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カーテレマティクスの現状と課題:後半

2007年11月27日 | 産業組織の経済分析
第七回目の講義「カーテレマティクスの現状と課題」の後半です。
3・グローバルな趨勢は国内カーナビの延長線上にない
・IT産業では出荷のボリュームが重要であり、グローバルな出荷台数では05年まではハイエンドナビ>PND>GPS搭載携帯であったが、06年にPNDがハイエンドナビを超え、10年以内にGPS搭載携帯がPNDを超えると予想される
 ・PND最大手tomtom社の全世界出荷量は900-1,000万台、2007年は前年度比73%増の4000万ユーロの研究開発投資
 ・ハードの費用は量産と共に大幅に低下するが、地図のライセンス料は労働集約的であるためにコストが下がらず、地理的な拡大と共にむしろ高くなる
 ・YahooもMicrosoftもGoogleもNAVTEQを利用→「Web2.0」の7つの法則の一つ「データは次世代のIntel Insideになる」がまさに地図データの世界で進行
 ・携帯の最大手Nokiaは地図データ最大手のNavteqを、PND最大手のtomtomが地図データ2番手のTeleAtlasを買収
・日本の地図データベースは地形図・都市計画図・道路規制データ・ガイド情報を1つのシステムとしてDB化し、地物に種別を与えて、種別毎にレイヤとして管理。
・今後は基本地図+道路属性情報+ユーザからのプローブ情報で地図データベースを構築
・位置・速度・ABS稼働・ヘッドライト・雨量などをDBとして蓄積することで、よりダイナミックな最速ルートガイダンス・付加価値サービス・S&S等を提供可能に
 ・緊急車両・公共交通の運行支援、安全運転、歩行者の安全等の公共目的にも利用可能・携帯最大手とPND最大手が2大地図会社を買収したのは、地図が最も大きなコスト要因であり、データベースとして重要であるから
・カーナビ開発と携帯の機能拡張は同じ方向へ向かっており、カーナビにもGoogle Phoneのようなクライアント-サーバアプリケーションの開発環境やAPIの共通化が訪れる事で全てのクルマでの情報共有が可能となる

4・自動車会社はそれにどう対応するのか
・クルマ会社にこの考え方を受け入れることが可能なのか?
 ・アナログvsデジタル、プロプライエタリvsオープンアーキテクチャ、モジュール化・標準化vsすりあわせ、垂直統合vs水平分業、etc
 ・デジタル技術での成功要因は、技術を読む目と市場を読む目のバランス・アイディア・スピード・廉価化・アプリケーションや使いやすさによる差別化
・標準プラットフォームとしてのIT-Unitを開発し、市場ニーズの違いをアプリケーションで吸収してゆくのが解決策
・車載のみならず、各種クライアント/サービスと結合させることが可能に
・自動車の制御系とITとの境目にGateway/Firewallを置くことで文化の違いを吸収

以上が講義概要となります。
野辺様は元々IT業界にいらっしゃった方なので(ブロードバンドの黎明期にヒットしたネットゲーム「リネージュ」の立ち上げをなさった事もあるそうです)情報通信分野のトレンドと自動車をどのように融合させるかについての興味深い洞察についてお話しいただくことが出来ました。カーテレマティクスの世界にもWeb2.0のトレンドが押し寄せて来ており、これが自動車事業全体においてどの程度の影響力を持つようになるのでしょうか。現時点ではCARWINGSのようなカーテレマティクスは自動車購入において殆ど考慮されていないとの事ですが、先述の「エコ運転アドバイス」のように自動車の基本スペックに直接影響を与える用途が出てきたことで、今後は自動車にもネットワーク効果が生まれ、さらに規模の経済の影響が大きくなり、世界レベルでの寡占化がいっそう進むことになる可能性もあります。プローブ情報が自動車会社、もしくはPND会社の私的財産のまま共有・解放が行われないのであれば、GoogleのIndexやVideoID、Amazonのデータベースがもたらしたように、自動車も一人勝ちの産業となるでしょう。このとき、日本の市場の特殊性が、日本の自動車産業の競争力を損なわないように舵取りをしてゆく必要があるのでしょう。
他方、自動車事業においてテレマティクスの貢献できる部分は極わずかであり、自動車会社は自動車事業に特化して、テレマティクスはその他の事業者に任せてしまうという考え方でいる可能性もあります。また、万が一影響力が大きくなって来たとしても、テレマティクスにとって自動車はボトルネックとなりますから、MSがNetscapeを排除したように、tomtomのPNDも容易に排除できる可能性もあります。tomtomは先手を打ってプローブ情報のインターフェイスの標準化、プラットフォームのオープン化、公共のための中立性議論などを行っておく必要があるでしょう。また、世界シェアで劣位に立っている自動車会社は既存シェアの影響力を減耗させるプローブ情報のオープン化戦略を採用するかもしれません。米国のGM等はConputation能力の高い人材を確保しやすく、自動車のシェアが減少しつつあり、もともと水平分業への親和性が高いですから、プローブ情報の標準化・オープン化の先陣を切るかもしれませんね。

今回の2.5GHzの周波数割り当てにおいて、どの自動車会社もどの陣営にも参加なかったのは驚きでした。今回の講義で日産は徹底して水平分業・オープンアーキテクチャを指向しているようだと言うことで納得したのですが、KDDIのWiMAX企画会社にトヨタの出資がなかったのはトヨタもオープンアーキテクチャを指向しているのか、それとも自ら参加せずともKDDIを通じた間接的な出資で十分であると判断したのでしょうか。今後もITとクルマの融合には注目していきたいです。

カーテレマティクスの現状と課題:前半

2007年11月27日 | 産業組織の経済分析
第七回目の講義では、日産自動車のプログラム・ダイレクターオフィス主管野辺様にご来場いただき、「カーテレマティクスの現状と課題」と題して講演をしていただきました。今回はデモンストレーション用の機器を事前に送付していただき、実際の機能のデモも見せていただくことができました。機器の操作はアシスタントとしてご来場いただいた川嶋様にしていただきました。
今回は前編・後編に分解して講義概要を記します。

