獣医みならい留学記

オーストラリアで獣医を目指して頑張ってます!メルボルンの情報なんかもあるよ!

子犬、子猫の時に何度もワクチンを打つわけ。

2007年08月05日 | 予防接種について
一応、予防接種についての最終回です♪
何故子犬、子猫の時に数週間おきに何度も同じワクチンを打つのかについてですね。
これに関してはここオーストラリアでもきちんと理解されてない場合が多く、
1回は打つけど2回は打たないとか、2回は打ったんだから3回もいらないでしょ?とか
何故複数回にわたって打たないといけないのかが理解されていません。
これには赤ん坊の頃だけ特殊な理由があるんですね。

ここオーストラリアでは子犬に関してはコアワクチン
(犬ディステンパー、犬アデノウイルス2型、犬パルボウイルス)
を1回目(6~8週)、2回目(12~14週)、3回目(16週~18週)に打つのが一般的です。
2回目、3回目にはパラインフルエンザとレプトスピラ症を加える事もあります。
この辺がよくわからないのですが、オーストラリアでは犬アデノウイルス2型のワクチンで
犬アデノウイルス1型(伝染性肝炎)を防げるとされています。
ですから、1型は含まれていないのです。
2型のほうがワクチンとして安全なので。

かわって子猫に関してはコアワクチン
(猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫伝染性腸炎)
を1回目(6~8週)、2回目(10~12週)、3回目(14週~16週)に打つのが一般的です。
2回目、3回目にはクラミジアと猫白血病ウイルスを加える事もあります。

このコアワクチンに入っている犬ディステンパーなどは一回で約7年にも渡る免疫が得られると
前に説明しましたが、それならば何故こんな短期間に連続して打つんでしょう?
理由はお母さんから初乳を通して貰ってきた免疫が関係しています。
人間の場合、胎盤が他の動物よりも優れていますから胎盤を通しても免疫が母から子へ渡されるのですが
他の動物はまず殆どの免疫の受け渡しを初乳に頼っています。
赤ちゃんというのはどの動物にしろ一番無防備な時期ですし免疫システムがまだちゃんと出来ていません。
その一番危険な時期をお母さんからもらった免疫で凌ぐのです。
実際の所、産まれてから1日以内に初乳を十分飲めなかった赤ちゃんは
動物の世界ではほぼ死を意味します。
生き長らえたとしても弱く長生きはできないでしょう。

その大事な初乳からもらった免疫ですが子犬、子猫の場合6~16週間で消えてしまいます。
つまり、それ以後は自分自身が免疫をつけて頑張っていかなければいけません。
実際、この母親からもらった免疫が消えてしまう頃というのは
初乳をちゃんと飲んだ場合においては一番危険な時期です。
ですから、この時期に予防接種をするんですね。

ただ複雑なのは母親からもらった免疫は病気を防いでくれるのですが、
同時に予防接種の効果も無くしてしまいます。
どうしてなんでしょう?
以前、免疫の話の時に免疫システムをお城を守っている兵隊さんに例えました。
普段100人の所、30人のピストルを持った悪者(ワクチン)が攻めてきたら仲間を呼んで
1000人体制にしましたとかそういう話をしましたね。
同じ例えで考えると、赤ちゃんの頃は今回は20人とかしかいません。
増員もあまりできません。
まだちゃんと免疫システムができてないからですね。
今、病原体が攻めてきたらやられてしまいます。
しかし、お母さんの初乳からもらった援護部隊が500人いたらどうでしょう?
その援護部隊がやっつけてくれますね♪
これで病気をやっつけられます。
でも、ワクチンを打っても結局ワクチンも体にとっては悪者ですから
応援部隊がやっつけてしまいます。
それでは自分の本部隊の経験値は全く上がりませんね。
見たことないのと同じです。

