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みみがわり。

要約筆記がらみ。なおこちらのサイトは、どちらかというと「チラシの裏(=メモとか裏話とか)」的なものです。あしからず。

五十嵐さんの昔話(1)悪口を伝えないって!?(前編)

2017-10-26 22:07:38 | 要約筆記
要約筆記者ばかり集まった、自主学習会の帰り道。
近くに出来た喫茶店に行ってみない?と誰かが言い出して、時間に余裕があった者たち5人くらいが賛同して、まだ木材の香りただよう、新築の店のドアをくぐった。

美味しいケーキをつつきながら、和気あいあいとティータイム。ドリンクも美味しい。

わいわいと盛り上がっているが、はたから見れば「謎の女子会」でしかないのが面白い。要約筆記関係で集まるとよくあることだが、年齢もファッションも見事にバラバラなので、「なんでこのメンバー、一緒にいるの?」みたいな感じになるのである(笑)もちろんたまに男性も混じっていると、女子会ですらなくなるのでますます謎が深まる。

話題は今日の内容であるところの「事例検討」っぽい話になっていった。話題を提供してくれた難聴者の講師は電車の都合で帰ってしまったが、御筆や五十嵐とも懇意にしている男性で、要約筆記を長らくよく使っていて、経験豊富な古株だった。酸いも甘いもかみ分けて……といった感じで、何を訊かれても冷静に、時にユーモアやダジャレも交えながら答えてくれていた。

いっぽう、筆記者側は、五十嵐と雨宮以外は、まだ要約筆記者になってから1~3年くらいの新人メンバーが多い。年齢はさまざまだが、キャリアは浅いので、ノートテイクにはまだ1度も出たことがないという人もいた。またほとんどが五十嵐が講師になってからの受講生だったので、いわば五十嵐の「教え子」のような存在ばかりである。

そのせいか、質問にも世代間ギャップを感じるものがあったりして、五十嵐は難聴者男性に通訳しながら自分の年齢を感じて遠い目をすることも多かった。筆記者の平均年齢からすれば自分は若い方だとは思うのだが、やっている年数が長いため、ここでは自分はまるでおばあちゃんになった気分である。あー私、シルバーシートに座ってもいいかなあ……。

お茶会の話題が一段落して、ふっ……と静かなひとときが訪れた。

「いまだに、分からないことがあるんだ」

ぼそり、と五十嵐がつぶやく。

「昔……本当にもう10年以上前の話なんだけどね。口論になったときの通訳をどうするかって話になってさ。ある年配の筆記者さんが『そんなこと書いたら私が怒られてしまうから、書きません』ってきっぱり言ったんだ。」

今日の事例検討にもちょっとだけ似たような話があったけれど、もちろんベテラン利用者側からの視点なのでそんな話は出ていない。でも彼の話を聞いて真っ先に五十嵐が思い浮かべたのが、この話だったのだった。

「私、何を言われているのか分からなくて、むちゃくちゃショックでさ。だって通訳しなかったら、その難聴者さん怒れないじゃん。ひどいこと言われて、訳も分からずニコニコしてたらバカみたいじゃん?なんで通訳しないの?なんで自分が怒られるとか思っちゃうの?」

ぶつくさ。

しかし、そこに晴野が納得顔でつぶやいた言葉に、五十嵐はひっくり返った。

「私わかる気がします、それ。友達の悪口を、別の友達に言ったら睨まれるじゃないですか?だから、伝えないっていうことじゃないんでしょうか」

あまりの衝撃に、しばらく五十嵐は開いた口がふさがらなかった。

「え……っと、なに?どういうこと?もっかい言って」


(つづく)

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