国立新美術館 2009年6月24日-9月7日
19世紀から20世紀にかけて、ジュエリー制作者、ガラス工芸家として活躍したルネ・ラリック(1860-1945)の生誕150年を記念し、その仕事の全容に迫る展覧会。公式サイトでは展示構成が大まかに第Ⅰ部(ジュエリー)と第Ⅱ部(ガラス)の二つのカテゴリーに分かれているだけのように見えたので、余り深く考えずのんびり行ったらとんでもないことに。国内外のコレクションから厳選された約400点の作品が集結する、ルネ・ラリックの生涯の仕事を細やかに追った本展の構成は以下の通り:
第Ⅰ部 華やぎのジュエリー
1.目覚め
2.愛の美神アリス
3.花開くジュエリー:モティーフの展開
自然―花
自然―草木
自然―女性と花
象徴―風
象徴―水
象徴―ダンス/音楽
象徴―神話/宗教/物語
デザイン画
4.グルベンキアンの愛したラリック
5.透明の世界へ
第Ⅱ部 煌めきのガラス
1.ガラスへの扉
2.ふたつの時代、ふたつの顔
アール・ヌーヴォーのなごり
アール・デコの展開
3.創作の舞台裏
4.シール・ペルデュ
5.1925年アール・デコ博覧会
6.皇族・王族とラリック
7.香りの小宇宙
コティの香水瓶
挑戦的デザイン
8.装いのガラス
アクセサリー
化粧道具
9.スピードの世紀
10.室内のエレガンス
11.テーブルを彩るアート
では、順を追ってざっくりと感想にいきたい:
第Ⅰ部 華やぎのジュエリー
ダイヤモンド・ジュエリーが全盛する19世紀のパリ。ラリックはあえて高価な宝石に背を向け、金工細工に新たな表現の可能性を見出す。ロココ、ルネッサンス、オリエントの工芸に霊感を求め、やがてジャポニスムからの影響も加わり、自然を立体的に表現したり、女性と自然の事物が一体となった象徴主義的なデザインが生まれる。エナメル、ガラス製のパーツ、色石、バロック真珠、象牙、獣角、オパールなどの素材を効果的に使い、宝石の値打ちではなく、デザインそのものに価値を置いた斬新なジュエリーは19世紀のパリ万博で絶賛された。
1.目覚め
1886年、26歳で工房主となり、ブシュロン、カルティエに作品を納めるようになったラリック。本展のプレリュードとなる、最初の部屋に一点だけ置かれた#1 『扇《二羽の雀とバラ》』は、キャリア初期に普通の扇に描かれた絵画。ラリックの、自然の動植物に美を見出す視線の原点を感じさせ、象徴的。#11 『デザイン画-コサージュ・オーナメント《冬景色》』は、湖面に映る木立、枝に雪を積もらせる枯れ木などが描かれ、風景画そのものを宝飾品に持ち込むデザインにラリックらしさを感じる。
2.愛の美神アリス
すでに妻子がありながら、工房の協力者の娘アリスと激しい恋に落ちたラリックは、苦悩の末アリスと結婚。ケシの花を想起させるというこのミューズが霊感源となって、ラリックは大いに鼓舞され、数々の名品が生まれる。チラシに大きく載る作品、#14 『ハットピン《ケシ》』はその代表作。茎、花びら、雄蕊、雌蕊は7つに分解でき、花びらは省胎七宝というエナメルの透かし細工で作られている。ケシの花びらの和紙のように柔らかい質感表現が見事。更に花の中に目をやると、眩い光を放つダイヤモンドが置かれた雌蕊に目がくらむ。1897年のサロンで国家買い上げになっただけのことはある、誠に美しい逸品。
3.花開くジュエリー:モティーフの展開
ラリックは少年時代を母方の実家シャンパーニュで過ごす。豊な自然に恵まれたこの地で過ごした経験は、ジュエリーのデザインにも活かされることに。ブローチ、ネックレスなどがモティーフごとに細かく区分けされて展示されている(区分けは展示ケースの上の壁に書かれている)。私が一番好きだったのは「象徴―風」のコーナーにあった、トンボとニンフのシリーズ。小ぶりでかわいらしい。
#47 『ハットピン《枯れ葉》』
