goo

小沢一郎氏は「戦いモード」ではゲームに勝てない

 小沢一郎氏の政治資金を巡る問題はまだ沈静化の段階に入っていない(=世間がまだ飽きていない)。
 この問題に対して、小沢氏は「断固戦う」と言い、鳩山首相は「どうぞ、戦って下さい」と言い、民主党の議員は石川議員の逮捕と捜査情報のリークを「考える会」を作った。
 正邪を争うことも大切だし、当人が「戦う」という気持ちになるのは分からないでもない。しかし、何かズレていないだろうか。現在の小沢氏及び民主党はゲームのルールが理解できていないのではないか。
 改めて文字にすると少し情けないが、現在のゲームのルールは「世間の好感を得ること」であり、「相手が正しくないことを証明すること」ではない。これは、検察側も同様で、世論が圧倒的に小沢氏擁護に回ったら「ほぼ敗北」ではないだろうか。

 鳩山首相は自らの進退について世論の支持次第だというようなことを言ったが、今のところ、内閣支持率は低落しているが、彼の続投を可とする世論が(なぜか)過半数を超えていてポジションを保っている(たぶん、彼が高圧的に威張らないからだろう)。他方、小沢氏は、幹事長を辞すべしとの意見が大手メディアの最近の調査で67%(朝日)、70%(読売)、73%(共同)に上っていて、現在形勢不利だ。
 たとえば、渡部恒三氏は、石川議員が起訴された場合の対応について「小沢君に共同責任があるかどうかは、世論を見ないといけない」(「東京新聞」1月19日)と述べた。世論で責任が決まるというのは話として滅茶苦茶だが、これが彼らの戦っているゲームの得点計算法なのではないか。

 検察もゲームのプレーヤーだし、メディアもこのゲームのプレーヤーだ。
 公平を装わねばならないというのは検察にとっての制約だが、現実問題として、全ての事案を手掛けるわけには行かないし、検察の人々も生身の人間だから、好き嫌いや出世に対する考慮は働くだろう。
 また、ある人からの又聞きなので名を伏せるが、鳩山政権成立直後に、霞ヶ関の官僚と複数のメディアの経営者が同席した会合で「いずれ民主党を叩く」ということについて申し合わせがなされたという(もちろん正式な合意ではなく、そういう合意が口頭ベースであった、というだけだ)。新聞・雑誌など既存の大手メディアにとって検察・警察はコンテンツの供給元であり、メディアが彼らの利害の側に就くのは当然のことだ。また、大手メディアの「政治部」はしばしば出世コースだが、出世は記者個人の人脈に大きく影響される。現在の幹部には自民党の有力政治家と人的なつながりを持っている人が多いだろう。
 彼らが相当程度「恣意的」なのは、(宜しくはないが)「現実」であって、ゲームの「前提条件」だ。小沢氏及び民主党はこれらを理解しておかなければならない。
 
<注;真面目すぎる読者のために注釈しておくが、以下は、思考実験であり基本的に「遊び」だ。現時点で小沢一郎氏を支持し応援しているわけではない。「遊ぶ」気分になれずに、小沢が悪いとか、検察が横暴だとか、「真面目」な議論を求める人は別の場所に行って下さい>

 それでは、このゲームにあって、小沢氏は何をなすべきなのか?
 それ以前、何をするべきでないのかを幾つか挙げてみよう。
(1)先ず、原則として、怒ったり、泣いたりすべきでない(これは喧嘩の常道)。
(2)メディア・国民に対して威張ってはいけない(記者には丁寧に「ご説明」すべし)。
(3)検察を口汚く批判してはいけない。
(4)重要なことを「隠している」という印象を持たれてはいけない。

 一方、なすべきことは難しい。
(1)なにはともあれ「同情される人物」になれ。「怒り顔」と「作り笑い」でなく、「いくらか弱い男」の顔を持て。
(2)やはり、自ら説明すると得になる可能性があるではないか。検察にリークされてメディア的に筋書きが出来る前に、詳細を自分から率直に説明するといい。
 小沢氏の経歴や行動から見て「カネの流れを小沢氏自身が知らない」ということはまずあり得まい。誰にどんな義理があって、何を得ているかは、小沢氏本人が誰よりもよく知っているはずだ。「政治家の台所」を包み隠さず率直な印象で、しかし、好印象に伝えることが出来れば、多少悪いカネがあっても、国民は小沢氏を許すだろう。
(3)味方のメディアを持て。率直かつ率先して情報をオープンにして支持を訴えるとネット世間は小沢氏の味方になる可能性がある。この際、ツイッター発信用の側近を持ってもいい。いっそのこと全ての会合の度毎につぶやいてもいい。また、「政治家小沢一郎の台所事情を明かす」というのは強力なコンテンツなのでどのTV局でもやりたがるだろうが、どこか一局を通じて流す方がいいだろう。亀田兄弟のTBSのような「小沢放送局」が持てるといい。もちろん、YouTubeもどんどん使う。
(4)もちろん、得意のドブ板的な行脚もやるといい。基本は選挙と同じだが、問題は全国が一区であることだ。ただ、東京だけでも制することができれば、世論は変わるだろう。
(5)民主党はソフト路線に転じよ。捜査情報のリークは「考える会」を作るのではなく、将来やるなら(今はタイミングではない)、いきなり具体的事例を挙げて犯人(検事?)を処分する方がいい。「考える会」は国民から見ると場当たり的で気持ち悪いだけだ。参加者が小沢氏に媚びを売っているようにしか見えないが、それ以外の効果があるのか?
(6)民主党には(小沢氏にも)メディア対策・情報発信の司令塔が必要だ。ばらばらに情報発信するのでは旧来メディアにいいように報じられるだけだ。単なる広報窓口ではなく、情報発信の戦略を考え指示する仕組みが必要だろう。

 多少怪しいお金の動きがあっても国民が小沢氏を好きになれば小沢氏の勝ち。後から裁判で無罪になっても、それまで国民に嫌われていたら小沢氏の負け。
 怒りと正論で勝てるゲームでないことは、選挙の達人にして囲碁の高段者である小沢サンならよくお分かりだろう。
 もっとも、やるべきことを「分かっている」のと「うまくできる」のは別だから人生は難しい。それにしても、政治家とはご苦労な商売だ。
コメント ( 111 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする