弁護士山本行雄 情報提供 札幌弁護士会所属

原発問題やダム問題その他様々な情報を提供していきます。

環境基本法改正と原発公害 法律問題の基礎要点

2012-08-23 14:43:47 | 放射能汚染防止法制定運動

 *2012.8.29:追記<10 原子力規制委員会=独立行政院会の悪夢> *2012.9.2字句表現訂正  2012.9.13 加筆<1-2,1-3追加>*2012.11.20加筆 *2012.12.6加筆 *2012.12.17加筆  *2013・2・13加筆(12 脱原発法制定運動との関係)*2013・6・2加筆(1-1-2 大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの改正案) *2013.6.18加筆(2013.6.17大気汚染防止法、水質汚濁防止法、環境影響評価法など改正成立) *2013.6.28、1-1-2に大気汚染棒秘法、水質汚濁防止法<解説2>を加筆

環境基本法改正とその後の4法の改正を受けて、1-1の後に解説を加えました。文字数制限の関係で削除して書き換えました。当面の再稼働への動きに合わせてご活用ください。(2013.8.8)

 

放射能汚染防止法制定運動のための基礎知識:法律

前注:これまで「原発公害」という表現を多用してきました。今後はできるだけ「原子力公害」という表現にいたします。すでに1970年代に使用されていたこと、使用済み燃料の問題や汚染物質の問題を広くイメージするのに適していることが理由です。

 

1-1 いつ、どのように環境基本法改正がなされたのか。 

  2012年6月20日環境基本法13条の放射性物質を適用除外とする規定の削除法案が国会で成立27日公布されました。異常なことに新聞もテレビも全く報道していません。この法案は「原子力規制委員会設置用案」の附則として提案され可決成立したものです。附則だから軽視ししてよいなどというものではありません。それは立法過程の形式に過ぎません。今後の放射能汚染政策にとって原子力規制委員会の設置などより遙かに重要です。 (6月20日成立 。6月27日公布です。再訂正しました。)                        

 削除された規定 「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法(昭和30年法律台186号)その他の関係法律の定めるところによる。」(第13条)

 

1-1-2 第183国会の大気汚染防止法、水質汚濁防止法などの改正

               上記改正案(「放射性物質による環境の汚染のための関係法律の整備に関する法律案」)は2013年6月17日参院で可決され成立しました。放射性物質関係条文の問題点などは下記の通りです。

 

*大気汚染防止法

・第27条(放射性物質適用除外条項)削除。

・第22条3項加入「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質(環境省令で定めるものに限る。第24条第2項において同じ。)による大気の汚染の状況を常時監視しなければならない。」

・第24条2項加入「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質による大気の汚染の状況を公表しなければならない。

 

*水質汚濁防止法

・第15条3項「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質(環境省令で定めるものに限る。第17条第2項において同じ。)による公共用水域及び地下水の汚濁の状況を常時監視しなければならない。」

・第17条2項加入「「環境大臣は、環境省令で定めることにより、放射性物質による公共用水域及び地下水の水質の汚濁の状況を公表しなければならない。」

 

*環境影響評価法

・第52条1項(放射性物質適用除外条項)削除。

 

*その他の法律改正 南極地域の環境の保護に関する法律第24条(放射性物質適用除外条項)削除や、大気汚染防止法などの改正に伴う地方自治法の改正などがあります。

 

<解説1>環境基本法改正に伴い、国が行わなければならない法整備

環境基本法に則して、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染について、放射性物質に関する法整備をしなければなりません。ポイントを整理しておきます。

 

ア 重要なポイントは次の3点です。

① 環境基準(環境基本法16条1項)と、規制基準(環境基本法21条1項)を定める こと。

常時監視体制を整備すること。(環境基本法21条1項)

③違反に対する行政処分罰則を定めて順守させること。(個別法に規定されます。)

 

イ 環境基準と規制基準

① 環境基準 「人の健康を保護し及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準です。(環境基本法16条1項)

  この基準は行政の努力達成目標です、具体的法的強制力はないと言われておます。(判例・学説)。しかし、実務的には、この基準を達成するための政策が実施されているので軽視できません。

② 規制基準 「事業者の遵守すべき基準」(環境基本法22条1項)。具体的法規性があり、法律による強制力を持ちます。違反には操業停止のような行政処分や刑事罰があります。排出基準と表現されることもあります。

