ケミカルエンジニアの絶対音感

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学問という技術

2009-07-19 22:25:02 | 感覚的独り言
 ~ NHK「マネー資本主義 金融工学」より ~

 アメリカ人も牡蠣を食べるらしい。オイスターソースといえばなんとなく中華料理を連想する。

 マンハッタン郊外で牡蠣の養殖をしながら生計を立てている元金融大手社員がいた。彼に今の収入を聞くと、前とは比べ物にならないくらいだよ、と言っていた。子供から、金融会社の人はボーナスたくさんもらってるんでしょ?と不思議がられていたが、金がすべてじゃないさ、と半ば諦めたような口調で諭していた。
 彼こそは精巧・緻密な計算から成り立っている金融工学を、一部のエキスパート以外の人にも簡単に扱えるようにするソフトを開発した張本人であった。

 金融工学とは?

 ある生物物理学博士によると、水の浄化プロセスに酷似しているらしい。彼によれば、汚れた水に拡散する汚れ分子が金融商品に関するリスクとみなせるらしい。このリスクを沈殿させて上澄みのみを超低リスク商品として販売し、沈殿の高リスク部分はヘッジファンドなどの高利回りを求める、または求められる引き受け先に販売するのだそうだ。

 またあるノーベル経済学賞受賞者は言う。アインシュタインは湯中のコーヒー分子の動きを確率論から導きだせば、個々の粒子の動きを把握でき、熱の伝導の仕組みがわかると言った。それと同様に株価のチャートを予測することができる、またはリスクを回避することができると。

 前述の生物博士は、ハーバード大学で史上最短で博士号を取得した過去を持つとか。そんなアタマの良い彼がどうして金融商品の開発に情熱を燃やし、また明らかな欠陥を見落とすことになったのか。小生には全く想像もつかない世界だが、ものの道理はわかる。

 まず第一に、水の浄化プロセスで、汚れ分子を沈殿させる事ができるのは、せいぜいミリメートルオーダーの砂の粒子だとか、比較的大きなプランクトンの死骸だとかであって、本当に有害な細菌だとかマイクロオーダーの汚れは沈殿させることが出来ない。つまり、沈殿技術だけではリスクは充分に減らない。
 さらには、汚れはあくまで物質であり、自然界の法則によってのみその動きは制限される。しかし金融商品のリスクは人間の生み出す経済活動により制限されるものであり、自然界の法則のみの汚れ分子とは比較にならないほど膨大な因子を含んでいるはずである。アインシュタインのコーヒーの例を挙げた学者にしても然り。
 科学の第一歩は、簡略化、モデル化から始まる。自然界の事象をなるべく解り易い数式におきかえ、実験を行い、その実験により導き出される事実と理論の乖離を埋める。そこからまた、前回よりもより正確さを増した、なるべく解り易い数式を導き出す。そしてまた実験。これの繰り返しが基本プロトコールだろう。
 しかし、金融商品のリスクを水中の分子の動きに当てはめるとは、あまりにもかけ離れすぎる事象であるが、なんとなく感覚的に同じモノを感じることができるところが恐ろしい。まさに、魔術の類ではないかと感じた。
 人々は専門家の意見に弱い。外野から見える権威の実力と、実際の身内から見える権威の実力とは大きな隔たりがあることは多くの分野において間違いないだろう。それも魔術のように思える一因だ。

 世界不況を演出した金融危機。その中の大きな原動力となった金融工学。様々な分野の第一線の科学者が莫大な報酬を求めて金融商品開発の世界へ移ってきたらしい。例の博士は、自分の理論が世の中のためになっていると、世界を救うような威力があると錯覚していたようだ。

 結局、金融危機、金融工学の顛末は、学問は金をもうけるための技術には使ってはいけないという実証ではないのだろうか。学問は探求するためにあるものであり、手段ではない。手段として使用する場合には、然るべき根拠と必然性が無くてはならないのだろう。

 人の命を救いたい、人が不幸になるのを防ぎたい。

 ならばユニセフにでも募金すれば良い。ウォール街の方々の給与の10%でも世界のために使用すればもっと世の中を救えるのではないだろうか。

 今日の天地人で秀吉は言っていた。天下太平のためならばいくらでも金は惜しまないと。

 自らの自己実現のために金融という手段を選んだ超一流の科学者達。彼らは科学的な功績は大きいのかもしれない。けれど、人民のための貢献度は限りなく低いだろう。

 失敗に気づいた彼らは、色々な行動をとる。

 金融工学の危険さを、正しいリスクの知識を説いて回るコンサルタントになった女性科学者。

 テクノロジーの失敗はテクノロジーでしか取り返すことができないと豪語する前述の博士。彼は、新たな金融商品を生み出し、またマネーの膨張を誘発しているようだ・・・。アタマは良くても、バカなんだろう。。。

 そして、元ソフト開発者の牡蠣養殖屋。彼はもうウォール街には戻らないという。悪魔とののしられたこともあるそうであるが、逃げを決め込むのも一つの勇気ある決断だろう。

 科学者は金儲けのために己のスキルを使うべきでは無いと強く思う。スキルを使うことにより発生する、人類への福祉に対してのみ報酬を得るべきであろう。今回のNHKスペシャルを見てそう強く思うのであった。



 しっかし、あんなワケのわからない理論を工学と分類しないで欲しい

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