1・テレマティクスとは(国内の状況から)
・テレマティクスとは、クルマ上のITユニット・ネットワークを介したデータセンター・それらの上で動作するアプリケーションからなるシステムの事を言う
・日本のテレマティクスの発展はカーナビゲーションの発展と共にあった
・トヨタは「家庭のPCを車の中に持ち込む」、ホンダは「Naviの機能強化」、日産は「Naviをコアに、ケータイライフと繋がる」という方向を向いている
・日産のCARWINGSの機能は、インターネットからのRSS配信、カーウイングスセンターによる人力アシスト、ドライブ計画・愛車カルテなどのWebサービス
 ・RSSを音声で再生することが可能
 ・直接Webを見る機能がないのは、カーナビゲーション機器に対する様々な業界の自主規制があるため(動く画面を見せてはいけない、等)
 ・オペレータのアシストによって曖昧な情報への対応や運転の妨げになることの無いナビ操作を可能に
 ・利用料金は新車購入後3年間無料(通信料は別途必要)
・自動車によって収集されたProbe情報とVICSの統合することによるより高精度・広範囲な交通情報の提供も可能
・沿線情報自動ガイダンスシステムによってルート周辺のPOI(Point of intelligence)を表示・クーポンの表示・QRコードを通じた携帯へのダウンロードなども提供

2・テレマティクス、その海外の状況
・日本国内のカーナビ装着率は70%弱だが、欧米では20%未満、中国・台湾・韓国などはさらに低い
・日本のカーナビは高価であり、海外の市場ニーズに合わない
・海外のテレマティクスはカーナビを前提としておらず、廉価車載ナビ、PND(Portable Navigation Device)、Safety & Security (S&S)のニーズが高い
・アメリカではSafety&Securityが1番ニーズが高く、2番がMaintenance Information
 ・米国の道は広く、一部大都市以外では渋滞が少ない。他方、車の盗難の頻度は8倍
 ・GMのOn-Starではエアバック展開通知、ロールオーバー通知、盗難車追跡、緊急通報、ハンズフリーフォン機能を提供
・欧州では1番がTraffic Information and Low-cost Navi、Safety&Securityが2番
 ・PNDの市場05年の539万台から08年には1672万台へとが急成長
・中国では地域ごとに異なってくるが、Safety&SecurityとTraffic Information and Low-cost Naviへのニーズが高い
 ・都市部では慢性的な渋滞が生じているため、日産はBTICと提携して交通情報サービスを提供開始
 ・台湾ではS&Sへのニーズが高く、携帯電話・GPSと連携したサービスTOBEを提供。台湾の日産車購入者の約半数がTOBEを第一か第二の購入決定要因としており、台湾日産の販売数の60%にTOBEが搭載されている

以上が前編となります。
講義の中では紹介がありませんでしたが、日産は横浜で市民参加型ITS実験プロジェクト「SKYプロジェクト」を実施し、2007年10月のCEATECで結果の発表を行っています。
これによると、1月よりカーウイングスの機能として提供される「エコ運転アドバイス」によって18%の燃費向上が見られた他、プローブ情報を利用した渋滞回避で20%の時間、17%の二酸化炭素の削減があったとのことです。省エネはクルマと情報技術の融合の結果として最もわかりやすい成果なのではないでしょうか。

国内のニーズに対応した高機能機種が海外では受け入れられていないというのは携帯電話の状況と似ています。日本の携帯電話は少数企業による寡占の結果として生じた垂直統合型の事業戦略が海外展開の妨げになっていたという言い方をされることがあります。他方、カーナビの場合は自動車メーカとひも付けられていないナビも高機能化への道を歩んでいること、明確なニーズの違いが存在している事から市場ニーズの差が製品の差となったと考えられているようです。
とはいえニーズの背景にある道路事情や盗難対策などは社会システムの結果ですから、携帯電話よりも大きな制度設計問題の結果として、日本のカーナビゲーションシステムの現状を把握することもできます。犯罪の少なさ、検挙率の高さがS&Sサービスのクラウディングアウトをおこし、海外進出の妨げ、外資の参入障壁となっているという見方もあり得るのでしょう。また、道路交通規制もこれまでは政府による公共財として提供されてきましたが、プローブ情報の利用によってそうした規制が必要なくなる日が来るのかもしれません。

BIGLOBEの事業概要、成長戦略と動画配信事業

2007年11月15日 | 産業組織の経済分析
第六回目の講義では、NECビッグローブのポータル事業部神場様にお越し頂き、「BIGLOBEの事業概要、成長戦略と動画配信事業」と題して講演をしていただきました。
以下に講義概要を記します。

・NECビッグローブは2006年7月3日にNECから分社化、分社化の狙いは外部との連携の強化
・ISP事業を行うパーソナル事業部、プラットフォームサービスを行うビジネス事業部、 ブロードバンドメディア事業を行うポータル事業部の3つの事業部と、サービス開発本部、基盤システム本部等から構成
 2007年10月にはベンチャーへの投資を行うBIGLOBEキャピタル株式会社を設立、規模は30億円
・Web2.0、NGNという異なる方向を向いた2つのトレンドをどう調和させてゆくかが今後の鍵となる

・BIGLOBEの成長戦略はISP事業・ブロードバンドメディア事業のB2C事業によってBIGLBEプラットフォームを強化し、それによってプラットフォームサービスの提供を拡大してゆくこと
 現在の売り上げはISP:メディア:プラットフォーム=2:1:1

・現在のISP事業はFTTH会員シェア2位(1位はOCN、2位はnifty)
・ブロードバンドメディアはEC・無料コンテンツ(広告)・有料コンテンツからなり、プラットフォーム・アライアンス・機器連携ソリューションを差異化の鍵としている
・Netrating社の7/25日発表資料によると、現在の総利用時間は9位(1位はYahoo,2位mixi、3位楽天)
・プラットフォームサービス事業
 B2Cサービス提供のノウハウとして、マーケティングサービスとプラットフォームサービスのインテグレーションがある
 NGNではこれらを提供する際に信頼性/セキュリティ・柔軟性・構築スピードが高まる
 NECのSI力・BIGLOBEのコラボレーション力をお客様に提供してゆく