*上のように2段構えになっています。水質汚濁防止法の例で示します。

・カドミウム    環境基準=リットル0.01㎎以下 規制基準=リットル0.1㎎

・アルキル水銀  環境基準=検出されないこと    規制基準=検出されないこと

 

ウ 常時監視

  基準を守らせるには汚染状況の把握が重要です。常時監視は国の義務です。(環境基本法29条)。通常個別法で都道府県や市などの自治体に行わせています。

 

エ 行政処分や刑事罰による強制

  大気汚染防止法のばい煙排出規制の例を紹介します。

①施設の改善その他の措置命令などの行政処分(9条、9条の2)。

 命令違反は、1年以下の懲役又は百万円以下の罰金(33条)

②排出基準違反、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(33条の2)

 ここで、刑事罰の重要性について触れておきます。実際の検挙数が少ないことなどを理由に、刑事罰を軽視したり、行政指導を重視する考えが根強くあります。このような考えは、事業者や行政に「強制力がないから」という口述を与え、公害は犯罪であるという「公害国会」の成果を後退させることにつながります。行政周辺から常に流出する考えです。注意しましょう。

オ 改正された大気汚染防止法も水質汚濁防止法には、肝心な環境基準も規制基準もありません。常時監視は国がやることになっているので、これまでの法の空白と何も変わっていません。

 

<解説2>定めるべき環境基準と規制基準は

① 放射性物質について、大気汚染防止法も水質汚濁防止法も、環境基準は、年0.05ミリシーベルト、規制基準は年1ミリシーベルト、これを超えてはなりません。

  公衆の被爆基準は、これまで国際的な基準を取り入れてきたものがあります。

  環境基準に相当する、努力目標の基準は0.05ミリシーベルトです。昭和50年5月13日原子力委員会「発電用原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」に定められています。

  規制基準は、周知のように、原子炉等規制法や放射線障害防止法の定める年間1ミリシーベルトです。公害規制である以上これを超えてばらまいた者に罰則を定めるのは当然です。

*国民を守るべき法整備を「なまけながら」国は再稼働に動いています。国会、政府、関係省庁、都道府県などに、法整備をなまけるな、環境基準・規制基準を作れ、罰則を定めよ、汚染まみれを許す欠陥法で再稼働するのはやめろ、と声をあげていきましょう。     <解説1,2終了>

     

1-2 立法機関である国会のこれまでの動向は?

     ほとんど行政任せです

1-3-1 国会の各党派の取り組みは?

    衆議院選挙、参議院選挙と、働きかけてきましたが、意味も理解できていないようです。国民の運命を左右する法律です。怠けるなと言わなければなりません。

 

1-3-2 自治体の国への働きかけ状況は

   2012.11.20現在、石狩市、北広島市、江別市、小樽市の議会が国に法整備を求める意見を採択し地方自治法99条により国に意見書を送付しています。北海道議会は誓願の審議中です。その他札幌市の上田市長は全国市長会などで意見を述べています。

   詳しい案文などができなくとも、放射能汚染を防止する法整備を求める運動を全国に広めていただきたいと思います。

 

1-4 中央環境審議会の動きに合わせて運動すればよいのか? 2012.11.20加筆

    そのようなことで放射能汚染を防止するまともな法律は生まれません。逆に汚染容認法を作られてしまう恐れがあります。次の二つの違いを知ってください。①放射性物質による環境汚染を許さない。②放射性物質による汚染の後始末をどうするか。福島原発事故の後、政府・環境省が行ってきたのは、①は放置して、②の後始末の法律を作り、放射能汚染容認政策を進めています。汚染対処特措法では、廃棄物処分法の放射性物質適用除外規定の例外規定を設け(例外の例外で適用ありと言うこと)、放射性物質を廃棄物処分法の「ゴミ」として処分するという汚染拡大政策を進めています。さらに、原子力規制委員会設置法の成立に合わせ、循環型社会形成基本法の放射性物質適用除外規定を削除しています。これは、汚染対処特措法と併せて汚染拡大推進法の性格を有します。