手で触れるとほろほろと崩れてしまいそうな、縁が巻き上がった枯れ葉の中をのぞくと、包み込まれるように宝石が。
4.グルベンキアンの愛したラリック
カルースト・グルベンキアンは、イスタンブール出身の、石油採掘事業で巨万の富を築いた実業家。国際的にも知られる美術品コレクターであり、1899年頃にロンドンでラリックと知り合い、深い友情で結ばれた。グルベンキアンの所蔵する資料や美術品にラリックは霊感を受け、数々の傑作が生み出された。
#105 『ティアラ《雄鶏の頭》』
大粒のアメジストをくわえた雄鶏の頭部。当初はイエローダイヤがはめ込まれていたそうだ。色彩的にはこの赤紫の石の方が、とさかのエメラルド色と対比して映えるかもしれない。金の透かし彫りも繊細で見惚れてしまう。ついでに展示ケースの白い底部に投影される影も幻想的。
5.透明の世界へ
1901年のサロンへの出品作は淡い色調で統一。非対称性からシンメトリーへ、複数の色の組み合わせから単色のグラデーションへ。シンプルこそ美しいとする20世紀の美学が反映され、ガラス自体がデザインの中心になっていく。
#124 『ネックレス《木の実》』
直径約1.5cmくらいのガラスの球で出来た実が、13個並ぶ。ケースに入っているのを目で愛でる分にはいいが、観た目に結構な重量感が感じられ、長時間首にかけていたら肩が凝るのでは、と野暮な思いが頭をよぎる。
。。。とここまでざっくりきたつもりだが、カタログも買っていないのに手元のメモを見ると、後半を入れたらどうにも一記事分の文字数に収まりそうにない。振り返れば構成のところで大分スペースを取ってしまったのが痛いが、せっかく書き出したので消すのも悔しい。
というわけで、今回も2回に分けます。第Ⅱ部 煌めきのガラスは、その2で。
19世紀から20世紀にかけて、ジュエリー制作者、ガラス工芸家として活躍したルネ・ラリック(1860-1945)の生誕150年を記念し、その仕事の全容に迫る展覧会。公式サイトでは展示構成が大まかに第Ⅰ部(ジュエリー)と第Ⅱ部(ガラス)の二つのカテゴリーに分かれているだけのように見えたので、余り深く考えずのんびり行ったらとんでもないことに。国内外のコレクションから厳選された約400点の作品が集結する、ルネ・ラリックの生涯の仕事を細やかに追った本展の構成は以下の通り:
第Ⅰ部 華やぎのジュエリー
1.目覚め
2.愛の美神アリス
3.花開くジュエリー:モティーフの展開
自然―花
自然―草木
自然―女性と花
象徴―風
象徴―水
象徴―ダンス/音楽
象徴―神話/宗教/物語
デザイン画
4.グルベンキアンの愛したラリック
5.透明の世界へ
第Ⅱ部 煌めきのガラス
1.ガラスへの扉
2.ふたつの時代、ふたつの顔
アール・ヌーヴォーのなごり
アール・デコの展開
3.創作の舞台裏
4.シール・ペルデュ
5.1925年アール・デコ博覧会
6.皇族・王族とラリック
7.香りの小宇宙
コティの香水瓶
挑戦的デザイン
8.装いのガラス
アクセサリー
化粧道具
9.スピードの世紀
10.室内のエレガンス
11.テーブルを彩るアート
では、順を追ってざっくりと感想にいきたい:
第Ⅰ部 華やぎのジュエリー
ダイヤモンド・ジュエリーが全盛する19世紀のパリ。ラリックはあえて高価な宝石に背を向け、金工細工に新たな表現の可能性を見出す。ロココ、ルネッサンス、オリエントの工芸に霊感を求め、やがてジャポニスムからの影響も加わり、自然を立体的に表現したり、女性と自然の事物が一体となった象徴主義的なデザインが生まれる。エナメル、ガラス製のパーツ、色石、バロック真珠、象牙、獣角、オパールなどの素材を効果的に使い、宝石の値打ちではなく、デザインそのものに価値を置いた斬新なジュエリーは19世紀のパリ万博で絶賛された。
1.目覚め
