昔、祖父母の家には、柿の木があった。無花果の木もあった。柿の木は甘い柿、渋柿それぞれ、植えられていた。昔は物質が少なかったため、いろいろ工夫をして生活をしていた。甘いおやつなども、手に入れる機会はそうそう庶民にはなかった。
今、スーパーに売られている柿は非常に甘いが、祖父母の家の柿はほんのりとした甘味だった。今の柿に慣れてしまうと、祖父母の柿はもの足らないことだろう。しかし、渋柿は別。干し柿にすると、ビックリするくらい甘くなる。渋柿を剥く手伝いのお蔭で包丁の扱いが上手くなったと言えるかもしれない。
だが、それとはまた別の魔法があるのだ。渋柿を綺麗に拭き、ヘタを取り除いた部分にアルコール度数の高い焼酎に一度、二度、軽く浸し、数日置いておく。すると、あら不思議、甘味の強い柔らかい熟し柿に変身する。もちろん、アルコールは残ってはいない。私達はそれを"ジュクシ"と呼びスプーンで掬って食べていた。
昔の人はどうしてそんな魔法を知っていたのだろう。また食べたいと思うが、祖父母の家も渋柿も今はない。
渋柿のあるお宅では今でもあの魔法を使っているのであろうか。ちょっと聞いてみたい気がする秋の夜長。