 今現在(2012.11)の動きをみてみます。2012.11.19日中央環境審議会は大気汚染防止法、水質汚濁防止法、海洋汚染防止法、環境影響評価法の放射性物質適用除外条項を削除する法改正方針を明らかにし、来年の通常国会に提出を目指すことにしています。(2012.11.20毎日新聞)。この法律名を見る限り上に述べた②の汚染した後の後始末の法律の可能性が大です。①の汚染を許さない、という公害規制の基本的な考えが見えてきません。(後に議事録などを見て報告しますが)。放射性物質を法律上の公害物質とするということは、汚染を許さない、という基礎の上に、汚染した者を処罰するなどの実効性ある制度を作ることです。別な表現で言うと「放射性物質をばらまいた者は故意過失をを問わず罰する。」ということです。環境審議会の動きに合わせていてはこのような法律はできません。中央環境審議会の後追い批判では遅すぎます。そこで国会議員の役割も重要です。「諮問を待って」などということでは立法機関のメンバーとして失格です。

 

1-4-2 環境省、法改正の動向(2012.12.7加筆 )

  中央環境審議会2012.6.19議事録に「意見具申案」とその概要がPDFで提供されています。「環境省」「審議会・委員会」「中央環境審議会」と辿ってください。今後もここの動きを注視していきましょう。内容的には、1-4で触れたように、「汚染を許さない。」という公害防止の基本が欠けているように思います。取り組みが必要です。

    上記中央環境審議会の「意見具申」は2012.11.30に環境大臣宛に提出されています。

 

1-4-3 中央環境審議会「意見具申」は環境基本法の公害規制の理念に即しているか(2013・3.17加筆)

  公害規制の基本理念に即していないと判断します。環境基本法13条の放射性物質適用除外規定が削除され、同法上の「公害」物質となった意味を再確認しましょう。環境基本法は従来の公害対策基本法を承継した法律です。したがって放射性物質による「公害を規制する」ものでなければなりません。要するに汚染させないことを柱にした具体的な法律を制定する必要があるのです。2012.11.30日の中央環境審議会の「意見具申」には、この視点が明確になっていません。個別法の除外規定の削除を検討するものとして大気汚染防止法、水質汚濁防止法、海洋汚染・災害防止法、環境影響評価法の四法が挙げられています。しかし、そこには汚染そのものを規制する立法の必要性が明示されていません。たとえば大気汚染防止法と水質汚濁防止法については、「改正環境基本法の趣旨を踏まえ、適用規定の削除を検討する。なお、放射性物質が環境に放出され事態に備え、関係法令との関係を整理しつつ、モニタリングの在り方を検討していくことが必要と考えられる。」としています。放射性物質を環境に放出することを罰則を持って厳しく規制するのでなければ、公害規制とは言えません。さらに、現時点で適用除外規定の削除の適否を判断することが適当でない法律として、廃棄物処理法、土壌汚染防止法を挙げ、その理由として「特措法が昨年度から施行されたことにより、昨年の東京電力福島第一原子力発電所事故起因の汚染廃棄物の処理、除染などの措置が国や自治体等により行われているところ、例えば、以下に掲げる法律は、当該汚染廃棄物等の処理責任の整合性や他法令との関係などの観点から精査し、検討することが必要と考えられる。」としています。この考えは二つの面から問題です。第一に、福島原発事故による汚染については、これを公害被害として捉えなおし、汚染の拡大阻止や健康被害防止対策の法整備が必要です。そこでは、廃棄物として放射能公害を拡散するような特措法を放置すべきでないという方針が示されなければなりません。公害として扱う以上当然です。第二に、土壌汚染防止法は福島事故があろうとなかろうと放射能汚染を厳しく取り締まる法律が必要です。この二点から見ても中央環境審議会には放射能汚染をさせないという姿勢そのものが示されていません。

 

1-5 公害犯罪処罰法はマイナーな法律ではないのか?

   全く違います。「公害は違法であり、罰する。」という普遍性を持った法律です。環境基本法の「公害」の意味と同じです。1970年の公害国会で成立した法律ですが、当時「世界にさきがけて」立法化されたと言われました。現在でもこのような普遍性を持った法律を実現した国はないようです。この法律には放射性物質の適用除外規定がありません。我々はその意味をもう一度確認する必要があります。この法律は、大気とか土壌、水質などのような限定をせず、次のように規定しています。

  <人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律>(略称「公害犯罪処罰法」「公害罪法」)抜粋    (目的)第1条この法律は、事業活動に伴って人の健康に係る公害を生じさせた行為等を処罰することにより、公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まって人の健康に係る公害の防止に資することを目的とする。                                                         (故意犯)①第2条工場又は事業上における事業活動に伴って人の健康を害する物質(身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質を含む。以下同じ。)を排出し、公衆の生命又は身体に危険を生じさせた者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。                                 ②前項の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。 

