l'esquisse

アート鑑賞の感想を中心に、日々思ったことをつらつらと。

愛のヴィクトリアン・ジュエリー展

2010-02-16 | アート鑑賞
Bunkamura ザ・ミュージアム 2010年1月2日(土)-2月21日

   

展覧会のタイトルから、宝飾品が優雅に並ぶ軽やかな展示会場を勝手に想像していたが、実際はジュエリーのみならず英国のヴィクトリア朝時代(1837-1901)の文化をより広い視点から紹介する、とても充実した展覧会だった。出展作品が300点近くある上、解説も懇切丁寧であるし、資料的なものも沢山出ているので、思いのほか観るのに時間を費やした。

展示の仕方についても、作品の素材やテーマごとに分けられた大小の個別のケースが適度な間隔で並べられ、また柱をくり抜いた中に作品を飾るような演出などもあり、見やすさと美観が考慮された素敵な空間が出来上がっていたと思う。会場内の様子は公式サイトに動画「スペシャル・ビジュアルツアー」があるので、是非ご参照を。

本展の構成は以下の通り:

プロローグ ヴィクトリア女王の愛
Ⅰ アンティーク・ジュエリー
Ⅱ 歓びのウェディングから悲しみのモーニングへ
Ⅲ 優雅なひととき―アフタヌーン・ティー


では章ごとに目に留まった解説や作品など、ほんの少しですが挙げていきます:

プロローグ ヴィクトリア女王の愛

#1 『若き日のヴィクトリア女王』 (1842) F.X. ヴィンターハルター工房

まずはパネルの解説を端折っておさらいからいきましょうか。ヴィクトリア女王(1819-1901年)は、1837年に18歳にして大英帝国の王位につき、以後64年間に渡ってヴィクトリア朝時代を治めた女王。1839年、20歳のときにアルバート公と結婚。産業革命を経て植民地政策で大いに栄える大英帝国にて、二人は美術工芸を奨励し(ヴィクトリア&アルバート博物館も二人の功績を物語ります)、ヴィクトリア女王はファッション・リーダー、そしてアフタヌーン・ティーやクリスマス・ツリーを流行らせるなど英国中産階級の文化のトレンド・セッターでもあった。9人の子宝に恵まれ、「平和の家庭の象徴」とされるも、結婚21年目で夫アルバート公が死去。以降25年間喪に服す。

この油彩画は(といいつつ画像がないが)、ヴィクトリア女王が寵愛したドイツ人画家、ヴィンターハルターの工房による女王の肖像画(ヴィンターハルターというと、昨年の「THE ハプスブルク展」で人気を集めたエリザベート妃の肖像画が記憶に新しいが、英国のロイヤル・コレクションにも、この画家による作品が100点以上所蔵されているとか)。1842年というと、女王23歳。最愛の伴侶を得て第一子も既に授かっており、その大きなブルーの瞳には落ち着きと自信の萌芽が宿っているように見える。胸のハート型のロケットには、きっとアルバート公の写真が入っていたのでしょうね。

Ⅰ アンティーク・ジュエリー

#5 シトリン&カラーゴールドパリュール (1830年頃)
ヴィクトリア朝時代のアンティーク・ジュエリーと聞くと、よくポートベローやカムデンなどのアンティーク・マーケットのガラス・ケースに並ぶ華奢な作りの宝飾品を思い浮かべるが、本展ではさすがにしっかりしたものが並ぶ。

同一の素材とデザインで作られた一揃い(ティアラ、ネックレス、ブレスレット、ブローチ、イヤリング)のジュエリーをパリュールといい、この作品は黄味がかった褐色のシトリンとゴールドの台が一体化していて美しい。やはり揃っているというのは一番おしゃれ。

ちなみに カラーゴールドとは合金。ゴールドは純粋な状態で加工するのが難しいため、赤味が欲しい時は銅、青みが欲しい時は銅を混ぜるそうです。本展ではそんな説明が盛りだくさん。

#13 『リガードパドロックペンダント』 (1820~30年頃)



Ruby、Emerald、Garnet、Amethyst、Ruby、Diamondの6種類(実際はルビーが重複しているので5種類)の宝石を使い、その頭の文字を綴ってREGARD(敬愛)を表す装飾を「リガード装飾」という。19世紀初期のセンチメンタリズム(感傷主義)に呼応する装飾法だそうで、これはそれを取り入れたペンダント。小さな作品だけど、金細工の台座にトルコ石やパールなども加えられ華やか。

#16 『ターコイズ&ゴールドブローチ』 (1830年頃)
小さなターコイズがあしらわれた羽を広げて飛翔する金の鳩が口にくわえるのは、勿忘草。これもセンチメンタル・ジュエリー。いじらしいというか奥ゆかしいというか。チラシ裏の右上の角に見えるのがそのブローチ。

#31 『シードパールミニチュアールブローチ』 (1800年頃)
シードパールったって、こんな白ゴマみたいに微細なものもあるのですね。職人さんも息を留めないと作業中に飛んでしまうのでは?と余計な心配まで。。。

#36 『シードパールティアラ』 (19世紀初期)



シードパールのみで装飾されたティアラ。どんなに小さなパールの粒にも孔が開けられ、細い糸で台座に固定されている。身につけた人の動きに合わせて各パーツが頭の上で揺れる作りになっているが、実際展示ケースの前を歩く人の振動だけでフルフルと震えるように動いていた。

