペラ好き。

19.楽劇「サロメ」全曲、リヒャルト・シュトラウス、カール・ベーム:指揮、ゲッツ・フリードリッヒ:演出、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、テレサ・ストラータス、ベルント・ヴァイクル、ハンス・バイラー、アストリッド・ヴァルナイ、ヴィエスワフ・オフマン、ハンナ・シュヴァルツ、フリードリッヒ・レンツ、エーヴァルト・アイヒベルガー、クルト・エクヴィルツ、カール・テルカル、アロイス・ペルナーレ・シュトルファー、ハインツ・クラウス・エッカー、ノーベルト・ハイドゲン、ラインホルト・メーザー、ヴォルフガング・プロプスト、ニコラウス・ヒルブラント、101分、映像:74年7,8月、ウィーン、音声:74年3月、ウィーン、
 官能的倒錯的残酷残虐的神の存在を問うという形而上学的深刻劇オペラで死の香りがプンプン漂う。音楽は官能的だそうだが、爽やかささえ感じられる。

20.楽劇「ラインの黄金  ニーベルングの指環 序夜」全曲、ワーグナー、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 

21.楽劇「ヴァルキューレ  ニーベルングの指環 第1夜」全曲1、ワーグナー、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 

22.楽劇「ヴァルキューレ  ニーベルングの指環 第1夜」全曲2、ワーグナー、ブルーノ・バルトレッティ:指揮、ジャンフランコ・デ・ボシオ:演出、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、アンブロジアン・シンガーズ、ライナ・カバイヴァンスカ、プラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズ、アルフレード・マリオッティ、ジャンカルロ・ルッカルディ、マリオ・フェラーラ、ブルーノ・グレルラ、ドメニコ・メディーチ、プラシド・ドミンゴ・ジュニア、116分、映像:76年10月ローマ、音声:76年8月ロンドン、
 


23.楽劇「ジークフリート  ニーベルングの指環 第2夜」全曲1、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ジークフリート・イェルザレム、ハインツ・ツェドニク、ジェイムズ・モリス、エッケハルト・ヴラシハ、マッティ・サルミネン、ビルギッタ・スヴェンデン、ヒルデガルト・ベーレンス、111分、90年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ワーグナーならではのちょっと粘着質というかオルガンぽいようなじわじわとした響きがいいです。はじめジークフリードはなんて身勝手な奴で義父に辛く当たるのだろうかと思うが、後半でそれが正しいことは分かるのでよいでしょう。なぞかけごっこや神話的設定はおとぎ話というか19世紀のスターウォーズといえるでしょうか。前半だけだと歌で盛り上がるところがいまいちで後半を期待しましょう。なぞかけも物語の事前設定を観客に知らしめるために挿入されていると思われますし。

24.楽劇「ジークフリート  ニーベルングの指環 第2夜」全曲2、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ジークフリート・イェルザレム、ハインツ・ツェドニク、ジェイムズ・モリス、エッケハルト・ヴラシハ、マッティ・サルミネン、ビルギッタ・スヴェンデン、ヒルデガルト・ベーレンス、140分、90年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ジークフリートが大蛇のファフナー退治、ミーメ殺し、エルダとの問答、ジークフリードとヴォータンの対決、ブリュンヒルデの目覚めと愛、というように後半は盛りだくさんで音楽もワーグナーだと思える分厚い響きが多く血湧き肉踊る展開だ。ちなみにヒトラーもワーグナーが好きだった。

25.楽劇「神々の黄昏  ニーベルングの指環 第3夜」全曲1、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、ジークフリート・イェルザレム、アンソニー・ラッフェル、エッケハルト・ヴラシバ、マッティ・サルミネン、ヒルデガルト・ベーレンス、ハンナ・リソフスカ、クリスタ・ルートヴィヒ、ギネス・ビーン、ジョイス・キャッスル、アンドレア・グルーバー、カーレン・エリクソン、ダイアン・ケスリング、メレディス・パーソンズ、125分、90年4,5月、メトロポリタン歌劇場ライヴ収録、
 分厚い音とだまし、裏切り、欺瞞、企み、欲望満点。様々な思いが錯綜し展開していく中で誤解、すれ違いも。歌が人の思いを代弁していく。