  上の条項を見てわかるように、物質が何であろうと、又汚染の対象が何であろうと「人の健康を害する物質」を排出して「公衆の生命又は身体に危険」を生じさせる行為を、公害犯罪行為として違法とするという「普遍性」を持った法律です。このような普遍性を持った法律の性格上、放射性物質の除外規定を設けることは論理矛盾を来すので入れることができなかったと解釈できます。この法律は環境基本法以下の体系に位置づけられていますが、以上の理由から、この法律の成立時から放射性物質にも当然適用になる法律であったと考えるのが正当な解釈と思います。このように公害犯罪処罰法は、マイナーな法律どころか、「公害は違法」とする法的価値を体現す重要な法律です。1-4で述べた①の「環境汚染を許さない」という公害防止法の原型がここにあることを再確認しましょう。なお、過失犯の規定もあり、これも重要です。

 

1-6  放射能汚染防止法にとって公害犯罪処罰法の位置づけは

  公害犯罪処罰法は放射能汚染防止法(仮称)の原型ともなるべき法律です。1-5で述べたような普遍性を体現した法律だからです。放射性物質が環境基本法上の「公害」物質となった以上、原子力公害は同法と公害犯罪処罰法の体現する普遍的な価値に基づいて整備されなければなりません。まず、放射能汚染を違法として取り締まる法律が必要です。その法律は公害犯罪処罰法のわずかな改正で実現できます。放射性物質が適用対象になることを明記させること、刑を被害規模の大きさから無期程度まで厳しくすること、安全性に関する情報を無視したり軽視した者を厳罰に処すること、国民が危険な情報を通報・通告する制度を設けること、以上です。放射能汚染防止法(仮称)も基本はこれの応用と言ってよいと思います。札幌の放射能汚染防止法制定運動は、当初から法律制定要求と同時に公害犯罪処罰法の緊急改正を求めています。

 

1-7 海外に模範となる法律はあるか? 日本の公害法の歴史を再評価しよう

   福島原発事故の後海外で脱原発に向かう国が増えました。中でもドイツが注目されています。しかしドイツの法律や行政をそのまま参考にするのは難しいようです。ドイツの法律の専門家でさえ「専門家も環境法全体を見通すことはほとんどできない」と述べ「環境国際法、EC法、連邦憲法、州憲法、包括的な構想を伴う再統一協定による特別規定、連邦法や州法、広範な法規命令、自治体の条例、技術的な規制・・多数の判例」などを列挙しています。(ヘルムート・クリューガー「環境法における強みと弱みー日本とドイツを比較して-」立命館法学1997年1号)。基本的な政策動向は参考になるとしても、具体的な法律制度としては参考にするのは難しいと思います。日本には公害問題に取り組んだ長い経験があり1970年の公害国会を経験しています。その結果生成された公害関連法は比較的に体系的であり、公害犯罪処罰法という世界に先駆けた普遍性を持った法律も生み出しています。これを再評価して放射能汚染防止の法律に拡張して原子力公害に立ち向かっていくべきでしょう。法律になじみのない方はこの7箇条の法律を読んでみてください。40年以上も前に、悲惨な公害被害を受けた人々が我々に残してくれた法律です。当時の人々の利益になる法律ではありません。同じ思いをさせたくないという思いが生み出した法律です。  

   

2 放射性物質が「公害」物質になった。その公害とは何か。

  環境基本法第2条3項の定義「この法律において「公害」とは、環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態または水底の底質が悪化することを含む。第16条第1項を除き、以下同じ。)、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下(鉱物の掘採のための土地の掘削によるもの除く。以下同じ。)及び悪臭によって、人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)にかかる被害が生ずることを言う。」          

 大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭を一般に「典型7公害」と言っています。環境基本法13条の削除によって放射性物質で大気汚染、水質汚濁、土壌汚染をすれば、人の健康または生活環境に被害が生ずる訳ですから「公害」という定義に当てはまるわけです。

 

