On楽工房奮戦記byよっさん@アコギ

わたしの音楽活動、楽器、PA、読書についての勉強を綴ります。

レッツ オペレート!(ミキサーの仕組み2,ゲインで信号の大きさをコントロール)

2009年07月17日 | PA勉強会
信号の流れをつかめたら。今度は実際の信号の大きさを操作します。

マイクでとった音も、ピアノなどで作られた音も、PAの入り口に採集された音は全て電気に変換されてます。PAを扱う学問は電気音響という言葉で表現します。

音というのは空気の振動ですが、これは電気では「電圧の変動」として信号が作られます。

音が大きい=電圧が高い。

ご存じのように音には「高い」「低い」という言い方と「大きい」「小さい」という言い方があります。たまに混同して使われますが、いま一度確認しておきましょう。

音が大きい小さい;空気振動のエネルギーが大きさ。楽器を強く弾くか弱く弾くか。

音が高い低い;高音低音、楽器の音程の高さに相当。

音の大きさは、空気の振動の強さ(エネルギーの大きさ)です。振動すなわち空気圧の変動ですから圧力の単位であらわされます。

音の大きさの表現;音圧:圧力の単位:Pa(パスカル)

音の高さは、1秒間に何回空気が振動したか。で表され、たくさん振動すると高い音になり、低い振動数では低い音になります。このへんは皆さんご存じですよね。

音の高さの単位:Hz(ヘルツ):サイクル/毎秒

いまのところ、この程度の基礎知識くらいにして次に行きます。

空気の振動波形が電気(ここでは電圧)にそっくり変換されてケーブルで送られます。

たとえば私のギターの音ならこんな感じ。



このグラフでは中央の横線が中立で電圧はゼロ。空気振動でいうと、大気圧です。
音が発生したときの空気振動は大気圧からの変動成分。電圧に変換されるとプラスマイナスの交流になります。
交流というのは電圧が0ボルトからプラスになったりマイナスになったりする電気の流れのことですね。空気で言うと圧力が大気圧に比べて上がったり下がったり、まるで水の表面にできた波のようになっています。音波と言われるゆえんです。

電子ピアノなどの信号もこれと全く同じように、音になったときの波形そのままに電圧として生成されます。

さて、これらの電気信号なんですが、果たして空気の圧力(パスカル)と電圧の関係はどうなっているのでしょうか?

PAを扱う場合、信号の発生源となるのは「楽器」「さまざまな100V機器」「マイク」などいろいろあります。実はこれらの発生源において、発生する電圧はそれぞれの機材の特性やマイクに内蔵されたコイルの起電力などによって、本当に様々、バラバラになっています。マイクからの電圧は一般に小さく、アンプなどをもつ楽器や機材は大きな電圧を発生しています。従って一般に空気圧変動(=音)と電圧を結びつけるような統一された基準はないと考えてください。100V機器の電圧とマイクの電圧では100倍~1000倍以上の差が有る場合もあります。このままミキシングしたって、マイクの音は全く聞こえませんよね。

それならPAするときにどうすればよいか。

ミキサーに入ってきた時点で、それらの信号を同じくらいの電圧に統一してやればいいということになります。波形の形を変えずに電圧を上げたり下げたりして、同じような電圧を持つ信号にしてあげるのです。この作業を「ゲイン調整」と呼んでいます。信号の大きさを(おおむね)揃え、ミキシングに備える作業と言って良いと思います。

ミキサーに入ってきた各ch信号はまずゲイン調整され、マイクであろうが楽器であろうが、声であろうが、ほぼ近い電圧を持つ信号にしてあげること、これが最初にする仕事です。

ミキサーは電気を扱う機械です。当然ながら規定以上の電圧の物が入ってきたら入力オーバーをして音が(電圧波形が)ひずんでしまいます。逆に小さすぎる場合には、機械が本来持っているノイズが信号の中に大きく入ってきたりします。つまり適正な電圧で入ってくることが、機械にとっては大切なわけです。

なお、音声信号は変動していて同じギターでも強く弾いたときと弱く弾いたときがありますから、オーバーしてひずみが生じないようにここではその楽器を強く弾いたときの最大電圧を適正(規定)電圧として考えることになります。

◎ゲイン調整;適正な電圧になるように入力信号を最初に調整する作業

人間の声(マイク収録)、ベースの音、ドラムのキック、トップ、ピアノ、あるいはギター(ピックアップマイク)。などの音声信号を、ゲイン調整をすることで電圧(ここでは波形の最大電圧)を揃えてやります。ただ、そのままスピーカーに出すと、これが気持ちの良い音楽であるということはまずありません。ゲイン調整をして機械に適正な電気信号に変えた後、我々人間がその信号のバランスを決めてやるのです、耳で聞いて。