・次世代の価値創造に向けたBIGLOBEの取り組み
 オールNECの技術力を活用してBIGLOBEプラットフォームを強化
 NGNによってより安心・快適なサービス提供を実現
 マイニング技術・レコメンド技術・機器連携が鍵

・NGNの特徴を端的に言えば、ネットワークが統合され、サービス基盤が充実することでてサービス開発の可能性が拡大すること
・The Internetの誰もが参加できる環境(広さ)とNGNが提供するクオリティ(深さ)が協調して、多様なユーザニーズを満たすソリューションが実現してゆく
 無料のベストエフォート寄りのサービス(映像・ゲーム・EC・家電メンテ)から有料のギャランティ型サービス(在宅医療・セキュリティ・企業院虎)等に同時に応える
 ユーザがネットワークを意識することなく最適なサービスを享受でき、ネットワークと端末の関係性が進化する

・BIGLOBEはNGNを以下の4つの方法で活用
 ①BIGLOBEプラットフォームへのNGNの活用(配信基盤等)
 ②NGNを活用した独自のユビキタスサービスの提供(端末連携等)
 ③パートナー様との連携による多様な次世代サービスの提供
 ④NGNを活用したソリューションサービスの拡充(サービスメニュー化)

・NGNフィールドトライアルでは、PC向け高画質動画配信の技術蓄積、NGNを活用したマルチキャスト配信を実施によってノウハウを蓄積し、NGNならではのサービス、および、NGN向けプラットフォームサービス事業で先行、差異化を目指した

・NGNから見ると、動画配信サービスはFMC・品質保証などを活用できる有力なアプリケーションの一つ
・動画配信事業から見たNGNへの期待は、既存のインフラ・法制度がサービス開発のスピードにに追いついていない現状の打開
・例えば伸びの大きいインターネット広告において動画広告を配信する際に、NGNは配信・運用コストの削減に大きく貢献する事が期待される
 インターネット広告の売り上げの単純な例では、視聴者数x平均視聴時間によって産出される総視聴時間とCM挿入/hによって計算されるCM配信数が定まり、それに枠単価をつけることで総売上が決まってくる
 売り上げ=利益+配信費+コンテンツ調達費+運用費等、となる
 事業拡大に向けた課題は
 視聴者数の拡大→コンテンツの魅力の拡大、対応アプライアンスの拡大、ユビキタス化、話題づくりの仕組み
 広告価値の拡大→視聴者属性の把握、ターゲティングの高度化
 配信・運用コストの削減→NGNへの期待

・他社の取り組みとしては、CGMの活用(ニコニコ動画)、アプライアンスの拡大(GyaOプラス・アクトビラ・Qlick.TV等)、コンテンツ連携動画広告(Youtube)、P2P配信の利用(Yahoo!)等がある

・BIGLOBEの取り組み
 視聴者数の拡大:UGC (User Generated Contents)の活用、画質の向上(NGN)、さまざまなアプライアンスへの対応、ユビキタス化
 広告価値の拡大:ターゲティングの活用
 配信・運用コストの削減:マルチキャスト配信(NGNトライアル)

 CGM利用事例:11月1日にサービスインしたみんなでBIGLOBEストリーム
 ユビキタス化への取り組み事例:携帯電話上で番組表閲覧、お気に入り登録した番組を、赤外線経由でPCで再生。将来的にはモバイルでダイジェストの視聴、携帯でのコンテンツ持ち歩き、自宅での視聴・検索などをシームレスにつなげてゆく。

以上が講義概要となります。

メディア事業・プラットフォーム事業には数多くのライバルがおり、その中でBIGLOBEならではの強みがあるとすれば、NECグループであることによる機器連携でしょうか。
しかし、サービスを連携させる際にそれが必ず支持事業体として垂直統合されている必要があるわけではありません。例えばGoogleは携帯用OSの提供を行うことで、個別コンポーネントに強みを持つ事業者を統合する中核になろうとしています。垂直統合の組織では組織が一体であることに甘んじて、サービスが一体化する事によるメリットの創造が行われないリスクがあるのではないでしょうか。
最近の垂直統合型サービスの成功事例と言えばiPod、iPhoneが代表的な成功事例です。これはトップダウン型のプロジェクト推進によって組織が垂直統合であるメリットを活かした成功例のように思えます。NECビッグローブからのボトムアップ型提案で、垂直統合のメリットを生かすための方策がどのようになっているのか興味があるのですが、質問する機会が得られなかったのが残念です。

NTT中間決算:次世代サービス共創フォーラムはオープン化?

2007年11月10日 | ニュースに一口
2008年度のNTTの中間決算を見ていたら面白い物を見つけました。
「次世代サービス共創フォーラム」<仮称>について
NGNのフォーラムを立ち上げる模様ですね。
NGNが成功するにはNGNならではのサービスが多く登場することが不可欠ですが、NGNという新しいプラットフォームに参加するベンダーへの積極的な支援が必要ではないかと考えています。
ソフトが売りきりのゲーム機ではソフトメーカーへの投資やミドルウェアの提供などの開発環境支援を行うことが良く行われます。
日本国内ではNTTのNGNに匹敵するようなネットワークは計画されていませんし、海外のNGNとは輸出可能なネットワーク機器やサービスでは競争が生じるかもしれませんが、NTTとBTやKTのような海外通信キャリアが直接顧客を取り合う競争は生じません。

日本国内でのNGNの普及政策を考える際に最優先で考えるべき競争は、(NTTから見て)旧世代のネットワーク(PSTN・CATV・インターネット)との競争でしょう。

PSTN対抗として残された課題はシステムの稼働実績と停電位ですし、そもそも固定電話自体が携帯電話や他のメッセージングサービスに飲まれて行くのはほぼ確実ですから、PSTN対抗はもはや時間の問題でしょう。