3-1 水質汚濁防止法、大気汚染防止法など個別法の放射性物質適用除外条項を外せば、放射能汚染防止法のような独立の法律までは必要ないのではないか

  独立の総合的な放射能汚染防止法(仮称)が必要です。既存の個別法を適用するだけでは汚染を防止できません。何万年もの間安全隔離の必要な高レベル核廃棄物、膨大な量の低レベル核廃棄物、廃炉に伴う長期の汚染防止、福島事故による汚染拡散の防止など、放射性物質という「公害物質の特徴」に応じた総合的体系的な法整備は不可欠です。特に注意を要するのは、環境省のなし崩し的な法改正を放置してしまうことです。「悪い法律ができてから後追い批判をする」という方向に流れがちです。現在立法作業が進行していることを念頭に活動していきましょう。

 

4 原子炉等規制法や放射線障害防止法は公害防止法とは違うのか。

  全く違います。 公害防止法の柱は二つです。 ①汚染するな。 ②汚染した者は罰する。この二つです。公害防止法はこの2本柱からなっています。汚染防止と責任という概念を覚えておきましょう。原子力関連の法律にはこの二本の柱が抜け落ちているのです。原子炉等規制法も放射線障害防止法も、放射線や放射性物質を扱う者に対して放射線レベルに応じて「管理区域」や「周辺監視区域」を設け立ち入りなどを制限しなさい。といっているだけです。これを超えてばらまくことを禁止する規定もなく、従ってばらまいた場合の罰則もありません。別な表現をすれば、放射線を取り扱う者に対する「取り扱いマニュアル」に過ぎないのです。一般公衆は、事業者の放射線管理の問題だから、なにも文句を言わずに有り難くだまっていなさい、という構造です。一般公衆の被爆線量限度は年1ミリシーベルトですが、これを超えてばらまかれることは、法律上規制外なのです。福島第一原発事故で放射能を大量にばらまきましたが、通常公害物質で何万、何十万の人が避難する「事件」が発生すれば、警察が動き、報道が加害企業の責任者を追い回すことになります。しかし福島原発事故では、警察の現場検証も被疑者の逮捕もありませんでした。法律がないからです。今、原発の再稼働が問題になっていますが、次に事故が起きて環境と人間を放射能まみれにしても責任を問う法律はありません。

 

5 線量限度などを定めた法律が複雑で理解しにくいのは

  一般公衆の線量限度年1ミリシーベルトなどは、どこにどのように規定されているのかわかりにくいという方が多いようです。線量限度を定めている法律はたくさんあり、それぞれに複雑に規定されていること、具体的な数値は規則や告示などで定めていること、加えて放射線防止法などは、この限度を超えて環境を汚染したら罰する、というような汚染防止法になっていないこと、事業者に向けて基準を作り、その反射として公衆の被爆限度がわかる、このようなこともわかりにくい原因だと思います。しかし「放射線障害防止の技術基準に関する法律」というのがあって、基準を変えるときは一斉に同じ内容で定めることになっています。基本的には基準の数値自体は一つで決まるとみてよいのです。この法律は有斐閣六法全書にも載っていないようなので覚えておかれると便利です。線量限度について定めている法律は、放射線障害防止法、原子炉等規制法、労働安全衛生法などがあります。これらの法律のどれかに、公衆線量限度とか、従事者線量限度、妊婦線量限度などの数値があったら、他の法律も同じだと理解してよいのです。なお、どの法律にも放射性物質による環境汚染を禁ずる内容の条項はありません。結果として一般市民を年1ミリシーベルト以上被爆させても責任を問う法律はありません。

 

6 原子力公害の特徴と刑事責任 

    人を傷つけたり死亡させた場合は傷害罪や殺人罪、過失致死罪などで処罰されます。被害者が誰であるか特定されています。放射性障害には、急性障害と晩発障害がありますが、特に問題なのは癌や遺伝障害の晩発障害です。甲状腺癌を除いて、被害者の特定ができないのです。通常の刑事事件では数人を死亡させたら重大事件ですが、放射性物質をばらまいて何千人、何万人を癌にり患させたり死亡させても、誰が放射能被曝でり患したのか、死亡したのかわからないのです。他の原因による発病と区別できず、白血病のが何パーセント増加したとか、推定死亡者何万人などという把握しかできません。このため被害の重大性はとてつもない規模でありながら刑事責任に問われないことになってしまいます。完全犯罪と表現する人もいます(肥田舜太郎)。実体は「人道に対する罪」に相当するような犯罪が隠ぺいされてしまいます。このため、放射性物質は人を汚染させること自体、環境汚染をしたこと自体を、大量死亡事件と同視して、厳しく罰する必要があります。公害防止法の「汚染するな」「汚染したら罰する」という基礎に立って立法化する必要があります。現在の「法の空白」のもとでは犯罪学的には犯罪でありながら法律がないために犯罪として扱われていないということになります。なお、日本には公害犯罪処罰法があります。このブログの別の記事を参照してください。

