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田舎ぐらし(59)

ー 住宅ローン ー



 
 10数年も前、田舎に引っ越しをする前後の話である。
ふと自分の家を建てようという話になって家内は急に忙しくなった。毎晩紙と鉛筆を持ち出してはああでもない、こうでもないと線を引いたり消したりしていた。

 私は書斎の注文だけすると後は放っておいた。ただし、書斎がいつの間にか消えてなくならないように時々のぞくことだけは忘れなかった。休日は住宅展示場めぐりや土地探し・・・。楽しい時期だった。

 楽しくない時はすぐにやって来た。金が足りないのである。それで銀行へ行った。担当のおばさんはカウンターの上になにやら書類を出すと、名前を書いてハンコを押せという。書類は次々に出てくる。なんの書類にハンコを押しているのかわからないまま手続きを済ませ、とにかく金は貸してもらえることになった。

家は半年ほどで出来上がった。

 自分の間抜けさ加減に気がついたのはそれから何年も経って、ローンを完済した時である。銀行が返してよこした書類のひとつに、「質権が消滅しました」という内容の書類があった。「質権って?」と首をひねった。

 ローンを組むとき、なにかを質に入れていたらしい。
質屋はよく知っている。就職したての頃は飲み代を工面するためによく腕時計を質屋に持ち込んでいたものだ。質屋は腕時計を質草、つまり“人質 ”にして金を貸す。約束の日までに金を返さないと時計は “ 没収 ” される。 

 それじゃ、銀行の “ 人質 ” になっていたのはなにか。驚いたことにそれは「火災保険金」だった。正確には「火災保険金を請求する権利」である。
 つまり、ローンを組むとき家に火災保険をかけますという書類にハンコを押し、ついでに「火災保険金を請求する権利」を質に入れますという書類にもハンコを押していたわけだ。

 こういう状態で、もしローンを完済する前に家が焼けてしまったとする。私など単純にできている人間は家が燃えたのは悲しいけど、ま、いいか、保険金が出るからまた建てればいいやと考える。

 ところがどっこい、保険金は出ない。
火事になってこちらが保険会社に「保険金ちょうだい」と手を出すと、銀行は横から手をのばして「お生憎さま」とひったくっていく。

これが保険金請求権を質に入れるということである。

一方で「火事になったら大変だから、保険をかけておきましょうね」と言っておきながら、他方で保険金の横取りをしかけておく。

 銀行は違法なことをやったわけではない。しかし、いかにも恥ずかしい。自分が担当だったら、ハンコをもらいながら顔が赤らむにちがいない。 

 幸い、火事は出さずにすんだ。ただ、かの銀行の金庫にはビジネス倫理のカケラさえ入ってない。倫理とは人倫、すなわち人として守るべき道だという(広辞苑 第5版)。時代劇でよく病人の布団を引っぺがして持っていく強欲金貸しが登場する。そういう手合いは現在も健在である。

 ( 次回は ー 武士の商法 ー )

 
 
  
 
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