26.楽劇「神々の黄昏  ニーベルングの指環 第3夜」全曲2、ワーグナー、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、ジークフリート・イェルザレム、アンソニー・ラッフェル、エッケハルト・ヴラシバ、マッティ・サルミネン、ヒルデガルト・ベーレンス、ハンナ・リソフスカ、クリスタ・ルートヴィヒ、ギネス・ビーン、ジョイス・キャッスル、アンドレア・グルーバー、カーレン・エリクソン、ダイアン・ケスリング、メレディス・パーソンズ、154分、90年4,5月、メトロポリタン歌劇場ライヴ収録、
 分厚い音と集団合唱の迫力が相まってニーベルング大団円のスリル感満点。ジークフリート暗殺で一旦ピークを迎え、ブリュンヒルデの主張でカタルシスへと向かう。大道具が壊れていくさまに神々の黄昏を。

27.「タンホイザー」全曲1、リヒャルト・ワーグナー、ジュゼッペ・シノーポリ:指揮、ヴォルフガング・ワーグナー:演出・舞台装置、バイロイト祝祭管弦楽団、ハンス・ゾーティン、リチャード・ヴァーサル、ヴォルフガング・ブレンデル、ウィリアム・ペル、ジークフリート・フォーゲル、クレメンス・ビーバー、シャーンドル・ショーリョム・ナジ、 分、89年、バイロイト祝祭劇場、
 *現在、視聴不能。

28.「タンホイザー」全曲2、リヒャルト・ワーグナー、ジュゼッペ・シノーポリ:指揮、ヴォルフガング・ワーグナー:演出・舞台装置、バイロイト祝祭管弦楽団、ハンス・ゾーティン、リチャード・ヴァーサル、ヴォルフガング・ブレンデル、ウィリアム・ペル、ジークフリート・フォーゲル、クレメンス・ビーバー、シャーンドル・ショーリョム・ナジ、59分、89年、バイロイト祝祭劇場、
 最後の合唱はなんと清々しくも感動的で盛り上がることだろうか。よくTVコマーシャルのBGMにも使われる。はじめにヴェヌスを讃える賛歌も盛り上げるがこの曲に比べれば月とすっぽんになるように作られている。一度汚れた身でも精一杯あがなえば救われるという救済観念がある。ゲーテの「ファウスト」にも共通する。舞台設定は現代的でSimple is Bestを目指している。

29.「カヴァレリア・ルスティカーナ」全曲、ピエトロ・マスカーニ、ジョルジョ・プレートル:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、エレーナ・オブラスツォワ、プラシド・ドミンゴ、フェドーラ・バルビエリ、レナート・ブルゾン、アクセレ・ガル、70分、82年、
 イタリアン・リアリズモ(ヴェリズモ)による短編オペラである。はじめから音楽の彫りが深く劇的で聴衆を引きつけやすい。はじめの村人の合唱が美しく村の風景が心和む。劇的なラストに息つく暇なく突入していく。

30.「ボリス・ゴドノフ」全曲1、モデスト・ムソルグスキー、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、アンドレイ・タルコフスキー:オリジナル・プロダクション・演出、ハンフリー・バートン:ヴィデオ演出、キーロフ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロバート・ロイド、ラリサ・ジャチコーヴァ、オリガ・コンディナ、エフゲニア・ペルラーソヴァ、エフゲニー・ボイツォソフ、ミハイル・キット、アレクサンドル・モロゾーフ、アレクセイ・ステブリアンコ、オリガ・ボロディナ、セルゲイ・レイフェリクス、ヴラディーミル・オグノヴェンコ、イーゴリ・ヤン、リュドミラ・フィラートヴァ、ヴラディーミル・ソロドヴニコフ、エフゲニー・フェドートフ、ゲレゴーリィ・カラション、105分、90年、サンクトペテルブルグ、マリインスキー劇場におけるライヴ収録、
 ムソルグスキーらしいワイルドな音とストーリーの権力闘争と虚しさがマッチしている。