つまり、お母さんからもらった免疫(応援部隊)がいなくなるぐらいでないと
自分の免疫(本部隊)がワクチンに対して反応できないのです。
ただ困った事にもらった免疫が消えてしまうのは危機的な状況ですから、
自分の免疫もできる限り直ぐに作らなければいけません。
と言うわけでこのもらった免疫が消える6~16週間付近で2回から3回ワクチンを打つのです。
もらった免疫が消える速さと言うのはもらった量の差によって個人差が出ますし、
コアワクチンに入っているそれぞれの病原体に対する免疫に関しても
それぞれ消える速さが違います。
つまり、1回目6~8週目に打つ時はもらった免疫がかなり早く切れてしまった場合の為です。
ですから、実は1回目の予防接種は多くの場合免疫をもたらしません。
2回目12週あたりになると多くはもらった免疫が切れてきてますから、
予防接種の効果も出て免疫をもたらす場合が多いです。
ただし、全員ではありません。
3回目16週には全員がもらった免疫を失っていると考えられますので、
予防接種は全員に免疫をもたらします。
と言うわけで、どれかしか選べないならば実は3回目が一番大事なのです。
1回目、2回目というのはこの一番危険な6~16週間という時期に
母親からもらった免疫なのか自分が得た免疫なのか、どちらにせよ免疫を持っている
という状況を作るためのものなんですね。
そして3回目で確実に免疫を持たせます。

これは例えば予防接種の回数を減らす代わりに危ないから外へはその間出さないなどという事もできます。
しかし、この時期というのは子犬子猫にとって社会を学ぶという
その後の性格形成に大きな影響を及ぼす時期です。
ですから、基本的には予防接種をお勧めしているのですね。

これで一応、予防接種についての一連の記事を終わろうと思います。
できるだけわかりやすく簡単に書いたつもりなのですが、長文になってしまいました。
全て読んでくださった方、有難うございました。
よろしければ、今後の参考のためご意見やご感想をお聞かせ下さい。

今週からはまた学校の話に戻ります。

個人の予防接種が皆を守る??

2007年08月04日 | 予防接種について
今日は「集団免疫」という考え方をご紹介します。
これの考え方というのは特に日本ではあまり広まっておらず、
それが為に
「何故かかりもしない狂犬病の予防接種なんぞしなくてはならんのだ!」
と多くの方が疑問を持たれているのです。

今まで僕が説明してきたのは個人としての免疫に関してですが、
個人個人に対する免疫というのは大きな集団全体として見た時にまた違った意味を持ちます。
例を出しましょう。
例えば、ある病気にある人がかかったとして多くの場合
「感染する→病気になる→病原体を他人にうつす→治り免疫を持つ」
と言った経過をたどります。
では、この「病原体を他人にうつす」という時期から治るまでに平均3人にうつすとします。
となると、最初に感染した人が1人として次に感染するのは3人です。
では次の段階はどうでしょう?
それぞれが別の3人にうつしますから3の2乗で9です。
次の段階はどうでしょう?
またまたそれぞれが3人ずつにうつしますから3の3乗で27人です。
ではその次は・・・
と言った具合に3の累乗で計算できるように3倍ずつ増えていきます。
今回は3人にうつすという前提でしたがこれが10人などもっと多ければ、
同じように累乗で増えていきますので爆発的に病気の流行が広がります。

ただ、実際にはこうはならないんですよ。
絶対にどこかで流行が止まりますよね?
と言うのは流行が広がるにつれて新たに感染した人が病原体をうつすのが
以前に既に感染し免疫を得た人である可能性が増えてくるからです。
当然、その病気が致死性であれば周りに居る人の数が減るということもあるのですが・・・
つまり、最初のうちは感染者がうつす3人はほぼ無感染者ですが、
徐々に過去に感染し免疫を持った人が増え後には感染をうつされる人の多くが
既に免疫を持っている感染経験者になります。
そうなると、感染者が新たに3人にうつしたとして2人は新感染者でも1人は感染経験者であれば
その1人は免疫を持っていてもう感染しないという事になりますので
その1人の感染の流れはそこでストップします。
つまり、実質その感染者は2人にしか感染を広げていないと言うわけです。
これが更に進むと3人中2人が感染経験者、つまりは免疫を持っているようになり
更には10人に9人が免疫を持っているようになり・・・最終的に流行が止まります。
もちろんこれは病気を治療するというプロセスが全くない場合ですし、完全に卓上の空論です。
実際にはこうはなりません。
ただし、流行の広がり方の考え方はこうです。