1886年、26歳で工房主となり、ブシュロン、カルティエに作品を納めるようになったラリック。本展のプレリュードとなる、最初の部屋に一点だけ置かれた#1 『扇《二羽の雀とバラ》』は、キャリア初期に普通の扇に描かれた絵画。ラリックの、自然の動植物に美を見出す視線の原点を感じさせ、象徴的。#11 『デザイン画-コサージュ・オーナメント《冬景色》』は、湖面に映る木立、枝に雪を積もらせる枯れ木などが描かれ、風景画そのものを宝飾品に持ち込むデザインにラリックらしさを感じる。
2.愛の美神アリス
すでに妻子がありながら、工房の協力者の娘アリスと激しい恋に落ちたラリックは、苦悩の末アリスと結婚。ケシの花を想起させるというこのミューズが霊感源となって、ラリックは大いに鼓舞され、数々の名品が生まれる。チラシに大きく載る作品、#14 『ハットピン《ケシ》』はその代表作。茎、花びら、雄蕊、雌蕊は7つに分解でき、花びらは省胎七宝というエナメルの透かし細工で作られている。ケシの花びらの和紙のように柔らかい質感表現が見事。更に花の中に目をやると、眩い光を放つダイヤモンドが置かれた雌蕊に目がくらむ。1897年のサロンで国家買い上げになっただけのことはある、誠に美しい逸品。
3.花開くジュエリー:モティーフの展開
ラリックは少年時代を母方の実家シャンパーニュで過ごす。豊な自然に恵まれたこの地で過ごした経験は、ジュエリーのデザインにも活かされることに。ブローチ、ネックレスなどがモティーフごとに細かく区分けされて展示されている(区分けは展示ケースの上の壁に書かれている)。私が一番好きだったのは「象徴―風」のコーナーにあった、トンボとニンフのシリーズ。小ぶりでかわいらしい。
#47 『ハットピン《枯れ葉》』
手で触れるとほろほろと崩れてしまいそうな、縁が巻き上がった枯れ葉の中をのぞくと、包み込まれるように宝石が。
4.グルベンキアンの愛したラリック
カルースト・グルベンキアンは、イスタンブール出身の、石油採掘事業で巨万の富を築いた実業家。国際的にも知られる美術品コレクターであり、1899年頃にロンドンでラリックと知り合い、深い友情で結ばれた。グルベンキアンの所蔵する資料や美術品にラリックは霊感を受け、数々の傑作が生み出された。
#105 『ティアラ《雄鶏の頭》』
大粒のアメジストをくわえた雄鶏の頭部。当初はイエローダイヤがはめ込まれていたそうだ。色彩的にはこの赤紫の石の方が、とさかのエメラルド色と対比して映えるかもしれない。金の透かし彫りも繊細で見惚れてしまう。ついでに展示ケースの白い底部に投影される影も幻想的。
5.透明の世界へ
1901年のサロンへの出品作は淡い色調で統一。非対称性からシンメトリーへ、複数の色の組み合わせから単色のグラデーションへ。シンプルこそ美しいとする20世紀の美学が反映され、ガラス自体がデザインの中心になっていく。
#124 『ネックレス《木の実》』
直径約1.5cmくらいのガラスの球で出来た実が、13個並ぶ。ケースに入っているのを目で愛でる分にはいいが、観た目に結構な重量感が感じられ、長時間首にかけていたら肩が凝るのでは、と野暮な思いが頭をよぎる。
。。。とここまでざっくりきたつもりだが、カタログも買っていないのに手元のメモを見ると、後半を入れたらどうにも一記事分の文字数に収まりそうにない。振り返れば構成のところで大分スペースを取ってしまったのが痛いが、せっかく書き出したので消すのも悔しい。
というわけで、今回も2回に分けます。第Ⅱ部 煌めきのガラスは、その2で。
普通の宝飾品には、あまり興味がわきませんが、
カルティエの時もそうでしたが、こういうド派手な
ものが、好きです。
どういう女性が身につけたのかと興味深いです。
こんばんは。確かにあの雄鶏の頭は素晴らしい
出来でしたね。でもあれを頭の上に載せるなんて、
一歩間違えたら大変なことになりそう。
身につけた人の写真も展示されていれば、
尚良かったですね。