すなわち

◎ゲイン調整は機械に適正な電圧で信号を入れる為に行う。
◎フェーダーやボリューム調整は人間が耳で聞いてバランスの良い音楽にする為に行う。

という大きな意味の違いがあるのです。

ではここでゲイン調整の仕方を学びましょう。



さきほど、入力信号のうちマイクの電圧が小さいと書きました。つまりかなり電圧を上げてやらないといけないことは初めから分かっています。そこでミキサーではマイクの入力コネクタとそれ以外の入力コネクタを最初から分けてあって、マイク入力に入れてやると初めから有る程度の電圧の増幅をしてくれるようになってます。ミキサーの背面には入力コネクタが並んでいますが、MICと書かれたコネクタとLINEと書かれたコネクタがあるのは、入力される信号の電圧の違いをあらかじめ想定してるからなのです。

黒いコネクタ(穴が3つ)はマイク用。ここに挿すとあらかじめ電圧を100倍程度に無条件に増幅してモノラルchセクションに入ってきます。Lineにさすと増幅せずに入ってきます。もちろん挿し間違ってもオーバーさえしなければ特に問題は無いですがゲイン調整つまみで調整できる範囲が決まっていますから、電圧の高い物をMICに挿さねばならないときには、楽器側のボリュームを絞るとか、DIについてる減衰スイッチをONにするとかの工夫が必要になってきます。


さて、ここで皆さんに悲しいお知らせが。
我々相生On楽工房は(特に私は)、適当にやっとくというやり方を良しとしていません。勉強するなら徹底的に理解してもらいます。

ということでここからはデシベル単位を理解してもらいます。

以降、音響機器のボリュームや入出力の信号の大きさを表現するときにはデシベルという言葉を用います。デシベルとは何か、をきちんと理解してください。
これが分かるとミキサーに書かれている全ての数字やマークが理解できます。

ここで読むのをやめちゃダメですよ。
このブログでも何度か書きましたが、まだメンバーの多くがデシベルを理解していないので再度解説をします。

はい、ではまずデシベルの名前からです。

デシベル・・・・・デシ+ベルの組み合わせです。

デシは1/10を表す接頭語でデシリットルのデシと同じです。

ベルが単位の名前です、kmのキロとメートルみたいな感じですね。
デシは小文字です。ベルは大文字です。dBとかきます。
dBというのは1/10ベルを表す単位です。

ここで指数対数の話をします。対数、覚えている人もいるし忘れている人もいると思いますが復習です。

10の2乗は100
10の3乗は1000
10の4乗は10000

これは分かりますね。では次は?

10の1乗は       10
10の0乗は?      1
10のマイナス1乗は   1/10
10のマイナス2乗は   1/100
10のマイナス3乗は   1/1000

マイナスになると分数になっていきます。指数というのはこういう定義になっているんですが理解していますか?
なお、10の0乗が1であることは非常に重要なのでチェックしておいてください。

はい、では対数です。対数は指数の考え方を反対にしたものです。上に書いた指数の文を反対に考えていきます。

100は10の何乗ですか   2
1000は10の何乗ですか  3
10000は10の何乗ですか 4

そして

10は10の何乗ですか      1
1は10の何乗ですか       0
1/10は10の何乗ですか   -1
1/100は10の何乗ですか  -2
1/1000は10の何乗ですか -3

これが対数です。書き方はlog(ログ)を用います。

100は10の何乗ですか?をlogを使って書くと
log100=2

1/10は10の何乗ですかをlogを使って書くと
log(1/10)=-1

となります。
1は10の何乗ですか?の場合でしたら
log1=0

となります。

それでは元に戻って単位ベル(B)のことを。

「ベルという単位の定義は、基準値の何倍か、を対数表現したもの」です。
つまり「比」をとって、それが10の何倍かということです。

いま基準値がたとえば2だとしましょう。単位は何でも良いのですが、たとえば2メートルだとしましょう。普通は長さには使いませんが理解のためです。
いま、表現したい値が2000mだとすると。

2000は2の1000倍
1000(倍)は10の3乗

ですから2000mは基準値が2mの場合

「3ベル」であると言うことができます。
これに1/10を表すデシを付けたら。10倍して書けば良いので

2000mは30デシベルである。(但し基準値は2m)

と言うことができます。
◎30デシベルは1000倍になることです。

もうひとつ例を書きましょう。。

基準値が2mの場合、では2mは何dBか?
2mは2mの1倍です。
ですから10の0乗倍です。(定義では10の0乗は1です)
つまり0ベルです
10倍した単位でも同じで0dBとなります。

◎言い換えると0dBというのは「元の基準値と同じである」

となりますね。

もうひとつ行きます。
基準値が2mとします。では2ミリメートルは?