31.「ボリス・ゴドノフ」全曲2、モデスト・ムソルグスキー、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、アンドレイ・タルコフスキー:オリジナル・プロダクション・演出、ハンフリー・バートン:ヴィデオ演出、キーロフ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロバート・ロイド、ラリサ・ジャチコーヴァ、オリガ・コンディナ、エフゲニア・ペルラーソヴァ、エフゲニー・ボイツォソフ、ミハイル・キット、アレクサンドル・モロゾーフ、アレクセイ・ステブリアンコ、オリガ・ボロディナ、セルゲイ・レイフェリクス、ヴラディーミル・オグノヴェンコ、イーゴリ・ヤン、リュドミラ・フィラートヴァ、ヴラディーミル・ソロドヴニコフ、エフゲニー・フェドートフ、ゲレゴーリィ・カラション、105分、90年、サンクトペテルブルグ、マリインスキー劇場におけるライヴ収録、
 さて物語は佳境でスリリングな展開に目を離せない。カトリックの正教に対する権力欲、ポーランド女王のロシアへの領土欲、司教と女王の支配欲、偽りの皇子の権力欲、色と欲、狂えるトラウマ、残酷に崩壊する帝国、おびただしい犠牲と廃墟の上に成り立つ帝国、虚しさと権力闘争、それを盛り上げる野性的なムソルグスキーの音楽。

32.「イーゴリ公」全曲1、アレクサンドル・ボロディン、ベルナルト・ハイティンク:指揮、アンドレイ・セルバン:演出、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団・合唱団、セルゲイ・レイフェルクス、アンナ・トモワ・シントウ、アレクセイ・ステブリアンコ、ニコラ・ギュゼレフ、フランシス・エガートン、エリック・ギャレット、エレナ・ザレンバ、パータ・プルチュラーゼ、ロビン・レガーテ、キャスリーン・スメイルス、ギリアン・ウェブスター、グレニーズ・グローヴス、カレン・シェルビー、エリザベス・マックゴリアン、ニコラ・ロバーツ、  分、90年2月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスにてライヴ収録、



33.「イーゴリ公」全曲2、アレクサンドル・ボロディン、ベルナルト・ハイティンク:指揮、アンドレイ・セルバン:演出、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団・合唱団、セルゲイ・レイフェルクス、アンナ・トモワ・シントウ、アレクセイ・ステブリアンコ、ニコラ・ギュゼレフ、フランシス・エガートン、エリック・ギャレット、エレナ・ザレンバ、パータ・プルチュラーゼ、ロビン・レガーテ、キャスリーン・スメイルス、ギリアン・ウェブスター、グレニーズ・グローヴス、カレン・シェルビー、エリザベス・マックゴリアン、ニコラ・ロバーツ、116分、90年2月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスにてライヴ収録、
 ダッタン人の踊りは東洋的哀愁と親しみがあり聴きやすい曲だ。英雄的存在感と捕虜のもどかしさが出るところに奥行がある。広大な広がりのある曲想が中央アジアの平原を想起させる。




(総合)
気に入った歌手はビデオ映像として耐ええる、東欧出身のアンジェラ・ゲオルギューである。演目は『椿姫』である。
親しみやすい演目としては、モーツァルトの『ノッチェ・デ・フィガロ』で、面白おかしいストーリー展開と、彼らしい躍動感のある軽やかかつ甘美にしてダイナミックさもある旋律とリズムに軍配が上がる。
『魔笛』は地のせりふと歌が別々で踊りのないミュージカル感覚で見られ、もっとも現代人向きである。 
ロッシーニ『セビリヤの理髪師』は、『ノッチェ・デ・フィガロ』の前編としてストーリーが楽しめる。音楽も軽やかで親しみやすい。
ビゼー『カルメン』は、音楽内容が親しみやすい。一曲ずつがインパクトのあるラテンぽい小品で胸躍る旋律とリズムだ。その三面記事のような悲劇的結末にいたる暗い情熱に合っている。
ヨハン・シュトラウスⅡ世 オペレッタ『こうもり』は、音楽の陽気な親しみやすさとノー天気なストーリーが笑える。いかにもオペレッタ喜歌劇、はちゃめちゃきつい冗談だが、今となっては上品に見られる高級大衆娯楽。
しかも演出によってはダンサーたちの踊りもついて、ミュージカルの原型とされるが、逆にミュージカル的演出により現代的風味で見られる。別種類でNHK教育で放送されたものだが、グライドボーン音楽祭のものは踊りつきで、女を征服するというせりふ等が省かれ現代的演出であった。
リヒャルト・シュトラウス楽劇『ばらの騎士』は、主役カンカンのアンネ・ソフィー・フォン・オッターと侯爵夫人のフェリシティ・ロットが不倫なのに若々しくすがすがしささえ感じられよい。男爵のクルト・モルの滑稽な俗物さがまたよい。指揮カルロス・クライバー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団である。
『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、イタリアン・リアリズモによる短編オペラでなじみは薄いがこういうものもある。
プッチーニ『トゥーランドット』の華やかな残酷さは一興である。
ジャコモ・プッチーニ『蝶々夫人』2幕、ミラッレ・フレーニ(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、クリスタ・ルートヴィヒMS)、ロバート・カーンズ(B)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィル、演出ジャン・ピエール・ポネル、’74.11.12月
出ずっぱりの蝶々夫人の音楽が切なくも節度があり、メロドラマでセンチなのにどこか抑制されていてよい。フレーニの歌唱、容姿申し分なし。それにしても蝶々夫人のワンマンショーね。
あとは『後宮からの誘拐』が見残してある。

