なんかとても引き込まれてしまった。舞台はパリ。13歳の少年アントワーヌは、小さな古アパートに両親と暮らしていた。
母親は冷たい性格で、息子への興味は薄く、稼ぎの少ない夫への苛立ちを自分の仕事の合間の不倫で埋めていた。
アントワーヌは反抗的ではないけれど、素行が悪く、学校をサボった理由を母親が死んだからとか平気で嘘をついたり、家出や盗みも常習。
そんなアントワーヌに両親は愛想を尽かし、遂には鑑別所に入れてしまう。
鑑別所で精神科医の面談があり、数々の質問に淡々と自分の身の上を語るのだが、母親が未婚の母となり赤ちゃんの時から里親のところに出されたり、8歳まで祖母に育てられ、それから再婚した母と今の父に引き取られたという過酷な生育環境を他人事のように語る。
この映画全般、アントワーヌの感情表出はとても薄く、警察で勾留されても鑑別所で規則を守らず手酷く引っ叩かれてもただ黙っている。
家出をした後、母親が一時的に優しく溺愛してくれても特に嬉しい顔はみせなかった。
ただ、親子3人で映画を観に行った夜だけは、3人とも笑顔で冗談すら言い合い和やかだった。たぶん、10ある思い出の中の1つか2つの幸せな時間だったと思う。
この物語は家庭環境による非行を描きたかったわけではなく、単にトリュホーの自伝を発表したかったわけでもなさそうだが、筋書きや、セリフ、演技においてもさざなみのように静かに展開しているだけに
見終えた後、ぐっと心に刺さる。
アントワーヌが鑑別所を脱走し、海を見つめ佇んでいる姿で物語は終わる。
その後はおそらくまた連れ戻されたと予想されるが、この映画は「亡きアンドレ・バザンの思い出に」とトリュホー監督の献辞から始まる。
その人物こそが、少年時代のまま生きていたらチンピラ路線まっしぐらのトリュホーを、映画監督の世界へと導いてくれた人の名前。
そうか、この作品は映画評論家の恩師アンドレ・バザンに一番先に観てほしかったんだと清々しい気持ちになりました。