←前回
先輩…海野と、引きずられた俺、お茶目当ての早瀬がとある小さい教室に入ると、
「ただいまんもすごりらっぱんつ!」
「お帰り部長~」
海野が奇妙奇天烈な挨拶をし、のんびりした声がこれまたのんびりと返事をした。
わざわざつっこまないところを見ると、いつもこんななんだろう。
なんてこった。
おまけに部長だと?
コイツが部長なら、俺はミッキーマウスか何かか?ぇえ?
「ん?部長、その子達新入部員?」
中で返事をしたしとやかな雰囲気を放つ二年女子が、にっこり笑って言った。
柔らかな色の茶髪と人形みたいな顔立ちから察するに、ハーフかもしれない。
一応、『国際』高等学校だから、そういう人は別に珍しくない。
俺の勝手な想像だが、この人にはお嬢様風の服装とロイヤルミルクティーが似合う。
そもそもロイヤルミルクティーの『ロイヤル』が何かは、俺には不明だが。
「そうだよー、こいつら是非ともうちの部に入りたいってさ」
にこにこしながら言う海野に蹴りを入れようとして、俺はなんとか矛を収めた。
入学早々にあまり『そういうこと』はしたくないし、第一、美人で人の良さそうな先輩の前だ。
俺はただ海野を睨みつけると、はっきり言い放った。
「いいえ。」
「えー、けちー」
「帰っていいですか」
美人の先輩は、ちょっと驚いた顔をした。
「あれ…ソウ、その子達と知り合いなの?」
「ああ、中学の時、ちょっとな」
何が『ちょっとな』だっ!
俺は中学生の時放送委員だったんだが、この男のせいで何度もヒドイ目にあってきた。
それについては、とうてい語るに忍びない。
あぁ~!!思い出したら腹が立ってきたッ!!
「まあまあアールグレイでも一杯」
海野は、いそいそとお茶の準備をはじめた。
友達の家に遊びに行って、その家のお母さんにお茶を入れてもらっている気分だ。
海野の手にしているヤカンには、『スイーツ同好会』の文字。
そしてなぜか、ちっちゃい冷蔵庫まである。
「深雪は?」
「私もちょうだい。ミルク入りで」
美人の先輩が答えた。
「海野先輩、ちょっと聞きたいことが…」
早瀬がちょこんと手を上げて言いかけた時、急にピシャンと大きい音を立てて部屋のドアが開いた。
「よーっ!一年だな!歓迎するぜ!」
「…??」
俺は、一瞬固まった。
そこには、髪を男子のようにショートカットにした美人の深雪先輩…
と、瓜二つの人物が立っていた。どういうことだ?
「遅かったな冬斗ぉ~。紅茶、どうする?」
「ミルクだっ!」
混乱する俺に気付いたのか、深雪先輩が助け舟を出した。
「あれ、私の双子の弟なの、ごめんねぇうるさくて。」
なーるほど、理解理解。
しかしまぁ、二卵性双生児ってそんなに似ないものだと思っていた。
「…似てますね。」
「性格は似てないって言われるんだけどねぇ」
ええ、見るからに。
青柳弟は腰に手を当ててミルクティーを飲み干すと、ぶはあっ、と見た目にそぐわない声を出した。
そして、俺と早瀬の方を見てにやりと笑う。
「よくぞ来たな、一年生諸君。
オレが副部長の青柳冬斗だっ!
そしてこいつは俺の双子の姉、深雪!
あの茶汲み小僧は海野蒼という男だ!
ちなみに三年はいねぇ!
この部を作ったのが蒼だからだ!」
「誰が茶汲み小僧だ、誰が!」
「お前だ!」
「キリッと言うな!」
きゃいきゃいとコントを繰り広げる先輩達に向かって、紅茶を吹いて冷ましていた早瀬が再びおずおずと挙手。
「あのー、先輩?」
「なんだ!」
二人が同時に答える。
「この部って、何の部なんですか?」
その場にいる全員が、俺を含めて固まった。
そういえばそうだ。
なんだかんだで場の空気に流されて失念していたが、これって一番大事なことじゃないのか?