☆DVD決定盤 オペラ名作鑑賞 全10巻(1巻DVD2枚組)世界文化社  
・第1巻「アイーダ」ヴェルディ作曲
①ミラノ・スカラ座、85年、153分、ロリン・マゼール:指揮、ルーカ・ロンコーニ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団

8曲目「凱旋行進曲」もいいが、13曲目「やっと会えた愛しいアイーダ」がいい。歌手同士が向かい合い、生で歌い合っているところがスリリングである。映画と違い限定された舞台であっても、大掛かりな大道具や役者の生の演技は舞台に人間自体が存在し生きているという迫力がある。
②オペラ映画、92分、クレメンテ・フラカッシ:監督、ジュゼッペ・モレッリ:指揮、RAI放送管弦楽団・合唱団
 オペラ映画では、画面の迫力・リアル感・壮大さ・整えられた設定、女優や男優の美しさや演技がよい。クチパクにより歌の迫力は劣るのだろうが、あまりそれを感じさせない。日本では封切られないが、なかなかよくできている。バレエシーンや吹き替えの歌はなかなか見せるし聴かせる。
いっそオペラ映画ばかりの全集があるとおもしろいのではなかろうか。オペラ映画は欧米ではよく作られるようで、以前イングマル・ベルイマンの「モーツァルト:魔笛」や、監督は分からないが「ベルク:ルル」、「R・シュトラウス:バラの騎士」なんてのを見たことがある。あのシリアス芸術映画の巨匠ベルイマンですら、軽快な「魔笛」を映画化してるぐらいなんだから、オペラ映画は欧米の人にとって日常親しめるものなのだろう。

・第2巻「椿姫」ヴェルディ作曲
①パルマ王立劇場、01年、131分、カルロ・リッツィ:指揮、ジュゼッペ・ベルトリッチ:演出、ヴェルディ没後100周年記念管弦楽団・合唱団

 テノールのジュゼッペ・サッバティーニがイタリア生まれで彼が歌うとイタリア語がさらに甘く響く。悲劇が甘いメロディでうまく盛り上がっていく。ドラマと音楽がうまくかぶさるのがよいが、今にしてみるともっと甘さを抑制するか激しく辛口に盛り上げたほうがよりドラマティックだったろう。白い服の少女の使い方にノスタルジーを感じ、マジシャンを使うことで、パーティーの娯楽性の臨場感を高めた。
②グライドボーン音楽祭、88年、134分、ベルナルト・ハイティンク:指揮、ピーター・ホール:演出、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、グライドボーン合唱団
 スタジオ録画され豪華なセット、衣装、小道具がすばらしい。演出やカメラ割りが演劇的かつ映画的というべきか。各人間心理の綾が様々描かれドラマを歌を盛り上げていく。

・第3巻「ラ・ボエーム」プッチーニ作曲
①サンフランシスコ歌劇場、88年、117分、ティツィアーノ・セヴェリーニ:指揮、フランチェスカ・ザンベッロ:演出、サンフランシスコ歌劇場管弦楽団・合唱団

 パヴァロッティとフレーニはすばらしい。パヴァロッティは3点ド:ハイCを出すところは絶品らしい。カレーラスやドミンゴですら半音下げるらしい。フレーニは可憐かつ優しい物腰の歌い方が自然でよい。
②トッレ・デル・ラーゴ プッチーニ音楽祭、07年、118分、スチュワート・ロバートソン:指揮、マウリツィオ・スカパッロ:演出、プッチーニ・フェスティヴァル管弦楽団・合唱団
 小規模で少しローカルだが可憐で情緒面をうまく引き出す田舎芝居っぽい古めかしい演出と現代的な演出の融合がよい。親しみやすい雰囲気と歌声がイタリアのオペラらしさを出していてよい。イタリアンらしい感情をそのまま出すような管楽器の音色がすばらしい。