では最初から免疫を持った人がその集団の中にいたらどうでしょう?
当然、最初から流行の広がり方が遅くなりますよね?
もし3人に1人が初めから免疫を持っていれば、いくらその病気のプロセスの中で
平均3人ずつにうつされるとしても実質としては平均2人にしか感染をうつしませんから
増え方は2の累乗になります。
ずいぶんと増え方が緩くなりましたね♪
では、どこまで免疫保持者の割合が増えれば全体として感染の広がりを止められるでしょうか?
答えは3人にうつす場合ならば3人に2人、つまり66.6%に免疫があれば流行は広がりません。
もうお分かりかと思いますが、感染をうつす3人のうち2人が免疫保持者であれば
次に病気になるのは実質1人しかいません。
となると、流行の広がりは1の累乗つまりずーと1です。
感染者数は1人から増えないんですね。

当然、どの病気も感染力が違いますから平均何人にうつすというのは変わってきます。
ですが、考え方は同じである病気が平均n人づつに感染していくと考えると
n人中、n-1人が免疫保持者であれば感染者の数は1人のままな訳です。
つまり

(n-1)/n

の割合の人が免疫保持者であればいいという事です。
3人ずつの感染であれば、2/3で66.6%。
5人ずつの感染であれば、4/5で80%。
10人ずつの感染であれば、9/10で90%。
これが流行を防ぐために必要な目標免疫保持者の割合です。
そして、それを達成する為のキーアイテムが予防接種なんですよ。

日本でもう何十年も新たな狂犬病が認められていないのに未だに毎年の予防接種が義務なのは
万が一に日本で狂犬病を再び出たとしてもその流行をごく最小限に食い止める為なのです。
つまり、この集団免疫の考え方です。

狂犬病の事を簡単に説明しますが、狂犬病はあらゆる哺乳類にうつります。
犬だけじゃありません。
犬や人は当然として、猫にだって牛にだってハムスターにだって・・・
実際、狂犬病に感染したハムスターに噛まれたというケースもあるのです。
ただし、人への感染は多くが犬に噛まれる事で起こります。
ですからとりわけ犬に予防接種するのです。
そして発症まで至った場合、治療法はなく100%死にます。

確かに日本では狂犬病は出ていませんが、中国などでは未だありますし
世界で年間5万人が亡くなる病気です。
上で言いました通り、全ての哺乳類にうつるので野生動物に広がれば
まず撲滅は難しくなります。
実際、アメリカでは野生のアライグマなどに広がり撲滅は難しいです。
ですから、水際で食い止めるのは当然としても、万が一感染が起こっても
それ以降流行を進ませないというのは絶対的に必要なのです。

日本での犬の狂犬病予防接種率は40%を切っているそうで、
それはWHOの定める70%を大きく下回ります。
万が一、狂犬病が再びもたらされたら流行になる恐れが大きいという事です。
何度も繰り返しになりますが、予防接種にはかならず副作用とリスクが伴います。
確かにまずかかりもしない病気のために愛犬の予防接種を打つのは
嫌だという気持ちもよくわかります。
ただし、法律で義務と決まっているのにはちゃんと理由があるんですね。