CATV対抗に関してはCATVは地上波再送信という最大の武器を有していますが、NGNも放送事業者の許可があれば地上波再送信が出来るようになりましたし、後は放送事業者に首を縦に振らせるだけです。
アナログ停止波後であってもSTBを経由してSDTVにも写せるCATVやIPマルチキャストは放送事業者にとって大きな力になりますから、再送信を断ることが放送事業者にとってメリットになるとは思えませ。
また、殆どのCATV事業者はNTTに対抗できるネットワークサービスを提供することが出来ないでしょう。

NGNに取っての最大のライバルは最後のインターネットであると考えています。
インターネットは固定ブロードバンドで3千万近く、モバイルも含めればさらに多くの利用者が存在し、サービスもそれこそ世界中に無数に存在します。
NTTのNGNからはISPを経由すればインターネットに繋がりますから補完的ではあるのですが、せっかく構築したNGNの機能はVoIPとIPTVと一部の法人向けサービスのみでしか用いられないのはいささか勿体ないです。(私はそれだけ達成できれば十分だろうと思っていますが)
今回のフォーラム作りはNTTのプラットフォームがよりオープンになり、サービス開発が行いやすくなる道の一歩でしょう。

NTTはプラットフォームがオープンであると主張していますが、オープンなプラットフォームと言ってもJAVAのように管理者が独占的にプラットフォームの機能をコントロールするケースと、W3Cのような仕様策定のプロセス自体がオープンなケースがあります。
これまでサービス開発者がNGNへの機能要望をするには、サービス開発者がこういう機能が欲しいとNTTにお伺いを立てた後、NTTが吟味した上でそれの採用をするという手順を取ります。
しかし、採用の可否の判断基準や採用までの期間等が開示されているわけでは無いことから、NTTにとって都合の悪いビジネスが排除される可能性があります。
勝手アプリが作れるiモードと、auの厳しい審査を受けなければならないBREWのソフト数の違いはインストールベースの数だけではないでしょう。
(jigブラウザBREW対応版がいつまで経ってもKDDIの審査を通らなかった例などは有名ですね)

気がかりなのは、NTT西日本が1年前にすでに「V6プレミアム・フォーラム」なんていうものを立ち上げていた事です。
ざっと見た感じでは今回の「次世代サービス(略」との違いは、出資・SNI/UNIの充実、位でしょうか。
NTT西のV6サービスはNTT西の提供するサービスしか無かったような気がします。
持ち株も頑張って他のフォーラムの研究はしているでしょうが、NTTがこの手のフォーラムの運営をうまくこなせるとはちょっと考えにくいです。
インテルはWi-FiやWiMAXの普及に当たって外郭団体を作り、デジュリとデファクトを非常にうまく使い分けた普及戦略を立案し、うまく成功しています。
NTTの中の名前だけのフォーラムではなく、外部の組織として団体を作り、パテントプールの活用等の工夫をしないと、期待したような効果は上がらないでしょう。
果たしてどんなフォーラムになるのでしょうか。

"WiMAX"その普及と戦略:後半"Political Economy of WiMAX"

2007年11月07日 | 産業組織の経済分析
インテル杉原様に講演いただいた"Political Economy of WiMAX"の続きとなります。
・競争政策・産業政策的観点から見たWiMAX
 無線BB データサービスの将来性
 コンピューターとコミュニケーションのボトルネックの解消
 3G・PHSとWiMAXとの競争・産業政策
 WiMAXがITM-2000のインターフェースに
 国内ベンダーのビジネスオポチュニティ
 新しいビジネスの可能性(世界に先駆けて日本でサービスが始まる)

・WiMAXのメリット
 ユーザ:端末を変えずにコスト、サービス、コンテンツ等を比較しながらオペレータを選択することが可能。海外での採用も多く計画されており、日頃使用している端末により、海外でもブロードバンドサービスの恩恵を享受できる。
 通信事業者:各種BWA規格の中で、技術、運用、認証を含めて最も整備された国際標準規格であり、低リスク
 端末関連産業:MobileWiMAXに一本化されれば、モバイル端末メーカの開発負担は軽減され、端末開発が促進される。グローバル展開にも有利。モジュール、チップ開発も促進され、従来のカテゴリーにない端末、サービスが創出される可能性も高まる。
 WiMAXの利用が確定している地域バンドは全国バンドに挟まれており、他技術との干渉を防ぐためにガードバンドが必要となるが、WiMAX同士であれば不要

・次世代PHS
 次世代PHSは国産技術のPHSとは全く異なる技術
 Ng-PHSはモバイルWiMAXと同じMIMO-OFDMA技術であり,PHSと同じように中国で広まる可能性はきわめて低い.
 日本においてng-PHS製品を開発する製造業者はきわめて少ない.
 Willcomはng-PHS標準を世界的なスタンダードとして受け入れられるような努力をしていない.
 世界的に広がる可能性が低く,さらに製造業者が限られてしまうことから,製品の価格を下げることは困難

・3Gとの比較
 3Gの主要IP(知的所有権)を持たないベンダーのライセンス料は、端末価格の16~20%程度、基地局価格の12~18%程度(FOMAで充電器が別売りなのは、本体とセットにするとロイヤルティを支払わなければならないため)
 3GPP(W-CDMAの標準化団体)のパテントのうち38%をQualcomm、18%をEricsson、13%をnokiaが保有
 3GPP2(cdma2000の標準化団体)のパテントのうち65%をQualcommが保有
 WiMAXは1550のパテントを330の企業が分散保有、最も多く保有する企業で6%程度であり、クロスライセンスによってロイヤルティフィーを相殺する構造

・なぜWiMAXなのか
 1)幅の広い帯域(多くのデータの処理を可能とする)
 *筆者注:下り20Mbps、上り5Mbps等と言われています
 2)定額制による幅の広い普及
 イーモバイルのHSPA定額より安い、1契約3,000~5,000円程度と言われる
 複数端末(5~10程度)を1契約で利用可能となる見込み
 3)安価なライセンスコスト構造
 4)オープンな技術標準と新しいビジネスモデル
(水平型、MVNO,組み込み、チャネルサービスモデル)
 5)次世代へ繋がる技術の下地(IP,MIMO、OFDMA)