・第4巻「フィガロの結婚」モーツァルト作曲
①ベルリン国立歌劇場、99年、191分、ダニエル・バレンボイム:指揮、トーマス・ラングホフ:演出、ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団

 歌、演奏ともに聴かせる。これが当代一流といいたい舞台を見せる。
②コンピエーニュ帝国劇場(パリから75km)、97年、181分、ジェローム・ピルマン:指揮、ピエール・ジュルダン:演出、ファイローニ・ハンガリー国立歌劇場室内管弦楽団、ミッレ・エ・トレ合唱団、
 出演者が若くはち切れんばかりの躍動感があってよい。すがすがしくも笑える青春の物語になっている。誰の声も若く張りがあってよい。その分声の凄味や渋みや味わい深さに劣るのだろうけど、映像としてはこの方が自然。ソプラノのアンネ・ゾフィー・シュミットとテノールのドミニク・プロトーがすばらしい。言語はフレンチである。

・第5巻「ドン・ジョヴァンニ」&「コジ・ファン・トゥッテ」モーツァルト作曲
①ドン・ジョヴァンニ/チューリッヒ歌劇場、01年、187分、ニコラウス・アーノンクール:指揮、ユルゲン・フリム:演出、チューリッヒ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロドニー・ギルフリー、ラースロー・ポルガー、イザベル・レイ、チェチーリア・バルトリ

 人間の業というか性サガを描いた悲劇のはずだが、みょうにコミックな大人の御伽噺みたいで見ても楽しめる。こういう話を盛り上げるモーツァルトの音楽がよい。
②コジ・ファン・トゥッテ/チューリッヒ歌劇場、00年、192分、ニコラウス・アーノンクール:指揮、ユルゲン・フリム:演出、チューリッヒ歌劇場管弦楽団・合唱団、チェチーリア・バルトリ、リリアーナ・ニキテアヌ、ロベルト・サッカ、オリヴァー・ヴィドマー
 これまた見て楽しめる大人の御伽噺で愉快でスリリング、やっぱりモーツァルトの音楽がメロディアスかつ構築力が優れていて最後まで聴きこめる。

・第6巻「セビリャの理髪師」ロッシーニ作曲、パイジェッロ作曲
①ロッシーニ作曲/ネーデルランド歌劇場、92年、154分、指揮:アルベルト・ゼッダ、ダリオ・フォー:演出、ネーデルランド室内管弦楽団・ネーデルランド合唱
団、
 現代的なシンプルでやや抽象的な舞台設定で、序曲での集団はコメディア・デラルテ風に描かれ興趣を引く。若い歌手が多く、清々しい歌声を響かす。ベテランはそれらしくいやみな存在感を出し、若手との対比をうまく引き出す。なかなか清新な舞台で好感をもった。音楽は盛り上がりをうまく出していた。伯爵:リチャード・クロフトとフィガロ:デイヴィッド・マリスの方が②の歌手より説得力はあるようだ。ロジーナ:ジェニファー・ラーモアが②より声量・迫力は上だ。しかし色気がない。
②パイジェッロ作曲/ローマ室内歌劇団、70年、128分、指揮:レナート・ファザーノ、ヴィルトゥオージ・ディ・ローマ合奏団、コレギウム・ムジクム・イタリクム、大阪フェスティバルホール
 パイジェッロの音楽は上品で可憐な音をうまく響かせていた。ハイドンやサリエリの時代の音楽で「春めいたほのぼのした明るい感じ」の共通性がある。だが盛り上がりの激しさに欠ける。しかしコメディに合っていてしなやかでいやみのない音楽はロジーナを引き立てていた。歌のうまさでは男性歌手は劣るかもしれないが、親しみやすい歌唱に好感を持つ。ロジーナ:エレナ・ズィーリオは迫力は劣るかもしれないが、可憐な歌声と演技の色っぽさに堪らなく好感を持ってしまう。彼女はパイジェッロのオペラに可憐な花を咲かせた。
 この映像は70年大阪ライブのカラー映像で、①の92年映像と比べて、かなり薄暗く解像度が低いことが分かる。撮影機材の技術の進歩が分かる。しかしこの映像はパイジェッロのオペラを日本で上演したことの貴重な記録だろう。70年6月21日大阪といえばちょうど万博だったはずだ。