また長くなってしまいましたが、次回で一応ラストの予定です。
一番大事な子供の時の予防接種。
何で何度も連続で打つのかについてです。

予防接種が一年毎の理由。その2

2007年08月02日 | 予防接種について
昨日、長くなりすぎたのでその続きです。
何故ペット向けの殆どの予防接種が1年毎なのかということです。

昨日の生ワクチンの例を思い出してみてください。
例では元々100人の兵隊さんが守っていたところ30人のピストルを持った悪者(ワクチン)がやってきて
それに対抗するために出来るだけ増員して1000対60(増殖後)にしました。
そして、撃退後徐々に兵隊さんの数が減りますが
300人を最低限余裕を持って病原体を撃退レベルだと考え、年100人ずつ減ると
次回のワクチン接種は7年毎になるという話をしました。
1000人から7年後700人減って300人になってもまだ撃退できるからですね。
でも、実際には個人個人の免疫反応というのは違って、
人によれば同じ30人が攻めてきた場合に1100人まで増員できる人もいれば、
900人しか増員できない人もいるわけです。
そうなると前者は300人まで落ちるまで8年、後者は6年となります。
じゃあ、どうすればよいか?
そういう場合、あらゆる可能性を考えて一番上手くいかなかった場合を想定して次を打ちませんか?
つまり、この場合はもしかしたら自分は免疫反応がよくて8年毎かも知れないけど
6年毎に打つことにしようという事になるわけです。
実際にはワクチン会社が定めますのでちゃんとワクチンを打った場合に
最低限この間隔で打てば十分な免疫を保障しますよという間隔になります。

それにしても、昨日お話したように犬ディステンパーの場合
ワクチンの効果は7年も続くと言われているのにいくら何でも1年は短すぎるのではないか!?
と思われると思います。当然ですね。
ここにはもう1つの理由も絡んできます。
まずワクチン会社はワクチンを開発の際に必ず動物実験をします。
実際にワクチンを被験者に打って効果を確かめなければいけないからです。
ただそのような実験をする際にはボランティアを募って数多く打てばよいなどと言うわけではなく
あくまでワクチンの効果のみが結果に作用するようにしなければいけません。
つまり、できうる限りもともとの免疫レベルが同じで免疫反応が同じで栄養状態が同じで環境が同じで・・・
と言うようにワクチン接種以外の遺伝、環境要因で結果が左右されないようにしなければいけません。
尚且つ、偶然のエラーと言うのをできうる限り排除する為に被験者の数も相当数いります。
この辺の事は他のあらゆる製品開発に関して言える事なのですが、
ワクチン開発の場合、最低でも効果を見るのに年単位で調べなければいけません。
そして、適切な実験データを元にしないと認可が下りませんからね。

そのワクチン会社が実験を元に十分な免疫が得られますよと証明し、
実際に認可が下りた年数と言うのが多くの場合「1年」なのです。
もしかしたら十分な免疫が1年以上、下手したらそれこそ7年続くかも知れません。
ただ、7年も実験を続けると言うのは実際にはかなり不可能に近いのです。
開発から7年も待つなどと言うのはまず有り得ないですので。
つまり、この1年というのは食品でいう「賞味期限」のようなものです。
食べ物でも賞味期限を過ぎてすぐ腐るという事はないです。
賞味期限と言うのは製造元が品質を保障する期間というだけですから。
特に賞味期限が年単位のものは賞味期限が切れても早々腐りませんよね。

これが多くのペット向けの予防接種が1年毎である理由です。
そして、獣医さんにとってこの間隔を変える事は難しい判断なんです。
今までは適切にワクチンを打っていればその効果はワクチンの製造元に責任がありますが
それに従わない場合、それは獣医師の責任になるからです。
つまり、いくら3年毎のワクチン接種で十分であろうと思っていても
実際に1年毎のワクチン接種を3年毎でいいですよと言った場合に
運悪くそのワンちゃん、猫ちゃんが病気になってしまったらどうでしょう?
もしかしたら、その子の免疫システムに問題があっただけかも知れません。
しかし、飼い主さんは当然怒るでしょうね。
ですから、製造元の方針以外のことを独断でするには勇気が要りますし、
飼い主さんにもその事を重々承知して頂かなければいけないのです。

これを解決する方法として毎回ワクチンを打つのではなく体の抗体のレベルを確認する
という方法があります。
これなら十分な免疫があるのを確認でき、尚且つ余計なワクチン接種を無くす事ができます。
ただし、どれほど簡単に出来るのか。
お値段はいくらなのか。
などに関してはおはずかしながらわかりません。