 

7 放射能の影響論争と放射能汚染防止法

  放射能の影響について議論がありますが、公害規制の基本を理解していない傾向が見られます。公害規制は人間に害があるかないかのギリギリの線を設定して規制するのではありません。影響がある水準よりずっと低い値を設定して規制し、それによって人間や環境を守っていくのです。その結果違法に有害物質をばらまいたりすれば、被害の有無に関係なく厳しく非難され法的責任を問われるのです。放射性物質にはこのような法的規制がないので、議論が混乱しています。加えて、放射線の晩発障害については閾値なしというのが国際的合意です。 このような放射性物質の特徴に応じた公害規制が必要になります。そうであれば、程度如何に関わらず被爆させること自体基本的に許されないものとして、一層厳しい基準を設定する必要があります。

  札幌の市民グループの「放射能汚染防止法(仮称)案骨子」では、法律に掲げるべき基本方針として、①放射性物質の排出を罰則をもって禁止すること。例外は放射能汚染防止のための活動に必要な限りにおいて最小限度認められること。②産業目的・営利目的の放射性物質を増加させる行為を禁止すること。③安全性ないし汚染防止は経済的ないし経営上の事由に優先すること。などを掲げています。

 

8 公害規制法の「調和条項」と放射能汚染防止法

  日本の公害規制法には経済的活動との「調和条項」があったのですが、反公害運動の中で、40年以上前に削除されました。被曝線量限度はICRPの勧告が国内法の基準として採用されていますが、この勧告は、「調和条項」と全く同じ考えで策定されたものです。低線量被曝問題などでICRP勧告に批判があります。日本では40年以上前に克服された考えです。放射性物質を公害規制する法律は日本の法律の原則に従い、「調和条項」を排除して制定する必要があります。

 

9 公害犯罪処罰法について

  我々は、放射能汚染防止法の制定運動の一環として公害犯罪処罰法(「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」)の改正を求めています。このブログの他の記事を参照願います。

 

10 原子力規制委員会設置法=「独立行政委員会」という悪夢

  国家行政組織法3条に基づく原子力規制委員会が環境省の外局として設置されました。法律制度全体を見失って、無責任集団に独立性を与え、国民を危機に陥れる立法化です。委員会設置法と同時に環境基本法の放射性物質適用除外条項の削除法案が成立しましたのですから、それを具体化する、放射能汚染防止のための規制法を立法化しなければならないのです。以下に「放射能汚染防止法(仮称)制定 『公害犯罪処罰法』緊急改正ガイドブック」の抜粋を紹介します。放射能汚染防止法(仮称)制定運動の理解に役立つてていただければ幸いです。

  <(7)独立行政委員会」という悪夢  抜粋>

  福島原発事故の後、独立行委員会としての原子力規制委員会を設けようとする動きがあります。理由は、日本の原発行政は、規制する者とされる者が相互に独立していない。安全性の確保のためには、アメリカの原子力規制委員会のような独立の行政委員会にする必要がある。というものです。これは物事の順序が逆です。日本の現実を無視した悪夢のような考えです。日本の原発産業を取り巻く学者や官僚は、まともな法律があれば刑事罰の対象になっていたような者達です。放射能汚染の責任を問う法律もないのに、このような無責任集団に独立性を与えたらどうなるのか。次の事故を準備してくれというようなものです。少数の「良心的な」者が参加してどうなるというような状況ではないのです。行政組織がどのようなもであれ、公害犯罪処罰法などによる厳しい罰則規定を設け、「法の空白」を埋めるのが先決です。これを前提に、危険通報制度のような制度によって国民が直接監視し、違反する者には厳罰を与える。このような制度を基礎に据えた上での「独立行政委員会」でなければなりません。

 