・第7巻「トゥーランドット」プッチーニ作曲
①ウィーン国立歌劇場、83年、139分、ロリン・マゼール:指揮、ハロルド・プリンス:演出、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ウィーン少年合唱団
 ホセ・カレーラスの演技と歌は見せるし聴かせる。イケメンで歌よし演技よしだ。オペラ慣れしていない人は、歌で勝負し演技力のないドミンゴやパバロッティをいきなり見るより、カレーラスの方が親しめるだろう。
 東洋の中国を舞台にしているため、東洋風五音音階を用いていて日本人に親しめるメロディがある。清国国歌を参考にしているらしいが、「夕焼け小焼け」に似た旋律が聴こえ聴きなじみやすい。しかも無調音楽風、原始主義風な前奏曲で始まり、これがハードでただ甘いだけより甘さとハードさのバランスがよく聴くのによい。姫の上品な残酷さは、リューの純粋さを一層引き立たせる。ピンパンポンはひょうきんなのがよいのだが、今回はピンパンポンがまじめすぎてちょいおもしろくない。もっと道化ているほうがよい。水色の寒そうな衣装は姫の残酷さを象徴し、赤は首切り役人に似合った。階段は上から目線を分かりやすくした。
②イタリアRAI放映版、58年、114分、フェルナンド・プレヴィターリ:指揮、マリオ・フランキ:演出、RAIミラノ放送管弦楽団・合唱団
 白黒画像の見にくいテレビ・オペラだが、内容はなかなかよくできている。リュー役のレナータ・マッティオーリの歌と容姿が可憐で弱々しくよい。ピンパンポンも滑稽でよい。皇帝のテノールが若すぎて周囲との違和感がでる。衣装や振り付けは50年代の欧米人の見た東洋的イメージなので、中国・日本・タイ・インドごちゃ混ぜの無国籍アジアンなのだが、それなりにきっちり作られているし、その無国籍アジアンな雰囲気が妙に新鮮に映る。他の映画でいうなら「ブレードランナー」の大阪風近未来都市、「ラストサムライ」のへんてこ城下町みたいに新鮮で奇妙な美しさだ。コレッリはかっこいい。それにしてもソプラノのトゥーランドット役はアップにしてほしくない。

・第8巻「蝶々夫人」プッチーニ作曲
①ミラノ・スカラ座、86年、144分、ロリン・マゼール:指揮、浅利慶太:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団

 歌も演奏も聴かせる、林康子はうまい。演出よし。
②オペラ映画、55年、114分、カルミネ・ガローネ:監督、オリヴィエロ・ファブリーティス:指揮、ローマ歌劇場管弦楽団、八千草薫
 魅せるし見せる、主演の八千草薫は可愛い、セットも日本製を空輸しただけあり、きちんとしたセットだ。吹き替えつまり口パクであっても、ライヴ録画を見せられるより、映像として見せられる映像に、口パクでそれなりにうまい歌で吹き替えられていれば、その方が見る分楽だし自然だ。どうせならオペラDVDに、オペラ映画全集なんてのがあればもっと親しみやすいが、クラシック音楽ファンはたいてい、名演奏、名手のものをありがたがって聴きたがるので、やっぱりだめかな。オペラ歌手の名手はたいてい熟年でそれなりの体型で年頃の娘役を演じられてもライヴ録画でアップにされると歌や演奏はうまくてもちょっと見るのがつらいのだ。

・第9巻「カルメン」ビゼー作曲
①ナポリ・サン・カルロ歌劇場、00年、163分、ダニエル・オーレン:指揮、パッピ・コルシカート:演出、サン・カルロ歌劇場管弦楽団・合唱団、ナディア・ミカエル、セルゲイ・ラーリン、ノラ・アンセルム、グレッグ・ベイカー

 その前衛的で一見高尚な雰囲気の衣装背景舞台はおもしろい。ラストで自らドンホセのナイフに飛び込み笑顔で死んでいくカルメンに人生の矛盾切なさが込められていて最高。演奏も歌もうまい。
②オーストリア ザンクト・マルガレーテン野外歌劇場、05年、159分、エルンスト・メルツェンドルファー:指揮、ジャンフランコ・デ・ポジオ:演出、ブルノ国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ナディア・クラステヴァ、アレクサンドルス・アントネンコ、オーサ・エルムグレン、セバスティアン・ホレチェク
 この野外ステージの巨大さは見事、ただし広すぎる場での録音のせいかDVDの音量が小さい。カルメンはいかにもそれらしくリアルに見えた。エキストラも多数で街が再現されるがごとくである。演奏のテンポは速めで一気呵成に新聞の三面記事のような痴話げんかの果ての殺人まですれっからした雰囲気を醸し出し似合っている。ラストはカルメン自身が刺されに行く方が好きだ。

