処置法研究室

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大規模災害時の遺体の置かれる立場

2005-03-06 12:00:48 | Weblog
 大規模災害時に発生する「多数被災遺体」については医学会としては検案・解剖以外は検討をしておらず、検案や解剖が終わった後の事は一切、検討されていません。
政府・内閣府や関係省庁、自治体では数十年前からの基本姿勢は変わりません。
「災害発生時の遺体処置・遺体修復は医療従事者(国家資格所持の厚生労働省通知にて認められた者)」との考えは不変です。
今回、この件で某国立大学の先生とお話をしましたが、この考えが変わる可能性は「全くない」との考えは同じでした。

 警察庁や各都道府県警察本部でも「災害発生時の遺体処置・遺体修復には医学国家資格が必要」との考えは変わっていません。
また、「遺体の清拭と納棺においては医学国家資格は必要ない」との考えも変わっていません。
これは、遺体の清拭や納棺まで「法令資格に限定」すると、災害現場で遺体を担当する司法警察官や司法警察員は医学国家資格を有していないため、警察の遺体業務は行えなくなります。

 自治体の災害被災遺体処置予算は2段階性を採用しています。
遺族に遺体を引渡す前の「医学資格者が担当する法令指定遺体処置業務は1遺体7,000円」であり、
法令の指定を受けない「医学資格を有しない葬儀関係者行う納棺やドライアイスを入れる行為は1遺体3,500円」が規定されています。
前記の7,000円には「遺体縫合費用や薬剤費用も含まれており」、後記の3,500円には「ドライアイス費用も含まれています」。

 棺代金の負担はどうするのかも課題ではあります。
取り合えず、「最も廉価な棺に納め、気に入らなければ遺族が葬儀社から棺を買い換える」が一般的ですが、自治体が市民に販売している棺価格(龍野市 8,600円、さいたま市 8,000円 等)を考えると、自治体が災害被災1遺体に要する予算は「検案費+遺体処置・遺体修復費+遺体納棺費+棺費+ets」により、1災害被災遺体について「40,000円以上」となります。
これら以外にも遺体搬送費や火葬費用は自治体負担であり、これらを加えた総額は「7,000円」になります。

 そのため、行政としては「自治体負担額の減額を検討」する必要があり、医師に支払う検案費は手をつけ辛い関係から、遺体処置・遺体修復費、遺体納棺費、棺費、遺体搬送費の削減を検討しています。
遺体安置所に使用された教室や部屋は「気持ち悪い、臭いがついた等」の苦情が多く、床板やカーペットの張替えと壁紙の張替えを行うのが一般的です。
そのため、これらの費用も加算すると行政が1災害被災遺体に関して要する支出は「約100,000円」となります。

 更に行政解剖が加わると「200,000円以上」となります。
東京都では大地震により最低でも11,000人は死亡すると考えられています。
東京都監察医務院の平常時の行政解剖能力は最高でも20遺体以内ですが、大規模災害時は時間の延長と増員体制を取るため、最高で50遺体は対応が出来るかも知れません。
それでも「50遺体/日」のため、災害現場が落ち着く災害発生から7日目までに行える行政解剖遺体数は250~300遺体以内でしかありません。

 東京都監察医務院の遺体保管能力は20遺体以下のため、行政解剖は「3~4日待ち」は当たり前となり、季節によっては解剖待ちで「遺体は腐敗します」。
エンバーミングを行うために「ドライアイスを禁止」したため、遺体が腐敗するケースは多々ありますが、これと同じ事が起こります。
阪神淡路大震災は「激寒時」のため遺体の腐敗は非常に少なかったですが、大規模災害は冬に起こるとは限りません。
スマトラ沖大地震では気温35℃以上の地で起こった災害ですが、夏の東京で大規模災害が発生すると今回のスマトラと同様に「24時間後には遺体は腐敗しているのは明らか」です。

 阪神淡路大震災は早朝に発生したため、「遺体発見場所が死亡者の住居」と考えられ個人同定が容易でしたが、昼間の災害被災では外出者の被災が多く個人同定は容易ではありません。
そのため、遺体に関して言えば「阪神淡路大震災は管理が容易でした」が、夏に起これば水着で海岸で被災した遺体の個人同定は「殆ど不可能です」。

 
コメント
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