以上が講演の概要となります。

しばしばW-CDMAはドコモが主導をした日本発の技術であると言う言説を目にすることがありますが、実際に数値を見てみるとドコモがこの件について語りたがらない理由がよくわかります。
3Gのパテントについての数値はnokiaのプレスリリース等に詳細な数値が掲載されています。
ついでにWiMAXについてはこちらに資料があります。
確かにロイヤルティフィーに関して言えば3GよりもWiMAXの方が安価になりそうです。

しかし、次世代PHSとの比較で取り出された量産効果に関して言えば、Intelが高いシェアを持つPC向けチップセットよりも携帯電話の方が遙かに出荷数が多く、量産効果に関しては3Gの方に部がありそうです。
また、パテントフィーが高いからと言って普及が必ずしも妨げられるという事はなく、世界中に普及しているCD-Rのパテントフィーは製品出荷価格の最大33%にも及ぶと言われています。(台湾メーカとフィリップスの間で裁判が行われています)

産業政策に関しても、日本よりも韓国、台湾の方が早期にWiMAXについて早期に取り組んでいること、インフラを先に整えたからと言って補完財の輸出競争力がつくわけではないこと等、必ずしもWiMAXの普及が日本経済にとってプラスになるとは言い切れないでしょう。

しかし、少なくとも2つの全国バンドのうち一つ、30MHzは必ずWiMAXによって利用されることが確定しているわけですから、WiMAXをいかに活用してゆくかを考える事が重要課題でしょう。
個人的にはモバイルPC、スマートフォン、カーナビなどの中サイズ端末や、自動販売機やパーキングメータなどの街頭設備などがWiMAXとの親和性が高く、これらを用いたソリューションの開拓に期待しています。
現在KDDIはスマートフォンを持っていないこと、トヨタのカーナビに採用されそうなことから、日本でWiMAXを広く普及させるにはKDDIが最も良いのではないかと考えています。

2.5GHz帯の割り当てに関しては、今週、来週と総務省による事業者ヒアリングが行われ、12月中旬頃には事業者が公表される見込みです。
60MHzという広大な周波数帯域が無駄にならないような割り当てがなされると良いのですが。

"WiMAX"その普及と戦略:前半技術特性とWiMAXフォーラムの活動

2007年11月07日 | 産業組織の経済分析
第五回目の講義では、WiMAXフォーラム様よりご紹介いただいたインテル株式会社事業開発本部政府渉外部長杉原様にお越し頂き、「"WiMAX"その普及と戦略」と題して講演をしていただきました。
前半はWiMAXの技術的特徴とWiMAXフォーラムの活動について、後半は世間からも注目の高い2.5GHz帯の周波数割り当てなどに関する"Political Economy of WiMAX"に関して紹介させていただきます。

・インテルにとってWiMAXはコンピュータの利用をより促進してゆくための試みである
 端末:ノートPC、UMPC、MID、携帯端末などにインテルのチップを使って欲しい
・WiMAXの特徴は以下の4つ
 コンピュータとコミュニケーションの融合:パソコン以外のビデオカメラやカーナビのような製品にもコンピュータや通信が入ってゆく
 パーソナルなインターネットへの変革:Web2.0的な利用モデルへ
 Blue Ocean戦略:3GなどのWWANとWi-FiのWLANの中間を開拓
 国際標準規格によるオープンなビジネスモデル:IEEE802.16シリーズ、IMT-2000として標準化、MVNO、パテントの分散

・技術的特性
 無線網とIP網の運用が独立、OFDM採用によりサブキャリア毎の割り当てがMVNOと親和的
 MIMOによって周波数利用効率が上昇、直行性の高い2.5GHzではMIMOによる遮蔽物の影響減は特に有効

・WiMAXフォーラムの活動
 メンバー数は2004年の46社から2007年には500社以上に。現在は多くの通信キャリアが参加。
 IEEE802.16の標準に加え、PHY、MAC、RF、Powerクラスなどのプロファイルを規定
 周波数帯域、チャネル幅、多重化方式などの承認プロファイルを設定
 インターオペーラビリティを検証(国内では実験免許が必要となるため、主としてシンガポール・マレー等で実験を行う事が多い)
 
・承認プロファイルは5種類、韓WiBroは1(2.3-2.4GHz)、日本は3(2.496-2.690GHz)、欧州・アフリカは4,5(3.3-3.4GHz,3.4-3,8GHz)
・2005年より20以上の商用固定WiMAXサービス、100以上のトライアルが計画中
・2006年には17のMobileWiMAXトライアル、2007-8には58が予定
・IMT-2000の6番目のプロファイル、IP-OFDMAとして承認
 IMTプランバンドでの利用、ITUの影響の強い欧州での採用促進、IMTAdvancedの標準化活動において既存3Gと対等な立場になれる、等のメリットがある
・2006-8年にWiMAXチップを投入、2008年にチップセットに統合(ワンチップ化)

MobileWiMAXは当初WWANとWLANの隙間を埋めるものというコンセプトで開発されましたが、Sprintがcdma2000を置き換える技術として採用していることや、IMT-2000への追加などの状況から、総務省のように棲み分けがなされる技術というよりは、HSPAやEV-DO等の3G携帯電話技術との競合技術であると考えるのが妥当でしょう。

WiMAXの中核技術であるOFDMAやMIMOは無線通信技術のトレンドとなっており、ドコモのSuper3GやクアルコムのEV-DO Rev.C(UMB)、次世代PHS等もよく似た技術となっています。
これら技術はCDMAを用いたHSPAやEV-DOに比べて周波数利用効率が高くなると言われていますが、EricssonやQualcommはCDMAでもMIMOを利用する等の拡張によって、HSPAやEV-DOもWiMAX等に劣らない周波数利用効率を達成できると主張しており、事実WiMAX並の周波数利用効率を達成するとされているHSPA+等が提唱されています。
また、通信キャリアが採用する無線通信技術を選択する際には、周波数利用効率以外にも、基地局のコスト、端末のコスト、運用ノウハウの蓄積等様々な要因を検討する事となります。

