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天然更新による針広混交林化 広葉樹林化

2016年11月19日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 木材価格低迷などの影響もあり、スギ・ヒノキ人工林の針広混交林化・広葉樹林化を進めている方もいらっしゃるかと思います。

 これまで天然更新に関するお話をしてきましたので、今回は、これまでのまとめということで、天然更新による人工林の針広混交林化・広葉樹林化についてお話したいと思います。

※天然更新に関する記事について、今回、初めてご覧いただく方は、こちらからどうぞ → 遷移

 

 現代における針広混交林化・広葉樹林化の目的は環境志向がほとんどかと思います。

 人工林を伐採後、放置すれば天然更新が進み、針広混交林化・広葉樹林化が完了する・・・というものではありません。(もちろん、完了する場合もありますが・・。)

 

 まず、針広混交林化を図る場合、強度間伐を行う例が多いと思います。

  強度間伐→

 間伐した空間に広葉樹を誘導するわけですが、周辺に種子を供給する「母樹」や土壌中に休眠する「埋土種子」がないと、広葉樹の誘導は進みません。

 まったく何も生えないということはありませんが、高木性の広葉樹が生えるには、かなりの年数がかかると思います。

 また、ヒノキ林の場合、強度間伐を行うと、林内の乾燥が進み、樹勢が衰退し、マスダクロホシタマムシなど害虫被害の発生や枯死する場合があるため、何でもかんでも強度間伐を行えば、良いというものでもありません。

 陽当たりの関係や土壌の性質などの環境によって、なので、強度間伐は人工林を衰弱させてしまうリスクというものを抱えています。

 

 天然更新は「天然下種更新」と「萌芽更新」に大きく分けられますが、一般的に言われている天然更新は「天然下種更新」を言います。

 天然下種更新は「側方天然下種更新」と「上方天然下種更新」に2種類に分けられ、前者は風によって種子を散布する更新方法で、後者はドングリなどのように落下して行う更新方法です(ネズミなどの小動物が運ぶ場合もあります。)。

 天然更新で、広葉樹林化・針広混交林化を進める場合は、種子の供給源となる「母樹」と土壌中に休眠する「埋土種子」が重要となってきます。

 

 周囲に広葉樹もなく、スギ・ヒノキ人工林しかない場合・・・

 母樹がないので、種子が運ばれてくる可能性も低いと思います。

 埋土種子は、ほとんどが鳥によって散布されます。

 鳥は、種子と一緒に糞を排泄することで、種子を散布しているわけですが、鳥は飛びながら糞をすることは出来ません。

 必ず何かに立ち止まらないと糞をすることができません。

 スギやヒノキの実(種子)は、鳥が好む実(種子)ではないので、鳥が立ち止まる機会も、立ち寄る機会も少なく、結果、人工林内に埋土種子が運ばれる可能性が低いと考えられます。

 鳥は果肉質の種子を好むので、ヤマザクラ、エノキ、ムクノキ、クスノキ、クマノミズキなどが間に生えていると、埋土種子が運ばれる可能性が高いと考えられます。

 埋土種子の中には、伐採後、直ちに発芽するものが多いので、広葉樹林化・針広混交林化が進む1つの要因となります。 

 

 側方天然下種更新は、風によって種子を散布(風散布)し、天然更新を図ります。

 下図のように風散布の母樹林と隣接する人工林があった場合・・・

 〇=母樹、△=人工林

 風散布の散布範囲は、樹種によりますが、20~30m程度で、長距離で100m程度とされています。

 なので、母樹から100m内外の範囲は天然下種更新、それ以外は植栽が必要になると考えられます。

 ちなみに、植栽が必要なエリアに埋土種子が存在すれば、植栽の必要もなくなる(少なくなる)というわけです。

 下図で言うと、黄色の点線が天然下種更新箇所、水色の点線が植栽箇所。

 

 逆に、人工林を囲むように風散布の母樹林があれば、側方天然下種更新による広葉樹林化・針広混交林化が図れる可能性が高いと思います。

 

 母樹が多ければ多いほど、種子もたくさん供給されるので、上図の様な条件であれば、人工林の広葉樹林化・針広混交林化もスムーズに進むかもしれません。

 

 上方天然下種更新は、ドングリなどが落下することで種子を散布する更新方法なので、風散布よりも種子の散布範囲は狭く、樹冠の端から数mとされています。

 下図のように、人工林内に母樹があった場合。

  散布範囲はこんな感じ→

 下図で言うと、黄色の点線内が上方天然下種による更新可能箇所、水色の点線内が植栽が必要な箇所。

 下図は混交林化をイメージしたものなので、水色の点線は小面積皆伐になります。

  

 上方天然下種更新の母樹は、種子散布の範囲が狭いので、通常の皆伐だと、かなりの母樹を残さないと、ほとんど更新しない可能性が高いと思われます(間伐程度が良好かと思います)。