#57 『スイスエナメルブローチ』 (19世紀中頃)
山々と山小屋が、空気遠近法とでもいうような見事な描写で描きこまれている。

#68 『オニキスカメオ&ダイヤモンドブローチ』 (19世紀中頃)
バラのリースを頭に載せたクピドの横顔。背に生える小さな羽が愛らしい。ちなみに浮き彫りをカメオと呼ぶのに対し、沈み彫りというのもあって、これをインタリオと呼ぶそうだ。そのインタリオの作品も何点か並ぶ。元々このような技法を使った装飾品は男性が権力の象徴として身につけていたために、モティーフは神話や古代の英雄が多かった。ヴィクトリア朝時代から女性の装身具につかわれるようになり、繊細なデザインが登場。カメオの素材もシェル、石、コーラル、べっ甲と様々。

#71 『ラブラドライトカメオペンダント』 (19世紀中頃)
初めて知ったラブラドライトという石。観る角度によって色が変わるが(これを遊色効果というらしい)、このペンダントのミネルヴァの横顔も青、緑、黒と変幻する。

#84 『ローマンモザイク&ゴールドブレスレット(ペア)』 (19世紀中頃)
踊る男女が描写された一対のブレスレット。ローマンモザイクは細かいガラス片(2万色もあるとは驚き)を敷き詰めたもので、一見してモザイクに見えない滑らかな表面が美しい。このコーナーにはフローレンスモザイクの作品も並ぶ。こちらはベースの大理石にモティーフの輪郭を彫り、その中に様々な色の半貴石を平らにカットして嵌め込んだもの。

#107 『フレンチペーストブローチ』 (1830年頃)
ダイヤモンドのように見えるが、ペーストという技法でガラスを加工したもの。ダイヤモンドについては「18世紀にベルギーでブリリアント・カット技術が発明されて以来、宝石の中心となり、それまで唯一の産出国であったインドに加え1725年にブラジルで鉱脈が発見されるとヨーロッパで大流行」との説明があった。きっと生産に追い付かないほどの需要があったはずだから、このペーストという技術は大ヒットだったのでは?

この辺りのケースには、この他べっ甲、アイボリー、珊瑚や珍しいところでは雄牛の角、昆虫、サメの歯など、本当に様々な素材の宝飾品が並んでいて見応えがあった。

#150 『ラーヴァカメオ「メドゥーサ」』 (19世紀中頃)
柱をくり抜いたケースの一つを覗き込むと、何とも美しいメドゥーサが。繊細な髪の毛の表現、苦悩しているような眉間のしわ。この作品は旧イスメリアン・コレクションから。

他にも宝飾史上最も貴重なものとして世界的に高く評価されているという「旧ジョン・シェルダン・コレクション」からの作品も並んでいた。

#153 『チャールズ1世のモーニングスライド』 (1658年頃)
一見きれいなブローチ風だけれど、英国王室で唯一処刑された王であるチャールズ1世の遺髪を水晶で覆ったモーニング・ジュエリー。華やかなヴィクトリア朝からピューリタン革命の時代に飛んでちょっと意表を突かれたが、歴史資料としても珍しい作品を観られて良かった。

ところで英国王室の君主には家臣に宝飾品を贈答する風習があり、特にヴィクトリア女王は裏方の人々にも様々な品を贈ったという。この辺りのコーナーには、そんな品々や王室メンバーにちなんだ作品(なぜかダイアナ妃のダイヤモンドリングまで)が並ぶ。

Ⅱ 歓びのウェディングから悲しみのモーニングへ

ヴィクトリア女王の身に起こった「歓び」と「悲しみ」を主題にした展示品。歓びとはすなわちアルバート公との結婚であり、悲しみとはアルバート公の死。展示品は見事に歓びの白と悲しみの黒が対照を見せる。

前者は、白いウェディングドレスや英国における結婚指輪の交換はヴィクトリア女王の挙式から始まったということで、1840年頃のウェディングドレスや指輪類、ヨーロッパのレース類や装身具の類が並ぶ。

後者は、黒のモーニングドレスに始まり、漆黒の宝石であるジェットを素材にした宝飾品類など。ヴィクトリア女王はアルバート公の死後25年に渡って喪に服し、公の肖像と遺髪を入れたロケットを生涯身につけていたという。

Ⅲ 優雅なひととき―アフタヌーン・ティー

アフタヌーン・ティーの習慣が完成したのもヴィクトリア朝時代、ということで、このセクションにはその関連の品々が並ぶ。主に19世紀の、シルバー製カトラリー類。

この展覧会と一緒にBunkamuraのル・シネマで上映中の映画ヴィクトリア女王 世紀の愛を観ると、更にヴィクトリア朝時代の雰囲気に浸れます。ちなみに本展は2月21日までですが、映画の方は2月26日までだそうです。



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2 コメント

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一緒に観てるみたい (上海蟹)
2010-02-22 16:44:35
このブログを観ながら展示会に行くとアートに詳しい友達と一緒に鑑賞しているような気分になるね。遠くに住んでいてなかなか美術館に行けない人も楽しめるブログ。
これからも愉しみにしています。
返信する
ありがとうございます! (YC)
2010-02-22 21:49:56
☆上海蟹さん

こんばんは。

早速のコメント、ありがとうございます♪

更新は全くの不定期ですが、これからも
楽しみながら続けていきたいと思います。

またお時間があったら是非のぞきに来て下さ~い!
返信する

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