こうした様々な要因を踏まえて錬られた普及戦略について、後半の"Political Economy of WiMAX"を見てゆきましょう。

ネットワークの普及に関する理論と実証

2007年11月05日 | 産業組織の経済分析
第四回目の講義の後半部分は実証分析の紹介を行いました。
大きく取り上げたのは、米国におけるCDプレイヤーの普及の実証分析、および米国におけるゲーム機の普及の実証分析の2本です。
以下に概要を(Blogで数式書く方法解らないんで、本当に概要だけ)

・米国におけるCDプレイヤーの普及に関する実証分析
Gandal, Kende and Rob(2000):米国におけるCDプレイヤーの普及を題材に、補完財がネットワーク拡大に与える影響を、動学モデルによって分析。
・モデルの概要
 消費者はCDプレイヤーの購入による便益が費用を上回った時点でプレイヤーを購入
 CDを販売する企業は自由参入、ベルトラン競争、利潤0、CDプレイヤーの普及数に応じて参入数が増加
 CDプレイヤーのインストールベース決定式とCDの企業数(CDの発売タイトル数)の2本の構造方程式を操作変数推定によって推定(インストールベースとCDタイトル数が内生変数)
 データは1985-1992年の四半期データ(公表データが利用可能)

・推定結果とインプリケーション
 両式共にパラメータは有意、パラメータ自体は解釈困難
 DWが低く正の系列相関が存在するが、AR(1)で推定してもパラメータは安定
 ハードウェア5%の価格低下はソフトウェア数の10%増加に相当
 CDがレコードとの下位互換性を有していたと仮定してシミュレーションすると、ハードウェアの普及数は実際の値の1.5年後の普及数に相当する

・米国におけるゲーム機の普及に関する実証分析
Clements and Ohashi(2005):米国のゲーム機市場を題材に、補完財、世代間互換性がネットワーク間競争に与える影響について分析

・モデルの概要
 家計はゲーム機を1つ選択して購入、複数台の保有は考えない
 効用関数はハードの性能とソフト数から便益を得るランダム効用を仮定(Nested Logit型)
 ソフトメーカーは自由参入、ベルトラン競争、利潤0、1社1タイトルを生産
 ハード購入式の誤差項はハード価格、ゲームタイトル数、ゲーム機購入世帯の割合と相関(内生変数)
 ソフトウェア参入式のインストールベースNは内生変数
 ハード販売数、ソフト数は1994.1-2002.4のNPGグループによる月次市場データを利用
 操作変数として日本市場の価格データをファミ通、日経から取得
 2つの方程式を2SLSを用いて独立に推定、その後それらの残差の推定値を用いたGMMによって2本の方程式を同時推定

・推定結果
 ハードのインストールベースと、ソフトウェアのタイトル数は正の相関
 ハードウェアの価格弾力性は、市場投入の初期には高く、後半になれば低くなる
 ハード需要のソフト数弾力性は、普及の初期には低く、後になれば高くなる
 ソフト数1%の増加に相当するハード価格の低下は、投入初期には低く、ピークを迎えた後ハードの引退に伴って低下してゆく。全機種・全期間の平均では2.3%、最大は2.8%

・今後の研究課題
 ネットワーク間競争の動学モデル分析:顧客はネットワーク間を行き来することができる、スイッチングコスト・ロックイン効果の影響を検証
 互換性の影響:ハードウェアの互換性に関する意志決定、複数のハードで提供されるソフトと特定ハードのみで提供されるソフトの存在
 世代間競争の分析:既存の分析ではソフトがハードに与える影響は旧世代のソフトと現世代のソフトで同一と仮定されている
 品質の内生化:競争に応じてハードの品質が変更される

以上が2本の実証分析の結果、および今後の研究課題となります。

紹介した論文のうち、Clements and OhashiのものはBerry(1994)によるモデルを利用しており、扱いが容易であるためにその他の様々なネットワークの分析にも応用されています。
元論文でもいくつかの拡張の方向性などについて述べられていますが、特に注目すべきなのは近年増えてきた動学ゲームの実証、らしいです(勉強中)。

上記の課題はモデルの振る舞いに対して深刻な問題を与えていると考えます。
ゲーム機のタイトル数に関して言えば、プレイステーション(PS)とプレイステーション2(PS2)にソフトの互換性があるからと言って、タイトル数をそのまま足しあげるのにはソフトの品質の違いから違和感があります。
それ以外にも、例えばプレイステーション3は最初49,800円で5,000本以上のPS・PS2ソフトとの互換性を持って登場し、半年後のPS3ソフトが60本程度の時期に44,800円への値下げと共に半数のPS2ソフトの互換性を切り捨て、1年後に39,800円の値下げと共にPS2の互換性を全て切り捨てています。
上記論文の推定結果を用いてシミュレーションすれば上記戦略はかなりまずい結果となることが予想されますが、実際にはSCEIの言うようにゲームをやる人の多くはPS2をすでに持っているために、PS2との互換性はPS3の普及にあまり影響しない可能性が高いです。
これは各家庭1ハードしか保有しないというモデルの仮定がもたらす欠陥です。

私の研究分野である通信に関しても、複数のネットワークへの参加や内生的スイッチングコストという現象は広く見られるため、BerryのNL効用関数を用いたモデルには多くの限界があると言えるでしょう。
と言うわけで、いろいろ論文を書くチャンスがあるわけです(笑

ネットワークの普及に関する理論と実証

2007年11月05日 | 産業組織の経済分析
第四回目の講義では、スケジューリングの関係から外部講師は招かず、私がネットワークの普及に関する理論と実証について簡単に紹介させていただきました。
初回講義時にはネットワーク産業の経済分析についての基本的知識のない方が多かったようなので、今後の講義に備えて理論とケースを簡単に紹介してディスカッションでもしようかと思っていたのですが、状況が変わったために実証分析の現状と課題についての話を中心としました。
前半の理論編の概要を以下に記します。

・ネットワーク産業の定義
ネットワーク産業:最終的な価値がコンポーネントの組み合わせによって作られるシステムによって与えられる
コンポーネント :それだけでは価値を持たない一連の補完材の集合

・ネットワークの種類
直接ネットワーク:水平互換性によって構成されるネットワーク。ネットワークの価値は他の加入者とのリンクに結びつけるために作られたシステムに依存する。(例・電話)
間接ネットワーク(仮想ネットワーク、ソフトウェア・ハードウェアパラダイム等とも呼ばれる):垂直互換性によって構成されるネットワーク。システムは垂直互換性を持った財(プラットフォーム)とそれとの互換性を持った補完財(ソフトウェア・アプリケーション)によって構成される(例・CDプレイヤーとCD)

・ネットワーク産業の2つの性質
供給側の特徴=ボトルネック独占:ネットワークシステムを提供する際に必要不可欠な財を独占すること(巨額な固定投資、知的所有権)
需要側の特徴=ネットワーク効果:ネットワークの規模によってそのネットワークから消費者が受ける便益が変化する性質
*ネットワーク効果の内部化が行われないときにネットワーク外部性となる

・ネットワーク産業における競争
ネットワーク産業の競争=プラットフォーム競争
競争の形態には、世代間の競争、規格間の競争、規格内の競争がある
ネットワーク産業の特性から、企業行動は以下の現象を踏まえて行われる
(1)コーディネーション問題:行動への期待の関与が協調の失敗を生む可能性がある
直接ネットワークの場合:新しいネットワークが将来利用されないかもしれないという不確実性があるため、現在加入者のいないネットワークへの加入を思いとどまることがある
間接ネットワークの場合:消費者は十分な数のソフトウェアが利用できるならばハードウェアを購入したいと考えており、ソフトウェアの供給者は十分な数のインストールベースがあるときにソフトウェアの開発を行いたいと考える

(2)標準化:標準化の形態には以下の3通りが考えられる
デファクトスタンダード:市場競争の結果、ネットワーク効果によって市場の大半を一つの技術が占めることで規格が統一される
デジュリスタンダード:消費者にとって共通の標準を採用することが重要な場合、政府等の公的機関が規格を強制する事で標準が設定される
共同標準(コンソーシアム型標準):公的機関の関与無く、市場での競争の前に企業間が自発的な協議を通じて規格の統一が行われる事がある

(3)複数均衡:形態の異なる複数の均衡の可能性が存在
一人勝ち:互換性のないネットワーク間での競争は、ネットワーク効果が強く働くときには一つの技術が事実上の標準となる
規格の併存:ネットワーク効果に比べて消費者の多様性の影響が相対的に強いとき、差別化された複数のネットワークが共存する事になる
共倒れ:どちらの規格も社会に受け入れられない場合がある

(4)ロックイン
スイッチングコストが存在がロックインをもたらす:サンクコスト(新しいネットワークに加入するための初期費用)によるスイッチングコストやインストールベースによるスイッチングコスト
ロックイン後の機会主義的行動:価格の引き上げ、品質の低下、約束の反故

・プラットフォーム競争における企業行動:標準の獲得
宣伝とマーケティング
 現在のインストールベース・補完財のサプライヤーについての情報提供を行い、将来のネットワーク規模に関する期待を拡大させる
シグナリング
 将来にわたってネットワークの採用を巡って競争することを続けるという信頼できるインセンティブをサポートや技術の販売の継続、巨大なサンクコストの投入などによって作り上げる
インストールベースへの投資
 加入料金:初期の料金を低く、後に高くして回収を行う
 保険:サンクコストを低下させるために、初期の加入費用を割引いて後のサービス 料金で回収する、設備のレンタルを行う
 セカンドソースとオープン標準:ネットワークの中に競争を生むことで、将来的な値上げのリスク低下、インストールベースの拡大、製品差別化、標準のイノベーション、将来の製品の多様性へのコミットを行う
 補完ソフトウェアへの投資:ソフトウェア会社の垂直統合、ソフトメーカーへの資金供与、ソフトメーカーへの開発ツールの提供など戦略的な投資を行う

・プラットフォーム競争における企業行動:互換性を巡る競争
互換性の否定:支配的なプラットフォームの所有から利益を得ていたり、事実上の標準を獲得している企業は市場支配力と利益の維持をするために互換性を制限しようとするインセンティブを持つ。(物理的な所有権を用いたネットワークへの接続拒否、知的所有権による互換性の排除、世代間の梃子、標準のアップグレード)

・古典的競争戦略論からの逸脱
競合相手の多様化:世代間競争・規格間競争・規格内競争が併存
プロダクト・ライフ・サイクルの変化:市場の導入期に最も激しい競争が行われ、成熟期に世代間競争が行われる
地位別の定石競争の失敗:同質化によってチャレンジャーはリーダーのネットワークにただ乗りする事ができる

私も一応は政策に関わる研究を行ったり、シンクタンクで経営戦略に関する検討のようなことをやってきていますので、経営管理大学院の方や公共政策大学院の方といろいろとディスカッションができることを楽しみにしていたのですが、今年は参加者が少なくて残念ですね。
このBlogで来年度の参加者を釣り上げる事ができればいいのですが(笑

肝心の現在の生業の研究に関して言えば、ここら辺の理論に関してはすでに経営戦略論や競争政策などへの応用も進みつつあり、理論研究のフロンティアではなくなってしまっています。
しかし、国際貿易論におけるネットワークの経済分析の応用や実証分析に関してはまだまだ研究の余地があるように思えます。
私は当面は実証分析を中心に研究を進めてゆく予定なので、後半では私が今後の研究において参考にできそうな実証の論文の紹介を行いました。
次のエントリーに続きます。