 現場にある母樹、その母樹が生産する種子の散布範囲を考慮した上で、伐採率を検討したり、植栽の有無を検討する必要があります。

 もちろん、埋土種子が存在すれば、植栽を省略できる可能性はありますが・・・。

 

 天然更新で広葉樹林化・針広混交林化を進める場合、その林分に存在する母樹や保存する母樹などを調査する必要があります。

 天然更新はマニュアル化ができず、現場現場に応じて対応しないといけないので、結構、複雑ですし、これまでの人工林育成とは異なる知識や技術も求められます。

 単に伐採して、放置すればよいというものではなく、事前調査を行い、天然更新の計画を立てる必要があります。

 日本は、温暖多雨で四季があるという非常に恵まれた環境にあるため、植物が繁茂しやすく、植生も非常に豊富です。

 しかし、植物が繁茂しやすいという環境が、天然更新の阻害要因にもなっています。

 日本における人工林では、播種造林の成功例はほとんどないと言われています。

 航空種子散布という方法も実施されたそうですが、成功した事例はないそうです。

 

 日本における森林の更新は、植物同士の生存競争と向き合わないといけません。

 この競争関係を少しでも有利にするため、初めから一定の高さに成長した苗木を植える「植栽」という手法が、一般的になったと思います。

 播種造林は、他の植物に被圧されるだけでなく、種子が虫や動物に食べられたり、雨に流されたりといったリスクもあったため、普及しなかったと言われています。

 天然下種更新も播種造林と同じで、ただ人が行うか、自然に任せるかの違いです。

 人工林における播種造林が、上記の理由により困難であるたように、天然更新も同じように困難な部分が考えられ、単に放置すればいいというものではありません。

 また、天然更新を確実に成立させるためには、地掻きや下刈りなど更新を補助する作業も必要です。

 

 と、調査が必要だの、施業が必要だのとダラダラ述べましたが、あくまで理屈の話、机上の話なので、実際に1つ1つの現場で実践していくことは難しい。

 架線集材の場合、搬出に支障を与える立木は、支障木として伐採していると思いますが、その支障木が天然更新を行う上で、重要な母樹である可能性もあります。

 スギやヒノキを搬出する際、サクラなども搬出する場合もあると思いますが、サクラは、埋土種子を運んでくれる鳥を招く樹木でもあります。

 普段、何気なく行っている作業の中で、天然更新のキーマンを伐採しているかもしれません。

 高性能林業機械で搬出間伐をする際、合間合間に地掻きを行って、風で散布された種子が発芽しやすい、成長しやすい環境を整える・・・というのも重要かと思います。

 人工林を広葉樹林・針広混交林に転換したい、もしくは将来的に転換も視野に入れたいとした場合、主伐や間伐で行う作業の中で天然更新に必要な作業を取り入れることが、1つのポイントになろうかと思います。

 また、主伐や間伐の調査を行う際に、母樹や埋土種子の調査も同時に行うことも重要なポイントになると思います。

 とは言え、目の前の作業を効率良く行い、生産性も上げていかないといけないので、理解していても現実的に難しい部分は多々あると思います・・・。

 

 これからは、天然更新で広葉樹林化・針広混交林を進めるため、こうした植生などに詳しい人が現場の作業員に直接、指導・監督する体制を整える必要があるかと思います。

 天然更新のコーディネーターみたいな?

 

 ちなみに、各都道府県の行政が天然更新の完了基準というものを定めていると思います。

 たぶん3~5年の間に一定の樹高と密度を満たすよう定められていると思います。

 おそらく、その基準を満たすには、種子散布の範囲が大きい「側方天然更新」、伐採後、直ちに発芽する「埋土種子」、伐採地に真っ先に侵入する「先駆性樹種(パイオニア)」、日当たりの強い環境を好む「陽樹」といった特徴をもつ樹木が重要になってきます。

 少なくとも、ブナなどのように成長が遅く、種子散布も広範囲でない樹木では、完了基準を満たすことは難しいと思います。

 一定の基準を満たすことができる天然更新が可能なエリアと植栽が望ましいエリアを区分するなど、天然更新も計画性が求められます。

 

 と、長文でダラダラと書き綴りましたが、僕がお伝えしたかったことは、「伐採して、そのまま放置すれば、天然更新が完了するものではない」ということです(シカの食害という問題も加わりますし・・・)。

 

 放置しても天然更新が成立する場合もあります。

 地掻きなどの施業を行わないと成立しない天然更新もあります。

 どの林分でも放置すれば天然更新が成立するというものではなく、その林分の環境に適したそれぞれの天然更新があるとお考えいただきたいと思います。

 天然更新のコストが、0で成立するのか、ローコストに抑えられるのか、ハイコストとなるのか、それはその林分の環境などを把握しないと見えてこないと思います。


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