ちなみにここオーストラリアでは流れは
「予防接種をもっと広めるけれども、ペット毎の接種量は減らそう。」
という流れです。
恐らくアメリカも同じでしょう。
実際にコアワクチンと呼ばれる犬用C3(犬ディステンパー、犬パルボウイルス、犬アデノウイルス2型)
に関しては3年毎のワクチンが認可され出てきました。
日本でもいつになるかわかりませんが、向かうべき流れは同じです。
ただ正直な所、日本ではワクチン接種に関する認識は米国、豪国に比べて及びません。
ここでは犬ディステンパーのワクチン接種は一般的ですが、
その為に多くの若い獣医師などはディステンパーなど見たこともないのです。

というわけでした。
明日は上のオーストラリアのディステンパーの例や日本の狂犬病など
何故、病気が一般的でなくなったのにまだ予防接種をするのか。
集団免疫という考え方をお話します。

ペット向けの予防接種が一年毎の理由。

2007年08月01日 | 予防接種について
今日は予防接種の間隔の話です。
一生に一回のものもあれば、毎年のように打たなければいけないのもあります。
どうしてなんでしょう?
特にペット向けの予防接種に関しては毎年というのが一般的であり
「ホントに毎年打たないといけないのか?」
と疑問も起こっています。
と言うわけで、その疑問にお答えしましょう♪

まず予防接種の間隔を決めるに当たって予防接種によって免疫がどれほど高められるのか
と言うのはキーポイントになってきます。
例え話をしましょう。
塀に囲まれたお城を思い描いてください。
そして兵隊さんがそのお城を守っています。
そのお城が僕らの体でそれを守っている兵隊さんが免疫システムです。
そう考えると、病原体は敵の兵隊やテロリストと例える事ができます。
打ち破られた塀から進入し悪さをするわけですね。

<生ワクチンの場合>
それではまず最初に自分達の兵隊が100人いるとしましょう。
そこに30人の悪者がやってきました。
この悪者達は弱っていてピストル程度しか持っていませんが、
お城の中に進入し分裂したりして倍の60人になりました。
100対60です。勝ち目はありますよね。
でも、実際にそんな事があったら応援部隊を呼ぶでしょうね。
それも相手は弱っているとはいえピストルで武装しているわけで出来るだけ沢山呼びます。
と言うわけで全部で1000人になりました。
1000対60です。
これならやっつけられますね♪

さて悪者は退治しました。
1000人の兵隊さんはどうするでしょう?
事態が収まるにつれて人数を減らすでしょうが、また今回の事があるかもしれないと
徐々に人数を減らしますよね。
それでは例えば1年に100人ずつ減らすとします。
1年後、同じ敵がやってきた場合・・・900対60です。
まだ楽勝ですね。
5年後でも500対60です。
これならまだ楽勝でしょう。
ただしこの計算だと10年後には0人になってしまいます。
そこまでいかないにしても8年後200人になった状態で、弱ってピストル装備でなく
元気一杯のバズーカ装備の病原体が攻めてきたらどうでしょう?
つまり、例えば300人を最低限余裕を持って戦えるレベルだなと定めるとすると
このワクチンを打つ間隔は7年ごとと言う事になります。

では例えば2年おきに打つとどうなるか。
2年後はこの例でいきますと800人ですが、
すでに楽勝ですのであと200人呼んで1000人に戻るだけです。
と言うわけで、1000人を上回る事があったとしても大した人数ではなく
いいとこ1100人か1200人になるぐらいです。
と言うわけで、必要以上に間隔を狭めても効果は上がりません。
特に予防接種は副作用がありますので、間隔を狭めればそれだけリスクは上がります。

<不活化ワクチンの場合>
元の兵隊さんはやはり100人だとします。
そこに死体と言うのも何なので、等身大の人形にしましょうか。
等身大の人形が80体送られてきました。
生きてないですので数は多めになっています。
さて、兵隊さんはどうするでしょう?
明らかに不審なのでやはり応援部隊を呼んで警戒に当たります。
でも、ただの人形なので50人呼んで150人体制にしました。
これでは病気に対して耐性があるとは言えませんね。
それでは2週間後、もう80体人形が送られてきたらどうでしょう?
これは今まで以上に不審です。
と言うわけで、前回以上に応援を呼んで400人体制にしました。
これで病気が来ても安心ですね♪
ただし、生ワクチンの時と同じように300人体制を維持したいとなると
1年毎にワクチンを打たなければならないという計算になります。

