プレステージ - goo 映画
プレステージ “The Prestige”
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、
スカーレット・ヨハンソン、パイパー・ペラーボ、レベッカ・ホール、
デヴィッド・ボウイ、アンディ・サーキス
評価:★★
クリストファー・ノーランの映画をいちばん最初に観たのは佳作「メメント」で、それ以後彼は「インソムニア」「バットマン ビギンズ」、そして今回の『プレステージ』と作品を発表しているのだけれど、ひょっとしたら大作はあまり似合わない監督なのではないか、と思った。「メメント」は元々が小品なので全然気にならなかったのだけれど、画面に決定的に華がない。いや、この言い方は正しくないか。ノーランは多分、意識して派手な画面作りを避けているのだ。ひたすら現実感を目指し、それが結果的に華のなさに繋がっている。
別に華がなくても面白い映画は撮れる。撮れるけれど、バットマンだとかマジシャン同士の対決だとか題材が弾けているのに、ここまで地味にされると、それだけでなんだか不安を感じてしまう。美術や衣装も良く出来ているし、「プレッジ」「ターン」「プレステージ」のマジックの三部構造も意識されているのに、勿体無い。ケレン味をもう少し出してくれたら、大分良い方に印象が変わると思うのだけれど…。
『プレステージ』の主人公はヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールで、彼らがどちらをどうやって出し抜くかという駆け引きで話を引っ張っている。ノーランは至るところに仕掛け(伏線)を隠しているから、一瞬たりとも目を逸らせない。後からあの場面はああいう意味だったのかとジワジワと効いてくる。この対決の発端は、ジャックマンの妻がベールのミスにより死んだことで、最初は憎しみと憎しみのぶつかり合いだったのが、徐々にマジシャン同士のプライドの問題に推移していくのが面白い。このあたりはノーランの地味作りが効果的に働いたところで、なかなか人間の心理の興味深い部分を突いていると思う。
ただ、どうしても引っ掛かってしまうのは、デヴィッド・ボウイ演じるエジソンのライヴァルらしいテスラの存在だ。彼の発明品がジャックマンの一大マジックショウに一役買うのだけれど、いきなり漫画になるというか、ここだけ妙に派手になるというか、怖ろしいほどに浮いているというか。鳥を消してしまうマジックで実は鳥を殺しているという種明かしをするなど、トリックの残酷さを意識した作りにもなっているのに、なぜだかここだけファンタジックワールド。しかもこれはクライマックスの最も重要な部分になっているのだ。いいのか、それで。
尤も、最大の難点は主人公ふたりの描き分けが巧くないところにあるだろう。一応ジャックマンがスター性のあるマジシャン、ベールが本格派マジシャンという位置づけのようなのだけど、観ている分にはどちらも相手を出し抜こうとするばかりで性格うんぬんを語れるほどに、それぞれが立っていない。外見の作りで差を出してくれればまだ良いのだけれど、ノーランはここでも地味作りを徹底しているから、どうしてもキャラクターの「差」ができてこないのだ。これは物語を語る上でトリック以上の大きなミスじゃないかと思う。