おもむろに海野の襟元をひねり上げた青柳弟は、海野の顔を近距離から斜めに見上げて、ドスの効いた声でささやいた。
「おい蒼の字、テメェにも、部活の勧誘の時に自分らの部活名くらい名乗る知能はあると思っていたんだが?」
「おうおう、人のことサルみたいに言いやがるな。いい度胸してんじゃねぇかやんのかコラァ」
「ああ?開き直りやがってこの茶汲み小僧」
「なんだと!?お前なんか男子にしかモテねーくせに」
「にゃにをぉお!?」
再びきゃーきゃーぴーぴーと喧嘩をおっぱじめた二人を尻目に、にこにこした深雪先輩がミルクティー片手にあっさり言った。
「うちはエンターテイメント部。学校非公認の文化部だよ」
なんとなく予想していたことではあるが、そうか、非公認か。
入学前に早瀬に聞いていたが、この学校には『変な校風』
…もとい『伝統』として、学校非公認でありながらも存在する部活が多数あるのだそうだ。
『非公認』と『公認』の最大の違いは、部費が出るか否か、らしい。
「どう?」
深雪先輩が、俺達を代わる代わる見ながら訊いた。
どうも何も、こんな怪しさ極まりない部活。
俺が断ろうと口を開きかけた時、急に深雪先輩は早瀬の耳に何事かをささやいた。
声が小さすぎて、何を言っているかは聞こえない。
が、急に早瀬は俺のことをやけにキラキラした目でみて叫んだ。
「一緒に入部しようっ!きっと楽しいよっ!」
「だが断る」
「入部してくれたら、今日トゥウェンティーワンでアイスおごるよ!」
俺は即座に自分のスクバをさぐると、担任から配られた白紙の入部届を探した。
住所、氏名、電話番号に印鑑…
「はい、入部手続き完了だね♪」
深雪先輩は、二枚の入部届けを受け取って天使の笑顔を浮かべた。
後に俺は、なぜアイスごときでこんな部に入部してしまったのだろうかと大いに悔やむことになる。
→次回
先輩…海野と、引きずられた俺、お茶目当ての早瀬がとある小さい教室に入ると、
「ただいまんもすごりらっぱんつ!」
「お帰り部長~」
海野が奇妙奇天烈な挨拶をし、のんびりした声がこれまたのんびりと返事をした。
わざわざつっこまないところを見ると、いつもこんななんだろう。
なんてこった。
おまけに部長だと?
コイツが部長なら、俺はミッキーマウスか何かか?ぇえ?
「ん?部長、その子達新入部員?」
中で返事をしたしとやかな雰囲気を放つ二年女子が、にっこり笑って言った。
柔らかな色の茶髪と人形みたいな顔立ちから察するに、ハーフかもしれない。
一応、『国際』高等学校だから、そういう人は別に珍しくない。
俺の勝手な想像だが、この人にはお嬢様風の服装とロイヤルミルクティーが似合う。
そもそもロイヤルミルクティーの『ロイヤル』が何かは、俺には不明だが。
「そうだよー、こいつら是非ともうちの部に入りたいってさ」
にこにこしながら言う海野に蹴りを入れようとして、俺はなんとか矛を収めた。
入学早々にあまり『そういうこと』はしたくないし、第一、美人で人の良さそうな先輩の前だ。
俺はただ海野を睨みつけると、はっきり言い放った。
「いいえ。」
「えー、けちー」
「帰っていいですか」
美人の先輩は、ちょっと驚いた顔をした。
「あれ…ソウ、その子達と知り合いなの?」
「ああ、中学の時、ちょっとな」
何が『ちょっとな』だっ!
俺は中学生の時放送委員だったんだが、この男のせいで何度もヒドイ目にあってきた。
それについては、とうてい語るに忍びない。
あぁ~!!思い出したら腹が立ってきたッ!!