<サブユニットワクチンの場合>
例えば事件があって犯人が逃走している場合、警察は犯人の服装や人相を元に捜しますよね。
その服装の特徴が
「アライグマの帽子、紺色のジャケット、黒の革靴」
だった場合、どれが一番手がかりになるでしょう?
当然、アライグマの帽子だと思います。
つまり、漠然と全体のイメージで対策を立てるのが不活化ワクチン。
サブユニットワクチンの場合、一番手がかりになりインパクトの強いアライグマの帽子
だけに絞って対策を立てます。
実際に、紺色のジャケットが送られてくるのも不審ですが、
アライグマの帽子が大量に送られてきたら不審すぎですよね・・・笑


と言うわけでした。
これが基本的な予防接種の接種間隔の決まり方です。
ただし、実際にはそんなように行っていません。
毎年一回の予防接種をお勧めされている犬ディステンパー。
しかし、実際に一回の予防接種で必要な免疫が保持されるのは約7年だと言われています。

どうしてこんな事になるのか?
ホントは今日説明しようと思いましたが、長くなりすぎましたので明日に続きます。

知っておこう、ワクチンの種類。

2007年07月31日 | 予防接種について
今日はいよいよワクチンの種類です。
昨日の免疫の話がここで関係してきます。
具体例も挙げて説明していきますね。

ざっと昨日のおさらいです。
免疫システムには先天性免疫といって食細胞を代表としてとりあえず病原体を見つけたら
食べてやってつけるもの。
反対に特定の病原体に対してだけ強力に作用し予防接種によって高められる適応性免疫がありましたね。
そして、適応性免疫の中にも抗体を代表として細胞外、主に血液内で病原体をやっつける体液性免疫と
細胞内に入り込んだ病原体をやっつける細胞性免疫があるんでした。
さてそれではワクチンの種類です。
実は新しいタイプのワクチンも何種類も出てきているのですが、
ここでは実際に使っているタイプを3種紹介します。

<生ワクチン>
その名の通り「生」つまり生きた病原体が入っているワクチンです。
ただ、そのまま病原体を体に入れたのでは当然病気になってしまいますから、
培養する過程で弱らせてあります。
利点としてはやはり病原体そのものに近いですから体の免疫反応も良く、
体液性免疫も細胞性免疫も両方高められます。
逆に欠点としては弱っているとはいえ生きたままなので場合によっては軽いにせよ発症しうる事。
さらに生きたまま培養するため培養に使われた他の生物性物質が混入しやすく
それによって問題が起こりやすいです。
また、これまた生きたままなので気温などにより品質に問題が出やすいです。

このワクチンの例としては
(犬用)ジステンパー、犬パルボウイルス、犬アデノウイルス2型、パラインフルエンザ
(猫用)猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症
などがあります。

<不活化ワクチン>
又の名を死菌ワクチンと呼ばれるように死んだ病原体が入っているワクチンです。
死んでいますので体の中で分裂する事はありませんから、
必然的に必要量が生ワクチンよりも多いです。
利点としてはやはり死んでいるので感染の心配はなく安全である事。
特に妊娠中などにおいては胎児への感染を心配せずに済みます。
逆に欠点としては死んでいて細胞内で分裂したりしませんので
生ワクチンに比べて細胞性免疫が高められない事。
さらに死んだ菌で十分な免疫反応を得られるよう補助剤を入れることが多く、
残念ながらその補助剤によってアレルギーが起こるリスクが高まります。
また、よい免疫反応を得がたい事から連続した2回のワクチン接種などがよく必要とされます。
予防接種によって「また2週間後に来て下さい。」などと言われるのはこれですね♪