次世代情報サーチに関する技術と制度の総合的研究

2007年11月02日 | Weblog
今日は京都大学グローバルCOEプログラム「知識循環社会のための情報学教育研究拠」の主催によるシンポジウム「次世代情報サーチに関する技術と制度の総合的研究」を聞いてきました。
概要はこちら

田中先生の講演で紹介されていた、Cogoloで早速自分(ついでに指導教官も)の調査依頼を出してみたり。
ほんと?サーチで「○○は俺の嫁」(2chやニコニコ動画などで良く出るフレーズで、○○には自分のお気に入りのキャラ名を入れます)の真偽判定をしてみたり(笑
他にもWebサーチエンジンを利用したライバル語・話題語の知識獲得、自動年表作成等々、興味深い技術がいっぱいありました。

また、末松先生のトランザクション・コスト削減のための自動データ収集・分析メカニズムという視点は非常に示唆に富んでいました。

今回のシンポジウムの中でも質問させていただきましたが、強く感じたのは今後の企業活動における情報収集・活用の重要性についてです。
これからは知識産業の時代であるとのかけ声と共に政府は大学院教育を推進し、博士号取得者を増やそうとしています。
しかし、Googleが僅か設立10年の間で数千人大量の研究者を雇い入れることができたように、すでに高度な教育を受け、研究開発活動を行う事ができる人材は世界中に数多くおり、博士教育を受けた人間を大量に利用するだけでは競争力の獲得とはならないのでしょう。
末松先生の仰るように、ホームランを狙うのではなく、業務プロセスに関する効率的な情報の収集と加工を通じた地道なコスト削減を徹底してゆくことは一つの競争力の源泉となるでしょう。

また、大量の博士生産時代になり、知的生産のコストに比べた取引費用の増大も重要でしょう。
今日の話の中で著作物に関する利用を工業所有権のように平易化できないかというような話がありましたが、知財先進国の米国では裁判費用が企業活動にとって重い負担となっているため、特許制度改革が行われました。
これまで知識は公共財であるため、政府による権利の保護によって私的生産、取引が行われるようになっていましたが、政府の保護に実効を持たせるには裁判が必要となり、大きな取引費用がかかります。
こうした取引費用の削減のために、工業所有権では企業間のクロスライセンシング、標準化等が行われてきました。
また、日本では音楽著作物の利用に関してJASRACが一元管理することで、効率的な権利処理を可能としています。
そして、googleは各著作権者に対して自分の著作物がアップロードされた事を知ることができるYouTube Video IDを提供する事としました。

YouTube Video IDはアップロードされた著作物を削除するために用いることも、アップロードという行為を通じて通知された自分の著作物の経済的価値を収入に変えるための方策を打つこともできます。
これは著作権侵害者に対して訴訟を起こすよりも遙かにスマートな解決策です。
こうした民間主導のビジネスプラットフォームが登場してくることで、経済システムが効率化して行くことは大変喜ばしいことです。

しかし、このYouTube Video IDをGoogleのみが利用でき、デファクトスタンダードとしての地位を確立することになれば、政府がプラットフォーム市場におけるボトルネック独占であると判断し、IDの解放義務を課そうとしてくる、等という可能性も考えられます。
そうなったときにGoogleが自らIDを解放して利用提案の面での競争力で勝負をするのか、それともIDを手放そうとしないのか、興味深いところです。
そもそもデファクトスタンダードを獲得できず、杞憂に終わるかもしれませんが(笑

大阪ガス:ガス事業制度について-後半

2007年11月01日 | 産業組織の経済分析
○第3部:当社の取り組み
・経営方針として「Design2008」を制定、天然ガスの普及促進、安定供給のための取り組み、安全確保のための取り組みを実施
・家庭用部門への高効率ガス給湯器、ガスコージェネの販売、家庭用燃料電池の開発
 エコウィル(家庭用ガスコージェネ)はH18年末までに3万台を販売
 家庭用燃料電池は08年の市場導入を目指す
・産業用への高効率天然ガスコージェネの開発、高効率工業炉バーナーの開発、ESCO事業を推進
 ガスコージェネは2005年末までに2216件、1,386MWを導入
 ガス空調により電力不可の平準化に寄与、CO2を削減
 発電機能付きガスヒートポンプエアコン「ハイパワーエクセル」は空調機能と4kWの発電能力を持つ
・水素エネルギー社会の実現に向け、水素供給システム、および純水素型燃料電池の実証集合住宅「NEXT」を設立
・安定供給・経済性の両立のためにLNG調達における上流権益への参加、ソースの多様化、LNG船の所有、契約形態の多様化などを実施
・安全確保のための取り組みを強化(100万件あたりのガス事故死亡者は0.23人、アメリカ6.4人、イギリス1.33人、フランス5.6人)

○第4部:今後の自由化検討について
・大阪ガスの見解としては、
 天然ガス普及促進はエネルギー安全保障の向上、環境問題に寄与する
 ガス普及促進のために導管網整備、既存導管網の有効活用をすべき
 電力・ガス事業者が公平・公正に競争できる枠組みを構築すべき
以上が講義概要となります。

国のエネルギー政策を考える際には、電力だけ、ガスだけの競争意外にもエネルギー間競争という視点が大事であることは確かです。
企業規模、相手の市場への参入の容易さで考えれば、確かに電力からガスへの参入の方が容易であり、公平性を欠くようにも思えます。
しかし、分散型電源の普及は電力に対するガスの一方的参入であったようにも見えますし、今後のさらなる分散型電源の普及や電力事業者のコスト体質悪化の可能性を考えれば、ガスパイプラインを持つ一般ガス事業者が苦しい時期は一時的なもののような気もします。
また、公正な競争ルールが全ての事業者に公平な結果をもたらさないとしても、社会的な目標達成を阻害しない範囲で公正な競争ルールを確立してゆく事は望ましい事ではないでしょうか。
ガス事業に対する社会的要請とは、ガス利用のさらなる拡大に向けた技術革新と、それに伴う需要増に対応した導管の整備、そしてそれを推進するための業界構造の構築ではないでしょうか。