「ごきんと」は御金当の文字をあてた言葉らしおす。
義理堅いお方や礼儀正しい人に向けられる言葉どす。
この言葉も京独特の曖昧模糊なもの言いに使われることがあり、ほめ言葉であ
ったり、場面や声の調子、表情によって、皮肉めいた批判の言葉になったりし
ます。
千年の都であった京都には、多様な人々が小さな盆地にひしめき合い暮らして
きました。
京の象徴といわれる間口の狭い町家という家屋を、さらに格子戸で遮った閉鎖
的な家を、美しい檻(おり)に住んでいると言った方がおいやしたとか?
この閉鎖性も、幾多の戦乱や度重なる権力者の交代を経験した先人たちの知恵
から編み出された様式で、戦禍や火災から身を守り、自らが檻に閉じこもって
身を守り、奥行きの長さで、公道へは声が漏れないように工夫されたようどす。
今日は自分より下位の人でも、明日は上位の人になることも考えられる都で、
どう転んでも無礼のないよう、申し開きができるような習慣や言葉が育ったと
しても不思議やおへん!
勝たないまでも、決して負けないこの町独特のもの言いは、いつ上位に立って
も自らの誇りに傷がつかず、威厳を保っていられる言葉の知恵で、京都人が何
よりこだわる「位取り」の心理です。
「ごきんとはん」は借りを作ったことで自らの立場が弱くならないようにとい
うとことから生まれた言葉のようどす。
「先日お借りしました傘、お返しにあがりました」
「それはそれは、ごきんとはんなことで。おついでで、よろしおしたのに」
また用事も無いのにしょっちゅうやってくる客には「あんたはんも、ごきんと
はんなことで」といわれると、それは皮肉どす。
さりげない日常会話の中にも、互いに対等であろうとする「ごきんとはん」
精神が息づく町。京都へ、一度おこしやしておくれやす。