このワクチンの例としては
(犬用)狂犬病、犬パルボウイルス、犬レプトスピラ病
(猫用)猫汎白血球減少症
などがあります。

<サブユニットワクチン>
比較的新しいタイプのワクチンです。
このタイプのワクチンは病原体の中でも特に免疫反応を引き起こす部分だけを
大腸菌などの遺伝子をいじって大量に生産させ、それをワクチンとして使います。
利点としては十分な免疫反応を引き起こさない余分な部分は含まれていない事。
これによって不活化ワクチンよりも更に安全かつ効率がいいです。
加えて、癌を引き起こすウイルス(猫白血病ウイルス)などにおいては
生ワクチンではまだリスクが高いのでサブユニットワクチンはその点安全です。
欠点としては不活化ワクチンと被りますが、補助剤を使う事。
また、やはり十分な免疫反応を得るために連続して2回接種が必要になったりします。

例としては
(猫用)猫白血病
があります。


と言うように効果が一番高いのは生ワクチンですが、安全性を考えると不活化ワクチンの方が勝ります。
そしてサブユニットは不活化ワクチンよりも基本的にはいいという事がわかります。
ただ、大事なのはどのワクチンにも欠点が存在し副作用が出る可能性があると言う事ですね。
明日は実際にワクチンを打つ間隔の決め方です。

もっとよく知らない免疫の仕組み。

2007年07月30日 | 予防接種について
今日は体の免疫についてです。

予防接種というのはそれに含まれる特定の病気のワクチンを注射する事で
体のそれらの病気に対する免疫を高めるというのが目的です。
そして僕達の体の免疫システム、つまりは病原体などから体を守る防衛部隊が白血球なのです。
この白血球には沢山の種類があり、またその役割も様々で大変複雑です。
正直、お恥ずかしながら僕もちゃんと全てを理解しているとは言いがたいですので、
出来るだけ簡単かつ必要な所だけをかいつまんでみます。

まず免疫システムには大きく二つあります。
先天性免疫と適応性免疫です。
先天性免疫と言うのはその名の通り生まれながらにして持っている免疫システムで
白血球のうちマクロファージ(単球)、好中球などが含まれます。
簡単に説明するとこれらは体にとって悪い物を食べてしまうのが仕事です。
これらはいつも体中を巡回していて悪いやつを見つけると直ぐに集まってきて食べてしまいます。
ですから、食細胞と呼ばれたりもします。
反対に適応性免疫というのは体が特定の病原体に対して適応する免疫システムです。
適応するのには時間がかかりますから先天性免疫よりは遅れて効果がでますが、
その分適応したものに対しては圧倒的な威力を誇ります。
先天性免疫は基本的に悪いやつはみんな同じように攻撃しますから。
もちろん、予防接種が高める免疫はこっちですね♪

そして実はここで問題になる適応性免疫の中にも二つの異なる仕組みがあるのです。
それが体液性免疫と細胞性免疫です。
何のこっちゃと思われるかもしれませんが、これは二つともとても大事なんです。
まず体液性免疫の方ですが、これがご存知の方も多いかと思いますが「抗体」と呼ばれる物です。
この「抗体」に対してターゲットとなる病原体などは「抗原」と呼ばれるのですが、
抗体は抗原に張り付いてウィルスや毒素が細胞に入ってくるのを阻止したり、
上に出てきましたマクロファージなどの食細胞に「悪い奴等はここだよー。」と教えて食べさせたり、
バクテリアなんかは他の物と協力してやっつけたりします。
この抗体は抗原、つまり病原体などの表面の特徴的な部分にそれぞれぴったり合うようになっており
普通、病原体の数だけ異なった抗体が作られます。
つまり予防接種によって病原体の形を教え、それにぴったりくる形の抗体を大量生産させるのです。
正しくは記憶させておき次回また見つかった時に大量生産できる状況を整えておくのですが。