2mmは基準値2メートルの1/1000です。
1/1000は10のマイナス3乗です。
ですから2ミリメートルは-3ベルです。
デシベルに直すと-30dBです。

◎つまり-30デシベルというのは1/1000になることなのです。

このあたりでそろそろデシベルという物が少しずつ分かってきましたか?
デシベルになれていない人は、0dBがゼロであると誤解している人が多いようです。0dBは大きくも小さくもならないこと(=基準値と同じ事)。マイナス表現のデシベルは分数となって小さくなること(基準値より小さいこと)を意味します。

では以上のことが「なんとなく分かったぜっ!」という人を対象にミキサーの表面上に書かれた文字を理解しましょう。

ミキサーに書かれた文字はdBを単位として書かれています。
この場合でもちゃんと基準値というものがあります。電圧で0.775Vがその基準値です。覚える必要はありませんよ。
この電圧は、先に書いたようにミキサーが電気機材であるがゆえに、設計上定められた最適入力規定値であって、これ以上あまり極端に大きすぎると信号がひずむし、小さすぎるとノイズが載ってしまうという欠点が生じるので、信号の最大値をこの0.775Vにしてインプットするとバッチリでっせ、という推奨値なんですね。dB表現すると0.775Vが0dB(つまり基準の1倍)になります。

ミキサーのゲイン調整とは、入ってきた信号の電圧のピークが0dBになるように調整してやるという作業であることが、理解出来るでしょうか?

そしてミキサー内部(ゲイン以降~出力まで)、各種エフェクタ装置、イコライザ、アンプの入力部などPA装置は全てこの0dB=0.775Vを最適最大電圧として設計されています。もちろん多少大きくても大丈夫なように設計はしてありますが、オペレーターは0dBを基準として信号をアンプまで届けてやるということを意識しなければなりません。

ではもう一度ミキサーのゲインを見てみましょう。


つまみの左に+10と-16、右に-34、-60と書いてありますね。
-16と-60は黒地に白文字です。
これは何を意味するのでしょうか?

ミキサーの背面のコネクタを見ると上にLINE入力、下に黒いMIC入力コネクタがあります。
このゲインの数字は、LINE入力(上にある文字を見てください)から入ってきた信号が+10dBあるならゲインしぼりきりくらいで、-34dBくらいなら右に回せば、ミキサーに基準値である0.775Vで入ってきますという意味です。つまり言い換えれば受け入れ可能な電圧の範囲が最大+10dB、最小-34dBという見方ができます。
また下の黒地(白い文字)を見ると、MICコネクタからの入力信号は-60dBで入ってくるなら右にゲインを回し、-16dBくらいならゲインを左にしぼるとミキサーに0.775Vが入ってくるよという意味です。ですからマイクコネクタからの最適な入力範囲は-16~-60dBにしてくださいとも読み取れます。

しかしながら実際にはこの数字はほとんど意識しないで操作ができます。マイクの発生電圧はメーカーが違ってもむちゃくちゃ違う訳ではありませんし、楽器からの電圧もおおむね充分この範囲に入ります。ただここで覚えて欲しいのは、ゲイン調整つまみは入力信号の最大値を0dB(0.775V)にするためのつまみなんだと言うことです。左に絞りきっても音が消えるわけではないのです。(目的から言っても音を消す意味がないですよね)

またゲインつまみの目盛りの一部に左上に黒いところがありますね。これはおおむね、通常の機材ではこの辺がいいはずだという位置です。ライン機器では0dB0.775Vで設計されているはずですのでラインコネクタから入れると0dBが入ってくるのが理想です。ですのでこの黒い範囲のところあたりに廻すのが理想的な位置なわけです。マイクでも一般的なメーカーの場合はこのあたりになる事が多いですよ。

以上のことをきちんと理解したらゲイン調整の意味がよくわかるかな。

では実際にゲイン調整を行ってみましょう。
入ってきた信号の最大値がが0dBになるように調整する。これがゲイン調整です。0dBであることを見るにはミキサーについているメーターを利用します。

図をみてください。ゲイン調整は下の3箇所の部分を使います。


まず左上は入ってくる信号のゲイン調整をする部分。このつまみを廻して入ってきた信号を増幅したりしぼったりします。

左下はPFLというボタンです。これはメーターに送る信号を、下にあるボリュームフェーダーから切り離してゲインつまみを通過してすぐに送るということができるボタン。プリフェーダーリッスンといいます。(フェーダーの前の音を聞くという意味かな?)このボタンは通常ならゲイン調整の際のみに使用します。これを押すとメーターに信号がダイレクトに送られます。不要になったらはずします。

右がメーター。拡大してみてみましょうか


真ん中の少し上あたりに0という文字のところがあります。これが0dBすなわち0.775V基準値がここですよ、という位置です。上は+5あたりまで目盛りがあってその上はPEAK。PEAKまで信号がでかいとひずみます。

ゲイン調整の手順は
1.まずchを決めます。1chでゲイン調整しましょう。
2.1chのPFLを押します。
3.ステージ上から信号を送ってもらいます。楽器なら、その人が弾く強さの中で最大の強さくらいで弾いてもらいます。マイクなら大きな音(演奏上、出る可能性の有る最大の音)を入れてもらいます。
4.メーターの光が動きます。最大で0dBかそれを少し超えるあたりになるようにゲインつまみを調整します。
5.できたらPFLをはずし、ステージ側にokを知らせます。

もし絞りきってもオーバーするようであれば楽器のボリュームを下げてもらうか、DI(ダイレクトインジェクションボックス)の減衰スイッチを入れます。

全てのチャンネルでこの手順を繰り返します。
これによりミキサーには最適電圧で信号が入ってくるようになりますね。


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