「まあまあアールグレイでも一杯」
海野は、いそいそとお茶の準備をはじめた。
友達の家に遊びに行って、その家のお母さんにお茶を入れてもらっている気分だ。
海野の手にしているヤカンには、『スイーツ同好会』の文字。
そしてなぜか、ちっちゃい冷蔵庫まである。
「深雪は?」
「私もちょうだい。ミルク入りで」
美人の先輩が答えた。
「海野先輩、ちょっと聞きたいことが…」
早瀬がちょこんと手を上げて言いかけた時、急にピシャンと大きい音を立てて部屋のドアが開いた。
「よーっ!一年だな!歓迎するぜ!」
「…??」
俺は、一瞬固まった。
そこには、髪を男子のようにショートカットにした美人の深雪先輩…
と、瓜二つの人物が立っていた。どういうことだ?
「遅かったな冬斗ぉ~。紅茶、どうする?」
「ミルクだっ!」
混乱する俺に気付いたのか、深雪先輩が助け舟を出した。
「あれ、私の双子の弟なの、ごめんねぇうるさくて。」
なーるほど、理解理解。
しかしまぁ、二卵性双生児ってそんなに似ないものだと思っていた。
「…似てますね。」
「性格は似てないって言われるんだけどねぇ」
ええ、見るからに。
青柳弟は腰に手を当ててミルクティーを飲み干すと、ぶはあっ、と見た目にそぐわない声を出した。
そして、俺と早瀬の方を見てにやりと笑う。
「よくぞ来たな、一年生諸君。
オレが副部長の青柳冬斗だっ!
そしてこいつは俺の双子の姉、深雪!
あの茶汲み小僧は海野蒼という男だ!
ちなみに三年はいねぇ!
この部を作ったのが蒼だからだ!」
「誰が茶汲み小僧だ、誰が!」
「お前だ!」
「キリッと言うな!」
きゃいきゃいとコントを繰り広げる先輩達に向かって、紅茶を吹いて冷ましていた早瀬が再びおずおずと挙手。
「あのー、先輩?」
「なんだ!」
二人が同時に答える。
「この部って、何の部なんですか?」
その場にいる全員が、俺を含めて固まった。
そういえばそうだ。
なんだかんだで場の空気に流されて失念していたが、これって一番大事なことじゃないのか?
おもむろに海野の襟元をひねり上げた青柳弟は、海野の顔を近距離から斜めに見上げて、ドスの効いた声でささやいた。
「おい蒼の字、テメェにも、部活の勧誘の時に自分らの部活名くらい名乗る知能はあると思っていたんだが?」
「おうおう、人のことサルみたいに言いやがるな。いい度胸してんじゃねぇかやんのかコラァ」
「ああ?開き直りやがってこの茶汲み小僧」
「なんだと!?お前なんか男子にしかモテねーくせに」
「にゃにをぉお!?」
再びきゃーきゃーぴーぴーと喧嘩をおっぱじめた二人を尻目に、にこにこした深雪先輩がミルクティー片手にあっさり言った。
「うちはエンターテイメント部。学校非公認の文化部だよ」
なんとなく予想していたことではあるが、そうか、非公認か。
入学前に早瀬に聞いていたが、この学校には『変な校風』
…もとい『伝統』として、学校非公認でありながらも存在する部活が多数あるのだそうだ。
『非公認』と『公認』の最大の違いは、部費が出るか否か、らしい。
「どう?」
深雪先輩が、俺達を代わる代わる見ながら訊いた。
どうも何も、こんな怪しさ極まりない部活。
俺が断ろうと口を開きかけた時、急に深雪先輩は早瀬の耳に何事かをささやいた。
声が小さすぎて、何を言っているかは聞こえない。
が、急に早瀬は俺のことをやけにキラキラした目でみて叫んだ。
「一緒に入部しようっ!きっと楽しいよっ!」
「だが断る」
「入部してくれたら、今日トゥウェンティーワンでアイスおごるよ!」
俺は即座に自分のスクバをさぐると、担任から配られた白紙の入部届を探した。
住所、氏名、電話番号に印鑑…
「はい、入部手続き完了だね♪」
深雪先輩は、二枚の入部届けを受け取って天使の笑顔を浮かべた。
後に俺は、なぜアイスごときでこんな部に入部してしまったのだろうかと大いに悔やむことになる。
→次回