11 脱原発と放射能汚染防止法

   原子力公害に取り組むためのもっとも重要なキーワードは「汚染防止」です。日本には54基の原発とそれが生み出した膨大な放射性物質があります。直ちに原発を止めても、そこには膨大な量の核廃棄物があります。我々はこれまで「脱原発」を求めてきました。これからも求めていきます。しかし、脱原発で安心できる段階はもはや過去のことなのです。事故による汚染はもちろん、生み出された負の遺産である核廃棄が環境を汚染しないように管理する体制を作らなければならないのです。「放射能による汚染から環境を守る」という視点から「汚染なき脱原発」を実現する必要があります。また、「汚染」という視点で現実を直視すると「今すぐやめても大変なのに原発運転を続けるのはとんでもないことだ」ということがよくわかります。さらに原子力公害は地球規模の危機です。世界の原発は400基を超え今後増えていく方向にあります。放射性廃棄物は増え続けています。老朽化も進んでいます。今後世界のどこかで次々と事故が起こる可能性があります。事故の汚染に合わせて規制をゆるめ、「影響はない」と扱われてしまうことが予想されます。この状況が今後100年も続いたらどうなるのか。日本の輸出が将来の地球環境にもたらすもの、以上のように「汚染防止」という視点で現実をとらえることが必要です。脱原発を確実に実現するためにも、汚染防止という法律制定に向けて運動する必要があります。原発産業は巨大な力を持っています。法律によって強制しない限りこの大きな力による放射能汚染は防止できません。

放射能汚染防止法(仮称) 公害犯罪処罰法緊急改正ガイドブックをPDF形式で提供中です。環境基本法改正前の作成ですが、改正を見越して構成してあります。

 

12 脱原発基本法制定運動、原子力廃止基本法案運動との関係

   集会などで、脱原発基本法の制定運動など他の法律制定運動との関係について質問を受けることがありますのでまとめておきます。前期11と合わせてお読みください。

 

*脱原発基本法案(抜粋)

  目的 ・・できる限り早期に脱原発の実現を図り、もって国民の生命、身体財産を守るとともに国民経済の安定を確保する・・・

  基本理念 ・・脱原発は、遅くとも、平成32年から37年のできる限り早い3月11日までに実現されなければならない。

*原子力廃止基本法法案(元衆議院議員平智之 抜粋)

  目的 ・・原子力の研究、開発及び利用の停止に伴う原子炉の廃止並びに…放射性廃棄物の長期管理に関する研究及び開発…原子力利用の速やかな停止を実現・・

  基本方針  エネルギー分野における原子力利用は、永遠にこれを禁止し、・・

 

① 上記の法律は、放射性物質を公害として規制する法律とは異質です。放射能汚染防止法の制定運動に取り組んでいる我々は、これまで脱原発を目指して活動してきましたし今後も活動していきます。しかし、脱原発は原発による発電を止めることであり、放射性物質による環境汚染を規制する法律ではありません。脱原発が実現しても汚染を規制する法律が必要です。公害法の基本は「汚染するな。汚染した者は罰する。」という内容が核心となる法律です。従来環境基本法は、放射性物質を公害から明文で除外してきました。除外条項13条が削除され、放射性物質は同法上の公害物質となったのです。放射性物質を公害物質として取り締まる立法化の門が開かれたということです。脱原発の法制定運動に取り組む方々には積極的に放射能汚染防止法制定に取り組んでいただきたいと思います。内容が汚染防止であれば法令名は「原子力公害防止法」など自由に考えていいのです。

②上のように、脱原発法と公害防止法としての放射能汚染防止法は異質なものですから、脱原発法が先か放射能汚染防止法が先かという発想は誤りです。脱原発法の動向とは別に公害防止法としての放射能汚染防止法の制定が必要です。

③ 福島事故後、国会が放射性物質の公害関連法からの除外規定についての見直しの方向を示し、環境基本法が改正され、大気汚染防止法などの改正作業の途上にあるのですから、まともな放射能汚染防止法の制定をさせるための活動が必要です。脱原発法制定運動があるのでこちらの手を抜いてよいと考えるのは、せっかくの機会を見逃すことになります。

④ これまでの国会の動きもあり、アンケート調査などによると、国会議員は、脱原発の賛否にかかわらず放射能汚染防止法制定に賛成する人が多く、反対する人はほとんどいません。一般の人たちも、脱原発の考えを持ってい方でも、放射能汚染を公害として防止する法律は必要という反応が返ってきます。

⑤ 日本に54基もの原発が建設され、指摘されてきた過酷事故に至った背景には、原子力産業が公害規制から免れてきたことがあります。放射能汚染防止法制定は脱原発への確実な基礎固めにもなります。