・第10巻「トスカ」プッチーニ作曲
①アレーナ・ディ・ヴェローナ、06年、119分、ダニエル・オーレン:指揮、フーゴ・デ・アナ:演出、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団・合唱団

 壮大な舞台設定で迫力があり、歌、演奏ともよい。
②シュトゥットガルト歌劇場、61年、125分、フランコ・パタネ:指揮、シュトゥットガルト歌劇場管弦楽団・合唱団
 過去の名演スタンダードを知るによい。
③映画、カルロ・コッホ:監督、ルッキーノ・ヴィスコンティ:脚本・助監督、39~40年、102分
 レチタティーヴォ部分が普通のせりふになり、オペラ慣れしない人にも親しみやすい、オペラ入門用映画でもあるが、トスカはじめ人の生き様を残酷なまでに凝縮してネオ・リアリズモ風に見せる。アリアがやけに甘く美しく聴こえる。

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・「戦争と平和 13幕のオペラ」セルゲイ・プロコフィエフ:作曲、台本:セルゲイ・プロコフィエフ&ミーラ・メンデリソン・プロコフィエフ、原作:レオ・トルストイ、
ガリー・ベルティーニ:指揮、フランチェスカ・ザンベロ:演出、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団、ネイサン・ガン、オリガ・グリャコーワ、マルガリータ・マームシロワ、レオニード・ボムシテイン、00年3月1,4,8,11、パリ・オペラ座ライヴ収録、210分、特典79分

第一部の平和では、ヒロイン:ナターシャの恋愛模様が貴族社会での複雑な人間関係の中で夢や悪意等と絡め古めかしいワルツにのせ描かれノスタルジックな郷愁を感じさせる。第二部戦争はスペクタクルな戦争史劇となる。ナポレオンやクトゥーゾフ将軍を軸に壮大な国家の運命を戦闘シーンを交え描くので、不謹慎ながらワクワクしてみられる。フィナーレでナターシャとピエールが抱き合うシーンに熱いものがこみ上げる。

・「ハンス・ハイリンク  序幕と3幕からなるロマン的オペラ」ハインリヒ・マルシュナー:作曲、台本:エドゥアルト・デフリーント、
レナート・パルンボ:指揮、演出:ピエール・ルイージ・ピッツィ、マルクス・ヴェルバ:bar、アンナ・カテリーナ・アントナッチ:so、ヘルベルト・リッパート:te、カリアリ歌劇場管弦楽団&合唱団、少年合唱団、'04、4月、5月カリアリ歌劇場ライブ収録、147分

少年合唱団がよくて際立っていることで、大人の声も対照的に際立って聴こえよい。序曲の前に幾つかの歌と芝居があってそれも新鮮。おとぎ話の物語でのっけから軽い陽気な音楽ではじまり、ジングシュピール形式でモーツァルトの「魔笛」と同じく楽しそうでうきうきする。ただ途中悲しげな歌や復讐に燃える歌には迫力不足で退屈。フィナーレも劇的な感じが薄く散漫な印象を受ける。このライヴがイタリア、サルディーニャ島(人口160万)州都カリャリ(人口50万)で実施されたことに驚く。

・「仮面舞踏会  全3幕のメロドラマ」ジュゼッペ・ヴェルディ:作曲、台本:アントーニオ・ソンマ、
サー・ゲオルグ・ショルティ:指揮、演出:ジョン・シュレンジャー、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、プラシド・ドミンゴ、レオ・ヌッチ、ジョセフィーン・バーストゥ、フローレンス・クイヴァー、スミ・ジョー、’90、7,28、ザルツブルグ祝祭大劇場ライブ収録、144分