さてもう1つの細胞性免疫です。
これはご存じない方が多いかと思いますが、とっても大事なんですよ。
簡単に説明すると細胞性免疫は自分の細胞内に入り込んだ病原体を自分の細胞ごと処理します。
基本的に体の細胞には自分の中に入り込んだ余計な物を外面に押し出す仕組みがあります。
そこにT細胞と言うのがやってきてそれをチェックして周ります。
それで「やや、この細胞の中には変なものがいるな。」とわかると細胞を自滅させてしまいます。
またそこで得た情報を持って上で説明しました抗体の生産も促したりします。

お分かりいただけたでしょうか?
つまり、体液性免疫は血液など細胞外の病原体に対してしか効果がなく、
細胞内に入り込んだ病原体に関しては細胞性免疫が必要なのです。
そして、狂犬病、犬ジステンパー、犬パルボ、犬伝染性肝炎、猫鼻気管炎、猫カリシウィルス感染症・・・
これら犬猫のワクチンに必ず含まれる病気ですが全部ウィルス性です。
そしてウィルスは自分達だけでは増殖できませんので必ず細胞内に入るんですよ。
入り込んだ細胞の遺伝子をいじって自分達を大量生産させるのです。

こう何故長々と説明したかというとワクチンの種類によって
体液性免疫と細胞性免疫の高め方が異なるのです。
そして同時に利点と問題点が出てきますし、ワクチンの打ち方も違うのです。
明日こそはワクチンの種類です。

実はよく知らない予防接種の目的。

2007年07月29日 | 予防接種について
テンプレートを変えてみました。
これの方がちょっと獣医っぽいかなと。(笑)

さて、今週は実は実習が唯一お休みの週でして少し休憩できる週です。
昼からの授業しかないですから。
ただ来週は一番キツイと言われる馬の実習の週なので英気を養っておかないといけないですね。

という訳で、何回かに分けて自分の勉強も兼ね予防接種についての話を書こうと思います。
今までに何度か習った所ですが、現場に出るようになるにあたって予防接種と言うのは
獣医の仕事の中でもかなりの割合を占めますのでそれぞれについて詳しくやってます。
丁度いい機会ですので順を追って紹介したいと思います。
と言うのも、実際「予防接種は病気を防ぐ」と思ってらっしゃる方が多いと思いますが
一概にそうとは言えませんし、リスクゼロの安全なものでもないです。

先日、インターネットを見ていて犬の予防接種の危険性についてのサイトを見つけました。
なるほどと思える事も多かったのですが、
そこに読者へのメッセージとして書かれていた

「高齢になったら今までに予防接種を何度も受けているのでもう受けなくてもよい。」
「実は予防接種は3年に一度でいいのに、お金儲けのために1年毎にしている。」

と言うのは正直、どちらも違います。
一生に一度でいい予防接種もあれば、過去にどれだけ沢山受けていようが
定期的にやらないといけないものもあるのです。
ただし、2番目に関しては一概に間違いとは言えません。
その辺の事も順次紹介していきます。

では一体予防接種とは何のためにやるのか?
それは大きく分けて下の3つです。

・病原体に感染しないようにする。
・病原体には感染するが、発症しないようにする。
・病原体に感染するし発症もするが、発症を和らげる。

つまり、病原体が体に入り込むのを防ぐ、つまり感染を防ぐというのは確かにベストですが
それは予防接種の一部のものでしかありません。
他の多くのものでは感染はするのです。
この「感染」と「発症」の違いは大きく、例えば病気は発症しないけれども感染し続け、
病原体を他の個体にうつし続けるなどと言うような迷惑極まりないものもあります。
3つ目などは感染も発症もしますので、予防接種を打ったのに病気にすらなります。
ただ、例えばその病気が致死性のような強いものである場合、病気になれど弱まれば
死ぬ事も少ないと言う事で利点があるわけです。
このように一概に予防接種と言えど種類によって実はその後の対処法がかなり違うのです。
この辺は獣医としてはきちんと飼い主さんに説明すべき事ですし、
飼い主さんもペットがどのような予防接種を受けてそれはどういう効果なのか
と言うのはやはり知っておくべき事だと思います。
これは人間の予防接種でも変わりませんので知っておいて下さい。

明日は予防接種に使うワクチンの話をします。