ヴェルディのオペラの楽曲はどんなに沈鬱で絶望的な状況であっても甘美な優美さを失わない。そこがいかにもイタリアンなカンツオーネ気質が底流に流れている。劇的興奮高揚、憤怒憎悪呪詛と甘美な優美さがうまくブレンドされ聴きなじみやすい。
 妻に裏切られたと思い込み妻への思慕と復讐に燃える心情の歌では両方の気持ちをうまくブレンドした配合となっている。ただ現代的にはもっとくらい復讐の念が色濃く出たものと思慕を歌う浪漫的な歌曲がはっきり分かれたほうが劇的だろうが。暗殺される王の度量の広さがドミンゴの歌唱に合っている。

・「ナブッコ  全4幕のドランマ・リリコ」ジュゼッペ・ヴェルディ:作曲、台本:テミストークレ・ソレーラ、リッカルド・フリッツァ:指揮、演出:ジョナサン・ミラー、カルロ・フェリーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団、アルベルト・ガザーレ、オルリアン・アナスタソフ、スーザン・ネヴィス、中島康晴、アンナマリア・ポペスク、アルベルト・ロータ、’04、6月、ジェノヴァ、カルロ・フェリーチェ歌劇場ライブ収録、139分
聖書に書かれているバビロン補囚をもとにしたストーリーというのは日本人の私にはどうも馴染めず、神を祝福するという予定調和的ラストもポカンという感じなのだが、登場
人物の横恋慕、嫉妬、野心、後悔という感情及びそれにつけられたヴェルディの人間ぽい音楽には親しみがわく。ドラマティックな高揚感と親しげで優美甘美、感傷的なメロディがうまく手を取り合っていく。

・「蝶々夫人」ジャコモ・プッチーニ作曲、04年5月プッチーニ音楽祭ライブinトッレ・デル・ラーゴ、151分、プラシド・ドミンゴ:指揮、ステファノ・モンティ:演出、チッタ・リリカ管弦楽団・合唱団
 演出はモダンで昆虫に扮する衣装と装置で近未来的普遍化風だが、演奏は甘く爽やかに聴こえ親しみやすい。イタリア風かな。

・「トゥーランドット」ジャコモ・プッチーニ作曲、ザルツブルグ祝祭劇場大ホール・ライヴ、02年8月15,18日、141分(本編126、特典15)、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、デイヴィッド・パウントニー:演出、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、テルツ少年合唱団
 これまた超近代風無機質機械文明舞台セットと衣装である。人の心をもたぬ機械文明の中、愛が目覚めるようだ。ベリオによる補筆完成版であるため、ラストシーンは既成のものと違う。歌、演奏ともにスタンダードだ。

・「セビリャの理髪師」ジョアキーノ・ロッシーニ作曲、パリ・オペラ座・ライヴ、02年4月、152分、指揮:ブルーノ・カンパネッラ、コリーヌ・セロー:演出、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団
 イスラム風の華やかな色彩の楽しい舞台セットと衣装の演出だ。さらに愉快さが増す。歌手たちの動きもきびきびしていてよい。

・「カルメン」ジョルジュ・ビゼー作曲、アレーナ・ディ・ヴェローナにおけるライヴ、03年7月4,10日、150分、アラン・ロンバール:指揮、フランコ・ゼッフィレリ:演出、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団・合唱団・バレエ団、マリーナ・ドマシェンコ、マルコ・ベルティ
 カルメンのマリーナ・ドマシェンコがよい。情熱的で叙情的な音楽と、三面記事みたいな色と欲に踊る卑しい人間に共感する。ラストでカルメン自らがナイフに向かって身を投げるかのような一瞬にカルメンの醒めた無常観、人間のはかなさを感じさせ秀逸である。4幕最初に間奏曲をもってきてダンスシーンにしたのはよい。

・「魔笛」モーツァルト作曲、82年8月21日フェルゼンライトシューレ(ザルツブルグ)ライヴ収録、188分、ジェームズ・レヴァイン:指揮、ジャン・ピエール・ポネル:演出・装置・衣装、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団、マルッティ・タルヴェラ、ペーター・シュライヤー、ワルター・ベリー、エディタ・グルベローヴァ、イレアーナ・コトルバス、クリスティアン・ベッシュ、グートルーン・ジーバー
 舞台装置、衣装、演出は古典的である。上演時間が3時間に達するが、別のものでは2時間半程度であることから、かなりオリジナルに近くて省略が少ないようだ。初めて見る場面もいくつかあるので、原作を知りたい人には役立ちそうだというか、たいていのものが省略していることを今回知った。パパゲーノ役のベッシュが芸達者だ。


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